古書肆雨柳堂

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東野圭吾『同級生』

2005-08-22 23:38:27 | SF

粗筋
 主人公西原荘一の同級生、宮前由希子が交通事故死します。彼女は西原の子供を身籠っていました。それを知った荘一は周囲に自分が父親だと告白し、疑問が残る事故の真相を探ります。
 事故当時、現場にいた女教師が浮上しますが、彼女は教室で絞殺されてしまいます。

布石の妙
 まず先天的に病を持つ、妹のことが語られます。序章は、妹のために復讐をすることを述べ締めくくられています。
 あ~この妹のことがメインなんだなっと思うのですが、第一章は「宮前が死んだ」とまったく話題が変わってしまっているのです。物語の大きな事件は宮前の死であり、妹は事件の主筋には関係していないことがわかります。
 「な~んだ」と思いますが、物語の結末で事件と妹の病気のことが見事にリンクします。復讐とはそういうことだったのか、と。

 この他にも布石があります。取調べや西原らの調査で明らかになっていくのに併せて登場します。一見関係ないことが真相を解く鍵になっているという複雑性は、物語にリアリティを与えています。

 憎いから殺す。現実はそう単純ではないですからね。都合よく事件にかかわる情報だけクローズアップされ、推測通り順調に解決に至るというわけでも・・・。

彼女は恋人だよ。彼女はただの同級生だよ。
 現実はそう単純ではない。それは西原と宮前の関係にもいえます。高校生にして妊娠というのは大事です。そこまでしたのだから、当然付き合っていた―恋人だったのだろうと周囲は考えるでしょう。しかしそう簡単に言えないのです。

 そもそも関係性というのはその人との過去が複雑に絡んでいて、単純に友人、恋人、同級生と括れるものではないと思います。

 西原の回想により西原と宮前の過去が我々に述べられますが、その関係は確かに一般的な意味では恋人とは言いにくいものです。しかしだからといって彼が宮原と関係を持ったことが不誠実は思えませんでした。(みなさんも判定してみてください!)
 しかしながら西原と宮原の過去は、神の視点を持つ読者であるから知ることができますが、友人、宮原の親、教師、そして刑事も知る由はありません。
 「高校生のくせに妊娠なんかさせて・・・」という非難を聞くと、「真相」を知っている私(読者)は、真実を語ることの難しさに歯痒くなります。

 「宮原を本当に愛していたんだ」
 「その場の雰囲気で抱いてしまったんだ」

 タイトルの「同級生」はどのような関係性を表しているのか明らかになり、「あ~!!」と思いますよ。

 どちらも正しい叙述で、嘘でもあります。