ちらっとめくって見た日経の広告にこんなのが。
ちくま新書 5月の新刊
外交、防衛の第一人者が解決への戦略を提言!
孫崎享 元外務省国際情報局長
『日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土』
平和国家・日本の国益に適う安全保障戦略とは何か?
ちくま新書 798円
・・・よりによって、この問題について、なぜ筑摩書房は孫崎に書かせようと思ったのだろうか。立ち読みすらしなくても、だいたい展開は読める。
・在日米軍は日本と日本人を守ってはくれない。「在日米軍は、抑止力にならない」
・中国軍・韓国軍・ロシア軍を侮ってはいけない
・日本の自衛隊だけでは日本を守れない。「自衛隊も、抑止力にはならない」
・だから「アジア共同体」という発想で、共同でアジア各国の利益を守るような体制にすべきだ
・そうなったとき、尖閣諸島や竹島は、「共同統治の土地」として「平和の象徴」となり、北方領土も、改めて2島返還への道ができる
こんなところであろう。何も「日本の国益」なんぞを守ろうとは考えていないのが孫崎なのだから。
なぜそんなことが言えるのか。このブログでは、以下の記事を代表に、彼の言動についてはしつこく論評してきたからだ。代表的なものとしてはこの二つか。
今ごろになって「沖縄の海兵隊は抑止力にならない」というムダなキャンペーンを…(2010-5-10)
出演者の一人である孫崎享(まごさき うける)が、「アメリカの沖縄の海兵隊の抑止力について」こんなことを。
「尖閣列島についても、96年くらいから、『アメリカは、領土問題については日中のどちらにも入らない』と言っている。外交的に支持をしないと言っているところが、軍事的に支持をするということが本当にありうるんだろうか。我々はその点をもう少し考えなければならない。そうすると、抑止力は、何も米軍に頼る必要がない。抑止力は、日本の自衛隊を強化すればそれで良いのだ。」
この発言は、先週沖縄に行って、沖縄県民たちからフルボッコにされていた鳩山総理の
「抑止力の観点から、沖縄に負担をお願いしなければならない」
「沖縄の米軍が持っている抑止力について、私は認識が甘かった」
これらを受けたものであろう。
森本敏(もりもと さとし)が上の孫崎発言について以下のようにコメント。
「抑止機能についての見方が孫崎氏とはかなり違うので、議論をしてもすれ違いになると思う。そもそも抑止力というものは、こちらにきちっとした軍事的な対応能力、極めて柔軟で即応性の高い打撃能力を持つことによって、周りの地域の主体が軍事的に手を出しにくい、あるいは出してもそれが難しくなる、したがって手を出すことを思いとどまるようにさせるものだ。そういう機能を持っているかどうかが抑止力である。だから外交で抑止をさせるのは良いのだが、実際には軍事的な対応能力がないとだめだ。日本が単独で軍備増強ができればそれはいいかも知れないが、現時点で最も効率的な、在日米軍による抑止機能によって、アジア太平洋地域全体の安定を維持して、結果として日本の安全を維持していくというのが今の考え方だろう。だから、その中心である米軍海兵隊が、アジア太平洋地域にいつでも出て行けるという力を日本国内で持っているという形を作れば、他国が軍事的に手出しをしにくく感じる。それが抑止力なのだ。」
(ここまで)
このように、孫崎氏は、抑止力の意味が全然わかっていない。森本氏が言う、「他国が軍事的に手出しをしにくく感じる度合い」が、「抑止力」なのである。
次はこれ。
次にひどかったのが孫崎。これは放送前の記事に書いたイヤな予感が当たりすぎるくらい当たった。
孫崎「ハイ、○○だと思う人手を挙げて!」
他のパネラー「それは××でしょ!」
孫崎「いいから手を挙げて!!(怒)」
こんなやりとりに限らず、とにかく先生ぶったしゃべり方や間合いを繰り返す。申し訳ないが、内容の貧弱さを、こういう
「先生らしい雰囲気」
でごまかそうとするのに必死なのだなと思わざるを得ないほどひどかった。
内容もひどい。
孫崎「軍備は抑止力にならないんです!」
と意気揚々と語ったかと思えば、その直後に、中国と日本の軍備の差を蕩々と語り始め、
「だから、日本は軍備で中国に対抗できないんです!」
と笑顔で語る。
・・・これで元外務省キャリア、防衛大学教授である。まじめに反論すれば
「先生(笑)、軍備が抑止力にならないのなら、なぜ軍備の差を語る必要があるんですか?」
でおしまいである。
ただ、最大限に彼の発言を好意的に解釈するならば、話す順番が逆ということである。すなわち、
「日本の軍備 << 中国の軍備
ゆえに
日本の軍備だけを語っても中国の軍備には対抗できない
≒ 軍備は抑止力にならない」
これならまだ論理的につながる。しかし、こういう論法も、
・中国が日本方面に対してだけ割ける軍備がどれだけなのかは語っていない。彼は中国の軍備全体しか語らない。ロシア方面、西方面、インド方面、フィリピン方面、そして日本方面という「方面別の軍備」を語っていない。トータルで中国の軍備が巨大だからと言って、その全てを日本に割けるわけではない。
・だからこそアメリカの核という抑止力が効果を生む。
この2点でいくらでも反論できる。しかも、なによりこういう思考自体が、軍備に抑止力があるという前提で語られているという時点で、
「軍備に抑止力はない」
という最初の発言を自分自身で否定してしまっている。「論理が成立していない」とはこういうことであるといういい見本だ。
・・・なんなんだこの人は。
孫崎に関してはこれだけではない。
「日本は核の傘に入っていないんです!」
といきなり言い始め、理由も続けずにグダグダな流れがまた始まる・・・。これは他の出席者も、
「なにゆえ?」とか「どういうこと?」
と聞けばいいだけなのに誰も聞かない。田原も含めてグダグダな流れしか作れなかったいい証拠である。森本や潮、あるいは田原がつっこめばいいだけの話でしょうに・・・。やれやれ。
(ここまで)
この孫崎、鳩山政権時代には、防衛関係のブレーンだったとのこと。さすがである。何の定義もせずに
「東アジア共同体!」
と言い続けることのできる鳩山由紀夫のブレーンたる者、日本の自衛隊のパワーアップを図ることはおろか、軍事力そのものがあたかも「絶対悪」であるかのような刷り込みを視聴者にこれでもかこれでもかと繰り返す。
しかし、いかんせん、現実的な説得力が皆無であるせいで、私のような素人にもポカーンと呆れられてしまう始末である。繰り返すが、この程度の人間が、
「日本の国境問題」
という、日本の主権を形成する重要問題について、いかにも権威よろしく、買いやすい新書の形で書くのは、「日本の国益そのものを放棄せよ」と言っているのと同じである。ちくま新書は、面白いテーマを扱ったものが多いだけに、こういう本を出すことで、ちくま新書全体の信用が大きく下がってしまうであろうことは、きわめて残念なことである。ここでも、「出版不況は自業自得の法則」が発動している。
ちなみにこの孫崎、あの「第2記者クラブ」の岩上安身と大変仲が良いようである。「第2記者クラブ」の中身も、推して知るべしと言ったところである。
※2012年9月追記
この本、2012年9月になって売れているようです。近所の本屋でも、「新書第4位」とのこと。
この本の104ページに関して、コメントをしてくれた方との論争はこちらとこちら。テーマは、
「日本はサンフランシスコ講和条約で国後・択捉島の請求権を放棄したのか」です。
孫崎氏の「親中」ぶりは以前から有名ですのであまり期待はしていなかったのですが、尖閣諸島に関する記述は全く同意できません。
氏の結論ではもともと尖閣諸島は中国の固有の領土で、それを日本国が領有権の「棚上げ」を出来てきている事に満足すべき・・・云々には呆然。
このような考え、思想の持ち主では「防衛大学校」ではさぞや居心地が悪かった事でしょう。
1920年に当時の中国政府より贈られた感謝状に「沖縄県八重山郡尖閣諸島」の壱文の会ったことをあっさりと「スル―」(隠蔽か?)
また、一時期まで中国での世界史の地図では尖閣海域が日本国領域となっていた事をも「スル―」。
冷静な好著を装ってはいても自己の考えに都合のよい物を「歴史的諸事実から恣意的に選択」している態度は納得がいきません。
また、氏は外務省出身者であったはずですが、「国益」と云うものをなんと心得ているのか甚だ疑問に感じた次第です。
東大教授の加藤陽子教授の「それでも日本は戦争を選んだ」の時も同じ嫌悪感を催したことを思い出してしまいました。
そうですか、孫崎氏の親中ぶりは以前から有名だったのですか。もしかすると、外務省のいわゆる「チャイナスクール」の一角、幹部、もしくは親玉だったのでしょうかね?
>また、氏は外務省出身者であったはずですが、「国益」と云うものをなんと心得ているのか甚だ疑問に感じた次第です。
外務省の官僚だった田中均の当時の言行を思い出しても、きわめて残念なことですが、日本の官庁でありながら、「日本の国益とは何か」というところで官僚の間ですら大きな修復しがたい溝が存在すると思わざるを得ません。
例えば、孫崎氏の立場で「日本の国益」を論じるならば、
「尖閣諸島などという小さな島は、周辺の開発権や漁業権も含めて中国にあげてしまえば、それを上回る恩恵を中国から受けることができます。その方が、トータルで考えれば日本の国益は大きくなるのですよ。」
などと、おそらく真顔で語ることでしょう。しかも必ず上から目線で。
たまたまこのブログでも加藤陽子教授を扱ったことがありますが、あの方の、当時の出来事を、真顔で、平気で今日の価値観で断罪できる点は失笑するしかありません。その一方で、東大教授という肩書きを最大限活用して、若者たちを冷静に洗脳する姿には開いた口がふさがりません。
http://blog.goo.ne.jp/shirakawayofune001/e/b66755f391c3b4c637d892e280be23c5
こんなのが「小林秀雄賞」なんぞをもらってしまうのですから、日本の言論界の融解ぶりにも注意を払わなければならないのだなと思ってしまいます。