森の詞

元ゲームシナリオライター篠森京夜の小説、企画書、制作日記、コラム等

中村文昭氏の講演会について

2009年10月08日 | Weblog
 昨日、中村文昭氏の講演会に行ってきました。
 詳しい内容については他のHPに譲りますが、色々と楽しいお話を聞かせていただきました。
 聞いてみて損はないと思います。仕事に、人生に行き詰っている方は、道を拓く手がかりを得ることができるかもしれません。

 健康で無理がきく人、限定ですが。


 誤解を恐れずに要約するならば、彼の言わんとするところはこうです。
 自分を捨てよ。上司・先輩・お客様の言うことに決して逆らうな。
 できない言い訳をするな。できるかできないかを考える前に「はい」と答えろ。
 相手の予想を上回る成果を上げ続けよ。そうすれば相手に気に入られ、記憶に残り、それが縁となり、新たな仕事や機会を与えてくれる。
 限界を決めつけるな。開き直れば意外と余力はあるものだ。
 何のために仕事をするのかを考えろ。目的がないなら目の前の人を喜ばせろ。目の前の人を喜ばせることもできない人間が、家族や社会に貢献できるはずがない。

 この方は現在、ニートや引きこもりと一緒に農業をする事業も展開しておられます。
 ポジティブの塊のような方ですね。実際に成功しておられるのだから説得力があります。
 講演会には数千人の方が参加していましたが、仮に参加者全員が彼の言葉を忠実に実行したとすれば、数十人から数百人の成功者が生み出されることでしょう。

 数千人の病人の誕生と、引き換えに。


 彼の講演は確かに有益です。
 数多くの優秀な人材を輩出しうる、極めて優れたプログラムと言えるでしょう。
 一万人が実行して百人が成功し、彼自身のように周囲に元気を与え、新しいことに挑戦し、未来を開拓していったならば、社会は活気で満ちることでしょう。

 ですが、その過程で零れ落ちた、残りの九千九百人は。
 無理をして、限界に挑んで、そして壊れていった人達は。
 一体どうすればいいのでしょうか。


 私は、一度壊れた人間です。
 会社に従い、上司に従い、お客様に頭を下げ続けました。
 社長の目に留まるほどの成績を上げ続け、気に入られ、出世しました。
 その間ずっと、無理をして、無理をして。
 そして壊れました。

 働くことはおろか、家事をすることも、幼い息子と遊んでやることもできず。
 長期入院を繰り返し、自宅療養中も、手洗いと布団の間を這って往復することしか出来なかった日々。

 正しく、説得力があり、人間的な魅力にも溢れていて、だからこそ。
 彼の講演は多くの人を、あの地獄に突き落としかねない。
 そう思いました。


 勿論、実際には一万人中九千九百人の病人など生まれはしません。
 そこに至るまでの間に、ほとんどの人は諦め、挫けて歩みを緩めるでしょうから。
 それでも決してゼロではない。
 一度壊れた身としては、到底無視できるものではありませんでした。


 誰かに「進め」と言うならば。
 「退け」と言う責任もまた、あるのではないでしょうか。