さて右の如く偉大なる法王を出したカソリック教の総本家バチカンも星移り物変わり現代にあっては物質世界に於ける勢力は、昔日の如くではない。しかしながら精神界に於ける勢力は、全世界を通じて三億五千万の信徒を有し我大東亜共栄圏内にありても、大約二千万人の信徒を持っていることによって、尚その偉大性を保持しつつあるものといわざるを得ない。その羅馬法王庁へ公使を派して、彼我尋常の外交関係を形成したことは我国外交の明朗性を示したものということが出来る。しかもその法王庁や、各国大公使の特殊的社交場であって、最も公平なる世界ニュースの集積地たる以上は、公使を置いて以って我国現在及び将来の国威発展に資する必要がある。
――国枝史郎「ローマ法王と外交」