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マーサの昔話

デジカメでの景色や花、動物などの写真
海外体験談、今日の一品、糖分控えめ?なおやつ等‥‥‥

星のないホテル SR22

2010年02月14日 | Scottish Romance

 ボート遊びを終えて、ホテルへ戻ると、2階の私の部屋に、隣の石塚先生も呼んで
3人でそうめんを湯がいて食べる。 
 5人前のそうめんは、あっという間になくなってしまった。
 ぬるくて、だしの味もいまいちだったのに、3人とも文句も言わず、黙々と 食べていた。
 
 ケンブリッジでは1にラーメン、2に寿司って感じで、ラーメンはよく食べていたけれど
意外とそうめんを食べたいとは思わなかった。 やはり、真夏でも時々あるこの寒々しい
気候のせいだろう。

 蒸し暑い日本なら、あっさりした冷たいものを食べたいと思うのに、こちらでは殆ど
思わない。 ただ、そうめんつゆが飲みたかっただけかもしれない。
 3人ともさほど美味くもないつゆを 飲みきってしまっていたから。
 グルメな賢ちゃんなのに、こんなそうめんでも、とても喜んでくれて
 「 このお礼に帰国したら、名古屋で一番美味しいきしめんをご馳走するよ。
   車で名古屋市内も案内するから、雄一と直子も誘って一緒に名古屋へおいで。
   僕の家に泊まればいいから。 夜、遅くまで遊べるぞ。 」 なんて言っております。

 そうめんを食べ終えてから、賢ちゃんが進路について話しだした。
 というより、社会人である石塚先生に話を聞いてもらいたかったのかもしれない。
 賢ちゃんは、名大で修士号を取得していて、このまま大学に残って、博士号を取得して
教授になるのかと思っていたが、1級国家公務員になりたいと話していた。

 石塚先生は、それを聞くなり 「 1級国家公務員? よしなさいよ。 他力本願な
彼らが税金という安定収入に群がって寄生しているだけじゃない。  あんなどろどろした
所に就職すると人間不信になるだけよ。 考え直しなさい。 」

 「 先生、随分言って下さるじゃないですか? 以前に勤められた経験がおあり
   なんですか? 」

 「 あるから言ってるのよ。 もっとも、1年持たなかったけどね。 
   私は、教職という今の仕事が、天職だと思っているの。 
   私は、仕事に生き甲斐を見つけたのよ。 毎日、大変だけど、有意義に
   過ごしているわよ。」

 その時ちょうど、エディから電話がかかってきた。

 「 夕食の時間だけど、下りて来ないのか? 皆、集り始めているよ。 」

 「 もう、そんな時間? 解ったわ。 すぐ、行きます。 」

 「 夕食の時間ですって。 レストランに下りましょう。 」

 又、話の途中だったけれど、3人で階下へ下りる。 すでに皆は、着席していた。

 私はエディに訳があって、賢ちゃんと雄一がいるテーブルに着席する事を言った。
 エディは、気を使わなくていいからと言ってくれて、窓側の席に座った。

 食事中、賢ちゃんは私と雄一が仲直り出来るように、上手く取り持ってくれた。
 かなり、機嫌よくなった雄一が、ワインを追加注文する為に、ウェイターを呼んだが
ウェイターは一瞬こちらを見ただけで、一向にこちらへ来ず、今度、指を鳴らして呼ぶが
チラッと見るだけで、やはり無視。 3,4回、ウェイターを呼んだが、まるで来る気がない。

 怒り心頭の雄一は席を立って、ウェイターに文句を言いに行くのかと思ったら
ウェイターを睨みつけて、フロントの方へ向かって行った。 私と賢ちゃんも後を追いかけた。
 フロントで、ウェイターに無視された事を訴えていると、フロントマンも、上から目線で
謝る処か、あくまで高飛車な態度で、アジア人である私達を卑下している様子で、全く話に
ならない連中だった。

 3人がフロントで揉めていると、戻ってこない私達を心配して、エディが様子を見に来て
くれた。 よく来てくれたとばかり、私はエディに、いくら説明しようとしても取り合って
くれない彼らの態度の事、サービスの悪さ等を話した。
 エディもフロントマンに、私達に対しての態度を改めるように話してくれたが、彼らの
態度は同じだった。 文句があるなら、出て行けって感じだった。

 何故なら、アイルランド訛りの英語で話すエディにフロントマンは、又、蔑視している
様だった。 このホテルの従業員って、一体何様なの? って叫びたくなった。
 エディも話せば話すほど、険悪なムードになってきて、取り合えず、落ち着かせる為に
雄一とエディを無理やり引っ張って行き、レストランへ戻った。

 確か、コーチの運転手が、このホテルの本店はロンドンにあると言っていた。
 そう言えば、従業員は地元の人ではなく、どうもイングリッシュぽかった。
 私達皆、英語で会話しているのだから、差別するのがおかしいだろうと思うし
 こんな態度でよく接客業が勤まるものだと呆れたものでした。
 噂では一つ星ホテルと聞いていたが、ホテルのどこにもランク付けの掲示はなかった。

 まあ、田舎ですから無星のホテルの方が多いのですけど、一応、湖水地方ですから
 田舎と言っても、観光客は結構多い筈なのに、残念な事です。 こんな事で、私達の旅の
思い出に一生ケチがつくのですからね。 又、蔑視という事では、スティ先の近所でも
私が通る度に、子供達が耳障りの悪い声で 「 ジャップ!ジャップ! 」 
と呼んでいたけれど・・・
確かにあまり良い気分であろう筈がない。

 5日前、マイケルとパブへ行った時に、ロンドンの話をすると、「 あんな野蛮な所へ
どうして行くんだ。 」 と周りの皆に言われた事を思い出した。

 同じ白人同士でも差別されることもあるらしく、これには、いささか驚かされました。
 アイルランド人とイングランド人、スコットランド人と イングランド人の関係も良くない
らしい。 どちらもイングリッシュが入る訳だ。

 食事も不味かったが、従業員のマナーが最低、最悪だった。 
 という事で、私達は、勝手にこのホテルを一つ星の資格もないと見なし
無星ホテルに指定した。 しかし嫌でも、後一晩ここへ泊まらなければならないし
取り合えず、このメンバーと後3人で、近くのパブヘ飲み直しに出かけることに
なったのだが・・・ 

 

ウィンダミア湖でのボート遊び SR21

2010年02月07日 | Scottish Romance

 そして、ようやくバスはウィンダミアに入り、ホテルへと向かっていた。

 結局、車中、殆ど寝ていた私でしたが、エディとマイケルが、仲良くしてくれれば
それで良かったので、寝てしまって良かったのかもしれない。
 ちょうどウィンダミア湖が見えてきた時、バスの前列に座っていた小崎君が、私達の所へ
やって来て、私のこれからの予定を聞いてきた。

 「 ウィンダミアに着いたら、どうするの? 何か、予定ある? 」

 「 いいえ、今の所、フリーよ。 」 と言いながら、マイケルを見る。

 「 じゃあ、近辺を散策してから、ボートに乗らないか? 」

 「 ケム川以来ね、いいわよ。 イギリスの夏は、昼が長いからいいわね。 」

 マイケルは両手を軽く挙げて、 “ No problem!  ” って感じだ。

 「 マイケルはどうするの? 」

 「 僕が黙っていたから、先に誘われてしまったね。 近くに、親戚の家があるので
取りあえず、尋ねてくるよ。戻ってくる時は、夜、遅くなるかもしれない。
 もし、早く帰ることができれば、部屋に電話するからね。 」

 「 ええ、でも、久しぶりなんでしょう。 ゆっくりしてくればいいじゃない。
私は適当にやっているから。 教授は、大変ですよね。 生徒の見張り役だから。 」

 「 ・・・いや、そうでもない。 休暇も兼ねているから、のんびりさせてもらうよ。 」

 「 そうですか、教授、それが一番ですわ。 夜、ホテルのパブで偶然に逢うかも・・・ 」

 「 うむ、そうだな、今日は、疲れが溜まっているので、少し飲んで、早めに休むよ。 」
 と、2人で暗黙の約束の様な会話を・・・ マイケルや小崎君が知る由もない。

 話の最中で、バスはホテル前に到着した。

 男性は3階、女性は2階と各部屋に振り分けられた。
 私は、部屋に荷物を置くとすぐ、小崎君と約束をしていたので、早速ロビーに下りる。
 小崎君は、私を待たせることもなく、すぐに下りてきた。

 2人で、ウィンダミアの村を散策する。 小崎君といると、いつも食べ物の話題が
メインで、私がたまたまロンドンへ行った時、知り合いにソーメンをもらった話を
すると、いきなりソーメンを食べたいと言い出した。
 しかも偶然、この旅に持参しており、小崎君は、とても喜んでおりました。

 部屋に、備え付けのポットがあるので、ホテルへ帰ってから食べることにした。
 お箸は持っていないと言ったら、小崎君が、サバイバルだと言って、拾った
木の枝の先をナイフで削り、いとも簡単に、二組のお箸を作った。

 リスが走り回る森を歩きながら、楽しいひとときを過ごした。

 森を抜けると、いつしか大きな湖畔に出てきて、沢山の観光客が遊覧船に
乗船していた。 私達は遊覧船には乗らず、ボートハウスでボートを借りた。
 早速、乗り込み、オールを取ろうとしたら、小崎君がオールを先に取って
漕いでくれました。ケム川のパンティングと違って、進み方は容易かった様だ。
 それでも途中、大きな遊覧船が近くまで来た時は、ボートが巻き込まれない
ように、必死で漕いでくれた小崎君であったが、内心、転覆するかもしれない
という恐怖で、実際、心臓が止まりそうだった。
 見るからにこの湖は、深くて冷たそうだ。 転覆したら、溺れ死ぬだろう・・・

 一難過ぎ去った後で、2人はお互いの写真を撮り合いしながらボートを漕ぐ。

 「 小崎君は、歌手の太川洋介に似ているね。 」

 「 名大で時々言われたよ。 僕の呼び名、賢でいいよ。 」

 「 うん・・・賢ちゃんは、今、院生でしょう。 博士号とるまで残るの? 」

 「 いや、修士号まで。 来年は就職だからね。 」

 「 じゃ、ここに居る場合じゃないじゃない。 早く帰国しなきゃ。 」

 「 ハハハ、本当にそうなんだ。 何してるんだろうね俺。 」

 「 内定もらってんの? 」

 「 ・・・ 」 「 コネってるの? 」 「 ・・・ 」
 
 「 いいわね。 羨ましい。 やっぱりあるんだ。 」 

 「 その話はホテルに戻ってから、雄一も一緒に、取り合えず、岸に戻るよ。 」

 「 雄一の事なんだけど、2週間前、校内のパブで工学部の教授と一緒に飲んでいた時
雄一の欠点を言ってしまってから、どうも雄一の機嫌が悪いのよ。
どうも、本人の耳に入ったみたい。 賢ちゃん、何とかしてよ。 」

 「 お酒の席でついって事だなあ。 あれだけ雄一と仲良かったのに、このツアーでは
一言も話してない様だね。 」

 「 やっぱり皆、知っているんだ。 全て、私の口が災いを呼んでしまった訳ね。 」

 「 まあ、その内、機嫌が治るだろう。 今晩、夕食のテーブルを一緒にしようか? 」

 「 仲直りしたいから、できれば、お願い。 」

 「 あの英国人の2人とは、約束していないの? 」

 「 ああ、マイケルとエディね。 大丈夫よ。 いつでもお話できるから。 」

 「 ケンブリッジじゃないなあ。 確か、エディンバラから乗車してきたよね? 」

 「 そう、記者のエディとは同ホテルで知りあって、マイケルは、エディンバラ大でね・・・ 」

 「 結構、やるね。 すごいハンサムじゃないか。 騙されないようにしなよ。 」

 「 そうね、遊ばれないようにするわ。 」

 「 まあ、僕も雄一も一緒だからさ、見張ってるよ・・・ なんてね。 」

 「 有り難う、賢ちゃん。 直がいないから、淋しい? 」

 「 淋しい? そうさな、淋しいかな。 面白い子だったよね。 直といると童心に
   戻っちゃって・・・ 」

 「 ・・・ご免、想い出させて・・・ そろそろ戻ろう。 」

 湖面がキラキラ輝いている様子を、しばらく眺めていた賢ちゃんは、岸の方へ向かって
少しずつオールを漕ぎ始めた。



 
 



 




ビンセント心理学教授 SR20

2010年01月31日 | Scottish Romance

 「 随分、魘されているなあ。 早く起こしてやらなければ、可哀相だ。 」

 「 魘されている美女を起こすのは私かな。 」

 「 教授、僕が起こしますよ。 僕達は似合いのカップルだと思いませんか? 」
 
 「 君たちは同じ歳かね? 」

 「 同じ年です。 こんな陽気な人は初めてですよ。 僕は絶対、離さない。
   それにしても、苦しそうだ。 」

 エディとマイケルの話し声で、私はやっと眼が覚める。
 ところが、目覚めも悪く、2人が並んで、何やら嬉しそうにしている様子を見て
 
 「 随分、仲のよろしい事。 2人で、何をやっているんです。 」

 「 意識が戻って良かったよ。 」

 「 意識? あのねマイケル、私は気絶しているんじゃないのよ。 
   解るでしょう、その位・・・ 」

と声を荒げてしまった。

 「 よく言うよ。 君だって、昨晩、高熱だった僕の横でずっと添い寝してくれた
じゃないか。 心配して、何故悪いんだ。 」

 エディが尽かさず、
 「 君達、2人でベッドに?・・・ そんな関係だったのか。 」と

 「 そんな関係も何もない。 病人だから看病しただけよ。 」 と私はサバサバしていた。

 マイケルは、半分あきれ顔で、昨夜、愛おしそうに髪の毛を撫でてくれたのは
誰だと言わんばかり、私を驚きの眼で見つめていた。

 「 教授、本当に関係なんてないんですよ。 何から何まで世話になって
彼女には心から感謝しているんです。 こんな面倒見の良い人が側にいると
助かるんです。 」 淡々とエディの前で、話しております。

 「 ・・・私、家政婦じゃないけど。 」

 「 そんな事言ってないよ。 僕のワイフになってくれればいいかなって。 」

 「 ・・・気持ちは嬉しいけど、プロポーズは10年早いよ。 」

 エディは、落ち着いた様子で言った。 「 そんなに、彼女を好きなのか? 」

 「 ・・・こんな調子です。 僕を子ども扱いして、男性として見てくれないんです。

 教授、応援して下さい。 今回も、病み上がりなのに、こうして追いかけて来たんですよ。 」

 「 ・・・それは、私も同じだ。 しかし、プロポーズは早すぎだろう。 」

 「 えっ、今なんて? 」

 「 いや、何も。 」

 「 空耳か。 」

 「 マイケル、結婚を安易に考えては駄目だ。 愛の勘違いは、よくある話だからね。 」

 「 勘違い? それはひどい。 」

 「 まあ聞きなさい。 自分が夢中になれることを何か探せば、埋めることができる
   穴なのに “ 彼女の愛でなければ埋められない ” と思ってしまっているん
   じゃないか。 愛は執着とも違うんだよ。 」

 「 教授・・・ 」

 「 確かに20代~30代の結婚適齢期には、結婚に対するモチベーションを持つのが
当たり前であり、大多数の人は社会的な信用を得るための必然的な通過儀礼として
結婚することを選択してきた。 伝統的な権威や社会的な慣習 ( 結婚に対する
世間体 )、 学校を卒業すれば、正社員として就職し、結婚して子どもを持つことが
ある種の社会規範としている様に・・・ 」 とエディの結婚論は語られていく。

 マイケルは、エディの眼をじっと見ながら、真剣に話を聞いていた。

 「 君は未だ18歳の大学生だ。 そんなに急がなくても、これから幾らでも素晴らしい
出逢いがある。 先ずは、学位を取って、大学を卒業し、社会人になってから
責任ある立場となってからでも遅くないって事だ。 」

 「 おや、、、教授、結婚心理学の方も専攻されたのでしょうか? 何か、奥の深そうな
話ですねえ。 いやぁ、ますます、教授に興味が湧いて来て、講義聴くのが楽しみだな。
 但し、僕自身の結婚観とは、かなりギャップがあります。
 僕は、本能の赴くまま、一緒にいたいと思ったから、結婚したいと言っています。
 例え、子供ができて家族となっても、一緒に生きていきたいとは思いますが
 養ってやろうなんて思わないですよ。 」

 この一言は、私はおろかエディでさえ、かなりショッキングな言葉だった。
 日本では、好きな人にこんな事を言われると、結婚するのを躊躇ってしまう人が
多いと思うのですが。 私は、昔のタイプの女性なんだろうか?
 夫というものは、家族を養う義務があると思っているタイプだから。
 エディも私と同じ考えで、その部分では波長が合っている様に思えた。

 「 何と・・・悪いが、私には理解ができない。 まあ、湖水地方の旅は、後2、3日
ありそうなので、その間に又、話す機会もあるだろう。 」 とエディは呟く。

 穏和で生真面目な性格は国民性よね・・・ エディも少しずつ、変わっていくでしょうか。
 でも、エディの方が包容力ありそう、どんな時でも私を守ってくれそうな気がする。

 エディとマイケル、どちらも、私にとっては素晴らしい友人達だ。 
 私自身、エディが言う様に、一時、寂しさゆえに、友情と愛情を混同しかけた
気もする。 エディは私に“ 縁 ” というものを感じているらしいが、こんな素敵な人に
縁がある様だと言われると、一種の暗示に罹ってしまった気がするのである。

 やはり、暗示なのだろうか・・・
 
 三者三様の想いを載せてバスは、ウィンダミアを目指して突っ走る。

 

ホモセクシュアルな夢 SR19

2010年01月24日 | Scottish Romance
 本音とは、裏腹に・・・ エディに余計な事を押し付けている嫌な自分がいた。

 エディは、「 気がふれたのですか? 人前を弁えて下さい?・・・ 全く信じられないよ。 」

 「 ・・・もう時間がない。 部屋へ行くわ。 生真面目なあなたに相当、無理を言って
いるのは重々解っているわ。 お願い、私の為だと思って、上手くやって。 」

 「 ・・・解った。 今回だけ、君の為にアイリッシュである事を忘れる。
   下手な芝居を2人で頑張ってやろう。 ばれれば、それで終わりさ。 」
 
 「 頼りないわね。 でも、私、マイケルに傷つけたくないから。 」
  
 「 じゃ、僕が傷つけばいいのかい。 」

 「 御免なさい。 エディ、大人としての対応をお願いします。 彼は、未だ18歳だから。 」

 「 18歳? 立派な大人だ。 やはり、君は変だよ。 体裁ばかり、気にしている。 」

 「 エディ、もう時間がないの。 取り合えず、いい子でいて。 」

 「 いい子? 僕は子供じゃない。 今、大人としての対応って言ったばかりじゃないか。
支離滅裂もいいとこだ。 」

 先程は、打ち合わせもしていないのに、機転を利かせて教授になりすましてくれた事に
正直すごく驚いたのだが・・・ でもやはり、アイリッシュには融通が利かないのかも
難しいわ。 この先、どうしようかしらと思案に暮れるのだった。

 「 ・・・どうして上手くいかないのかしら。 こんなつもりじゃなかったのに。
  エディ、ご免ね。 迷惑掛けて、でも私、どうしていいのか解らない・・・ 」

 「 ・・・取り合えず、マイケルとも仲良くやっていきたいんだね。 」

 「 先程から、何度も言っているのだけど・・・ ええ、というよりややこしいのは苦手なの。
皆が楽しければそれでいい・・・ 」

 「 何となく君の八方美人的な性格も理解出来ない訳ではないが、最後はやはり泥沼だ。
でも、今はそれを考える余裕がないんだよな? 取り合えず、君は部屋へ。 」

 「 ええ、エディ、3人で楽しく旅しよう。 いや、他にケンブリッジのメンバーも
いるしね。  皆で、仲良くね。 」
 
 「 ・・・解った。」

と少し不満そうなエディが、大きな溜息をつきながら、ロビーのソファーに腰掛けた。

 私は、急ぎ足で、自分の部屋に戻り、手早く荷物をまとめて、服を着替え
2人の待っている階下へと下りて行った。

 バス発車迄、ホテルのラウンジで朝食を取る。 私とマイケルが向かい合わせで
座り、エディは2つ離れたテーブルに座っていた。
 マイケルは、二枚のお皿に惣菜をのせて、その内の一つを、私の為に置いてくれた。 

 「 マイケル、いつも優しいのね。 とても気が利くわ。 」

 「 さあ、しっかり食べよう。 」 と言って、2人で黙々と食べ始める。
 出発の時間を意識しているので、慌ただしかったが、仕方がなかった。
 エディも食べ終わり、ラウンジを出て、ロビーでタバコを吸い始めた。

 ツアーメイト達も食事が済み、次々とバスに乗り始める。
 私は、バスの一番後ろの真ん中に座った。  広くていいからだ。
 嬉しそうな顔のマイケルは、私の横へ座った。 
 クラスメイトもツアーメイトも席をうめていき、最後にエディが乗り込んで
来た時は、殆ど満席で、一番後ろしか空席がなかったようだ。
 エディと目が合い、私達の方へ来たので、てっきり私の横に座ると思っていたら
意外や意外、マイケルの横に座ったのだ。

 そして、定時に湖水地方へのツアーバスは発車した。
 ここからが、少々誤算といおうか、全く予想だにしない出来事が展開し始める。

 何とエディは、マイケルと同じエディンバラ大学を卒業していて、マイケルの
OBにあたるらしいのだ。
 私は、最初出逢った時に、エディからダブリン出身だと聞いていたので、てっきり
アイルランドの大学を卒業していたと思っていた。
 何でもハイ・スクール時代に、父親の仕事の関係で、エディンバラへ来たらしい。
 
 意気投合したマイケルとエディは、いきなりサッカーの話で盛り上がり
私が何度か、横から話しかけても相手もしてくれないほどだった。
 サッカーは、知っているけど、スコットランドのチームの話になると、ちんぷん
かんぷん。 結局、2人の会話に入れてもらえず、やきもきしていた私は不貞寝を
始める始末でした。

 その後、何とも奇妙な夢をみた私は、後から聞いたエディの話によると
額に汗をかいて、うわ言を言い、かなり魘されていたようだった。
 夢の内容は、マイケルとエディがホモセクシュアルな関係で、2人が楽しそうに戯れていた。 
 それが、かなり強烈で印象的だったのである。 
 例え、夢だとしても、決して見たくなかった光景だった。
 美形の2人が戯れている姿を、こちらで淋しく唇を噛みながら、眺めている自分がいた。

 この世なのか、来世なのか、知る由もないが、天使か妖精が私の前に舞い降りてきて
 
 「 これが、真実だ。 よく、ご覧。 」 と囁いている。

 ルネッサンス絵画に出てくる様な2人のたくましい裸体姿。
 2人が戯れているのを見た私は、今までにないショックを受け、魘され続けている。
 その時、誰かが遠くで、言い合いしている声が聞こえて、その方向を懸命に探していた。  
 




 

スコティッシュとアイリッシュ SR18

2010年01月17日 | Scottish Romance

 マイケルのフラットを出て、キーを玄関前のバラの木の下に置いていく。
若干の後ろめたさを感じながらも、カールトンホテルを目指していた。
しかしながら、不覚にも途中で迷ってしまい、結局、1時間近くかかってしまった。
 ホテルを見て安堵していると、いる筈のない人が私の方に向かって手を振って
待っていたのである。 その人とは、昨夜、高熱で倒れたマイケルだった。

 私は苦笑しながら、マイケルに尋ねてみた。

 「 あなた、もう大丈夫なの? 」

 「 驚かせてご免。 君が出て行く時のドアの音で覚醒し、慌てて旅の用意して
バイクで追いかけて来たんだ。 あれが僕のバイク、ホテルの横に置いてある。 」

 「 ふーん。 それで、どうするの? 私を送りに来ただけじゃなさそうね・・・ 」 と
マイケルの右肩にかけてある小さなザックを見て言った。

 「 勿論、旅するつもりで来たのさ。 ウィンダミアにいる母の姪にベビーが誕生
したので、一度、尋ねてみようと思っていたんだ。 いいだろう? 」

 「 親戚を尋ねるのね。 いいわよ。 ただ、ドライバーに話して、許可をもらわなければね。 」

 「 そんなのお易い御用さ。 今から、交渉に行って来るよ。 」 

と言いながら、マイケルは、ツアーのドライバーを探しに、ホテル内へ入って行った。

 私も続いて入ろうとした時、入れ違いに何とエディが微笑みながら、出てきた。
 何という事だ。 2人が同時に同じ場所に現れてしまったのだ。
 とても逢いたかった人にやっと逢えたのに、こちらの状況はとても複雑だ。
 エディは、 「 やあ、4日ぶりだね。 淋しくなかったかい。 」

 「 ええ・・・色々と忙しかったので、大丈夫よ。 」 

と素っ気無く、こんな短い挨拶もつまりながら話す。

 しかし、本当はこう言いたかった。

 「 エディ、淋しかったわ。 逢いに来てくれて、本当にありがとう。
   又、あなたとウエットに富んだ会話ができるのね。 とても楽しみだわ。 」

 だが現実は、一度に2人が現れた驚きで、混乱状態の私であった。
 ちょうどその時、マイケルが嬉しそうな顔をして、私達の方へ戻って来た。

 「 OKだったよ。 地元の学生が、バスに乗れない訳ないだろう。 席は確保できたよ。 」

 「 そう、それは良かったわね、マイケル・・・ 」

 「 あれ、この人は誰? 」

 「 ええ、私の大学の教授よ。 professor! 」

 とエディを見つめた。

 「 ・・・私は、・・・ 文学部の教授、エディ・ビンセントだ。 君は? 」と
   咄嗟に機転を利かせてくれたエディは、私の大学の教授に成りすましてくれたのだった。

 「 僕は、エディンバラ大学、法学部のマイケル・スコットです。 どうぞ、宜しく。 」

 「 宜しく! 」 とエディは、マイケルと握手をしていた。

 「 教授、僕も。 この旅に便乗していいですか? ウィンダミアに合いたい親戚が
いるので、是非、参加させて下さい。 宜しくお願いします。 」

 「 いいだろう。 コーチのドライバーに話しておこう。 」 と言いながら、今度は
エディが、ロビーの方へ交渉に行った。

 「 教授に再度確認してもらえば、絶対、文句はない筈だ。 」

 「 そうね、あなたラッキーよ。 ビンセント教授は面倒見がいいから、きっと
上手く手配してくれるわよ。 」

 暫らくして、エディが戻って来た。 「 大丈夫、君も参加できる様になったからね。 」

 「 ビンセント教授、有り難うございました。 僕は、バイクを駐車場に置いて来ます。 」

 「 8時30分出発だから、それまでに朝食をとって、ロビーで待っていなさい。 」

 「 君は? 」 と私に視線を向けた。

 「 私は部屋へ戻って、チェックアウトの準備をしてきます。 」

 「 じゃ、後で。 」 とバイクを置きに、マイケルはホテルの駐車場へ行ってしまった。

 エディは 
 「 君が気にしていた友人って、マイケルの事だったんだ。 いきなりだね。
   君の教授になってしまって、この先、どうなる事やら・・・ 」

 私はエディに言った。 
 「 そうよ、昨日、偶然にマーケットで会うことができたのよ。
   あなたと同じでマイケルとも縁があるのかな。 
   それで、あなたもこのツアーに参加するの? 」

 「 そうさ、その為に、仕事を1日繰り上げて戻って来たんだ。
   でも、君が迷惑というなら出直すけど・・・ 」

 「 そんな事言う訳ないじゃない。 でも、今の私の気持ちも察してね。
   嘘はいずればれるでしょうけど、この際、仕方ないわ。 エディ教授で通してね。 」

 「 生真面目な僕に芝居を?・・・ こうして君に又、逢えた事だし
   いいよ、教授だって人間だ。 恋もできるさ。 」 と言って
 周りも憚らず、いきなり私を抱きしめて、キスをしようとした。

 本音と違う、哀れなもう一人の私は、エディを突き放し、キッと睨みつけて言った。

 「 止して下さい、ビンセント教授。 気がふれたのですか? 人前を弁えて下さい。 」

 本音は、お互いが吸い寄せられる様に抱き合って、エディにしっかりと支えて
もらいながら、腰も砕ける様なキスをされているだろうに・・・

 もう一人の私は、別人の様になっていた。
 違い過ぎる私の態度に、エディは当惑していたようだった。


 

熱に魘された夜  SR17

2009年05月30日 | Scottish Romance
                                  写真はイメージです

 マイケルは、私を引き寄せると 

 「 ここに座って。 半日だったけど、僕のワイフに
   なってくれて、本当に有り難う。 とても感謝しているよ。 」
 
 「 いいのよマイケル、私、今日ここへ来て、本当に良かったと思っているの。 」

 「 どうして? 」

 「 うん、あなたの優しさを感じる事ができたから。 足の豆を潰してまで、探しに
   行ってくれた優しさ。一生忘れないわ。 」 

 と、お礼のキスを頬にする。

 「 ハハそんな、ただ僕はすき焼きを食べたかっただけさ。 話もあまりできずに
   疲れさせてすまないと思っている。 」 

 と言いながら、腕の首にキスをする。

 「 あら、私は全然平気よ。 こう見えても、日本の家では、よくお手伝いしていたし
   ずっと滞在できるなら、いつまでもしてあげたいけど・・・ 
   マイケル、実は私、明日、エディンバラを発つのよ。 ツアーの日程でね。
   マイケルとも今日で、お・別・れ。 」


 その時、マイケルは、慌てて、飛び起きたのです。

 「 急じゃないか、3日前は、そんな事言ってなかっただろう。 」

 「 そんな事言っても、早かれ遅かれ私はいずれ出て行くのよ。 旅人なんだから。 」

 「 そんなツアーどうでもいいじゃないか! もう少し、ここにいろよ。 」

 「 居てどうなるの?・・・ あなたと結ばれるの? 」

 「 ・・・そうさ。 」

 「 あなた未だ18歳よ。 先は長いわ。 未だ大学生だし、今、私がここに
   住み着いても長続きしないわよ。 一緒に暮らしてもお金がかかるだけだし
   それで結局、お互い、疲れて嫌になるのよ。 」
 
 どこかで聞いた様な話を ( エディの事だ ) しているのだ。

 「 マイケル、もっと大人になろう。 取り合えず私は明日、予定通り発つわ。
   あなたに、ケンブリッジと日本の住所を渡すから、ペンパルしよう。 解った? 」

 「 僕、ペンパルなんか嫌いだね。 子ども扱いするなら帰れ。」

 「 怒ったのね、ご免ね。 でも、今の二人には、これしかないのよ・・・
   帰るわ。 さようなら。 手紙頂戴ね。 」

 マイケルは、目を瞑ったまま、かなり興奮していたのか顔が真っ赤だった。


 「 何も言ってくれないのね。 」 

 でも、マイケルのハート、きっと忘れない・・・

 と言って、ドアを開けようとした時
 後ろで、ドンと大きな音がした。 振り返ると、マイケルが床に倒れていた。
 私は、ア然として、すぐ彼の元へ行き、 

 「 どうしたの? 」 

 と揺り動かしてみた。 ひどい熱である。
 
 興奮しながら話していたので、紅潮しているのかと思っていたが高熱を我慢していた様だ。 
 私一人では、ベッドまで運べそうにないので、2Fに戻ったアンドリュー達を呼び
ベッドへ運んでもらった。

 マイケルに、アスピリンを飲ませたので、解熱するまで休ませるしかない。
 アンドリューがホテルまで送ると言ってくれたが

 「 病人を置いては帰れない。 しばらく様子を見るので。 」

 と、アンドリュー達にそう言って、取り合えず部屋へ戻ってもらった。

 偉そうなこと言っても、やはり気になる存在ではあった。
 熱出すなんて、やっぱり未だ子供だね。

 意識は朦朧として、魘されている。
 しかも、小刻みに震えている。
 夏だから暖房はないし、夜は、結構温度が下がる。
 可哀相に、毛布掛けても寒いのね。
 温めるのには、やはり私が側にいなければ駄目ってことね。
 私は、服のままマイケルのベッドに入り、添い寝しました。

 私はまるで、子供を寝かしつける母親の様な感じで
 マイケルは遊び疲れて帰宅した子供の時の様に、ぐっすりと
 母の腕のぬくもりを確かめるかのようにしがみついて、よく眠り込んでいた。

 寝顔も、何と可愛いのでしょう。 
 額に手を当てても、頭をなぜても、薬のせいで動かない。 
 愛おしいまでに、よく眠っている。 
 いや、ひょっとしたら、眠っている振りをしているだけかもしれない。
 私も高熱を出した経験がある。

 とても、熟睡できる状態でなく、うつらうつらとした感じ。
 多分、彼も夢見心地で眠っているのだと思う。
 とても、私を抱くだけの気力はない筈だから。
 私にとっては有難い事だ。
 だって、もし、そんな雰囲気になられたら、再び、彼の前から逃げてしまうであろう。
 或いは、彼もそれを解っていて、手を出さないのかもしれないと妄想を
 繰返している内に、いつの間にか自分自身も眠っていました。

 目が覚めた時は未だ夜明け前で、マイケルはすっかり解熱していてよく眠っていました。
 私は、彼を起こさない様にそっと起きて、メモを残して、フラットを出ました。

 
  フラットのキーは、玄関前のバラの木の下に置いて行きます。
 又、逢いましょう。 

 

Chinese soy ?  SR16

2009年05月23日 | Scottish Romance

 さすがに心細くなってきた私は、居ても経ってもいられなくなってきた。
 外は、未だ未だ明るかったが、気温が少々下がってきた。
 しかも、ランニングシャツにショートパンツ姿。 それも私が、彼を追い出した様なもの。
 ああ、私ってどこまで質が悪いのかしら・・・ 自分でも腹立たしく思っていた。

 このフラットは、1Fに1室、シャワールーム・トイレ・居間・台所は共同スペースであり
2Fにも3室の部屋とバストイレ共同がある。 マイケルは1Fの8畳位の部屋でした。
 私は、居間で待っていると、2Fのホームメイトが帰って来た。 何か、ジロジロ
見られたので、マイケルの部屋で待つことにする。 時間の経つのが遅い。 
 あれから3時間以上経っている様だ。 その時、急にドアが開いた。

 「 マイケル! あっ失礼。 君、誰? 」

 「 御免なさい。 驚いたでしょう。 私、マイケルの友人で日本人なんです。
   彼の為に日本料理 “ すき焼き ” を作ろうと思って、彼に日本の調味料
   “ しょうゆ ” を買いに行ってもらっているんです。 でも、あまりに
   遅くて心配していた所です。 」

 「 仕方ないなあ。 レディを待たせるなんて。
   僕は、マイケルの友達で、アンドリュー・ヘイワードです。 よろしく! 」

 「 初めまして! アンドリュー。 マイケルとは、3日前、知り合ったばかりの
   ホカホカの友人なの。 」

 「 ハハ、そうか解ったよ。 あいつ、3日前の夜、やたらに機嫌が悪くて
   訳を聞いたら、ただ一言 “ ドラキュラは花嫁に逃げられたか ? ” 
   なんて訳の解らない事を言っていたけど、あれって君の事だったのか。
   あいつ、ああ見えても、結構無垢でいい奴なんだ。 優しくしてやって欲しい。
   3日前は、本当に手に負えない状態だったのだから。
   あんな態度、初めて見たので、随分心配したんだ。 」

 「 そうだったの。 」

 「 3日前、ケンカ別れでもしたのかい・・・ でも、なさそうだな。
   君がここにいるという事は・・・ 」

 「 変な想像は止めて下さい。 私は、マイケルの恋人じゃないのよ。
   私は旅人よ。 明日は、湖水地方へ行って、それから、ストラトフォード、etc・・・
   回ってケンブリッジへ戻るの。 」

 「 ケンブリッジに住んでるの? 」

 「 ええ。 」


 「 今日、ショップで買い物していたら、偶然にマイケルと逢ったので、立ち話も
   何だからって、ここへ招待されたの。 部屋があまりに美しい? ので
   ご覧の通りよ。 」

 「 あいつ、頭いいなあ。 日本人って、“ すごい綺麗好き ” って解っていて
   誘ったんだよ。 」

 「 そうだったの。 随分ね。 それじゃ私、家政婦の代わりに呼ばれた訳? 
   じゃあ、これで、お役目ご免だわね。 マイケルが帰って来たら、“ 用事が
   できたから帰った。 ” って言っといて。 」

 「 じゃあ、さよなら。 」

 「 ・・・ 」

 そのまま、私は、マイケルの帰りを待たずに帰ろうと、フラットのドアを開け様とした
ちょうどその時、彼は袋を提げて、帰って来たのです。 
 その袋を、私に手渡すと、早く見ろと言わんばかりに、私の顔をじっと見つめている。
 早速、袋から瓶を取りだし色を見る。
 醤油と同色ですが、ラベルを読むと “ チャイニーズ・ソーイ ” と印刷して
あるので、一瞬、何を買って来たのかと不安になりながらも、恐る々キャップを開けて
香りをかいでみた。 その時のマイケルの顔は、不安気でもし、醤油でなかったとしても
嘘でもつかなきゃ、気の毒でいられないほど真剣な眼差しでした。

 私は、キャップを開けた時、ふと漂った、その懐かしい香りに安堵し、笑みがこぼれ
マイケルも私の満足しきった表情を見て、ホッと溜息をつき喜んでくれました。
 私が、どこまで捜しに行ったのか、聞いても答えてはくれませんでしたが
彼の白いスニーカーは、土塗れになっていて、身体もかなり疲労している様子でした。
 随分遠くまで探しに行った様でした。 でも、マイケルは、少しも疲れた素振りも
見せず、そのままシャワー室へ入った。

 私は、キッチンに移動して、すき焼きの調理にかかる。 
 ここは、携帯コンロがないので、レンジで炊いてからテーブルに運びます。
 最後の料理が運ばれて完成。
 マイケルが、バスタオルを腰に巻いて出てきた。
 10代とは思えない鍛え上げられた身体。
 じっと見ていたら、私が恥ずかしくなる位だわ。
 身長も私より20cm位高いので圧倒される。 
 マイケルが、2Fの仲間も呼び、ちょっとしたパーティになった。

 皆、気持ちいい位に、きれいに食べてくれたので、腕を揮った甲斐があったというもの。
 食事が済んでからは、スコッチウイスキーを飲みながら、お互いの大学談義で盛り上がる。
 アンドリューとレナートもポールもいい顔色になって恐らく、気を利かす為なのか

 「 今夜の料理は最高! 」 

 って言いながら、2Fの部屋へ戻って行きました。

 マイケルは、しばらく横になりたいと言って、ソファーに寝転び、私は後片付けをする。
 全ての用事が終わり、ホテルへ帰る時刻になっていたので、お別れの挨拶をしようと
マイケルの所へ行ったのです。 

 マイケルは両手を差し伸べて、私を引き寄せ・・・


 
 

忘れ去った パブでの飲み会 SR15

2009年05月16日 | Scottish Romance

 グレンキンチーで、実の親より、かなり年配ではありましたが、久々に親孝行を
した気持ちになりました。 ウイスキーも買って、2時過ぎにエディンバラへと
戻って来ました。 夜には、宇野君のお別れ飲み会があるので、早めに戻って
支度をしようとホテルに戻る。 スコッチウイスキーの香りが染み付いた服を脱ぎ
シャワーを浴びる。 ピンク色のボーダーシャツに白の綿パンツ。 白いサンダルを履き
ホテルを出る。 街角で新聞売りのおじさんから、新聞を買う。待ち合わせの場所は
花時計の前だが、一応、飲み会の場所確認の為ローズストリートにあるパブへ向かう。

 この近くには、レストランやパブが結構あるようだ。 パブの場所が解ると、再び
プリンセスストリートに戻って、明日、湖水地方に行くので、バスの中で食べる物を
買おうと、マーケットのドアを開けた。 レジの所に思い掛けない人が立っていた。
 マイケルだった。たった3日前の事が、随分昔の様に感じられた。 私は、何故か
下を向いていた。 照れ臭さ故の態度でしょうか。 話したい筈なのに、まともに
顔も見れない。 足はその場所に張り付いたまま、自由に身動きすらできない。
 まるで蛇に睨まれた蛙みたい。 マイケルのコバルトブルーの瞳を見てしまったから・・・


 「 やあ、元気で良かった。 あの時は本当に心配したよ。 
   夜、遅かったし、何度もあの界隈を捜したよ。 
   ロイヤルマイルでドラキュラ伯爵に襲われなかったかい? 」

 「 ふふ、ドラキュラ伯爵に襲われたわよ。 」

 「 まさか。 」

 「 あなたが、ドラキュラ伯爵でしょう。 だから、怖くて逃げたのよ。 」

 「 それは、おかしいなあ。 ドラキュラに好かれたら、催眠術にかかって
   逃げられない筈なのに、何故逃げられたんだろう。 」

 「 もういいでしょう。 私の負けだわ。 あの時は、私自身が意味不明で・・・
   心から謝るわ。 ホテルに帰って、何度、戻ろうと悔やんだ事かしら。
   きっと、あなたも訳が解らず、困っているだろうなあ。
   なんて考えていると、なかなか眠れなかったわ。 本当に御免なさい。 」

 「 僕なら気にしなくていいよ。 君が無事でいたなら、それでいい。
   あれから何処かに行った? ここで、立ち話もなんだから、僕のフラットに来る?
   この買い物を冷蔵庫に入れないと駄目だから。 大学の横なんだ。 」

 「 えっ、女性が入っていいの?
   いや、もう可愛いガールフレンドが今や遅しと待っているのではないの? 」

 「 そうかもしれない。 もし、そうだったら、君に紹介するよ。 」

 「 そうね。じゃ行くわ。 」

 この時点で完全に、飲み会の約束を忘れている私でした。


 彼の部屋は2階建ての1階だった。 男子の部屋って、万国共通? 
 私を誘った気がしれない。 それとも、計算ずくで連れて来たのか、散らかっている。
 男の体臭でめまいを起こしそうになるやいなや、マイケルを追い出す。
 1時間程、ジョギングにでも行ってらっしゃい。 と言って追い出した。
 最初、ブツブツ言っていたが、私が言い出だしたら、後に引かない性格と思ったのか
 やれやれという感じで、ショートパンツにはき替え、出て行った。
 先ず窓を開け放し、洗濯物とゴミを分ける。 掃除を手早く済ませ、整理整頓をする。
 心地よい風が男の臭いをどこかへ運んでくれた。

 拭き掃除が終わって、ようやく、人間らしい住まいになった。 所要時間30分。
 冷蔵庫を開けると、何と、スポーツ人間らしく、栄養価の高いものが沢山あったので
これを活かさない手は無いと思い、早速、調理にかかる。 長ネギの代わりに
オニオンスライス。 牛肉は薄く削いで、スパゲティーもゆがく。 
 私は、すき焼きを作ろうとしていた。
 ところが、英国に居る事も忘れてしまっていて、日本で料理している気分であった。
 なので、台所なら、いつもある筈の醤油がないのだ。

 ワーっと叫びたくなった。 マイケルに、日本料理を食べてもらおうと思ったのに
ケチャップでは、すき焼きはできない。 悩んでいる時にマイケルが帰ってきた。
 彼は、自分の部屋を見て 「 素晴らしい! 」 と連発して、私を抱き上げたが
私が、暗い表情をしていたのを察して 「 どうしたの? 」 醤油 ( Soy sauce ) が
無い事を話すと、再び、フラットから出て行った。 
 醤油なんて、ロンドンにあっても、ここエディンバラじゃ、売っている店なんてないのでは・・・
 でも、当てがあるから、マイケルだって、出て行った訳で、私はこのまま
夕食の用意をしつつ、彼を待つことにする。

 メニューは、すき焼き・サーモンサラダ・ポテトグラタン・スコッチウイスキー入り
フルーツポンチ。 すき焼き以外は、全て出来上がった。

 しかし、マイケルは、一向に帰って来なかった。

 

 

 

 
 

ウイスキーが お好きでしょう SR14

2009年05月09日 | Scottish Romance

 カールトンホテルに戻ったのは、9時過ぎだった。 ルームサービスで、ティーと
サンドイッチを注文する。 バスの中で、先生から頂いたフライドポテトを食して
いた為、そんなに空腹ではなかった。15分で、サンドが運ばれてきて、軽い
夕食となった。 食べていると、宇野君から電話がかかってきた。 
 「 いよいよ明日、エディンバラ最後の夜なんで、皆でパブ行くんだけど、行かないか? 」

 「 いいわよ。淋しくなるわね。 待ち合わせ場所どこにするの? 」

 「 花時計の前。 」

 「 OK! じゃ、明日ね。 おやすみ。 」

 なんだ、宇野君か・・・
 
 宇野君は、一日早くエディンバラを発って、飛行機でフランスに行くらしい。
 まあ、いずれ皆、自分の思うがままに行動するのだから、離れていくのは仕方ない。

 浴槽にお湯を張り、一日の疲れを癒す。 リリ~ン又電話だ。 入浴中なのに・・・
 バスロ-ブをはおって、受話器を取る。 フロントからだった。 
 メッセージがきているらしい。 誰からと聞くと、どうもイタリア人の友人らしい。 

 「 例のあの件でね。 解ったわ。 」 

 ローブを脱いで、再びバスタブへ。 ああ~どうして、連絡無いの? 
 やっぱり、奴は、私を弄んでいただけか・・・
 そうよね、マイケルはともかく、エディは、やはり、お・と・な。
 私なんか、私なんか、所詮ガキよね。 背伸びしても駄目ってか・・・
 ああ、面倒くさい。 もうどうでもいい。 
 いよいよ明日は、楽しみにしていた蒸留所に行けるわ。
 遊びのゴルフでも余程疲れていたのか、すっかり眠ってしまいました。

 朝、早くに目を覚ました私は、軽くメイクをして、朝食バイキングに行く。
 いつもの席へ座る。 周りを見ても、知らない人ばかり。  手早くお皿に盛り
食べる。食事の後に、ティーを飲み、ホテルを出る。 バスでグレンキンチ迄
起伏の多い道路を進む。 無事バス酔いもせず、到着して早速、スコッチウイスキーの
製造工場を見学する。 先ず博物館で、様々な資料を読んでいたら、感じのいい日本人の
老夫婦が、フルムーン旅行で来られていて、意味が理解できないので、説明して欲しい
と言われ、私でよければという事で、一緒に館内を回り、説明させて頂く。

 ローランドで造られるモルトウイスキーは、ハイランドのものよりも軽くドライで
食前酒に最適であると言われています。 ビートの香が加えられていないモルト
使用しているので、口当たりとフレーバーに甘味があります。 今日、ローランドに
現存するシングルモルト蒸留所は、非常に少なくなっているそうです。 ローランド
地方で、操業を続ける唯一の蒸留所は、独自の熟成方法・・・
 最初はアメリカン・オークのリフィル樽で、その後、澱引きをして、ブランデー樽に
移し、更に10年熟成させたものです。 世界では、5124本のみリリースだとか。
 魅力的で、エレガントな際立ったウィスキー。 ブランデー樽で更に10年熟成させる
事によってグレンキンチの食欲をそそるふくよかさを損なうことなく、素晴らしい
深みと滑らかな円熟度を添えている。 ということです。

 「 ちなみに、私のお気に入りのデイスティラーズエディションのテイスティング
でございますが、お聞きになりますか? 」

 「 ぜひ、お願いします。 」

 「 では・・・ 」


 <色>
 ゴールドに輝くブラウンカラーをしております。

 <香り>
 爽やかで切れ味がよく、とてもあっさりしています。 素晴らしい香り。甘さと辛さの
 驚くほどのバランスと複雑さ。 とても、穏やかなバニリン酸や清々しい葡萄が
 もたらす、やや引き締まったドライなノート。 モルトの大麦と、恐らくスパニッシュ
 オークにより、より甘く、ナッツらしくなっております。

 <ボディ>
 安定しています。 ライトからミディアム。 

 <テイスト>
 本質的にドライ、とても早い段階で、ほとばしるビスケットの様な甘さに続く。
 膨大なモルトの性質が、薄い葡萄のフルーティーさに対して、より顕著に。

 <フィニッシュ>
 とても長いオークの贈り物。 ドライなまま、非常に僅かな胡椒の香りも
 スパイス的なものーここでもオークを含むが少し出てくる。 が、随分と
 遅れて来るカラメルによって和らげられるー特に手の平でグラスを温めると・・・

 「 とても、良かった。 有り難う! 」

 「 いいえ、どういたしまして。 これから試飲に参りましょう。 」

 「 まあ、楽しみだわ。 」

 と奥様。

 「 ワインじゃないので、多分、相等、きついかと思われます。 」

 それから、3人で、試飲のコーナーへ行く。
 香りでもはや、頬が赤くなられていたご夫人。

 「 さてさて、どのウイスキーを試されますか? 」
 

セントアンドリュースにて SR13

2009年05月02日 | Scottish Romance
 明日の約束をして、彼ら二人は今から、エディンバラ城に行くと言ってホテルを
出て行き、私と石塚先生は、食事に行くことになった。 プリンセスストリート迄
歩き、味で評判のお店に連れて行ってもらう。 
 先生に、オーダーを任せて、昨日の事について話し合う。

 「 昨日、彼らはスコッチ博物館や蝋人形館に行ってたらしいわ。 あなたはどうして
   いたの? 」

 と先生に聞かれ 

 「 実は私も、彼らに誘われていたのですが、スコットランドへ来る前の週に
   ロンドンのマダムタッソー館 ( 蝋人形館 ) に行った所だったし
   スコッチウイスキーは、エディンバラ滞在中にグレンキンチへ行く予定を
   組んでいるので、初日は地元の学生さん達と交流を深めていたんですよ。 」

 という返答をする。

 
 先生は、一日エディンバラ城見物だったらしい。 それぞれ、思い思いに行動を
している様子。 

 「 1人の方が、自由でいいですわ。 」 

 と先生が言っております。
 
 そして、人恋しくなったら、こうして気の合う仲間と行動するのだと・・・
 まあ、誰もが思う事でしょうけど、私も賛成です。 行きたくないのに、無理に
お付き合いするのも、今一ですものね・・・ 
 食事もおいしく頂き、先生もこれから、歴史博物館へ行くと言われ、私も探し物? 
 があるので、と、ひとまず、お別れとなった。

 1人になった私は、昨日と同じ場所へ行き、芝生の上に寝転んでいたが
昨日の青空はなく、雲が多くて、今にも一雨きそうな空模様でした。 
 傘を持参していなかったので、とりあえず、ホテルに戻る。 勘がさえていた。
 案の定、ホテルに着くや否や、雨が降り出した。 珍しく、長く降っていた。
 普通、すぐ止んで、からりと晴れる日が多いのに・・・
 何か、もうマイケルとも逢えない様な感じがして、急に外へ出る気力が無くなって
しまった。 半日無駄になったけれど、昨日は、思えば深い一日だったので
まあ、いいかなんて、部屋へさっさと引き上げる。 
 この日は、エディの熱いキスだけを想いだして、うっとりして、明日に備えて早く寝た。

 明朝、集まったメンバーと共に、セントアンドリュースへ行く為、コーチに乗り
2時間30分位で、ゴルフの聖地、セント・アンドリュースに着き、オールドコースの
横で下りる。 ここは、400年前からプレイされていたと言われるオールドコースは
“ あるがまま ” を理念としており、“ 神が造りたもうたコース ”と畏敬の念を
持って呼ばれており、ゴルファーなら、誰でもあこがれるコースです。

 昼に着いたので、先ず、近くのレストランでハギス料理を堪能してから
ゴルフ博物館を見て、クラブハウスやゴルフコースを見て回る。
 よほど腕に自信がないと、無理なホテル越えのティーショット、自分の背の高さほどある
ロードバンカー等を見学する。

 オールドコース 「 世界最古のコース 」 は、出来た時と全く地形が変わって
いないこと、日本の森林だらけのコースと違って、すごく見通しのいいコースですが
結構、起伏が激しく手入れをしていない、芝があったりする。
 ゴルフ場と道路一本隔てた向こうは海である。

 時間も余り無かったので、ゴルフ場の一角にあるミニコースでパターゴルフを
楽しむ事になった。 横目でオールドコースを見ながらのショット。 前半9ホールは
比較的 “ easy ” で調子は良かったが、後半18ホールまでは、ひどいものだった。
 コースの起伏がひどいので、普通にやっても、3パットで入れるのは、難しいのです。
 しかし、私は、驚異的なスコアー45打でホールアウトできた。

 先生も小崎君の二人も何とか、60打以内で、ホールアウト出来た。
 15ホールから前に進めない宇野君。皆のアドバイスで50分遅れてホールアウト。
 帰りのバスの時間の事もあって、ワンラウンドで、お遊び終了。
 値段は80ペンスだった。
 ゴルフの聖地で、ミニゴルフを楽しんだのだから、素晴らしい思い出となった。

 それから、ゴルフ場を出て、帰りのバスが来るまで、前の海岸で、童心に戻って
砂遊びをしたり、大きな岩の上に上がり、北海の水平線を暫らくの間、時間を
忘れて眺めていた。 こんな時に、エディかマイケルか側にいてくれたら、これ以上
幸せな気分はないだろうにと、海に石を投げまくっている二人の幼さに、思わず
目を背けてしまった。 そして先生は、突然、詩吟を・・・

 よしてここは、日本じゃありませんよと叫びたくなった。
 仲間と来て、楽しい筈だったが、孤独を感じずにはいられなかった。

                 A lonely traveler

 

逢わざれば 離れ行く心地して  SR12

2009年04月25日 | Scottish Romance

 それにしても、ジョージ・ペパードに似たあの男性がエディだったなんて  
私って、どこ迄ついているのかしらと思うし、女冥利につきる。 でも本当にどうして
気付かなかったのかしら。 エディ、私に何度も “ コンタクトをして下さい。” と
言っていたもの。 私が大ボケなので、随分滑稽だったでしょうね。

 ああ、でも素敵なあなたはグラスゴーへ行ってしまった。 その後は、北海油田の
取材で、アバディーン迄行くと言っていたわ。 グラスゴーはともかく、アバディーンは
かなり遠いわね。 せめてグラスゴーに付いて行けば良かった。 結構、観光する所も
あるようだし、でも、エディが誘ってくれないのに付いて行けば、きっと嫌われていたわ。
  
 それに4日間では、帰って来れないわ。 彼が、本心で私と将来的に付き合う気が
あるのなら、ケンブリッジまで来るわね。 ケンブリッジなら、再会は容易だわ。 
 調べれば、どこの大学に在籍しているかすぐ分かるし、街歩いていても逢う可能性大
だもの。 でも、私一人だけの妄想かもしれないし、エディはプレイボーイかもしれない。
 多分、もてるでしょう! 私に何度も “ コンタクトをしなさい。 ” って
言ってた位だから。 相当、自分に自信を持っていると思われるけれど・・・
 こちらじゃよく解らないけど、日本なら周りの女達がほってはおかない。 きっと・・・

 そんな事、今はどうでもいいじゃない。 何を考えても、エディは仕事の為に北へ・・・
 私の前から去って行ってしまった。 恋は一方通行ね、ままならないものよ。 
 それも恋、あれも恋だけど、二つとも、停止状態。 でも、どうやらエディに対しては
特別な感情を持ち始めている気がしました。 エディの男らしさの虜になってしまった様な
私が求めていた理想の男性像に、めぐり逢えたような気がした。

 マイケルとはお互いの意思は通じていたが、エディと比べて青々しいというか
私には眩し過ぎるってところかな。 マイケルと息が合えば合うほど、友人関係で
終わらなければと、知らず知らずのうちに、悟っていたのかもしれません。
 年に拘っているのではありませんが、エディは、私より8歳年上です。 人生においては
遥かに、数々の経験をしている為、私にとっては、頼りがいがあるし、頼もしい限りに
尊敬に値する人なのです。 そして、何よりも、エディと私の間に縁というものが
本当にあるのか、試してみたい気がする。 “ 赤い糸の伝説 ” ってあるのかしら。

 あ~あ、1人はつまらないわ。 1人事ぶつくさ言って、甘い恋に溜息。
 でも、現実は、たった1人きり。 う~ん。 エディンバラ滞在期間の後4日を
どうすればいいの? 早くプラン立てないと思いつつ、何故か足は、ウォルター・スコット氏の
塔へ向かっていた。 どうしてもマイケルが忘れられない自分がいた。忘れられないのではない。
 昨夜の自分からの突然の去り方が、余りに釈然としないので、もし、偶然にでも
逢う事ができるならば、昨日のお礼と突然去った事を謝りたかっただけなのです。

 マイケルとエディ、どちらにしても “ Good looking boy(=man) ! ”
 どうやら、この頃の私の恋は、目に宿っていたらしい。 “ 性格よりルックス重視 ”
まあいずれ、付き合っていくにつれ、お互いのメッキがはげおちて、別れることに
なるかもしれないが・・・
 でも、今、そんな事を考えても無意味な事なのである。

 ウォルター・スコット氏の塔へ着き、昨夜上れなかった塔を一気に一番上まで
上がってみる。 素晴らしい “ True blue ” の空の下、エディンバラの街を一望できた。
 海も近くにあるようだ。 今から、行ってみよう。 そう思って、一人、階段を下り
通りに出てタクシーに乗る。 「 近くの海まで行って下さい。 」 
 夏なのに、何か寒々しい海、人もあまりいない。 しばらく、海辺を歩いてから
小さな店に入り、ティーを飲む。 寂しい風景を見ていたら、急に、人恋しくなって
ホテルが別々になってしまった友達に合いに行く為、再びタクシーに乗り
カールトンホテルへ戻ることにする。 私が合いに行くまでもなく、3人の友人達が
待ち草臥れて、ロビーでうとうとしていた。

 1人は、養護学校の石塚先生で、ユーモアのある人、一緒にいて飽きない人
とても私達を楽しませて下さる先生。 後の二人は、ケンブリッジ留学生の宇野君と
小崎君。 何でも、あのセントアンドリュースでゴルフをやってみたいというので
一緒にどうかという誘いであった。 今回、乗馬道具は持って来たけれど、クラブは持参
していない。 それは皆も同じという事で、明朝、エディンバラから、コーチに乗って
行く事になった。 どうなることやら・・・
 

魅惑の瞳のアイリッシュ SR11

2009年04月18日 | Scottish Romance
 
 もう、とっくに朝陽は上っていましたが、昨夜、かなりお酒を飲んだせいもあって
朝の陽射しに全然、気付かないまま、眠り込んでいた。 両足を挙げて軽くストレッチ
して起き、長い髪を梳かして、洗顔、薄化粧をした。 それから海の妖精をイメージ
した様な、ブルーのシフォンのワンピースにこの身を包み、まるで、マイケルとデートの
約束でもしているかのように、心成しか浮かれている。
 白い舟底の靴を履き、同色のショルダーバッグを肩に掛け、部屋を出る。

 1階のレストランで、昨日と同じく、バイキング形式の朝食をとることにする。
 もはや、レストランには、何人かの人が来られていましたが、室内の様子をざっと見た
その時、ハッとしました。 というより、あ~あという気持ちになったのです。
 何故なら、昨日の朝、私の斜め向かいに座っていた男性が、又、同じ席に座っていた
のである。 私も同じ席だったのですが、その人を変に意識してしまうのです。
 理由は、簡単明瞭、私が大ファンであるジョージ・ペパードに瓜二つの顔の持ち主で
あるから、嬉しさを通り越して気取ってしまう、妙な態度をとる私。

 それは多分、羞恥心をカバーする為? それともプレイボーイから身を守るための
自衛行為かもしれない ( 単なる妄想、相手はそんな気はないのかも? ) のですが
この方と逢わないように、昨日より1時間も早く来ているのに、とても、ショックでした。
 何が、ショックかと申しますと、昨日もこの男性の目が気になって、小食になったと
いう訳でして、昨日の昼食が、何故早くなったかという経緯がそこにあり、しかも
バイキングです。 ケンブリッジでの食生活があまりにお粗末なものだったので、少々
食い意地が張っていたのかもしれませんね。 今日こそは、思い切り食べれると思って
きたのに・・・ 又、この男性、よく、私の顔をチラチラ見るので、本心は嬉しいのだ
けれど、時と場合によりけりで、この場合は最悪でした。

 案の定、すまし顔の私は、お皿にロースハム1枚と、スクランブルエッグを少し載せた
だけで、席に着く。 おちょぼ口で、それらを食べていますと、何とその男性は、私の方を
見て笑っているではありませんか。 金髪の髪が揺れ、ナプキンで口を押さえたと同時に
すっと立ち、何と私のテーブルの前迄やって来て座ったのです。 
 私は、この瞬間、今朝の食事は、紅茶のみになってしまったとガッカリし、うつむき
加減になり、内心はやる気持ちを抑えて相変わらず、つんと澄ましておりました。

 そして、ナプキンをたたみ、立とうとした時、そのジョージ・ペパードに似た男性が
話しかけてきたのです。 「 やあ、お早う。 やはり、君とは縁がありそうだ。時間も
約束していないのに、ほら、こうして逢える。 」 ・・・この声の響き、未だそんなにも
聞き慣れてはいないが、聞き覚えが・・・ 「 あなたは、エディだったの? 」

 髭がない。 でもまさしくエディその人だった。 髭のないその顔は、若き日の
ジョージ・ペパードそっくりでした。 驚いた私が、髭の理由を聞くと、威厳をつける為の
付け髭で、私がエディとあった3回全て、付け髭をしていたときであり、昨日と今日の朝は
どうして髭をつけずに来たのかという質問には、いとも簡単に言った。
 「 食事の時は邪魔だからさ。 」 そう言うと、「 もっと食べなければ、昼まで
もたないよ。 」 と言って、わざわざ、私の為に食べきれない位、盛り直して持って来て
くれる。 エディは、自分の分をペロリと平らげた。 身体が大きいので、食べるのも早い。

 私はホッとした反面、いや、新たに何かしら、緊張感が出てきて、食欲がなくなって
いました。 あの素敵な男性がエディだったなんて、やはり、エディが言うように
私達は、見えない糸で結ばれているのであろうか、ふと、あまりの偶然の出逢いに、私自身
戸惑いを覚え始める次第でした。 そして、食事が済み、エディはグラスゴーへ行く為の
バッグを取りに部屋へ戻りました。
 
 私は、ホテルの前の道で、エディが出てくるのを待つことにする。
 エディが、私に何度も、コンタクトレンズを入れた方がいいと言ったのが、やっと解り
 おかしくて、想いだし笑いを繰り返している。
 やがて、バッグを持ったエディが、ホテルから出てきた。
 そして、バッグを足元に置き、私の両肩に手をかけ、じっと、私の目を見つめてから
 優しく囁いた。 

 「 桜の妖精よ、私は、これからグラスゴーに行く。と言ってあえて君と、約束はしない。
  理由は、言わなくても解ってくれる筈だ。 」
 
 「 ええ、私達は約束しなくても、どこかで逢える運命なのでしょう。 」

 「 そう、だから君は、この運命を冷静に受け止めなければ、一生後悔するよ。 」

  と言い切り、素敵な眼差しで、私を魅了した後、頬にくちづけをして
  お互い、どちらかともなく熱いキスを交わしておりました。
  そして、エディは、私の前から去り、後に残った私の頬はほてったまま、彼の魅力で
  そこにいる私を、しばらくの間、釘付けにしておりました。



 


ヘザー の 花  SR10

2009年04月11日 | Scottish Romance

 「 どうしたんだい。 何かあったの? 急にそんな事言いだすなんて。 
   君らしくないじゃない。 」

 「 “ 君らしくない? ” 私らしいっていうのは、何なの? 」 

 「 君はとても慎重な人だ。 いい加減な女じゃないって事さ。 」

 「 ・・・私を随分と買い被っているのね。 」

 「 そうじゃない。 君を大事に思っているからさ。 解らない?・・・ 」 

 「 ・・・御免ね。 いろんな事考えていたら、急に淋しくなって、無性に
   逢いたくなって・・・ ちょうどタイミングよく、あなたが電話を
   かけてきてくれたから、つい甘えてみたくなったの。 
   多分、一種のホームシックね。 お酒も少し飲んでいるし・・・
   エディがあまりに大人だから、パパのように思えて・・・ 」

 「 僕が君のパパ? よしてくれ。 今日、初対面だけど、君が将来のパートナーに
   と考えてるよ、早すぎてもいい。 これはインスピレーションだよ。 
   でも、君の心の中には、恐らく、ボーイフレンドの事で頭の中が一杯だろう。
   その中に割って入ろうとまでは考えないね。 きっと過去の苦い経験から、そう思う
   ようになったのかもしれないな。 淋しいのは、お互い様さ。 本音と言えば
   僕だって今すぐにでも、君の部屋のドアをぶち壊してでも逢いに行きたいよ。
   据え膳食わぬは男の恥か、いや、君に後から、後悔されては情けないしね・・・
   本当は自信あるけどな。 」

 「 えっ、どういう意味? 」

 「 君も相当なかまととだね。 」

 「 もう、いいわ。 まるで、日本人と話してるみたい。
   エディのイメージ、超ダウンってとこよ。 」

 「 大分元気がでてきたな。 もう少し話しするかい。 もっと、元気になるぞ。 」

 「 ・・・有り難う。( エディって、やっぱりパパだ。 ) 声を聞いて、ホッとしたわ。
  これで、安心して眠れそうよ。 あなたとはいいお友達になれそうだわ。 」

 「 友達かい? 今はそれでいい。 とりあえず、明日はコンタクト・レンズを入れた
   君と逢いたいものだね。 」

 「 ( レンズって・・2回目よ ) もう、解ったわ。 切るわよ。 」

 「 O.K.明日、僕はグラスゴーへ行くので、もう、寝るよ。  
   僕のキスを “ ヘザーの香り ” と共に、君に捧げよう。 」

 「 ・・・何度も御免なさい。 “ ヘザー ” って誰? 」

 「 ・・・誰じゃなくて、スコットランド地方で、夏に咲くピンク色の花の名前さ。
   別名、 “ ヒース ” ともいうよ。 」

 「 ああ、いつか映画の “ 嵐が丘 ” で見たことがあったわ。
   じゃ、エディ、香りじゃなくて本当の “ ヒース ” をプレゼントしてよ。 」

 「 グラスゴーに咲いていれば、摘んで帰るよ。 それまで、待っていてくれるかい。」

 「 どうでしょう。 私は、4日後に発つつもりよ。 4日以内に帰れるの? 」

 「 ちょっときびしいなあ。 でも、ケンブリッジには未だいるんだろう? 」

 「 留学に来たばかりだから、最低1年以上は居るわ。 」

 「 じゃあ大丈夫。 逢いに行くよ。 今度こそ本当にお休み。 」

 「 おやすみなさい。 エディ・・・ 」

 優しいエディとの会話が終わりました。

 バスタブに入れたお湯は、少し冷めていましたが、そのまま、頭まで潜り、20秒位
沈んでいました。 全く、今日一日に起こった事とは思えない位、いろんな出来事が
ありすぎました。 バスから出ると、ぬるま湯だったせいか、肌寒くて慌てて身体をふく。
 そして、襟についている白いレースが愛らしい、こだわりの綿100%のお気に入りの
ナイトウエアーを着る。

 熱いティーを入れ、ダイアリーを開き、今日あった事をひとつ、ひとつ思い出しては
溜息ついて又、繰り返し思い出しては、書き留めていく。 でも、全て中途半端だ。
 先が全くつかめないというか、マイケルとは約束も何もせず、そのまま逃げた形だし
エディだって明日からグラスゴーに行ってしまう。 この私は、エディンバラには
4日間しか滞在しない。 次は、湖水地方に行く予定。 もう、皆、バラバラね。
 
 開けていた背の高い窓から、夜風が入り、カーテンが大きく膨らんでいた。
 窓を閉めようと、窓辺へ行き、星が瞬く空に、しばし見とれる。
 そして、谷底に当たる国鉄のレール線を眺める。
 明日の予定どころか何も考えず、ただ呆然としているだけの私でした。
 ベッドに入り、癒し系の心地よい音楽が、耳に流れてきて、いつしか眠りの精霊が
 私を取り囲んで、身動きできなくしておりました。 静寂なその夜は過ぎていく。

エディンバラの夜は更けて SR9

2009年04月04日 | Scottish Romance
 季節外れの暖炉の炎に照らされながら、大人だけに許されたひとときをエディと
ラグジュアリーな空間を存分に楽しむ筈だったのに、全てその雰囲気をぶち壊したのは
私のせいでした。 彼の話に興味も示さず、彼の事にも無関心で、彼に対して、失礼が
過ぎたようです。 誘われた時点で、お断りすれば良かったと今更ながら、でも、先程は
本当に誰かと飲みたい気分だったのです。 エディとダンスをして、酔いが回った
のか、無性にマイケルのことが想いだされて、もう、どうしようもない気持ちに
駆られたのも事実。 しかし、これ以上、お互い気まずい思いで、別れたくないのも
正直な気持ち。 エディは、女性に対して人一倍、デリケートになっているし
どうすればいいのか思案に暮れるのでした。

 今は未だ進行形、考えている時間も余り無い。 モルトウイスキーを、かなりの
ペースで飲み続けているエディに対して、作り笑顔で気を引こうと、エディの顔を下から
覗き込んだり、似合っていない口髭もなるべく好きになろうと、視点の合わない目で
じっと見つめたりして、彼の私に対する不快さをとろうと、試してみるが、エディに
とっては、逆効果であった様で、ウイスキーをグラスに注ぎながら言った。

 「 お互いの心が通じ合わないと言うことは、寂しいものだね。 」 

 その時私は、内心、彼をお酒のあてにしてしまった様な気がしてならなかった。

 エディに申し訳なくて、豪そうな事を言ってもマイケルを忘れる事ができないでいる。
 そのせいで、全く関係のないエディまで、巻き込んでしまい、私って、処置なしの
バカだと嘆く。 窓の外は、月の光でシルエットとなったお城が、亡霊の如く暗闇の中に
ぼぉっと浮かんでいた。 
 エディは、残りのお酒を、一気に飲み干してそっと囁いた。

 「 もう、今夜は遅い。 僕も疲れたけど、君は、もっと疲れただろう。
   それ以上、何も考えずに眠った方がいいよ。 いいね。 」

と言いながら、私の額に口づけをして、席を立った。
 エディの白い肌がピンク色に染まり、ふと男の色気を感じました。 
 既に他の客は部屋に戻っていて、私達二人だけだった、ラウンジを出て
エレベーターに乗り、3階の廊下で別れ、お互いの部屋へ戻る。

 結局、お酒の力を借りてマイケルを、忘れようとしたのが、仇であったのか
エディを不愉快にしただけでなく、私自身も、物足りないままで、終わってしまい
遣る瀬無さだけ、残っていました。 ヨロヨロと部屋に戻り、鍵を挿し回すが、又開かない。 
 先程は、すぐ、開いたのに、随分、このドアの気ままのことよ。
 そんなに酔っていた訳でもなかったが、なかなか、しぶとい頑固なドア。
 疲れ果てて、ドア前に座り込んでしまった。 頬が紅潮していた。
 同時に、空しさ感が、どっと押し寄せてきた。 
 マイケルの事、エディへの態度、そして、肝心な時に、本音と建て前がある私に
腹が立ってきた。 好きならば、もっと素直になれば良かったと・・・

 マイケルに対して、2歳年上だという現実、そんなの関係ないと思っていても
嘘をついている後ろめたさ、甘えたいけれど、気持ちをセーブしてしまう、軽薄な
女に見られたくない自制心。 全て、マイケルに嫌われるのが嫌で取った行動なのです。
 でも、私が年上で、大人であれば尚更、うまくリードを取るべきであったかも
しれない。 いや、マイケルは、同い年だと思い込んでいるので、私は、偉そうな
事は言えなかった。 ただ、ぶりっ子していた私が悪かったんだとか、走馬灯の様に
思いはめぐり、悔やんでいる私がいました。

 再度、立ち上がり、Keyを入れると、すぐ開いた。 
 少しでも、時が経てば解決するのだと思い、自らを慰めていた。
 時計は11時を過ぎていた。 バスタブへお湯を入れ始める。
 音楽を聴きながら、メイクを落としていると、電話がかかってきた。
 エディだった。 

 「 気分はいかが? 少しは、落ち着いたかい? 」

 「 ・・・ええ、心配かけて、本当に御免なさいね。 」
 
 「 それを聞いて、安心したよ。 今、電話して良かったというもの。 
   じゃ、おやすみ。 」

 「 ・・・おやすみなさい。 」

 「 ・・・・・・ 」

 「・・・」
 
 「 どうして切らないの? 」

 「 ええ、どうしてって、あなたが切ってから切ろうと思っていたの。
  これは、私の癖なの。 でも、あなたこそ。 」

 「 いや僕も癖なのさ。 ご免よ。 じゃ、今度こそ切るよ、おやすみ。 
  僕の大切な人よ。 」

 「 あっ、ちょっと待って、切らないで、エディ、エディ、聞こえないの?
  もう切ってしまったの? エディ、エディ・・・ 」

 「 どうしたの? 聞こえているよ。 」

 「 エディ、お願いがあるの。 もう一度逢いたいの、駄目かしら? 」
  
 二人の会話は続く。
 

赤い糸の伝説 ?  SR8

2009年03月28日 | Scottish Romance
  
 エディも私が全く、違う事を考えているということは、既に分かっていたようでした。
 ある面、エディではなくて、マイケルと踊っていたのかもしれません。
 措きかえられたエディにとっては、堪ったものではありませんが
 いや、それは、私の考え過ぎかもしれません。

 ダンスタイムも終わり、席に戻り私は、質問攻めにあった。 

 「 君、恋しているね。 地元の人かい? 同じ旅行者? 
   それとも、日本のボーイフレンドを思い出しているの? 」

 「 いいえ、そんな方、いらっしゃればいいのですけれど。 残念ながら、いませんの・・・
   ただ先程、友人と食事に出かけた時に、少し、もめてしまって、怒っているだろうか?
   とか色々、思い廻らせているだけですわ。 」

 「 そう、それで、その友人というのは男性だね? 」

 「 ええ、確かに、ご推測の通りよ。 」 

 「 そんなに心配されているなんて、何て、幸せな奴なんだ。 うらやましいよ。 」 
 
 「 そんな、ただの友人よ本当に。 今日のお昼過ぎに知り合ったばかりの青年で・・・ 」

 「 君は、その青年に恋している様に思える。 先程、ダンスをした時、随分楽しそうに
   踊っていただろう。 最初、気づかずにいたが、君の目を見た時、僕の姿が映って
   いなかったし、君が全く他の事を考えていたのも分かった。 
   そんなに、君を釘付けにしているなんて、何て幸せな奴なんだ。 」

  と青い瞳を輝かせながら、口髭を撫ぜている。

 「 エディ、彼の事はもういいのよ。 本当に、半日だけのお付き合いで、終わった
   人なんですから。 もう、二度と逢えないだろうし、・・・ もう、いいの。 」 

  と少し投げやり気味に話す。 エディは、つかさず言ってきた。 

 「 じゃあ、今は、僕が君に名乗りを挙げてもいいんだね。 
   実はね、君に対して、奇妙な関心が湧いてきたんだ。
   君とは、何か見えないものに操られている様な、そんな感じがしてならない。
   君に対して、すごく興味が湧いている。 いきなり、こんな事言うのは、早い? 」
 
 「 どういう意味? ( 赤い糸の伝説って言いたいのかしら。 ) 」

 「 君が、ちょっぴり気になるのさ。 今日、逢ったばかりだけど、不思議な位
   よく会うし、お互いが引き寄せられている様な気さえする。 
   そして、出逢う度に、僕の心の中で、君のウェイトが大きく占める様になったのさ。
   おかしいかい? 」

 「 エディ、それは考えすぎよ。 同じ階の部屋だったら、使うエレベータも同じ日に
   2、3回位、エディ以外の人だって、会っている人はいるわ。
   そんな理由じゃ、付いていかないわ。 
   未だハッキリと好きなタイプだという方が、裏がなくてストレートでいいわ。 」

 暫らく話題がとぎれてしまったのは、私のせいのようでした。 いとも簡単にエディの
気持ちを、潰しにかかって、憎たらしささえ、その時の私は、持っていた様でした。
 私は、夜景を見て、その数少ない灯りの中に、マイケルを想い浮かべておりました。
 そして、溜息ばかりついていました。 数少ない灯りの中に、車が通って行くのを
見つめながら、ふと淋しくなりつつある私を、自分自身で、感じとっていました。

 エディは、又タバコを吸い始め、時折、私の方を、ちらちらと見ている。
 エディの顔、ボーっとしか見えませんが、私が思うのには、あの髭がなければと
言えるほど、似合ってはいないのです。 クラーク・ゲーブル程、威厳のある人なら
未だいいのですが、エディは未だ若い故、何か中途半端な気がします。
 私は、極力エディとは、目をあわさない様にしている。 
 でも、ついに二人の目が合ってしまった時、エディは、重い口を開いた。 

 「 僕を軽蔑しているのかい。 何て、単純でバカな男なんだと。 君は違う男性を
   慕っているのに、僕が中に割り込もうとしているので、何てうるさくて嫌な
   奴なんだと思っているだろう。 確かに、僕はパートナーを探している。 
   でも今は、君と飲んでダンスして、話をしたいだけさ。
   だから君もリラックスして、楽しいひとときを送ろうよ。 
   そして、欲を言えば、コンタクトレンズを入れて、僕もよく見て欲しい。
   少しは、僕の良さも分かってもらえる筈なんだけど。 」

 とゆっくり話してくれた。
 
 コンタクトレンズだって、失礼しちゃうわ。 何て、一言が多い人かしら・・・
 でもよく分かったわね。 私、又、目を細めていたのかしら・・・
 と考えながら、先程、シャワーを浴びた時、外したのを思いだした。

 エディの観察力には、少々、驚かされたが、記者という職柄なのかもしれない。
 私はレンズを入れて出直しましょうかというと、 

 「 いいよ、いいよ、ただ、今、君の目の前にいるのは、僕なんだからね。
   もう少し、興味を持ってくれればと思っただけなんだ。 」

 その言葉を聞いて、今更ながら、申し訳なく思えてきたのでした。