未来が変わる音が聞こえた

2009年06月10日 22時23分12秒 | 岩溪寛司
上京して約4年間メンバーと共同生活を営んだ大きな古い家。
僕らはここを拠点に曲を書き、様々な活動の構想を練り、ライブに出向き、様々な人々が集った大きな家。

僕らはたくさんの人々に出会い、ふれ合い、関係を深めるのにこの家を使ってきた。
またメンバー同士の絆は言うまでも無く深まり、メンバー同士刺激し合い、時に叱咤激励しながら成長をしてきた。
そんな古くて大きな家。

僕らはここを去る事にした。

とても前向きに。

少し前にドラムの林田聡が脱退して家を去ったときは寂しかった。
喪失感。

でも今回はごく控えめに言って前方は明るく、それはテーマパークの入り口の様に僕らを楽観的に待ち構えている。

今日、僕は一足先に新しい家の契約を済ませた。
たくさんサインしてたくさん判子を押した。
すこし滑稽に思えるくらい。もう少し枚数が多いとうんざりしてしまうだろう少し手前まで。
そして拍子抜けするくらいあっさりと契約を済ませる事ができた。
最後に見せた不動産屋の事務的手際の良さはこの瞬間の為にあったであろう今までの好意的な伏線を十分に頷かせるものだった。

契約という行為はあるいは未来という舵を新しい方向に向けられる儀式のように感じられた。
そして未来は確実に新しい方向に向きを変えた。

昼一番に契約を済ませる。
そして渋谷で買い物をする。
ごく控えめに言ってそれは未来への投資。

渋谷は平日にも関わらずうんざりする程の人の波で形作られていていつもなら吐き気を覚える人ごみも、また多少天気が悪くても今日ばかりは気分が良かった。
僕は何を買う必要があるのかをうっかり忘れてしまう程、ある面において平日の昼間の渋谷を楽しんでいたのかもしれない。

そして僕は宿命的に甘いものを食べて、苦いお茶を飲んで。
これもある意味未来への投資なんだ。

僕らが日々直面する些細な日常の雑事。
この中に真の生活のリズムが刻まれる。おろそかにできない。
それらはとてもささやかな音でしか刻まれないけど確実に聞こえてくる。
通奏低音のように。無視できない。

今日はメンバー総出で家の片付けをする予定が僕だけ帰るのが遅くなってしまった。
家に着くと元ドラムの林田聡を交えて島鉄也が鍋の準備をしていた。

久しぶりに4人が集まった。とても感慨深く親しげで懐かしい空気が流れていた。
僕は新居の契約が無事終わった事も手伝い上機嫌。
林田聡も相変わらずで少し肉付きが良くなって健康そうだった。今や2児の父親である。

僕らは映画を観ながら少し他愛もない話をしつつ穏やかな時間を過ごした。

彼がタクシーで帰って束の間、今は部屋には僕が一人。
束の間の静かな時間。
それ以前が騒がしかった訳ではなく。初夏の静かな湿った空気の漂う静かな時間。
未来が変わる音が聞こえた。

こんな時間をささやかな朗報と酒とスナック菓子が色を添える。

穏やかな日はこれもごく控えめにいって未来への投資の時間。