古書肆雨柳堂

小説の感想。芥川龍之介、泉鏡花、中島敦、江戸川乱歩、京極夏彦、石田衣良、ブラッドベリ、アシモフ、ディック

『図書館戦争』有川浩

2006-07-25 22:40:32 | SF

 『メディア良化法』によって、言論が統制された現代。本を守るため、図書館が立ち上がった!
 大抵この場合「立ち上がった」というのは、思想的なものを指しますが、この物語では図書館は武装し、「図書隊」を組織します。本の面白さは「もしこうだったら・・・」と想像をめぐらすことですが、この本では『図書館の自由に関する宣言』という実在する宣言から新たな世界を広げている点がユニークです。

 本を守る―――この作品は現代の『華氏451』です。
 作者が、月9ドラマ化を目指したと後書きで述べているように、主人公は女の子で
就職したてで仕事に苦労したり、恋愛に悩んだりと、堅苦しくなく楽しく読める雰囲気となっております。

 章立ては「図書館の自由に関する宣言」各項に対応するようになっており、
ストーリーを通し、「宣言」の内容も興味深く学べます。
 図書館だけでなく、街の本屋、学校の図書室なども舞台として登場し、
「本を供給する仕組み」の意義が見出されています。

 特に「学校の図書室」。図書隊は図書館のみにしか権限を有しないので、
「良化機関」の学校の図書室に対する検閲には無力なのです。
 しかし熱血教師のように熱い主人公らは、子供達に色々とアドバイスを
してあげます。
 作中の言葉を使うと「大人のケンカの仕方」を教えてあげます。
「大人のケンカの仕方」―――合法的な手続きを踏み、対話によって物事の解決を
図ることです。
 
 子供達は検閲によって好きな本を読めなくなることに憤りを感じ、「良化委員会」の
集会に花火を投げ込むなどしました。主人公たちはそれでは世間はその主張に正当性を感じない―とアドバイスをします。
 きちんと謝り、公平な調査を行い、検閲が子供達のためになっていないということを堂々と主張するのです。

 「正当な手続きと対話」は市民社会の基本であり、われわれもハッとさせられます。

 【参考:子供達の考えた規制に対するアンケート】
・読書によって犯罪が助長されると思いますか?
・あなた自身は読書によって悪い影響を受けますか?
・あなたの好きな本が規制されたら、各種の推薦図書を読みますか?



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