BLOG夜半亭

「HP夜半亭」などのトピックス的記事

早野巴人の世界(その七)

2004-10-11 11:13:47 | 巴人関係
早野巴人の世界(その七)

○ 落(おち)鮎や水に酔(よひ)たる息づかひ

 この句には「落鮎」との前書きがある。巴人の故里の栃木県那須郡烏山町の那珂川河畔に巴人句碑として、この句が建立されている。詩人の草野心平の書によるものである。しかし、詩人・心平が巴人のこの句を選句したのではなく、烏山町は俳句の盛んな所で、その長老格の人が選句して、書をよくした心平にその揮毫をお願いしたというのが、その真相ということである。
 さて、その烏山町の昭和時代の俳人が、『夜半亭発句帖』の中から、この句を選句した背景は、那珂川は烏山のシンボルであり、そして、その那珂川は鮎で知られており、そんなことから選句したのであろうが、この句の前書きにある「落ち鮎」は、産卵の後、死に絶えるのであるが、その「息づかひ」の把握に惹かれて、この句を選句したように思えるのである。そして、その「生き物の悲しみ」としての「落ち鮎」と昭和の蛙の詩人として名を馳せた草野心平とを結びつけると、この句は、「落ち鮎」の句として、傑出した句のように思えるのである。
 そうした鑑賞の後、この句が、巴人の時代に盛んであった「見たての句」として理解すると、詩人・心平は揮毫しなかったのではないかと思えてくるのである。その「見たての句」としての鑑賞は、「落ち鮎は産卵期で腹を赤くしており、それが酔って、そして、その息づかひ」に着目しての句という理解なのである。 確かに、比喩俳句全盛の巴人の時代にあっては、そのような鑑賞がその一面なのかも知れないが、草野心平の詩をよく知る一人として、「この産卵の後、海に行き、死んでゆく、その落ち鮎」の句として、この句を鑑賞したいと・・・、そのような思いを抱かせる一句なのである。




最新の画像もっと見る