山奥の小部屋より

山奥の司法書士が感じたこと

最高裁令和2年3月6日判決(平成31年(受)第6号)

2020-03-06 15:43:04 | 司法書士
本日、司法書士の責任に関し、最高裁判決が言い渡されたようです。

最高裁令和2年3月6日判決 Courts in Japan

「 不動産の所有権移転登記の申請の委任を受けた司法書士に当該申請の委任者以外の者との関係において注意義務違反があるとした原審の判断に違法があるとされた事例」

関係図はこちら



一般論としての司法書士の責任については、以下のように述べられています。

「司法書士の職責及び職務の性質と,不動産に関する権利の公示と取引の安全を図る不動産登記制度の目的(不動産登記法1条)に照らすと,登記申請等の委任を受けた司法書士は,その委任者との関係において,当該委任に基づき,当該登記申請に用いるべき書面相互の整合性を形式的に確認するなどの義務を負うのみならず,当該登記申請に係る登記が不動産に関する実体的権利に合致したものとなるよう,上記の確認等の過程において,当該登記申請がその申請人となるべき者以外の者による申請であること等を疑うべき相当な事由が存在する場合には,上記事由についての注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負うことがある」
「上記措置の要否,合理的な範囲及び程度は,当該委任に係る委任契約の内容に従って定まるものであるが,その解釈に当たっては,委任の経緯,当該登記に係る取引への当該司法書士の関与の有無及び程度,委任者の不動産取引に関する知識や経験の程度,当該登記申請に係る取引への他の資格者代理人や不動産仲介業者等の関与の有無及び態様,上記事由に係る疑いの程度,これらの者の上記事由に関する認識の程度や言動等の諸般の事情を総合考慮して判断するのが相当である。」

委任者以外の第三者との関係(上記図の上告人と被上告人の関係)については

「登記申請の委任を受けた司法書士は,委任者以外の第三者が当該登記に係る権利の得喪又は移転について重要かつ客観的な利害を有し,このことが当該司法書士に認識可能な場合において,当該第三者が当該司法書士から一定の注意喚起等を受けられるという正当な期待を有しているときは,当該第三者に対しても,上記のような注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負い,これを果たさなければ不法行為法上の責任を問われることがあるというべき」
とし、その判断基準について
「義務の存否,あるいはその範囲及び程度を判断するに当たっても,上記に挙げた諸般の事情を考慮することになるが,特に,疑いの程度や,当該第三者の不動産取引に関する知識や経験の程度,当該第三者の利益を保護する他の資格者代理人あるいは不動産仲介業者等の関与の有無及び態様等をも十分に検討し,これら諸般の事情を総合考慮して,当該司法書士の役割の内容や関与の程度等に応じて判断するのが相当である」
としています。

そして、本件においては
・一連の売買契約,前件登記及び後件登記の内容等は既に決定されていた
・前件申請が申請人となるべき者による申請であるか否かについての調査等をする具体的な委任は受けていなかった
・前件申請については,資格者代理人であるC弁護士が委任を受けていた上,上記委任に係る本件委任状には,印鑑証明書等の提出により委任者であるAが人違いでないことを証明させた旨の公証人による認証が付されていた
・被上告人は不動産業者である上,その代表者自身が被上告人の依頼した不動産仲介業者の代表者や乙の担当者と共に本件会合に出席し,これらの者と共に印鑑証明書の問題点等を確認していた
・印鑑証明書の食違いは上告人が自ら指摘した
という事実を挙げ
「上記の状況の下,上告人にとって委任者以外の第三者に当たる被上告人との関係において,上告人に正当に期待されていた役割の内容や関与の程度等の点について検討することなく,上記のような注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務があったと直ちにいうことは困難であり,まして上告人において更に積極的に調査した上で代金決済の中止等を勧告する等の注意義務を被上告人に対して負っていたということはできない。」
と判断し、東京高裁に差戻しました。

なお、差戻審における審理について、草野耕一裁判官の意見が付されています。

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