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マーサの昔話

デジカメでの景色や花、動物などの写真
海外体験談、今日の一品、糖分控えめ?なおやつ等‥‥‥

Scottish Romance 一覧(前編)

2011年04月19日 | Scottish Romance
ジョージ・ペパードに似た男性 SR1 
(2009-03-02 | Scottish Romance)
 その日は朝から、カールトンヒルに赴き、...

女友達との再会 SR2 
(2009-03-03 | Scottish Romance)
 仕方なく部屋へ戻り、スーツケースから財...

マイケル・スコットとの出逢い SR3 
(2009-03-07 | Scottish Romance)
  私も一角に座りアガサ・クリスティー...

夏の日の恋 1 SR4 
(2009-03-08 | Scottish Romance)
 そして、いつの間にか、大変入れ込んでし...

夏の日の恋 2 SR5
(2009-03-14 | Scottish Romance)
 これが舞か? 藤間流の日舞、少しかじっ...

夏の日の恋 3 SR6
(2009-03-15 | Scottish Romance)
            少しの間、お互...

立派な口髭の紳士 SR7
(2009-03-21 | Scottish Romance)
 ブリッジを渡り、走って乱れた髪を手櫛で...

赤い糸の伝説 ? SR8 
(2009-03-28 | Scottish Romance)
 エディも私が全く、違う事を考えていると..

エディンバラの夜は更けて SR9
(2009-04-04 | Scottish Romance)
 季節外れの暖炉の炎に照らされながら、大...

ヘザー の 花  SR10
(2009-04-11 | Scottish Romance)
 「どうしたんだい。何かあったの?急にそ...

魅惑の瞳のアイリッシュ SR11
(2009-04-18 | Scottish Romance)
 もう、とっくに朝陽は上っていましたが、...

逢わざれば 離れ行く心地して SR12
(2009-04-25 | Scottish Romance)
 それにしても、ジョージ・ペパードに似た...

セントアンドリュースにて SR13 
(2009-05-02 | Scottish Romance)
 明日の約束をして、彼ら二人は今から、エ...

ウイスキーが お好きでしょう SR14 
(2009-05-09 | Scottish Romance)
 カールトンホテルに戻ったのは、9時過ぎ...

忘れ去った パブでの飲み会 SR15 
(2009-05-16 | Scottish Romance)
 グレンキンチーで、実の親より、かなり年...

Chinese soy ? SR16 
(2009-05-23 | Scottish Romance)
 さすがに心細くなってきた私は、居ても経...

熱に魘された夜 SR17  
(2009-05-30 | Scottish Romance)
 マイケルは、私を引き寄せると「ここに座...

Scottish Romance 一覧(後編)

2011年04月19日 | Scottish Romance
スコティッシュとアイリッシュ SR18
(2010年01月17日 | Scottish Romance)
 マイケルのフラットを出て、キーを玄関前の…

ホモセクシュアルな夢 SR19
(2010年01月24日 | Scottish Romance)
 本音とは、裏腹に・・・エディに余計な事を…

ビンセント心理学教授 SR20
(2010年01月31日 | Scottish Romance)
 「随分、魘されているなあ。早く起こして…

ウィンダミア湖でのボート遊び SR21
(2010年02月07日 | Scottish Romance)
 そして、ようやくバスはウィンダミアに入り…

星のないホテル SR22
(2010年02月14日 | Scottish Romance)
  ボート遊びを終えて、ホテルへ戻ると…

湖畔のドランカー SR23
(2010年02月21日 | Scottish Romance)
  私は部屋に戻って、近くのパブへ行く為の…

原因不明の熱病 SR24
(2010年02月28日 | Scottish Romance)
 「マイケル! 熱があるのに、どうして戻って…

二人の狭間で SR25
(2010年03月14日 | Scottish Romance)
 「やっと、ツーショットだね。」 …

思えば思わるる SR26
(2010年03月21日 | Scottish Romance)
 「2人を同時に? それが君の本心だ…

離せない夏の日の恋 SR27
(2010年03月28日 | Scottish Romance)
 朝、カーテンからの木洩れ日で眼が覚めた

心に空いた隙間 SR28
(2010年04月04日 | Scottish Romance)
 そして、私はまた一人になってしまった

孤独な者達へ乾杯 SR29
(2010年04月11日 | Scottish Romance)
 湖の水際まで行って、太陽に反射した湖面が

ストラトフォードへ SR30
(2011年04月11日 | Scottish Romance)
 「先生に伺ってみたいと思っていたのですが

そして さよなら SR31
(2011年04月12日 | Scottish Romance)
 皆と観劇の感想を話しあっていたちょうどその時

桜咲く国で SR32
(2011年04月15日 | Scottish Romance)
 平凡な生活の繰り返しだが、可愛い息子との

ひとときの幸せ SR33
(2011年04月16日 | Scottish Romance)
 蹲っている私に温かい大きな手が

愛することは信じること SR34
(2011年04月18日 | Scottish Romance)
 久しぶりにエディに逢ったので、食事でも




















Auld Lang Syne  SR 35

2011年04月19日 | Scottish Romance

 この『 Scottish Romance 』 ことスコットランド滞在記は、20歳当時の
旅日記を書いたものですが、総評しますとやはり“想い出は封印すべきこと”
だと思いました。 それが美しければ美しいほど・・・
 結果、封印していても、デパートへ行ったことで解けてしまいましたが
ある意味、運命の悪戯っていうものかもしれませんね。
 
 よく友人同士で話題になることといえば、「あの人どうなったのかな、一度逢って
みたい。」とか言いますよね。 でも、もし同窓会か何かで再会したとして
我が目を疑う位の別人になってしまっていたら、どうでしょうか。 
 逢わない方が良かったと思うにちがいありません。

 まさに私がそう感じた位ですから・・・最初に出会ったあのままの彼を記憶に
とどめておきたかったからです。 


 あの時、来日したエディに尋ねた事は、「何故、あなたはアイリッシュなのに
スコットランドフェアで来たの?」という質問には、いとも簡単に
 1.アイルランドフェアがなかったから。
 2.知人が企画していたのを聞いて興味を持ち参加させてもらった。
 3.スコットランドフェアなら、きっと私が現れると信じていたから。
と思ったからだそうです。 つまり、初めての来日で“運命の再会”と
なった訳です。 運命の糸ですか? 考えれば本当にすごい偶然なんです。
 毎回、エディが来ていた訳でなく、私も偶々見かけた新聞広告に目が留まって
ちょうど二人の出会いが、その日にぴったり重なり合った偶然なんです。

 それではあの時、何故エディは日本に来たのだろうか? 
 「君が現れる筈・・・」つまり懐かしい友に逢いたいと思って、私に逢いに
来てくれたのなら、その後の手紙のやり取りで返事を出してくれる筈なのに・・・
 再会して返事をしたくないと思ったのか・・・
 結婚して子供がいると思わなかったのか・・・
 それとも、身体的な事で何か言えない事情があったのかも・・・
 まさか最後の挨拶に来たとかじゃないよね・・・
 私に逢いに来た訳じゃないのかも・・・
 私が勝手にそう思っていたいから?

 でもエディは言った。 
 「 僕と君は約束しなくても 逢える運命だって・・・」

 いくつか問題のある再会でしたが お互い15年前に区切りを
つけているのは承知のことです。 

 いつか逢える運命でも、正直、最初に出逢った時のあの“ 端整な顔立ち ”が
強烈に目に焼きついているので、いささか変貌とまでは言いたくありませんが
外国の人って老いが早いなあって思いました。
 当時10歳年上で、14年ぶりだから44歳位でしょう。 でも見た目は55歳越えていました。
 勿論、エディもそう思っているかもしれませんが・・・
 随分太って、おばさんになったなあ・・・なんて・・・
 人の事、悪く言うんじゃないですよね。 反省です。 

 ただ、エディは私を一目見て解ったんですよ。
 だから、手を握ってくれたんです。
 なのに、私はまるで気がつかず、「何するのよ! この・・ 」と言いそうに
なった位ですから。(笑)
 身体が悪くなってから、急に容貌も変わってしまったのかもしれません。
 でも、話している事は昔と同じなので、アンバランスな気がしてなりませんでした。
 かなりきついですね。 我がまま女の戯言です。

 哀しいかな・・・マイケルもダダ太り?で、あの美しい人が人間違いしそうな位
 変わり果てたという・・・ もういいって。

 旦那も私より7歳年下なのに、もう頭頂部が禿げかかっているし、老ける部分が違うだけで
 同じですか・・・でも私と並ぶと、悔しい事に肌がぴちぴち張っている。 
 外で、何喰っているんだ! コラー! コラーゲンありありだし~ 
 いつも一緒にいると解らなくなるんですよね。 出逢った時の写真を見ると
息子の様に髪がふさふさしているのに、今は、地肌が透けていますもの。 
 いつまで、ぶつくさ言っているの? 
 生きているという事は、老けていくということなんだから。 
 美に拘るなら、昔見たあの映画“ 熱愛 ”の様に若さを止めれば・・・



 やはり、美しい想い出は、蒸し返してはいけないもので、封印するべきものだったのです。

 少なくても私達の場合は、、、“ 想い出はあまりにも美しすぎて ・・・ ”です。 


 
 


           Auld Lang Syne


 Should auld acquaintance be forget,  懐かしい友を忘れるだろうか

 And never brought to mind ?       二度と思い出さなくなるだろうか

 Should auld acquaintance be forget,   懐かしい友を忘れるだろうか

 And auld lang syne !              遠いあの日の事までも


 For auld lang syne,             友よ遠いあの日の為に

 For auld lang syne,             遠いあの日の為に

 We'll take a cup of kindness yet,     変わらぬ友情に杯をあげよう

 For auld lang syne!             遠いあの日の為に




 ※ 尚、 『 Scottish Romance 』に登場する人物の名は

 全て仮名です。

愛することは信じること SR34

2011年04月18日 | Scottish Romance

 久しぶりにエディに逢ったので、食事でも一緒にと思い誘ってみましたが
 何と、今晩の夜間飛行で帰国する予定だと言う。 離れ離れになった15年間の
 事を話し合いたいと思っていたのに、それは実現しそうになかった。
 障害者にはなったけれども、お互い、こうして再会できた事に感謝して
 この場所でエディと別れる事になってしまったのである。 お互いの連絡先は
 解るようにメモを渡しあい、これから何かあってもすぐに手紙を書ける状況に
 しておいて、私には“ 密かに語り逢える ”という心の支えができたのである。


 限られた時間の中で、私とエディはエディンバラでの思い出話に花が咲いた。
 そしていよいよエディとの楽しい時間が過ぎ去り・・・

 「エディ、いつか私も駄目になったら、こんなおばさんでもお嫁さんにしてくれる?」

 「今頃・・・何て哀しいセリフだ。 あの時、君が僕を信じて待っていてくれたら
 君は幸せになっていたかもしれない。 いや、幸せだった筈だ。 あの頃の僕には 
 後悔させない自信があったんだ。」

 「今更そんなこと・・・今、それを言われると辛くて死にたくなるわ。」

 「こんな抜け殻の僕でも良ければ、いつでもおいで、但し、苦労は目に見えている。
 僕の介護をしなくてはならないからね。 そんな事より、君は子供を立派に育てるんだ。
 賢い子に、それが君に与えられた運命なんだ。 僕の介護じゃない。 分ったね。 
 迷わず君の使命を果たすんだ。 分ったな。」

 ・・・・・エディじゃないわ。 ビンセント教授ね。 
 
 「解ったわ。 エディ、手紙書くから待っていてね。 きっと返事頂戴よ。」

 「・・・しっかり子供の世話するんだぞ。」

 「勿論、そのつもりよ。 でも、いつか、きっと逢いましょう。」

 「子供が大きくなったら一緒に来ればいいじゃないか。 留学でもいい。」

 「そうね、エディの家でホームスティさせて頂くというのも一つよね。
 それまで、身体に気をつけて元気でいてね。」

 「未だ未だお互い若いから大丈夫だ。 君こそ、頑張れよ。」

 「ええ、エディンバラで逢えるその日を楽しみにしています。」

 「・・・夢で逢おう・・・」

 「ええ、今何て・・・夢で逢おうって。」

 「そんな事言った?」

 「聞こえた・・・」

 「もしお互い、寂しくなったら、夢で逢えば身近に居る様な感じがするだろう。」

 「やっぱり、寂しいんじゃない。・・・私も寂しい・・・でもしばらくは我慢する。
 そう、今度の再会までは夢で逢い続けるわ。 その時はきっとキスしてね。」

 「分った。君と夢で逢う時は、いつでも15年前の僕達だから・・・」

 「エディ、私の心はいつまでもあなたのものよ、愛しているわ。 
 この気持ちは永遠に変わらないわ。 
 覚えていてね。 ・・・・・じゃあ、又・・・・・・ 
 今度はさよならと言わないから。」

 そのまま、私と息子は、いつまでも笑顔で手を振るエディと別れました。


 エディの帰国後、1通の絵葉書が着いた。 それは、ブリッジを中心にカールトンホテルが

右端に写った絵葉書でした。 美しい文字で

“ Loving is Believing. ”と書かれていました。

 ・・・信じて待つことが出来なくて本当にご免ね。

 私は思わず溢れん涙を抑えることができませんでした。
  




 そして3日後、2週間後、1か月後、3か月後、そして半年後に手紙を、年の暮れには

クリスマスカードも送りましたが、引っ越しをしたのか全ての手紙が戻ってきました。 

 それから、今に至って、連絡は取れない状態です。

 彼は現在、あまりいい境遇に置かれていないのかもしれないのです。 私には余計な

心配をかけたくないのかもしれませんし、逆に身体面に関して同情を好まない人ですから

そっと、暮らしたいのかもしれません。 暖炉のある部屋で、グラスを片手に

若い時に、ほんの僅かな間でしたけれどユニークな日本の女の子がいたなって少しでも

想い出してくれれば、それで十分幸せです。 エディは、私なんかよりもっと深い素敵な

思い出を幾つも持っている人なので誰にも邪魔されずに、その思い出達と今、暮らしている

のかもしれません。


 でも私にとって、スコットランドでの出来事は一生忘れ得ぬ出来事なのですから。


                    Scottish Romance
                






ひとときの幸せ SR33

2011年04月16日 | Scottish Romance

 蹲っている私に温かい大きな手が差し伸べられ、私は起こされました。

 全く信じがたい事が・・・ 本当にこんな偶然ってあるものなのですね。

 何故って、車椅子に座っていた男性は、エディだったのです。 あの時以来の再会でした。
 エディの笑顔はあの時のまま、とても素敵に年を重ねていました。 髪の色が変わると
随分、イメージが変わるものなんですね。 いや正直言って、手を握られなかったら
エディとは気付かないままだったかもしれません。 ・・・随分と老けられていました。 
 老いたエディを見つめた時、懐かしさのあまり涙が溢れ出し、止まりませんでした。
 エディは座ったまま、私と息子を抱き止めてくれたのです。

 そして耳元で、「桜の妖精よ、やっと会えたね。 だから言っただろう。
 僕と君は約束しなくても、こうして逢える運命だって・・・」

 「妖精だなんて・・・こんなに太ってしまって、昔の面影ないでしょう。 
 逢うのが遅過ぎたのよ。 あなたは以前と変わらなくて、相変わらず素敵だけど・・・」

 「そうかい、嬉しいよ。 君は以前と比べて・・・そう言えば、少し太ったかな? 」

 「まあ、エディ、“ No problem. ”って言ってよ。」

 「ご免、ご免。 ・・・君の子供かい。 可愛いい顔して、君によく似ているよ。」

 「この子、男の子よ。」

 「本当かい? 女の子みたいだね。」

 「・・・ところでマイケルは元気?」

 「マイケルは大学院を出て、アメリカへ行ったよ。 あれから随分太って
 昔の面立ちは、もうないかな? 顔は丸くなったよ。今は結婚して元気で暮らしている。」

 「あなたは? 」

 「僕は2回目も駄目だったよ。 おまけに事故で下半身が不自由になって、この座間だ。
 君は、幸せそうだね。 かわいい子供と旦那さん。 優しくしてもらっているかい。」
 
 「・・・優しい? いがみ合ってばかりよ。 きっと相性が悪いのね。 エディみたいに
 キスも上手くないし、愛されているのかさえ分らない時がある。 
 でも一緒に暮らしているのよ。 おかしいよね? 」

 「そんな話、しない方がいいよ。 」

 「どうして?」

 「僕に理由を言えって言うの?」

 「私ってバカね。 もう、家庭があるのに、あなたに逢った瞬間、決して叶う事のない
 想像をしてしまったわ。」

 「でも、僕はもう・・・。 どんなに君を愛したくても愛する事ができないんだ。
 今の僕にできる事は抱きしめる事だけだよ。」

 「・・・ううんエディ、あなたは分かっていないわ。 あなた自身の魅力が・・・
 14年前、あなたのキスだけで私はあなたの虜になったのよ。 」

 「日本人って、そんなにキスが下手なのかい? 」

 「特に主人は、勉強ばかりしていたので経験不足? だから、拒否し続けているわ。」
 と、含み笑いを繰り返す嫌な女である。

 エディは微笑んで「それは可哀相だな。 旦那さんに同情するよ。 」

 「とりあえず少し落ち着いた所へ移動しましょう! 聞きたい事が沢山あるわ。
 特に、エディンバラへ行ってからのこと、それにストラトフォードへ戻って来て
 くれたのかどうかもよ。 」

 「もし、そうだったら・・・」

 「戻って来てくれたの? 」

 こっくりと頷いたエディをしみじみ見つめて

 「私は、取り返しのつかない事をしてしまったのよ。 慙愧に堪えないわ。 
 今更、言い訳はしたくないけど、何故、あの時、電話をしてくれなかったの?
 エディンバラへ行く前にあなたは言ったわ“ 必ず連絡するから ”と
 2泊、短い滞在期間だったけど、私にとってはすごく長く感じた3日間だった。
 1分1秒があんなに長く感じられたことはなかった。 待ち草臥れたのよ。 」

 「電話はしたけど、繋がらなかった。 多分、行違いか何かで・・・しかも
 言付けも届いていなかったようだね。 残念な話だ。 」

 「まあ、メッセージを残していたの? という事は、私のメッセージも
 受け取ってないって言う事なの? 」

 「僕がホテルに着いた頃、君達が去った後だったんだ。 君のメッセージは
 確かに受け取った。 しかし、僕の言付けはフロントのボックスに残された
 ままだった。 」

 「どうして?」

 「フロントの過ちだ。 そこには、僕からのプロポーズを含めた
 言葉が書かれていたんだが、多分、君があのメッセージを読んでいたら
 出発していなかったよ。 きっと、君の心の中の曇りが晴れて微笑んで
 待っていてくれた筈だ。」

 「そんな大切なメッセージをくれていたの? なのにフロントのミスだなんて
 許せない。 哀しすぎるわ。 まるですれ違いのメロドラマよ。」

 エディは関係者に事情を話して、その場を離れ、レトロな喫茶室へと移動する。 
 14年ぶりの再会は私を慰める格別なものだった。 お互い、容姿は変われども
 14年前の気持ちは完全にバックアップされていた。 と信じている。 
 英語での会話が聞き取れない息子が私達の間に入ってきて、泣き出したので
 エディが抱き上げて、そして子供用に可愛いキスをプレゼントしてくれた。 
 息子は、そのキスを気に入ったのか、異常に懐いてしまい、エディの膝から
 離れようとしなかったのである。 









 



桜咲く国で SR32

2011年04月15日 | Scottish Romance

 平凡な生活の繰り返しだが、可愛い息子との触れ合う時間を楽しみに毎日を過ごしていた。
 ある朝、いつもの様に朝刊を読んでいると、梅田のデパートの催事が目に飛び込んできた。

 スコットランドフェア4月1日(水)~6日(月)開催中・・・バグパイプ演奏4日と5日、1日3回
スコテッシュダンス2回公演と書いてあった。 当地の物産の数々・・・
 毎年、恒例の様に催しされていたようだ。 今回で15回目と書いてあった。
 なのに今朝初めて、この記事に気がついた。 過去にきっと何回か見たのかもしれないが
私自身それを受け流していたかもしれません。 帰国後の忙しい日々、やりがいのある
仕事に就いていたので、とっくに過ぎ去ったロマンスの事等、想い出す余裕すらなかった
のかもしれない。 

 今は今でこんな平凡な生活でも、私には主人も子供もいる家庭の主婦なのだから。

 嗚呼スコットランド、何と懐かしい響きよ、14年前、私はそこを訪れて素敵な人との出会いが
あった国、でも今では遠い昔の出来事、哀しいかな、夢にも現れない青春の日々よ
容姿は変われども、あの時の瑞々しい感情は今でもくっきりと心に焼きついている。 
 この想いは決して消えることのない炎。 ある時は真っ赤に熱く燃え上がり、ある時は
消えそうで消えない炎、ゆらゆらと揺れている。 炎は日本から遠く遠く離れた国からの頂き物。
 当時、滞在した期間は短かったけれど、私にとっては永遠の愛をくれた国、心優しい
人々が暮らす街、全てが美しい思い出に包まれた国だった。

 でも、今回この新聞を読んでみて、無性にあの物哀しい悲鳴のようなバグパイプの音色が
聞きたくなった。 14年前、マイケルから聞いた話では、民族衣装のキルトを身にまとった
バグパイパーは、常に兵士の列の先頭に立ち、丸腰のままバグパイプの音色を奏でながら
敵地へと行進して行くそうだ。 当然、相手からはかっこうの的にされ真っ先に殺されてしまう
のです。 しかし、後ろに続く兵士は自分が持っている武器を捨て、倒れた仲間の遺志を
継ぐためバグパイプを拾い上げて、より一層力強く演奏し仲間を鼓舞させ、何事も無かった
かのように、悠然と行進を続けるわけです。 バグパイプの音が大きい理由、ここにあったの
ですね。 何人倒しても勇敢に立ち向かってくるスコットランド兵と鳴り止むことの無い
バグパイプの音色に、敵は恐れをなして戦意を喪失してしまったという話です。

 そうね、久しぶりにバグパイプの生演奏、本場のスコティッシュダンスでも見てみよう
かしらと思い、この5月で3歳になる息子を連れて出かけたのです。
 ひと昔前、エディンバラの街角で聞いた懐かしいバグパイプの物哀しい音色。
 郷愁に駆られる想い、私にとっては今も心の故郷なのだから。

 決して広いスペースではなかったものの、それぞれ思い入れのある大勢の方々が見学に
来られていた。 私は、郷土品の所でお土産をあれやこれやと選んでいたら、急に息子の
姿が見えなくなったのである。 買い物に連れて行くと大概こうだ。
 いつも退屈でウロウロしてしまうのだ。 と言って、ペットのように首にロープを付ける
わけにもいかない。 チビのくせに移動が早いのも、難儀な事なのです。 
 大勢の人々が来られているので、本当に探すのが大変だった。

 なので、外出の時はいつも目立った色の服を着せていた。 今日は、タータンチェックの
キルト(プリーツの入った巻きスカート)をはかせて、子供用のスポーラン(昔買ったもので
ラビットファーのウエストポシェット)までつけさせていた。 
 息子は幼い時、女の子の様な顔をしていたので、とてもよく似合っていた。
 回りをぐるりと見回した時、キルトのタータンチェック模様が前の方でチラリと見えたので
すぐに行ってみた。

 主催者側のスコットランドフェアの関係者の方が息子の相手をしてくれていた。
 足が不自由な方で、車椅子の膝の上にはタータンチェックのひざ掛けが掛けられていた。
 上品な銀髪で笑った顔が、あの“ 特攻野郎Aチーム ”のジョージペパードに
よく似ていた。 車椅子に座ったまま、息子を抱き上げてあやしてくれていた。
 余程、子供が好きだったのか、あやしているその姿は子煩悩な父親の様にも見えた。 

 でも同じ姿勢で飽きたのか、急に子供が、膝の上でバタバタと足をばたつかせているので
引き離そうと手を掴み、こちらに引き寄せて「 相手して下さってありがとうございました。
足大丈夫ですか? 」と、お礼を言い、その方と目を合わせたのです。 その瞬間、手を握られ
「 何するのよ? この・・・・ 」と言いかけた時、走馬灯の様にぐるぐると昔の事が思い出され
その場所でめまいを起こしそうになり蹲ってしまいました。

 

そして さよなら SR31

2011年04月12日 | Scottish Romance

 皆と観劇の感想を話しあっていたちょうどその時、私に1本の電話がかかってきた。

 電話の主はマイケルだった。 てっきりエディだと思っていた私には意外に思えたのだった。

 マイケルは早口で「明日から検査入院になったよ。 しばらくは逢えないが、元気に

なったら、ケンブリッジに遊びに行くから、しっかり勉強して待っていてよ。」

 「何を今更、マイケルに言われなくても、勉強してるわよ。 安心して養生しなさいよ。」

 「有り難う。 きっと、待っていて。 必ず逢いに行くから・・・」

 「うん、うん、待っているわ。 又、一緒に飲みに行こうね。 」

 「じゃ。」

 「ご免、マイケル。 あのさあ、ビンセント教授、何か言ってた? 」

 「君達のホテルへ未だ連絡していなかったの?」

 「ええ、昨日から電話はないわ。 今、一緒じゃないの? 」

 「教授は、急用ができたと言って出て行ったよ。 多分、そちらに向かっているんじゃない?」

 「向かっているって? 私達、今から出発なのよ。 急用って、エディはこちらに来るって
言ったのかしら? 」

 「エディ? 教授の事? 教授に対して随分馴れ馴れしいなあ。 いやそれは聞いていない。」

 「いや、つい・・・(やば。) ビンセント教授って言うのが長いから・・・」

 「教授が聞いたら、びっくりするよ。」

 「多分ね。 ・・・解った。 じゃあ、マイケル早く良くなってね。」

 「君も元気で。 しばらくお別れだ。 じゃあ、今度は本当に切るよ。」

 異常に早口だったけど、電話の声は元気そうだった・・・

 エディが何時に到着するのかも解らない。 こちらに来るのかどうかも定かでない。

 しかも私達のバスは出発する時刻になっていた。

 逃げる訳じゃないけれど、このホテルに留まる事はできない。 

 いかなる理由とは言え、約束を守らないというのが信じられない。 

 電話連絡すると言っていた筈、なのに何故、1本の電話ができない?

 大体、私1人でここで待てというの?

 当ても無くエディを待ち続けるなんてできない。 

 マイケルの様にどうして「改めてケンブリッジに行くから。」と言ってくれない? 

 「よく考えて結論を出せよ。」ってどう考えたって、深く考えれば考えるほど

あなたはやはり・・・皆と一緒よ。 私の仲間達でしかない。


 そうじゃない、そうじゃない。 全てエディのせいにしているが、実は私が悪いのだ。


 未知の世界に踏み出せない臆病な私が、「 逃げろ!逃げろ! 」と叫んでいる。

 皆とお茶をしている時に、もう別れの言葉を紙切れにしたためていたのだ。


 昨晩の食事会で合席だった賢ちゃんにエディの事を聞かれたので、少し話したら
賢ちゃんは随分、親身になって聞いてくれて、私がさり気無く書いていたメモに
何かを感じたのか、私の側に来て何度も言ってくれたのです。

 「エディが戻って来るまで、待つべきだ。 もう一度、話し合いたい事があるんだろう。 
そうでないと後々、きっと後悔するぞ。 それでもいいのか・・・ 」
と言ってくれたけど、私はそんな忠告を振り切ってしまった。 


 そして、メモをフロントに残して、私達はバスに乗り込み、ストラトフォードを立ち去った。
 

 メモには乙女チックな文章を記していた。



 貴方達がくれた思い出の日々は 永遠に忘れないわ

 長い人生で ほんの僅かに光り輝いた青春の日々

 私にとっては 淡いさくら色の恋 ヒースの香り
 
 ちょっぴり 背伸びした恋 

 でも素直になれない私は どうしようもない臆病者 

 人の幸福とは 一時的な快楽や興奮で得られるものでは

 ないと思っています

 何故かと言うと それらは永遠ではないからです

 本当の幸福とは 優しさと平安が持続し続ける事だと思うの

 そんな理想ばかり唱えている どうしようもない私なんです



 だから こんな私の事なんか忘れてください

 エディは私なんかより もっともっと素敵な思い出がある方ですから・・・


 私は世の中で一番不幸な人は 思い出がない人だと思います

 私にはエディがくれた思い出が こんなに沢山あります

 エディとの思い出があれば 私はこれからの人生を

 例えたった一人だったとしても 生きていける位に・・・

 

 本当にありがとう エディ! そしてマイケル



 そして 旅の終了後 一旦ケンブリッジへ戻った私だったが

 新学期が始まる前に 母の通院の送り迎えのドライバーとして 

 一時帰国してしまったのである





ストラトフォードへ SR30

2011年04月11日 | Scottish Romance
 
 「先生に伺ってみたいと思っていたのですが、私ってどんなタイプの人間に見えます?
 外国人に対して従順にみえますか? そうではなく保守的にみえますか?
 ・・・ううん、そうじゃない。 何事にも慎重しすぎるよりは果敢な方がいいのかと
 行動してみたり、勿論、運命に対しても、同じ様に思うのですが・・・」

 「ふふん、あなたの悩みは、奥が深そうね。 迂闊な事を言うとあなたの人生さえも
 180度引っくり返るかえるような事にもなりかねないわ。 でもあなたは、慎重な人よ
 そこがいいところであり、決してマイナスにはならないと思うわ。 」 

 「ねえ、先生、私はこの地で長く暮らせる事ができるでしょうか?」

 「唐突にくるわね。 さあね、でも今は何の支障もなく暮らしているから
 大丈夫なんじゃない。 でも長期になると、ましてや例の男前さんと結婚するなんて
 事ないよね。」

 「まさか、・・・ないです。」

 「じゃあ何故、突然、そんな話題をもってくるのよ。」

 「いや、傍から見ていて、私にそんな事が可能かどうかを聞いているだけですよ。」

 「短い付き合いの中で、あなたの性格を簡単に判断するのは無理だけど、どうも
 飽き症の様な気がする。 すぐ嫌になってしまうタイプじゃないかな。」

 「先生、残念ですが、はずれです。飽き症の様に見えて、結構忍耐強いのが私なんです。
 見た目は落ち着きが無くて、いつも迷っている様にも見えますが、意外と太い筋は
 一本通っていますよ。 ハハハ・・・なんて、自分で言っております。」

 「そうなんだ。それは失礼しました。と言いたい所ですが、あなたは、やはり迷っている
 子羊のように見えて仕方がないのよ。 心配だわ。」

 「私は子羊ですか? 狼に襲われない様に気をつけなさいって事ですね。」

 「成人しているので、そこまではっきりと言いたくはないですがね。
 精神的に傷ついてしまったら、修復に時間がかかりそうなタイプでしょう。」

 「それは、ナイーブな私の気持ちを察して下さっている。 有り難うございます。」


 「何か、隠している事があるわね。 まあ、詮索するほど野暮じゃありませんよ。
 ・・・そろそろ出ようか。 明日はストラトフォードで、いよいよこの旅の終点だし
 一部のメンバーとも離れていくわね。」

 「そうなんです。 賢ちゃんも大陸の方へ旅するとか言ってましたし、私の青い目の
 友人達も離れ離れになりそうです。 もう、皆ホテルへ帰っている頃ですよ。
 先生、行きましょう。」

 「ここは、社会人である私におごらせてね。 私が誘ったのだから。」

 「宜しいのですか? じゃあ、お言葉に甘えて、ごちそうになります。」

 先生と私は、パブから出て、ホテルへと戻って行った。

 
 ホテルでは、ちょうど皆が、日帰りツアーから帰ってきたところでした。

 目ざとく私を見つけた賢ちゃんは「あれ、一緒に行かなかったの?」

 「私、マイケル達と一緒に行くって言ったっけ・・・」

 「いや何となく、ここには戻らない気がしただけ。 なあ、雄一!」

 「いや、僕は行かないと思ってたよ。 だって、一緒に行く理由がないよ。」
 
 「そうよ、雄一の言うとおり、逆にマイケルが雄一だったら着いて行くよ。」

 「心にも無いことを言うんじゃないよ。 全く・・・」

 「冗談は止めて、明日、ストラトフォードに着いたらシェクスピア劇場で
  何見るの?」

 「・・・やっぱ冗談か・・・“To be, or not to be : that is the question.”」

 「ハムレットですか。 私は絶対に“ ロミオとジュリエット ”だわ。」

 「まあ、どうせ寝てしまうだろうけど、何か思い出になりそうな劇を見るぞ。」

 「そうね、バスの中でガイドさんに聞いてみましよう。」

 「僕達これから、夕食に行くけど、久しぶりに一緒に行こうか?」

 「未だ空腹感がないけど、一緒に行くわよ。石塚先生も誘っていいでしょう?」

 「なら、僕も一緒に。」と賢ちゃんが嬉しそうに言った。


 結局、他のメンバーも含めて総勢8人で外食へ行き、その夜は更けた。


 明朝、少し早めの出発で湖水地方を出て、ストラトフォードに向かった。

 ストラトフォードの近くの草原を走っていると雰囲気の良い街並みが見えてきた。

 緑の中に歴史上の古い民家が点在し、エイボン川河畔ののどかな景観が心を癒してくれた。

 シェークスピアの生家を訪ねたり、エイボン川で遊覧船に乗ったり、観劇を楽しんだりして

ゆったりした旅の日程も消化されていった。 最終日はシェークスピアが洗礼を受け、埋葬された

ホーリー・トリニティ教会に参拝しに行く。 墓地と言っても、教会の祭壇の前に

シェークスピアは眠っているのである。 入場料を払って、祭壇前に進みお参りをした。

 私達は教会内の売店で、絵はがきを買ってホテルへ戻り、ロビーでティーを飲んでいた。

 ただ、2泊目を過ぎたこの最終日にもエディからの電話はかからず仕舞いだった。

 なんだ、「必ず連絡を入れるから。」って言ってみただけ?・・・やはり、そうだよね・・・

 

 


 

 

   


孤独な者達へ乾杯 SR29

2010年04月11日 | Scottish Romance

 湖の水際まで行って、太陽に反射した湖面がゆらゆらと輝やいているのをしばらく眺めて
いた。 無駄に時が流れていくのを止められずに、これから先どうしていいのかも分からなかった。

 その時、後ろで誰かが私を呼ぶ声がしたので、振り返って見ると石塚先生だった。
先生は、皆と別行動で町内を散策していたようでした。 先生はいつも単独行動なので、、
というより、大勢で行くのが苦手の様だ。 職業柄、人間嫌いは有り得ない事だが
ある意味、少し変わっているといえば、そうなのかもしれない。

 嬉しそうに私を見つめて、
 「 グッドタイミング! ちょうどいい所に飲み相手が見つかった。 」


 所詮、私は酒呑み相手の付き合いレベルでしかないようだ。 まあ、今、自分自身も
悩んでいた所なので、先生に相談に乗ってもらうべく、私こそグッドタイミングだった
のかもしれない。


 しばらく二人でうろうろとパブを探していたが、民家と土産物店しかなくて、昨夜、皆で
繰り出したパブへ行った。 そして、いつもと同じように軽食とスコッチを注文する。
 石塚先生は、いきなり 「 昨日の男前はどこへ行った? 」 と聞くから

 「 エディのことですか? エディなら、もういませんよ。
   今頃、エディンバラへ向かう列車の中です。 」

 「 もう、別れたの? 喧嘩でもしたの? 」

 「 先生、そんな・・・ 実は、もう一人の友人が原因不明の病気に罹って
   しまったので、身体を気遣って、エディンバラの家まで送りに行ったのです。 」

 「 ああ、そういえばもう一人若い男前がいたね。 
   その人が病気ということですか? 」

 「 二日連続の原因不明の高熱で、大きな病院で血液検査をするそうなんです。 」
 

  その時ちょうど、ウェイターがオーダーを運んで来た。

 「 先生、とりあえず乾杯しましょう! 」

 「 そうね、おおモテのあなたへ乾杯しましょうか? ジェラシーを込めて、乾杯! 」

 「 先生、冗談は止めて下さいよ。 モテていたら、今頃両手に蝶ですよ。
   見て下さい。 この孤独な若者を・・・ 全く・・・ 孤独な若者に乾杯! 」

 「 あなたのどこが孤独? 友達が沢山いるじゃない・・・ 
   じゃあ、孤独な二人に乾杯!  」

 「 孤独な二人に乾杯! 」


 “ かたい絆に 思いをよせて 語り 尽くせぬ 青春の日々

  時には傷つき 時には喜び 肩をたたきあった

  あの日 あれから どれくらいたったのだろう

  沈む夕陽を いくつ数えたろう 故郷の友は 今でも君の 心の中 … ”


 「 先生、誰の歌ですか? ここは、カラオケ店ではないですからね
   あまり大きな声で歌わないで下さいよ。 」

 「 この歌は、長渕剛さんのフォークソングで3rdアルバムに入っていたもの。 」

 「 そうなんですか、知らなかった。 いい歌ですね、又、教えて下さい。 
   それより先生、先程、こちらへ来て初めて日本の実家へ電話しましたら
   母が患っていて、秋に戻ってきて欲しいと言われたんです。
   9月から講義が始まるのに、これでは、タイミングが逆に悪すぎです。 」

 「 いきなりですね~ 」

 「 そう、いきなりです。 」

 「 そうだね、そうなると一度帰国した方がよさそうだね。 
   新学期が始まってからでは、金銭面も含めて、全てが無駄になるわよ。
   お母さんが回復してから、もう一度よく考えよう。
   真剣に勉強する気があるのなら、留学し直してもいいじゃない。
   帰国してから、もう一度考えてみる? 
   あなたは乗馬ができるから、乗馬留学だっていいし、観光で来て短期講習を
   受けることもできるし、選択肢はいろいろあるからね。 」

 「 そうですよね。 やはり、誰が考えても答えは同じです。
   大学に戻って、教授に話してみます。 」

 「 残念だわね。 きっと皆、寂しがるよ。 飲み仲間が減るから・・・ 」

 「 先生はいつ帰国されるのですか? 」

 「 私は、養護学校の転校を希望しているので、あなたよりは、少し時間があります。
   といっても、1年はないかな? 」

 「 結構ストレスが溜まるお仕事じゃないんですか? 」

 「 ・・・そうだね。 でも生徒一人一人の心が汚れていなくて純粋だから
   いつも私自身がすごく勉強させて頂いています。 おもらししたりしても
   嫌だと思わない。とてもやりがいのある仕事だと、いつも思っていますよ。 」

 「 私には真似できそうにないです。 」

 「 あなたは現場にいないからよ。 現場でいつも接してご覧なさい。
   必ずものの考え方が変わるから。 」

 「 そんなものですか? 」

 「 そうよ。 私は、生徒たちによって成長させられているし、いろんな面で
   救われているわ。 」

 
                       ・・・そんな二人の話は続いていく。

 
 
 


 

 

心に空いた隙間 SR28

2010年04月04日 | Scottish Romance

 そして、私はまた一人になってしまった。 賢ちゃんや雄一を含め学生仲間がいるのに
何故か、一人ぼっちになった様な気持ち。 マイケルはともかく、エディは所詮
私のことなんか心配していないんじゃないの? と思ったり、「 エディ、行かないで。」 と
すがるべきだったのか、いや、マイケルのいる前で、そんな事が言える筈もない。
 共に話をしながら過ごした時間を・・・ その時間の中で交わした心をきっと忘れない事を
信じて、エディを待つしかないのである。

 突然一人きり? にされた虚無感からホームシックにかかってしまった私は、急に母の声が
聞きたくなり、ホテルの部屋から日本へ国際電話をかけた。
 母の健康状態は、私が留学に来てからよくなかったようだ。 
 できれば、秋にでも一度帰国して欲しいということだった。 思わず “ ええ~そんなに
早く? いくらなんでも早過ぎるよ。 ” って言いそうになった。 いや、言いたくなった。
 それじゃ留学が、本当にただの遊学になるじゃない。 母の第六感はよく当たる。 
 どうせ、今頃遊びまくっているだろうと推測していたのかもしれないが・・・

 母は重度の更年期障害で、しばらくの間、病院の送り迎えをして欲しいと言っていた。
 私達兄弟を幼少の頃から、世話をしてくれていたお手伝いさんは二人いたが、私が高校に
上がる頃には、もう手もかからないということで、母の知人の紹介でお見合い結婚をして
それ以来、雇っていなかったし、兄達も仕事があるので、やはり頼みにくいようだった。

 身体の変調についていけない程のひどい状態、しかし、入院するほどではない。
 これが、とても厄介な症状と言ってしまえばそれまでだが、あの話し方では、母は相当
辛そうであった。 しかも、いつも気丈な母が、かなり弱気になっているのは、更年期による
自律神経失調症の為の鬱状態かもしれない。 

 私が、こちらでロマンスを経験しているのとは、ある意味、天と地の差かもしれない。
 母の事も心配だったが、今はもう少し自分の今後の事について考えたかった。
 母には申し訳ないと思いながらも、青春を謳歌している真っ最中の私は、今すぐこの地を
去りたくないのも事実だし、もう少し在学していたいのが本音であった。
 “ 秋に帰国する ” というのは、本当に中途半端で無駄なことなのだ。
 それならば、一掃のこと、新学期が始まる前に帰国して、再度留学し直した方が
マシということなのか、思案に暮れるのであった。

 今は新学期への準備期間と夏休みなので、結構、行動面では自由だが、新学期が始まると
帰国が容易ではなくなる。 新学期を待たずして、一旦、帰国って事になるのかしら。
 エディの事も考えないといけない。この事は口が裂けても、今の母には言えない事だけど。
 留学に来ていて、“ 恋愛にうつつを抜かしているようでは、ろくな人間にならない。”
と非難されるのは間違いない。

 このもやもやしている気分を一新する為に、しばらく湖畔でもを散歩して、残り少ない
夏の日差しを浴びようと思いホテルを出ることにした。
 湖畔を歩いていると、爽快感漂う涼しい風が吹いていた。 ホテルのじめっとした
重苦しい空気ではない。 しばらくすると鳥のさえずりが聞こえ、りすが木の実をかじっている
様子が見られ、気分が少しずつ浄化されていくような気がした。

 過ぎ去った時を元に戻す事が出来ないように、流れる時間を止める事もできない・・・
 そう、後悔するのは嫌だから、“ 自分に忠実に生きたい  ” なんて考えるのは
むしろいけない事なのだろうか・・・ やはり慎重にならざるを得なかった。 
 様々なことを思い浮かべては泡の様に消え、それを繰り返しながら、湖畔を歩いていた。

 私は愛する人とこの地で暮らす事ができるのだろうか。 イギリス人学生から聞いた話では
冬になると太陽が見られない日が続き、陰鬱で暗い日々が続き、朝はなかなか明るくならず
午後3時頃から暗くなっていく。 昼間もどんよりとして、街や周りの全てが灰色みたいな
気分になる。 生まれた時からイギリスにいる人でも、冬は滅入ってしようがないらしい。
 “ 太陽はいったい何色だったんだい? ” みたいなジョークが言われたり
イギリス人の挨拶は、先ず、天気のことから始まることが多いと言っていた。

 そんなこんなで生活している内に、それこそ鬱病になりはしないか、何も仕事がなく
ノイローゼ状態になるかもしれない。 果たして、結婚生活は長続きできるのであろうか?
 こんなに悩む位なら、初めからこちらで暮らすことなんか考えること自体、ナンセンス
というものだ。 いろんな想いが頭の中を駆け巡っていた。

 

 

離せない夏の日の恋 SR27

2010年03月28日 | Scottish Romance

 朝、カーテンからの木洩れ日で眼が覚めた。

 どれだけ飲んだのやら、少々お酒臭かったので、シャワーに入り軽くシャンプーをした。
 薄化粧をして、カジュアルな服に着替えて、マイケルの様子を見に行った。
 マイケルは連日の熱のせいで、かなり体力を消耗している様で精気がなかった。
 それでも私達の前では、元気そうに振舞っていた。
 3人で、ダイニングルームへ行き、朝食を取っていたら雄一達がやって来て、私に
「 昨日、相当できあがっていたけど、大丈夫? 珍しいよね。あんな姿初めて見たよ。」

「 本当だ。 学生達の中では酒豪で名を売っているのにねえ。 」 と賢ちゃん。

「 失態を見られてしまったのは残念だわ。 これで、私の評判、又ガタ落ちね。 」

「 最初から評判悪いよ、なんてね。 」 二人で笑っている。

「 いいのよ、どうせお酒大好き、ヘビースモーカーの不良なのだから。 」

「 僕たちも人の事言えないよな・・・ 授業よくサボっているし、教授に請け悪いしさあ
  まあ、格別気にしてないけど・・・ 今日はフリータイムだ。 明日は三人さんも
  ストラトフォードへ行くでしょう? 」

「 いえ、ちょっとマイケルの具合がよくないので、未だ解らないのよ。 」

「 ええ~バスに乗らないって事? 」

「 そうね、それも解らない。 取りあえず、今から近くの病院へ行くから、後で
  報告するわね。 」

「 じゃあ、僕達は先に出かけるよ。 結果は後で聞くから。 マイケル、お大事に! 」

「 心配ないから、有り難う。 」

「 じゃあね。 」

 マイケルは、日本語で話す私達が何を言っているのか理解できなかったが、どうも
自分が戻って来たせいで、皆に心配かけているのを気にしている様だった。
 エディがホテル近くの病院の場所を聞きに行き、しばらくして、近所のマップを手にして
戻って来たので、早速外に出た。 田舎の小さな医院でしたが、丁寧な診察でした。
 そして、受診の結果、医師からなるべく早くエディンバラへ戻って、血液検査を受けた方が
いいと言われ、応急処置の点滴注射だけ受けて、ホテルへ戻って来た。
 マイケルは何かの感染症にかかっている様だった。
 医師はしきりに 「 早く検査をした方がいい。 」 と話されていた。

 マイケルは微笑みながら、心配する私に、「 大丈夫、心配しないで。 大した事無いよ。
 用心の為に検査と少しの休養が必要なだけさ。 ただ、旅の続行は出来なくなって
しまったよ。 とても残念だけど、君を置いて今からエディンバラへ戻らなければならない。 」

 「 その方がいいわ。 本当は送って行きたいけれど・・・ 」

 「 今、平熱に戻っているから大丈夫だよ。 心配しないで、一人で帰れるから。 」

 「 私が一緒に行くよ。 」 とエディが言った。

 「 教授・・・ 」 と言いながら、思わずエディの眼を見る。

 「 教授は皆の引率だから駄目ですよ。 本当に僕一人で大丈夫ですから。 」

 「 ツアーの予定は解っているし、滞在するホテルも知っているから、大丈夫だ。
   連絡はいつでもできるから、マイケルは心配しなくていいよ。 」
  
   やはりエディは、面倒見の良い優しい人だった。

 「 ビンセント教授、私は行けませんけど、宜しくお願いします。 」

 「 滞在先には必ず連絡を入れるから、後を頼むよ・・・ よく考えて結論を出せよ。」

 「 えっ・・・ 解りました教授・・・ 」 

 何と大胆な、マイケルの前で、意味深な言葉を言っている。


 「 何の結論だよ。 」 とマイケルが私に尋ねた。

 「 ええ・・・ ケンブリッジ大のガイ教授の出された課題の事よ。 」

 「 じゃ、そろそろ、電車の時間も近づいてきたので、行こうか。 マイケル。 」

 「 ・・・教授、5分だけ、席を外してもらっていいですか? 」

 「 構わないよ、ロビーで待っているから。 すぐに下りて来るんだよ。 」

 「 有り難う! 教授。 」

 エディは私の眼を見て、去って行った。 私には「 信じているよ。 」と言っている
 様に思えた。

 マイケルは全く何も知る由もなく、話し始めた。

 「 本当の事を言うと、昨日、君が友人のO・ZA・KI君の誘いを断ってくれると
   思っていた。  まさか、OKするとは思わなかったものだから、僕は躊躇して
   しまった。 でも、こんな結果になるなら、強引に先約だと言えば良かったと
   後悔しているよ。 全く、一日を無駄にしてしまったよ。 」

 「 私もこんな事になるのを予測していなかったもの、ご免ね。 私が悪いのよ。 」

 「 本当は帰りたくない。 解るだろう。 休養して元気になったら、きっと君に
   逢いに行くからね。 」

 「 マイケル、ケンブリッジで待っているからね。 又、皆でパブへ行きましょう。 」
 その時、私をじっと見つめるマイケルの充血した眼に光るものを見た。

 私は思わずマイケルを抱いて、「 元気になるのよ。 いつか、武道館へ来るんでしょう。」

 マイケルの身体は少し震えていて、「 そうだね、武道館へ行くのが夢だから・・・ 」

 私の髪を優しく撫でるマイケルの手が頬に触れる。 
 私の胸は高鳴りを押さえる事ができなかった。  
 マイケルはゆっくりと私の頬の上にキスをし、そして眼を閉じた私の身体を、、、離した。
 私には移さまいと思って、唇には触れなかった。
 私は、しばらく呆然としたまま、その場に立ち尽くした。
 ウォルタースコット塔での出来事が、昨日の様に鮮明に思い出させる。
 しかし、あんなに力強かったマイケルの姿はもうない。
 弱々しい姿のマイケルは、「 See you! 」 と言って、静かに部屋から出て行った。



思えば思わるる SR26

2010年03月21日 | Scottish Romance
 「 2人を同時に? それが君の本心だという事?
   と言っても、“ 三角関係は泥沼だ。 ” マイケルは、君を必要だと言っているけど
   本気で、結婚まで考えていないと思うよ。 僕を選ぶ方が堅実だと思うけどね。 」

 「 まあ、結婚だなんて、私だって考えていないわ。 」
 
 と言いつつも、照れ臭そうに頬を赤らめた。

 「 僕は真剣に、結婚を前提として考えてるよ。
   早すぎてもいい。 愛のない人生は悲劇だ。 
   何度も言うが、これは、僕の直感、つまりインスピレーションなんだ。
   仕事に関しては、転職は考えていないけど、もし、僕が毎日
   君の側にいることができるなら、気持ちは変わるだろう? 」

 嬉しそうに、
 「 ・・・ええ、そうね、多分・・・ 迷わずついていくわ。 」
 
 随分と優柔不断な私であった。

 「 やはり、記者という職業がネックになっているのか・・・ 」

 「 記者という職業への理解がなさ過ぎで、ご免なさい。 でも例え、これから
   お互い離れてしまっても、あなたを想う心は、きっと永遠だと思う。
   それ程、あなたへの想いは深いわ。 」

 「 心は離れない・・・ 心配かける様なことを言った僕のせいだね。 すまない。 」

 「 ・・・実は、私の恩師が特派員記者で、去年、イスラエルの方で殉職されたの。
   とても、哀しかったわ。 もう二度とあんな思いはしたくない。
   もしもエディがどこかで事件に巻き込まれでもしたら・・・ 
   と思うと、もう何も考えたくない。 お願い、解って・・・ 」

 エディは私の手を握り、静かに抱き寄せた。
 涙があふれ出るのを止められない私は、ただ エディにしがみつくだけだった。
 エディは、小刻みに震える私をしっかり抱きしめてくれた。

 「 恩師? ・・・恋人だったのではないかな? 寂しがりやなんだな。
   時が止まってくれたら、ずっと、こうしていたいよ。 」

 「 何も言わないで・・・ もう暫らくの間だけ、このままでいて・・・ 」

 「 君のために、離れたくないよ。
   確かに、仕事柄ずっと側にいることはできないよ。
   でも、君をおいて死ぬわけ無いだろう、きっと幸せにするよ。
   いきなりのプロポーズだけど受けて欲しい。 
   幸せの形は色々あるさ。 子供を沢山作れば、君も寂しくないだろう。 」

 「 うふ、・・・ 本当にそうかもしれないわ。
   エディ、その気にさせないで・・・ 」

 「 君を誰にも渡したくないし、日本にも帰したくない。
   真剣だよ、よく考えて・・・ 」
 
 エディの眼には、相手を求め合う真剣な気持ちが絡み合っていた。
 
 しかし、互いの心が求めていたとしても、欲望に身を任せるわけにもいかなかったが・・・

 その時、ホテルの従業員が、ロビーを横切りフロントに入った。
 私達も3Fのマイケルの部屋へ戻る事にした。
 
 ゆっくり動くエレベーターの中で、先程の続きを、エディと話していたら、次の瞬間
突然にキスをされていた。
 私の頭の中では、防衛本能が騒ぎ立てていたが、こんなにハンサムで、私を眠りに
誘い込むかのようにうっとりさせられたので、態度にも言葉にも出なかった。

 あっという間に、しかし、ごく自然に、エディの両腕に抱かれていた。
 触れられるだけで腰の力が抜け、キスをされると身体中熱くなって、すがりつかずには
いられなかった。 私は陶酔のあまり、めまいを起こしそうになり自制心を失いそうになった。
 壁に寄りかかるのが精一杯で、心地よい麻酔にかかった様な気分だった。
 
 とっくにエレベーターは3Fに止まっていたが、段差のあるフロアーに上がり
廊下のラグソファに座って、しばし二人は、甘美な情熱に酔いしれていた。

 しばらくしてから、マイケルの部屋へ戻った。
 かなり容態が落ち着いていたので、後はエディに任せて
 私は自分の部屋に戻る事にした。 そしてエディと私は、再び、廊下に出た。

 「 部屋へ戻って、よく考えて・・・ こんな出逢いは二度とないよ。 」
 
 と自信たっぷり・・・

 「 ・・・ふふ、二度とないでしょうね。
   貴方の様な素敵な人との出逢いなんて・・・ 」

 「 君の将来の事だから、後悔しないように。 」

 「 ええ、時間をかけて考えて、おばあさんになるわ。 」

 「 僕はじいさんになるまで待てないぞ。 」

 「 ・・・じゃあ、また明日。 」

 エディが、「 おやすみ。 」 ともう一度、気が遠くなる様なキスをしてくれた。

 「 ああ、今晩というより夜中だけど、今から、よく眠れそうよ。 」

 「 僕は、眠れそうになさそうだよ・・・ 」 とポツリ

 正直言えば、もう少し一緒にいたかったが
 エディが預かってくれていた鍵をもらい、2Fへ下りることにした。
 そして、自分の部屋のドアを開け、ひとり、中へ入った。

 どうして、あんなにキスが上手なの? 
 エディといい、マイケルといい、キスだけで充分、満足している私であった。
 淡いピンク色のコットン地のネグリジェに着替えてべッドについてから、先程の甘美な
 ひとときを想い出していた。 エディの前では “ よく眠れそう ” だと言っておきながら
 やはりこれでは、ぐっすりなんて眠れそうにありませんでした。
 エディの力強い腕の感触を、夢の中で懸命に手繰っていたら、予想に反して
 以外に早く眠りに落ちてしまった。 

 ある意味、エディに抱かれていたつもりで、安心して眠っていたのかもしれない。




二人の狭間で SR25

2010年03月14日 | Scottish Romance

 「 やっと、ツーショットだね。 」

 「 面と向かって言われると恥ずかしいわ・・・ 」

 「 僕をダディ化しておいて、今更、恥ずかしい? 」

 と言いながら、エディはタバコに火をつけ、煙を深く吸った。


 「 昨日は、私のわがままを聞いてくれて、本当に有り難う。 」

 「 もう、いいよ。 君は人を傷つけるのが嫌なんだろう。 」

 「 私は皆と友達でいたいだけなの。 
   男女間でも友情は成り立つと思うけれど、どう? 」

 「 最初から、君を恋愛の対象にしているから、今の僕には無理だよ。 」

 「 随分、はっきり言うわね。 身も蓋もないじゃない。 」

 「 初めてあった日にアプローチしているよ。
   それより君は、運命の力を信じないかい? 」

 「 どうしたの? いきなり運命だなんて、前に言っていた縁の続きの話?
   ふふ、結構、古風なのね。 」

 「 今、君は運命の力で僕の世界にいる。 
   だから、どこへも逃げられないよ。 」

 「 まあ、怖いのね。 逃げてないじゃない。 それとも私を束縛するつもり? 
   私はどちらかというと現実主義者だけど、あなたにそんな事言われると
   又、恋の暗示にかかってしまいそうよ。 」

 「 暗示? 僕は催眠術師でも宗教家でもないよ。
   僕は君と出逢った事で、少しずつ荒んだ心を癒す事ができているのに
   随分ひどいなあ。 」

 「 そんな・・・ 私が、あなたの荒んだ心を癒す事ができたの? 
   この私が? 信じられない。 」


 「 僕は記者という職業柄、ストレスも人並み以上だし、出張も多い。 
   今度又、いつ逢えるか解らないだろう。 だから話し合って、君の事もっと
   知りたいし、君の顔をこの瞼に焼き付けておく為にも、今一度見つめていたい。 」

 「 瞼に焼き付けるって・・・ もう二度と逢えないかの様な事を言うのね。 」

 エディは、自分のブレザーの胸ポケットに手を入れると、何やら、包み紙を取り出して

 「 これは、君のために。 」 と私に手向けた。

 私は、それが何か知る由もなく、包み紙を開いた。
 包み紙の中には、何と、カールトンホテルで約束した、ヒースの押し花が入っていた。

 「 まあ、エディ、覚えていてくれたのね。 とても、嬉しいわ。 」
   
 ヒースの花の微かな香りをかいで、お礼のキスをした。

 エディは、「 その花を見る度に、僕を想い出して欲しい。 」 と言った。

 「 又、どうして、明日にでも死ぬ様な言い方をするの? 」

 「 ハハハ、本当だ。 どうかしているね。 記者の口癖さ。
   危険な場所への取材もあるから・・・
   記者の仕事は、本当に一寸先は闇 なんだ。 」

 「 あまり想像させないで・・・ 恐い話は聞きたくない。
   考えるだけで、もう駄目。 涙が出そう。
   私、あなたを好きになってはいけないのよ。 
   でも、ダディの様なあなたは別よ。 」

 「 ・・・そうか、君にとって、僕は恋人よりもダディの様な存在でいた方が
   良いのか? 」

 「 できれば、そうあって欲しい。 
   恋人同士だと、いつか別れの日が来た時・・・
   つまり、あなたに捨てられた時
   私は辛すぎて一人で生きていけそうにないから。 」

 「 その反対じゃないのか? じゃあ、僕達は永遠に結ばれない? 」


 「 心と心の結びつきでいいから、ずっと、あなたを尊敬し愛していきたい。 」

 「 よく、解らない? 」

 「 解らなくていい。 イメージで結ばれていたいの。 」

 「 空想だけの恋? それは、つまり愛の放棄だ。 」

 「 愛の放棄? あなたに言われたくない。 
   あなたこそ私の側にずっといてくれそうに無いじゃない。
   記者という職業は素晴らしいと思うわ。 
   でも恋人として、妻としての立場になった時、あなたを心配して
   いつも不安で、きっと寂しさに耐えられないと思うの。 」

 「 仕事については反論できないが、君を守っていこうとする気持ちは強いよ。 
   ただ一つ気になるのは、やはりマイケルの存在だ。 」


 「 エディ、あなたは優しい人ね、そう、私がエディの事を心の底から愛していた
   としても、やはり共に歩んで行くことも出来ないと思うし、マイケルについて
   行くこともないと思う。
   何故なら、どちらかを選んでしまったら、多分、どちらかが気がかりになり
   結局、どちらも選ぶことができない。 2人共傷つけたくないのよ。
   辛い事だけど、自分さえ我慢すれば済む事だから。 」

 「 2人を傷つけたくない?
   それは嘘だ。 君は自分が傷つきたくないだけだ。 」

 「 ・・・そうね、傷つくのが恐いのかもしれない。
   でも思うの、私達がいつか離れ離れになっても、あなた達が、これから出逢った
   女性と結ばれ、結婚したとしても、私は心より祝福するわ。
   そして、いつか又、あなた達に逢う日が来た時
   昔ながらの親友の様に楽しく語り合いたい。 これが私の本心です。 」

 「 それは本心じゃない。 現実逃避だよ。 まるで僕は、道化師だな。
   どうして、このツアーに参加したのかな。 今、とてもブルーな気分さ。
   君は心変わりをしたのか、僕の話が原因だったのか・・・ 」

 「 心変わりじゃない・・・ よく、考えたら私は、2人を同時に好きになっていた
   だけよ。 」





原因不明の熱病 SR24

2010年03月07日 | Scottish Romance
 「 マイケル! 熱があるのに、どうして戻って来たんだ。 」

 「 ・・・ 」

 エディは、マイケルを抱き起こしてみるが、高熱のために“ うわ言 ”を言っている。
 いくら話しかけても返事もろくにできないでいたが、どうやら解熱剤は飲んでいる様だった。
 エディはホテルへ戻って、休ませようと考えていた。

 「 マイケル、大丈夫~? マイケル~ 」

 「 取り合えず、部屋まで運ぶよ。 君は一人で歩けるね? 」

 「 私もエディに運んでもらいたいけど~ 」

 「 さすがに2人はね。 」

 「 無理よね~ いいわ、後ろをついて行くわ。 ヒック。 」

 「 そう、僕のベルトに手をかけて、付いて来るんだ。 」

 「 ウイ~ 」

 エディはマイケルを肩に抱えあげ、私を引っ張ってホテルのロビーまで運んでくれた。
 フロントでマイケルと私の部屋の鍵をもらうと、古いエレベーターに乗り、3Fを押す。
 3Fフロアーには、30cm程、段差がある状態で止まり、エレベーターのドアを手動で開ける。
 こんなアンティークなエレベータに乗ったのは、ここが初めてだった。 
 エディが、80kg以上あるだろうマイケルを担いで、30cmの段差を上がったのだ。 
 当然ながら、私は何の役にも立たなかった。

 熱のあるマイケルをベッドに寝かせて、エディは、タオルを氷水で冷やしに行った。
 私は何故か、魘されているマイケルの傍らで“ ブラームスの子守唄 ”を歌っていた。
 自分で歌った子守唄のせいか、どうかは解らないが、私はそのままマイケルの横で
寝てしまった。

 戻って来たエディは、マイケルの額に冷やしたタオルを置き、私に
「もう、寝たのかい。 ここは、君の部屋じゃないだろう。 君は2Fだ。さあ、行こう。」と言って
今度は私を軽々とお姫様抱っこをして、2Fへ降りて行き、私のバッグから
鍵を取り出して部屋に入り、ベッドに優しく寝かせてくれた。 
 エディは、やれやれという感じで、私の額に軽くキスをした。

 「 う~ん、ダディ、何かお話して~ 」

 「 ダディじゃない。 エディだ。何の話がいいんだい? 」

 「 ・・・ダディ・・・ 妖精のお話~ 」

 「 エディだ。 こまったものだ。 」

 この時、私にとってエディは、完全にダディ化しておりました。

 しばらく、エディは私の手をとりながら、子供をあやす様に優しく頭を撫でたりして
妖精に纏わる民話を話してくれました。 そんな優しいエディをずっと見ていました。
 私が、心地よく寝入った後、エディは、そっと部屋から出て行きました。
 
 一度寝てしまった私でしたが、頭の中でマイケルの事を気に留めていたのか、ちょうど
夜中の1時頃、目覚めた私は部屋を出て、3Fのマイケルの部屋に行きました。
 2,3回ノックをすると、眠たそうな顔をしたエディが出てきて、私を入れてくれました。

 「 もう、大丈夫かい? 酔いは醒めたの? 」

 「 未だ少し、頭痛いけど、向かい酒したら治りそうよ。 お酒ある? ・・・
   冗談よ。 それよりもマイケルが気になって・・・ どうなの? 」

 「 ずっと息が苦しそうだが、熱は下がってきているよ。 ・・・
   ミニボトルならあるけど。 」

 「 ふふふ・・・ そう、良かった。 心配だから、私も一緒にいたいけど駄目? 」

 「 ・・・構わないよ、一緒にいよう。 」

 「 有り難う。 ただ、部屋の鍵を閉めていないので、エディ、私の部屋の鍵
   あります? 」

 「 僕が預かっていたからね。 これだよ。 」

 と言って、ポケットから鍵を差し出し、その鍵をもらって、取り合えず、2Fに戻り
部屋に鍵をして、もう一度、3Fへ戻る事にした。

 ベッドルームに入り、マイケルの様子を見に行く。 薬が効いている様だが、未だ少し
熱が残っていて、息使いが荒く、苦しそうでした。
 エディと私は、窓側のソファーに移動し、私はエディの為にティーを入れる。
 
 「 エディ・・・ 」 と言ってマイケルの方を見た。 
 そして 「 教授 」 と言いなおす。

 「 教授、マイケルの看護、お疲れ様です。どうぞ、ティーウィズミルクです。
   それからどうしました? 」

 「 有り難う・・・ 先程まで、寒さで震えていたんで、一緒に寝たよ。 」

 「 ・・・でしょう。 私も昨日、エディ・・・ じゃなくて教授と同じ事をしたんです。」

 「 解るよ、人として当然のことをしたまでじゃないか。 」

 「 ええ、それで、マイケルを明日、病院へ連れて行かなければいけないわね。 
   熱の原因が何か診て貰わないと、連夜高熱じゃ、いくらスポーツマンだって
   衰弱してしまうわ。 」

 「 そうだな。 でも、どうして熱があるのに、ホテルへ戻ってきたんだろう。 」

 「 きっと、何か伝えたい事があったのかもしれないわ・・・ 」

 「 君にかい? 」

 「 そうかも・・・ 」

 「 正直言うと、想定外の出来事で、僕も驚いているし、辛い。 」

 「 どうして辛いの?・・・ 私がいるのに? 」

 「 声が大きい・・・ マイケルが起きるよ。 と言って、病人をおいて
   ここを離れられないし・・・ 」

 「 そうね、話もできないわね。 でも、少し位息抜きしてもいいじゃない。 」

 「 じゃあ、1Fのロビーでタバコでも・・・ 」

 「 そうしよう。 」

 そう言って、マイケルの部屋を出て、二人で誰もいないロビーに下りる。 
 灯りはついていたが、フロントにも人はいなかった。

 






湖畔のドランカー SR23

2010年02月21日 | Scottish Romance
 私は部屋に戻って、近くのパブへ行く為の準備をしていると、フロントの女性から
電話があり、今しがた“ Mrs.Jane ” から私にメッセージがあり、その内容について
“ マイケルは高熱の為、ホテルには戻れない。 ” との事でした。

 しかし、連絡をもらっても、“ Mrs.Jane ” の住所も電話番号も解らないので
コンタクトが取れずにいた。 パブに向かう途中、エディにその事を話すと
 
 「 親戚の家だから大丈夫だよ。 ちゃんと看病してもらっているさ。 」

 「 昨日も夜から急に高熱が出て、アスピリンを飲ませて休ませたのよ。
   でも翌朝、嘘の様に熱が下がっていたので、一過性の発熱かと思っていたのに。
   何か胸騒ぎがする・・・ 大丈夫かしら・・・ とても心配だわ・・・ 」

 「 マイケルの居所が解らないんだから、心配しても仕方ないじゃないか。
   それに、先方からメッセージもきているし。 」

 「 ・・・そうね、大丈夫よね。 」

 しばらく湖畔を歩いていると、田舎風の感じのいいパブが見つかったので迷わず入る。
 パブの中は、外観から見た感じに比べて思ったより広かった。 何と面白かったのは
1Fに薄暗いフロントがあって、案内された場所は、地下だった。 
 沢山の観光客や地元の人でいっぱいだったので、私達もバラバラになって座る事になり
私はエディと向かい合って座った。

 スコッチウイスキーとラムのグリル、ポテトに豆料理を注文する。 真ん中には大きな
グランドピアノがあって、エディが笑いながら 「 見なさいあの人を・・・ 」 
というので、向こうからやって来たピアニストを見て、思わずギョッとしたのである。
 リアルに作ってある大きな耳に大きな鼻をつけたピアニスト。 パブにいるお客さんが
一斉に笑い出した。いきなり、そのピアニストが弾き出した曲は結婚行進曲・・・
 すると、ダイアナのそっくりさんが現れ、そのピアニストとキスをしたのである。

 あの不気味なピアニストは、何とチャールズ皇太子を真似た演出だった。
 それにしても、どう見ても化け物そのものだ。 ピアノの腕前も今一だったが
 ジャズばかりだったので、どうにか誤魔化していた様だが、やはりひどかった。
 私もよく音を外すので、人のことを言えたものじゃなかったが、音楽に興味の無い
 エディでさえ、「 自動伴奏の方がいいな。 」 と言っていた位だから。

 「 パブの雰囲気は愉快だけど、ホテルで不愉快な思いをして、今晩は散々だったわね。 」

 と言いながら、運ばれてきたウイスキーをストレートで乾杯し、2人はいきなりグラスを
開けてしまった。

 「 この事をいつか、記事にしてみるよ。 あの様な出来事は結構あるんだよ。 」

 「 白人同士でもあるのね。 人間って、上下関係って言うのかしら? 
   つくりたいのよね。 」

 「 家の両親もよく話していたね。 昔はもっと、ひどかったらしい。 
   両親は大卒で、裕福な家の出身なのに、実際、アイルランド国籍だけで
   蔑視された時もあった様だよ。 」
 
 「 じゃ、イングランド出身って言えばいいのよ。 見た目は、変わらないんだから。 」

 と言いながら、手酌でウイスキーを注ぎ、又、グラスを開けてしまった。

 「 冗談はよしてくれ。 そんな事言う気は更々無いよ。
   それに、ビールじゃないんだから一気に飲むと悪酔いするよ。 ロックにすれば。 」

 「 解っているわ、大丈夫よ。 ロツクも水割りも嫌いなの。 ストレートが一番よ。
  私達なんて、黄色い肌の色だけで差別されるのよ。 いくら嘘ついても、この肌の色は
  変えられないわ。 」

 ウイスキーのボトルを引き寄せ、手酌でグイグイ飲んでおります。

 「 いろいろ、嫌な思いをしたんだ。 そんな連中、相手にしなければいいんだ。 
 僕は肌の色なんて、毛頭無かったよ。 ただ、僕に相応しいと思ったから・・・ 」

 「 ・・・どうしたの? その続き、話してよ。 エディ~ 」

 「 ・・・いや、いいよ・・・ 今は、君の教授だからさ・・・ 」

 「 どうして、今2人でいるのに、そんな事言うの? マイケルの事、気にしているの? 」

 「 マイケルは眼中にない・・・ 」

 「 じゃ何よ・・・ お酒が足りなきゃ話せない? 」

 「 君の様子が・・・ 飲んだくれには話したくない。 眼は虚ろだし紅潮しているよ。 」

 2本目のボトルを空けてグラスにそそいだ。 エディは、私のグラスのお酒を飲み干した。

 「 私のお酒じゃない。 」

 「 飲み過ぎだよ。 お酒は楽しく飲まなければ・・・ 」

 「 私って底なしなの~子供の頃から飲んでいるのよ。 気にしないで~大丈夫よ
   これ位で酔う筈ないじゃない~ 」

 「 ああ、酔っていないと思うけど、少し立てるかい。 」

 「 立てるわよ~ 」

 しっかり立っていると思っていたが、実はエディが身体を支えていた。
 手を離せば、千鳥足状態。 やはり、ビールや日本酒に慣れていても、ストレートの
ウイスキーは効き過ぎた様だ。 酔いの回りが早すぎたのは、昨日の疲れの為かもしれない。

 「 エディ、私、先に帰りたい~ ファー 」 急に睡魔が襲ってきた。

 「 じゃあ、送ろう。 僕の部屋で一緒にお茶でも飲んで、酔いを醒ましたら? 」

 「 ・・・送り狼! その手は桑名の焼き蛤だ! ウィ。 」

 「 英語で話せよ。 」

 「 一回位、日本語で口説きな。 エディちゃん。 ヒック。 」 

 よたっていた私は、賢ちゃん達と別れて、エディと先にホテルへ帰ることになった。
 身長がかなりアンバランスではあったが、男同士みたいに肩を組んでもらいながら
暗くなりかけた夜道を、一緒に帰る事になった。
 エディも呆れ返るほど、鼻歌を歌っている私は完全にオヤジ化していました。
 ところが、ホテルの近く迄来ると、何か、大きな物体に足を引っ掛けてしまい
そのまま倒れてしまったのである。

 エディは 「 大丈夫かい? 」 と言いながら、私を起こしてくれた。
 どうも、もう一人酔って倒れている人がいる様なので、エディが 「 大丈夫ですか? 」
と起こすと、その人は、苦しそうな声で言った。
 「 教授・・・ 僕です。 マイケルです・・・ ああ・・・ 」と言って
   その場で又、崩れ落ちた。