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とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

急激な運動負荷の生物学的作用を経時的に検討してみた

2020-06-04 20:14:38 | 発生・再生・老化・組織修復
何ともすごい研究です。36名の被検者に傾斜トレッドミルを用いて8-12分の最大心肺運動負荷(cardiopulmonary exercise, CPX)を課し、コントロールの非運動者とともに運動前、運動後2分、15分、30分、1時間と経時的に末梢血を採取して血清のproteomics, metabolomics, lipidomics、そして末梢血細胞のtranscriptomics を行ったという内容です(in-depth multi-omic profilingというそうです)。当然膨大なデータが得られるわけですが、結果としてはenergy metabolism, oxidative stress, inflammation, tissue repair, growth factor response, regulatory pathwaysなどに関連する生物学的経路が関連しながら変化していくことが明らかになりました。またインスリン抵抗性の被験者ではこれらの変化が抑制されたり、逆転したりしていたそうです。内容については理解の限度を超えているのでコメントは控えますが、ここではこのようなデータが何の役に立ちそうかを考えてみたいと思います。
私の貧困な想像力で思いつくのは
1)運動の生物学的役割に関与している経路を詳細に理解するのに有用
2)様々な疾患や加齢変化が運動の効果に与える影響を調べるときのベンチマークになる
3)運動が有用なヒト、それほどでもないヒト、かえって有害なヒトをあらかじめ選別できる
4)運動をミミックするような薬物を開発するための資料になる
程度ですが、他にどのようなものがあるでしょうか。しかしin-depth multi-omic profilingの大変さは十分わかるとしても、上記のような目的で使用するとしたら、36例というのは決して多い数ではないように思うのですが、どうなんでしょうか?
Contrepois K, Wu S, Moneghetti KJ, et al. Molecular Choreography of Acute Exercise. Cell. 2020;181(5):1112‐1130.e16. doi:10.1016/j.cell.2020.04.043

PU.1は線維芽細胞の形質に重要

2020-03-13 19:08:02 | 発生・再生・老化・組織修復
線維芽細胞fibroblastは、組織の線維化に関与すると同時に、関節リウマチの滑膜線維芽細胞のように組織の炎症において重要な役割を果たす場合もあり、二面性を有する。転写因子PU.1は組織線維化に関与する線維芽細胞の形質に重要な役割を果たす。炎症側に傾ける因子もわかると面白いですね! 
Nature. 2019 Feb;566(7744):344-349. doi: 10.1038/s41586-019-0896-x. Epub 2019 Jan 30.
PU.1 controls fibroblast polarization and tissue fibrosis.

足場の硬さがOPCの幹細胞性に関与する

2020-03-13 18:09:32 | 発生・再生・老化・組織修復
Oligodendrocyte progenitor cells (OPCs)は存在するnicheの加齢による「硬さstiffness」の変化によって幹細胞機能を失う。逆に機能を失ったOPCを若年のnicheを模した足場で培養すると機能回復が見られた。これらの反応には伸展活性化チャネルPiezo1が関与している。「歳を取ると頭がかたくなる」というのは真実であったか。
Nature. 2019 data-ft="'{"tn":"H"}'>

プラナリアの再生メカニズム

2020-03-13 18:08:22 | 発生・再生・老化・組織修復
ある種のプラナリアは身体を前後に自切(横分裂)後、頭部断片と尾部断片のそれぞれが再生し倍化する繁殖方法をとる(fission)。しかしその頻度が少ないため、詳細なメカニズムは不明であった。本論文で著者らはfissionの頻度が高い大型プラナリア(Schmidtea mediterranea)を用いて、fissionを起こす部位はプラナリアのサイズや形態によってあらかじめ規定されていること、TGF-β, WNT系がプラナリアのサイズ依存性mechanosensory neuronを介してfissionの頻度を制御していることを明らかにした。 
Nature. 2019 Aug;572(7771):655-659. doi: 10.1038/s41586-019-1478-7. Epub 2019 Aug 15.
Wnt and TGFβ coordinate growth and patterning to regulate size-dependent behaviour.

老化とreprogramming

2020-03-13 17:36:31 | 発生・再生・老化・組織修復
いわゆる山中4因子(OCT4, KLF4, SOX2, MYC)によって線維芽細胞からiPS細胞が誘導される(reprogramming)ことはよく知られていますが、その効率に加齢ageingが及ぼす影響は明らかになっていません。この論文で著者らは平均としてのreprogramming効率はageingによって変化しないが、reprogramming効率の個体差が増えることを示しました。また①高齢マウスから得られた線維芽細胞ではactivated fibroblastの特徴を示すsecreted factors(cytokine signaling), extracellular matrix, contractility, inflammationおよびwound healingなどに関連した遺伝子発現がみられ、転写因子Ebf2の発現も上昇していた。②老化線維芽細胞にはTHY1+PDGFRα+細胞が豊富であり、この細胞はEbf2および炎症性サイトカインを発現していた。③THY1+PDGFRα+活性化線維芽細胞自体のreprogramming効率は低いが、reprogrammingを促進する因子を産生していた。産生因子の中でIL-6はreprogrammingを促進し、TNFやIL-1はこれを抑制した。④高齢マウスにおける皮膚の創傷治癒過程を解析したところ、創傷治癒速度に個体差(fast healing, slow healing)がみられた。局所に出現する線維芽細胞をsingle cell RNA-seqで解析したところ、A, B, C3つのsubpopulationに分類可能であり、subpopulation Aはfast healingマウス, slow healingマウス双方でみられたが、subpopulation Bはfast healingマウスでみられ、TNFの発現が高かった。一方subpopulation Cはslow healingマウスでみられ、Ebf2の発現が高かった。
以上の結果から著者らはageingに伴う線維芽細胞活性化およびサイトカイン産生のheterogeneityが線維芽細胞のreprogramming能および創傷治癒を制御する可能性があると結論付けていますが、Natureの論文にしては詰めが甘いように思います。Ageingによって線維芽細胞のheterogeneityが増すことは確かだと思いますが、これらの線維芽細胞が産生する因子が実際に創傷治癒過程に関与するかどうかは、中和抗体を用いた実験や線維芽細胞特異的なノックアウトマウスを用いた実験での検証が必要でしょう。また実際の患者でもTNF inhibitorやIL-6 inhibitorを使用している患者でそれほど創傷治癒が異なるとも思えないのですが。。 
Nature. 2019 Oct;574(7779):553-558. doi: 10.1038/s41586-019-1658-5. Epub 2019 Oct 23.
Heterogeneity in old fibroblasts is linked to variability in reprogramming and wound healing.