『「私塾」のすすめ』…これは、まさに現代の『自助論』である。
確かに二人が見据える教育対象、自己啓発の方法論などは全く違う。
それは2人のもつ人生の課題意識からくるものであろう。
実際、斉藤氏は身体性を土台にコミュニケーションと学びを追求、教育の対象を
全方位的に捉え、万人共通に通ずる型の訓練により技化する、自己修養のモデル
化を目指している。
また、梅田氏は上を伸ばしながら、ネットのもつ時空の縮減が作り出す知のオー
プンソース性を土台にした創造性に注視している。
まさに身体と意識という対立軸が2人の教育思想の間にはあるのです…。
しかし、彼らの2項対立の思考を結ぶ補助線が『自助』の精神…根底にある現代の
自分探しの風潮に一石を投じ、知識を集積していくことによって自己形成してい
くスタンス、教養主義的思想である。
そして、それは旺盛な活力と堅忍不抜の精神をもって、人生の師(ロールモデ
ル)・書物という人生の指標をしっかりと見据えながら、道なき道を切り拓いて
いくことを求めているのである。
さらにそのような人生の歩みをさせる上で、組織感情を土台にしていることは着
目すべきである。
彼らの2人の対談の中には、効率的知識の授受のための伝統的学習観から脱却し、
自ら学ぶ存在として転化する…そのための生得的な心的装置と現代社会の文化の
役割を再考するという問題も含まれており、教育に携わるものにとっては、文化
遺産の継承というカリキュラムのあり方も含め、自分の教育的土台を見つめ直す
上で大切な視座を与えてくれる良書である。