近年データベースに大量に蓄積されつつあるゲノムデータやsingle cell RNA sequencing (scRNA-seq)から得られた遺伝子発現データなどを駆使して色々と推論を進めていく、というバイオインフォ―マティクスの手法は、conventionalなcell biologyになじんできた私には何やら具体性に欠けるような気がして、どうもとっつきにくい感が拭えないのですが、そもそもが複雑系である生体のダイナミズムを総合的に把握するにはこのようなアプローチがふさわしいのかも、と考えています。この論文は、様々な臓器や細胞と、脊髄後根神経節 (DRG)の遺伝子発現プロファイルを用いたligand-receptor interactomeから、主として疼痛の伝達に関与する分子機構を解析したものです。例えば関節リウマチ (RA)患者の滑膜マクロファージのscRNA-seqデータから、RA滑膜マクロファージに特異的に発現しているligandとDRGに発現しているreceptorの情報から、ErbB familyがRAにおける疼痛に関与しているのではないかと推測しています。同様の手法を用いて膵臓癌においても、癌細胞が発現するErbB familyが疼痛に関与しているのではないかとしています。最終的にはErbB familyであるHBEGFをマウスに投与することで疼痛を惹起したり、ErbB familyのantagonistであるlapatinibが疼痛を改善させることで上記推論の妥当性を検証しています。このような種類の研究はどうしても結論があいまいになるのですが、本研究では具体的な分子にまでたどりついたという点で興味深いものとなっています。
Andi Wangzhou et al., A ligand-receptor interactome platform for discovery of pain mechanisms and therapeutic targets. Science Signaling 16 Mar 2021:
Vol. 14, Issue 674, eabe1648 DOI: 10.1126/scisignal.abe1648