古代人の遺産ニューグレンジ

みなさん、こんにちは。川崎です。
一昨日の夜、シリア・ヨルダンとバールベックの旅から戻りました。
週末からカンボジアとラオスへ行ってきます。
今日はそれらとは別に夏に出発の決まっております、
アイルランドの旅のお薦めです。


アイルランドの東部に位置するボイン川流域には、
先史時代の石造りの遺跡がいくつも残されています。
なかでも最も有名なものがニューグレンジの巨大な遺構です。
直径約90メートル、高さ12メートルの規模で、
今から5000年以上前のものとされ、
17世紀に奥の石室に続く長い通路が偶然発見されるまで、
この丘が遺跡だとは誰にも気付かれませんでした。



アイルランドにはイギリスの支配以前にケルト文化が開花していたことは
よく知られています。
そのためニューグレンジ＝ケルトと考えられがちですが、
ニューグレンジが造られたのは、実はそれよりももっともっと古い時代のことです。
ボイン川流域にはケルト以前に活躍した、伝説の諸王の本拠地・タラの丘があり、
「王家の谷」と呼ばれています。
現代の伝説ではニューグレンジはタラの諸王の埋葬地と伝えられていますが、
実際に建造された年代はこの時代よりもさらに古いため、
誰が何のために築いたものなのか、はっきりとしたことはわかっていません。
おそらくは紀元前3000年頃、スコットランドから海を渡り、
農業をもたらした新石器時代の人々の手によるものではないかと考えられています。

このニューグレンジ遺跡は非常に精巧に造られています。
正面入り口には花崗岩の玉石が並べられ、
周囲は元々35個の巨大な立石で囲まれていました。
使われた石の表面には、日本を含め古代世界の至る所で使用されていた
渦巻き模様をはじめとする幾何学模様が刻まれており、
高度な技術と労力を注いで造られたことがはっきりと見てとれます。



また、内部から見つかった花粉により、森林を切り開いて
この場所に建造されたものであることも確認されました。
17世紀に発見された通路の先には、石室を持つ高いドームがあり、
さらに奥に3つの小部屋が設けられています。
特に目を引くのは、5000年を経た今でも雨漏りひとつしない
平らな石を積み重ねて造った天井です。
上部に墳丘のように土を盛り、さらに白い石英岩で覆ったようです。
雨水を外に出すための浅い水路もあり、随所に細かな工夫が施されています。

本格的なニューグレンジの調査は1962年から開始され、
天体との関係が調査の主な対象となりました。
入り口上方に穴があり、冬至の日の明け方になると17分間だけ太陽光が差し込み、
その光はほぼ水平に通路を通って奥の石室を照らし出します。
内部から人骨が見つかったことや、春分や秋分に太陽光が差し込む古代墳墓が
スコットランドやウェールズにもみられることから、
ニューグレンジも墳墓として考えられことが多いのですが、
規模の大きさや、その精巧な造りなどから、
太陽崇拝の神殿説や、天体観測用の施設説など様々な主張が現在もなされています。
冬至の日だけ、太陽光を取り込む仕掛けを造るには、
高度な天文学や数学の知識が必要となります。

今から5000年も昔の人々が築いたニューグレンジ遺跡。
その内部の空気に触れ、丘の上に立ってみると
5000年の時を飛び越えていくような感覚に襲われます。
今年のアイルランドの旅では、ニューグレンジでたっぷりと
時間をお取りしていますので、ロマン溢れる謎に満ちた過去に、
想いを馳せてみませんか。

（川崎 大地）



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