はじめて臨終に立ち会ったのは父方の祖母の時でした。
祖母は入院三日目で亡くなり、それまでは伯母が祖母の介護をしていました。
そのとき、泣いていた母が、四年後に亡くなってしまいました。末期の大腸ガンでした。
私と父が母の最期を看取ったのですが、母の存在の大きさに私は何日も泣き暮らしていました。もう悲しくてたまらなかったです。
障害を持つ兄の世話は母が中心でしたので、兄のこれからを考えるとどうしようかと悩んだことも一因です。
なぜなら、兄は母にべったりだったからです。
当時、すでに兄は施設に入所しており、将来の生活の場を一応確保することはできていました。実質上、特に心配はありませんでした。
ただ私が一番気になったのは、
「母が亡くなったという事実を兄が理解できるのか?」
それだけでした。
母が入院してからは、兄の面会には私や父が行っていましたが、兄は母が来ることを望んでいました。ですから「ママ、ママ」と言う兄を納得させるのが大変でした。
果たして私が母に代わって「兄に関われるのか?」ということも何よりも心配だったのです。兄は何かあると興奮して施設内で暴れて、ものを壊したり、他の利用者さんを叩いたりしていましたから・・・。
正直、不安でした。
そのような状態でしたから、私がいくら子どもの頃から兄育て(?)をしてきたと言っても、母の足元にも及ばない存在で、自信もありませんでした。
そんな経験から、私は父が入院してからは、兄を父に会わせることにしました。
母に比べれば父は兄との関わりは少なかったのですが、父が死に向かってゆくようすを、少しずつ兄に実感させたかったのです。
母の死が兄にとってはあまりに突然だったので、兄は混乱していたようでした。
ですから、もうそんな思いはさせたくありませんでした。
そのおかげか、兄は母が亡くなったときよりはすんなりと父の死を受け入れているように見えました。
両親を亡くした現在では、兄は私が面会に来るのを待つようになりました。
少しずつ、少しずつ、兄も理解してくれたのでしょう。
結局、こんなことしかできないのですね。
私は私なりに少しずつ少しずつ兄にしてやれることはしてやろうと思います。