さすがに心細くなってきた私は、居ても経ってもいられなくなってきた。
外は、未だ未だ明るかったが、気温が少々下がってきた。
しかも、ランニングシャツにショートパンツ姿。 それも私が、彼を追い出した様なもの。
ああ、私ってどこまで質が悪いのかしら・・・ 自分でも腹立たしく思っていた。
このフラットは、1Fに1室、シャワールーム・トイレ・居間・台所は共同スペースであり
2Fにも3室の部屋とバストイレ共同がある。 マイケルは1Fの8畳位の部屋でした。
私は、居間で待っていると、2Fのホームメイトが帰って来た。 何か、ジロジロ
見られたので、マイケルの部屋で待つことにする。 時間の経つのが遅い。
あれから3時間以上経っている様だ。 その時、急にドアが開いた。
「 マイケル! あっ失礼。 君、誰? 」
「 御免なさい。 驚いたでしょう。 私、マイケルの友人で日本人なんです。
彼の為に日本料理 “ すき焼き ” を作ろうと思って、彼に日本の調味料
“ しょうゆ ” を買いに行ってもらっているんです。 でも、あまりに
遅くて心配していた所です。 」
「 仕方ないなあ。 レディを待たせるなんて。
僕は、マイケルの友達で、アンドリュー・ヘイワードです。 よろしく! 」
「 初めまして! アンドリュー。 マイケルとは、3日前、知り合ったばかりの
ホカホカの友人なの。 」
「 ハハ、そうか解ったよ。 あいつ、3日前の夜、やたらに機嫌が悪くて
訳を聞いたら、ただ一言 “ ドラキュラは花嫁に逃げられたか ? ”
なんて訳の解らない事を言っていたけど、あれって君の事だったのか。
あいつ、ああ見えても、結構無垢でいい奴なんだ。 優しくしてやって欲しい。
3日前は、本当に手に負えない状態だったのだから。
あんな態度、初めて見たので、随分心配したんだ。 」
「 そうだったの。 」
「 3日前、ケンカ別れでもしたのかい・・・ でも、なさそうだな。
君がここにいるという事は・・・ 」
「 変な想像は止めて下さい。 私は、マイケルの恋人じゃないのよ。
私は旅人よ。 明日は、湖水地方へ行って、それから、ストラトフォード、etc・・・
回ってケンブリッジへ戻るの。 」
「 ケンブリッジに住んでるの? 」
「 ええ。 」
「 今日、ショップで買い物していたら、偶然にマイケルと逢ったので、立ち話も
何だからって、ここへ招待されたの。 部屋があまりに美しい? ので
ご覧の通りよ。 」
「 あいつ、頭いいなあ。 日本人って、“ すごい綺麗好き ” って解っていて
誘ったんだよ。 」
「 そうだったの。 随分ね。 それじゃ私、家政婦の代わりに呼ばれた訳?
じゃあ、これで、お役目ご免だわね。 マイケルが帰って来たら、“ 用事が
できたから帰った。 ” って言っといて。 」
「 じゃあ、さよなら。 」
「 ・・・ 」
そのまま、私は、マイケルの帰りを待たずに帰ろうと、フラットのドアを開け様とした
ちょうどその時、彼は袋を提げて、帰って来たのです。
その袋を、私に手渡すと、早く見ろと言わんばかりに、私の顔をじっと見つめている。
早速、袋から瓶を取りだし色を見る。
醤油と同色ですが、ラベルを読むと “ チャイニーズ・ソーイ ” と印刷して
あるので、一瞬、何を買って来たのかと不安になりながらも、恐る々キャップを開けて
香りをかいでみた。 その時のマイケルの顔は、不安気でもし、醤油でなかったとしても
嘘でもつかなきゃ、気の毒でいられないほど真剣な眼差しでした。
私は、キャップを開けた時、ふと漂った、その懐かしい香りに安堵し、笑みがこぼれ
マイケルも私の満足しきった表情を見て、ホッと溜息をつき喜んでくれました。
私が、どこまで捜しに行ったのか、聞いても答えてはくれませんでしたが
彼の白いスニーカーは、土塗れになっていて、身体もかなり疲労している様子でした。
随分遠くまで探しに行った様でした。 でも、マイケルは、少しも疲れた素振りも
見せず、そのままシャワー室へ入った。
私は、キッチンに移動して、すき焼きの調理にかかる。
ここは、携帯コンロがないので、レンジで炊いてからテーブルに運びます。
最後の料理が運ばれて完成。
マイケルが、バスタオルを腰に巻いて出てきた。
10代とは思えない鍛え上げられた身体。
じっと見ていたら、私が恥ずかしくなる位だわ。
身長も私より20cm位高いので圧倒される。
マイケルが、2Fの仲間も呼び、ちょっとしたパーティになった。
皆、気持ちいい位に、きれいに食べてくれたので、腕を揮った甲斐があったというもの。
食事が済んでからは、スコッチウイスキーを飲みながら、お互いの大学談義で盛り上がる。
アンドリューとレナートもポールもいい顔色になって恐らく、気を利かす為なのか
「 今夜の料理は最高! 」
って言いながら、2Fの部屋へ戻って行きました。
マイケルは、しばらく横になりたいと言って、ソファーに寝転び、私は後片付けをする。
全ての用事が終わり、ホテルへ帰る時刻になっていたので、お別れの挨拶をしようと
マイケルの所へ行ったのです。
マイケルは両手を差し伸べて、私を引き寄せ・・・