goo blog サービス終了のお知らせ 

とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

ミンクにおけるSARS-CoV-2感染の広がり

2020-11-14 06:43:07 | 新型コロナウイルス(疫学他)
新型コロナウイルスに感染したミンクを殺す、殺さないというニュースに注目していますが、デンマークには人間の約3倍のミンクがいるそうですね。デンマークにおけるミンク感染の広がりは中々止めることができず、6月以来200以上の農場で感染が確認されたそうです。問題になっているのはミンクの中でSARS-CoV-2が変異していることで、これまでにヒトで確認されたウイルスのうち300の変異体がミンク由来であると考えられています。特にCluster-5と呼ばれている変異体は感染に重要なSpikeタンパクに3つのアミノ酸変異と2つの欠損を有するもので、この変異型ウイルスは抗体やワクチンに対する反応性が低い可能性が指摘されています。またY453Fという変異体はデンマークではヒトにも広がっていますが、市販のモノクローナル抗体に反応せず、したがって抗原検査が偽陰性になってしまうという問題があります。事ここに及んでデンマークでは1700万頭のミンクの殺傷処分が検討されているのですが、これまでミンクで見つかった変異体が必ずしも高い感染性や強毒性を示さないこともあり、大きな議論を呼んでいます。最後に筆者らは他の動物でもこのような例があるのではないかとしています。 

COVID-19に対するJAK阻害薬baricitinibの効果

2020-11-14 06:25:56 | 新型コロナウイルス(治療)
COVID-19にJAK阻害薬であるbaricitinibが有効ではないかという話は以前からありましたが、この論文ではアカゲザルにSARS-CoV-2を感染させたモデルを用いてbaricitinibの有効性を検討しています。Baricitinibを投与されたサルではI型インターフェロンの抗ウイルス反応やSARS-CoV-2特異的T細胞反応は変化させないが、炎症の減少、炎症細胞の肺浸潤の減少、好中球のNETosis活性減少を示し、その背景には炎症と好中球動員の原因となるサイトカインとケモカインの肺マクロファージ産生の強力な抑制があることを示しています。IL-6の阻害薬であるトシリズマブの有効性が疑問視される中で、期待が持てる治療薬なのかもしれません。いずれにしても今後の臨床研究の結果待ちではあります。
Hoang et al., Baricitinib treatment resolves lower airway macrophage inflammation and neutrophil recruitment in SARS-CoV-2-infected rhesus macaques. Cell DOI:https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.11.007 

高齢者に対するビタミンD、オメガ3脂肪酸、筋力増強運動の有効性

2020-11-11 08:53:28 | 整形外科・手術
高齢者の6つのエンドポイント((cardiovascular health, bone health, muscle health, brain health, immunity)に対するビタミンD、オメガ3脂肪酸、筋力増強運動(週3回の筋力トレーニングを柔軟体操のみと比較)の単独介入およびコンビネーションの有用性を検証したDO-HEALTH試験の結果が報告されました。2157人がランダム化され、平均年齢は74.9歳で61.7%が女性でした。そのうち1900人が研究を完遂し、平均フォローアップ期間は2.99年です。結果はいずれの介入も有効性なし(血圧、short physical performance battery, montreal cognitive assessmentおよび非椎体骨折について)というものです。ビタミンDのディスられ具合は相変わらずですが、最近は運動に関しても否定的な報告が多く、どうしたもんかと思います。

高齢者転倒・骨折予防に関する運動介入および多因子転倒予防評価についてのランダム化比較試験

2020-11-09 10:53:38 | 整形外科・手術
高齢者の転倒と、それに付随する大腿骨近位部骨折を始めとした脆弱性骨折は、患者の生命予後に影響する重篤な疾患であることが知られています。国内外で転倒予防の取り組みは数多く行われており、運動療法は転倒予防に有用であるという研究結果が報告されています。この論文ではイギリス全土の63の一般診療から70歳以上の9803人をランダムに選択し、①3223人はメールのみによるアドバイス、②3279人は転倒リスクスクリーニングを行い、メールによるアドバイスに加えて対象を絞った運動、③3301人は転倒リスクスクリーニングを行い、メールによるアドバイスに加えて、対象を絞った多因子転倒予防multifactorial fall preventionの3群に振り分け、その後の転倒や骨折を検討しました。Primary outcomeはランダム化後18カ月以上の時点における100人・年の骨折率、secondary outcomeは転倒率に加えてSF-12, EQ-5D-3Lなどを用いたQOL評価です。
(結果)参加者の平均年齢は78歳で、女性が53%でした。転倒リスクスクリーニング質問票は、グループ②3279人中2925人(89%)から返送があり、そのうち1079人は転倒のリスクが高く、運動介入への参加の招待状が送られました。グループ③3301人中2854人(87%)が転倒リスクスクリーニング質問票を返送し、そのうち1074人(28%)に多因子転倒予防評価への参加の招待状が送られました。転倒リスクスクリーニング質問票に回答しなかった人の方が、回答した人よりもフレイルの患者割合が高率でした。結果として介入の骨折予防効果は示されませんでした。グループ①に対するグループ②の骨折の割合は1.20(95%信頼区間[CI], 0.91-1.59)であり、グループ③は1.30(95%CI, 0.99-1.71)でした。また18ヶ月間の100人年あたりの転倒数にも有意差はありませんでした。運動介入は、健康関連のQOLのわずかな向上と全体的なコスト低下に関連していました。
-----------
今回の結果は最近報告されたRCTの結果(Bhasin S et al., A Randomized Trial of a Multifactorial Strategy to Prevent Serious Fall Injuries. N Engl J Med. 2020 Jul 9;383(2):129-140. doi: 10.1056/NEJMoa2002183)とも一致するものであり、改めて転倒・骨折予防の難しさが証明されました。転倒予防、骨折予防については根本的に戦略を考えなおす(転倒しても骨折しないような介入を行うなど)必要があるのかもしれません。


Alzheimer病の原因が感染症である可能性

2020-11-07 16:47:54 | 神経科学・脳科学
Alzheimer病の原因としてはアミロイドβ(Aβ)仮説が広く信じられています。これは何らかの理由で神経細胞に蓄積したAβが神経細胞の機能不全やアポトーシスを誘導し、認知障害を誘導するというものです。しかしAβの蓄積は必ずしもAlzheimer病患者にのみ認められるわけではなく、またこれまで開発されたAβ阻害薬はほとんどAlzheimer病に対する有効性を示せませんでした。
最近発表された論文で、Aβは神経細胞への病原体感染に対する自然免疫系活性化の結果として産生される物質であり、病原体に対する神経細胞保護作用を有する可能性が報告され、注目されています。この仮説が正しいかどうかについてはもちろん今後の検証が必要ですが、Aβ仮説のように一つの説に拘泥するとかえって真実から離れてしまうのはよくあることですので、色々な角度から検討することが重要だと思います。