結婚または同居(サンボ)カップルは、合法的に人工授精を受けることができるが、独身女性には不可能である。
しかしそれも近々可能になるようだ。そうなると、妊娠したい独身女性は隣国デンマークまでわざわざ出かける必要がなくなる。
いったいに、スウェーデンの理想のライフスタイルによると、高校を卒業してからしばらくバイトをしたり、世界旅行をしたりしてから、高等教育を受ける。本格的に職業生活に入るのは28歳頃だ。そして、キャリアーの階段を登りはじめる頃には、理想的な人生の伴侶も見つかっており、その人と一緒に子どもをつくるという青写真だ。
だんだんと月日が経つうちに子どもが欲しくなるが、理想的な伴侶が見つからない場合、自分だけで生む独身女性は少なくない。誤解がないよう付けくわえておくが、各人が独立した経済力をもつスウェーデンでは結婚は社会的な規範でなく、別に気にしなくてもよい。「結婚を前提で付き合う」という感覚ではなく、一緒にいて楽しいからそうする。しかし、子どもは理想的な相手とつくりたいというのが実情だ。理想の家族像は、やはり ”パパ・ママ・子ども” であることが心のどこかに潜んでいるのであろうか。とはいえ、親は二人いるほうが、仕事と育児を両立させやすいという事実は重い。
しかし、実際にはひとり親家族で育つ子どもが多いので、いっそうのこと法や規則を現実に沿ったものにしようということになったのだ。
政党のうちで独身女性の人工授精に反対しているのは、極右のスウェーデン民主党のほかに、伝統的な家族像を大切にしているキリスト教民主同盟だ。反対の両党合わせても国会議員数の10%ばかりで、大多数が賛成なのである。
社会民主党、環境党、左翼等の左派陣は、まえから独身女性の味方であったが、今回、穏健、国民、中央党からなる保守陣営が、政権を担う仲間であるキリスト教民主同盟を見限って左翼陣に同調することに決めた。今まで保守陣営はキ同盟の意向を尊重し、ずっと言い出せないでいたのだ。
しかし、昨今の世論調査によると、このかなりコンサバなキ同盟の支持率は4%を切っていて、次回の選挙では国会から消える可能性が大きい。そうなると保守陣は、代わりに今は左翼側にいる環境党を味方に取り入れればよいので、もうキ同盟に遠慮する必要がない、と計算しているのであろう。
一見、今回の法の改正への動きは、「独身女性にも子どもをもつ権利を」と、個人の人権擁護を謳っているようにみえるが、どっこい、時代遅れと見られて支持を失いたくない政党のお家事情のためが真相であろう。まさに「個人的なことは、政治的なこと」なのだ。