北海道の四季登山と読了記

週末の休みを利用して登山しています。ときどき本も読みます。

(096-1105) 心淋し川(うらさびしがわ)

2023年11月21日 | 四季の山登り(2023.1.1~2023.12.31)

「心淋し川(うらさびしがわ)」(西條奈加著 集英社文庫 2023.9.25 第1刷 278ページ)
上手い。表現が上手だ。江戸の片隅、どぶ川で懸命にいきる市井の人たち。市井の人たちにも人生はある。喜びも悲しむもある長屋の住人と差配の茂十の物語だ。

「誰の心にも淀みはある。事々を流しちまった方がよほど楽なのに、こんなふうに物寂しく溜め込んじまう。でも、それが、人ってもんでね」(茂十)
「暗い水面(みなも)は、空の闇色に溶けていて目には映らない。饐えた(すえた)臭いだけが、ちほの鼻をついた」

「山懐から湧き出る清冽(せいれつ)な流れも、下流になるほど濁ってくるものだ。歳相応の泥を川床に蓄積した茂十には、十七歳の息子の澄んだ佇まい(たたずまい)は、愛(いと)おしくもあった。
心に響く文を表現できるから直木賞受賞作になったに違いない。読むに値する小説だ。

コメント (1)
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