【友達みたいにカーネーションを買う勇気が
なかったから、摘んできた!と
プレゼントしてくれた「母の日のツツジ」】
モヤシは息子が食べる数少ない野菜のひとつ。
炒めものや、ラーメン、ヤキソバや、
「もんじゃ焼き]にもゼッタイ欠かせない。
さっとゆでてドレッシングをかけてサラダにすると、
シャキシャキ感がおいしくて我が家の必需野菜である。
***************************
そうそう。
「もんじゃ焼き」を家庭の夕飯に
出すところはきっと少ないだろう。
我が家では、遊びに来た子どもたちにも大好評な
定番メニューのひとつである。
具は、キャベツとたっぷりのモヤシ。豚肉や挽肉、牛肉など
なんでもOK。そのほかコーンや揚げ玉など、あるものを
適当に入れる。味付けはウスターソースと醤油、粉末だしと
削り節1パック。 最近は市販のもんじゃ専用の粉が売っているが
小麦粉で十分おいしい。
***************************
作り方は江東区で育った高校時代の友人が教えてくれた。
話にはよく聞くが、昔は本当に駄菓子屋にあった
子どものおやつだったという。
駄菓子屋さんの奥に鉄板があって
おばちゃんに注文すると、お椀に小麦粉を水で溶く。
そしてソースをちょこっとたらして、鉄板の上に
文字を書いてくれるのだそうだ。
子どものためのシンプルで素朴なおやつが今や
別物のように一人歩きし、月島はもんじゃのメッカとなり
ひと皿ほんの少しで1000円弱という価格は
もはや駄菓子というスタートラインから
大きくかけ離れてしまったようである。
それでも東京下町の人たちは、それぞれの思いを抱きながら
その文化を築いてきたことに誇りを持っている。
***************************
3年ほど前だっただろうか。
江戸川区の「平井」という駅に用事があって知り合いと、
そして息子と3人で出かけたことがあった。
夕食を一緒に食べましょう、ということになり、
何がいいですか?と訪問先の人に聞かれた。
私の知り合いが「この辺りの「もんじゃ」はすごいですよ!」と
おススメしてくれたが、先方は「えっ?本当にいいんですか?
地元の人しか食べに来ないような昔からの店ですよ!
ほかからわざわざ食べに来る人なんていませんよ。
本当にいいんですね!」と何度も念を押された。
そんなに言われるとなんだか怖いもの見たさのような
気分でワクワクする。
2階建てての低くて古い家屋が立ち並ぶ、
昔ながらの住宅街にその店はひっそりと営業していた。
目印は店の前に立てかけてある“よしず”のみ。
看板やのれんなど店をアピールするものが一切ないのだ。
うっかりすると通り過ぎてしまうほど普通の民家なのである。
店の名前も地元の人でさえよくわからないのだという。
だからもちろん、私もまったく覚えていない。
訪問先の人と、知り合いの2人が店名の最後の一文字に
ついて長いことモメていたが、結局正しい名前は知らないようだ。
そして、なんだか店中がベタついているような、
油でセピア色に染まった店内。
一瞬自分が子どもの頃にタイムスリップしたような気分。
すごく懐かしい。昔こんなお店よくあったよな、という
机とイス。そして、店全体の醸し出すレトロな雰囲気。
店内にある、ビンのコーラや飲料水が入った冷蔵庫には、
ドア付近に栓抜きが一体化となって備えついている。
アンティークファンなら垂涎の一品だ。
まだ、超現役で活躍していて、しかも自分で取りにいき、
シュポッっと自分で栓を開けてから席に戻る。
…飲み物のオーダーは取りにきてくれないのだ。
しかも、ビールは本物の家庭用冷蔵庫に入っている。
そして、もんじゃの必須アイテム「ベビースターラーメン」は
あの有名なブランドではなく、すごくマイナーな
5センチ角ほどの小さな袋のタイプがおやつのビンに
ギュウギュウに詰まっていて、自分で好きなだけとっていい
スタイルなのだ。もちろんそのまま食べたってかまわない。
「1コ 10円」と紙に書いてテープでビンにとめてある。
最後に、飲み物のビンの数と封を開けた袋の数を
店のおばちゃんが数えにくる、完全自己申告制である。
もちろん、隠蔽工作も可能なのだが、そんなセコイことを
する気にならないほどの大らかさである。
そして一番驚いたのが、お客さんたちだ。
みんな、風呂あがりのパジャマ姿でサンダル履きなのだ。
小さい子どもがいるファミリーも髪の毛をよく乾かしていないし、
お隣んちにご飯を食べにきたような、リラックスムードが
店内を包み込んでいる。
ここはホントに東京?今は平成だったよな?
時が止まっている場所???そんな妙な気持ちになる。
店というより、みんなの“台所”なのだ。
だから看板なんて必要ないわけだ。
名前なんでどうでもいいのだ。
だって“台所”なんだから。
きっと、ネットで検索してもでてくるハズもないだろう。
広く世間に知らしめて営業する必要などない、
もんじゃ屋さんの原点に忠実なスタイルを
しっかりと貫いているのである。
そしてお客さんも、お店のおばちゃんも
「うちの“もんじゃ”が本物!昔からの味なのよ。」と
胸を張って言っていた。
***************************
“モヤシ”にはけっこうこだわりがある。
「グルメモヤシ」は細すぎて繊細なようだが、
逆にみずみずしさにかける。
「緑豆モヤシ」や「ブラックマッペ使用」などは
一番オーソドックス。昔からの正統派“モヤシ”である。
あの「ヒゲ」と呼ばれる部分はなるべく取り除いてから
使うようにしているが、結構めんどくさい。
でもあのシャキシャキ感を味わえると思うと、
時間があれば、ひと手間かけてとっている。
そして、ここ数年前からのお気に入りが
最近CM でしきりに宣伝している雪国“モヤシ”だ。
しっかり太い。しかも、なんと根が切ってある。
つまり「グルメ」タイプと「オーソドックス」タイプの
欠点をみごと克服しているのだ。
CMで「高いから絶対買うなよ~」と止められているが
あの手間を考えると、本当にありがたい。
ところが最近、“モヤシ”売り場に異変がおきた。
なんと、その雪国“モヤシ”がいつも売り切れなのである。
あれだけ、買うなと歌っているにもかかわらず、
人間はへそ曲がりだ。
***************************
そんな話を息子にしたら、
「それってさ~、まるで自分が売れない時から一生懸命
応援していたインディーズのグループが、いきなり
メジャーデビューしちゃうとさ、なんだか急にさびしいよね。
そんな気分でしょ?」と分析してくれた。
そうね、あたらずとも遠からずかな。
まあ、言われて見ればそんなカンジかも。
“モヤシ”はいつの日かまた落ち着いて買える日がくるだろう。
そんな程度の思い入れかもしれない。
なにしろ、量産できるモノだから。
でも、世界にたったひとつしかない、あの大切な台所、
“もんじゃ屋さんの原点”がメジャーデビューなどしたら
お客である「もんじゃ家族」たちはきっと悲しむだろう。
なかったから、摘んできた!と
プレゼントしてくれた「母の日のツツジ」】
モヤシは息子が食べる数少ない野菜のひとつ。
炒めものや、ラーメン、ヤキソバや、
「もんじゃ焼き]にもゼッタイ欠かせない。
さっとゆでてドレッシングをかけてサラダにすると、
シャキシャキ感がおいしくて我が家の必需野菜である。
***************************
そうそう。
「もんじゃ焼き」を家庭の夕飯に
出すところはきっと少ないだろう。
我が家では、遊びに来た子どもたちにも大好評な
定番メニューのひとつである。
具は、キャベツとたっぷりのモヤシ。豚肉や挽肉、牛肉など
なんでもOK。そのほかコーンや揚げ玉など、あるものを
適当に入れる。味付けはウスターソースと醤油、粉末だしと
削り節1パック。 最近は市販のもんじゃ専用の粉が売っているが
小麦粉で十分おいしい。
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作り方は江東区で育った高校時代の友人が教えてくれた。
話にはよく聞くが、昔は本当に駄菓子屋にあった
子どものおやつだったという。
駄菓子屋さんの奥に鉄板があって
おばちゃんに注文すると、お椀に小麦粉を水で溶く。
そしてソースをちょこっとたらして、鉄板の上に
文字を書いてくれるのだそうだ。
子どものためのシンプルで素朴なおやつが今や
別物のように一人歩きし、月島はもんじゃのメッカとなり
ひと皿ほんの少しで1000円弱という価格は
もはや駄菓子というスタートラインから
大きくかけ離れてしまったようである。
それでも東京下町の人たちは、それぞれの思いを抱きながら
その文化を築いてきたことに誇りを持っている。
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3年ほど前だっただろうか。
江戸川区の「平井」という駅に用事があって知り合いと、
そして息子と3人で出かけたことがあった。
夕食を一緒に食べましょう、ということになり、
何がいいですか?と訪問先の人に聞かれた。
私の知り合いが「この辺りの「もんじゃ」はすごいですよ!」と
おススメしてくれたが、先方は「えっ?本当にいいんですか?
地元の人しか食べに来ないような昔からの店ですよ!
ほかからわざわざ食べに来る人なんていませんよ。
本当にいいんですね!」と何度も念を押された。
そんなに言われるとなんだか怖いもの見たさのような
気分でワクワクする。
2階建てての低くて古い家屋が立ち並ぶ、
昔ながらの住宅街にその店はひっそりと営業していた。
目印は店の前に立てかけてある“よしず”のみ。
看板やのれんなど店をアピールするものが一切ないのだ。
うっかりすると通り過ぎてしまうほど普通の民家なのである。
店の名前も地元の人でさえよくわからないのだという。
だからもちろん、私もまったく覚えていない。
訪問先の人と、知り合いの2人が店名の最後の一文字に
ついて長いことモメていたが、結局正しい名前は知らないようだ。
そして、なんだか店中がベタついているような、
油でセピア色に染まった店内。
一瞬自分が子どもの頃にタイムスリップしたような気分。
すごく懐かしい。昔こんなお店よくあったよな、という
机とイス。そして、店全体の醸し出すレトロな雰囲気。
店内にある、ビンのコーラや飲料水が入った冷蔵庫には、
ドア付近に栓抜きが一体化となって備えついている。
アンティークファンなら垂涎の一品だ。
まだ、超現役で活躍していて、しかも自分で取りにいき、
シュポッっと自分で栓を開けてから席に戻る。
…飲み物のオーダーは取りにきてくれないのだ。
しかも、ビールは本物の家庭用冷蔵庫に入っている。
そして、もんじゃの必須アイテム「ベビースターラーメン」は
あの有名なブランドではなく、すごくマイナーな
5センチ角ほどの小さな袋のタイプがおやつのビンに
ギュウギュウに詰まっていて、自分で好きなだけとっていい
スタイルなのだ。もちろんそのまま食べたってかまわない。
「1コ 10円」と紙に書いてテープでビンにとめてある。
最後に、飲み物のビンの数と封を開けた袋の数を
店のおばちゃんが数えにくる、完全自己申告制である。
もちろん、隠蔽工作も可能なのだが、そんなセコイことを
する気にならないほどの大らかさである。
そして一番驚いたのが、お客さんたちだ。
みんな、風呂あがりのパジャマ姿でサンダル履きなのだ。
小さい子どもがいるファミリーも髪の毛をよく乾かしていないし、
お隣んちにご飯を食べにきたような、リラックスムードが
店内を包み込んでいる。
ここはホントに東京?今は平成だったよな?
時が止まっている場所???そんな妙な気持ちになる。
店というより、みんなの“台所”なのだ。
だから看板なんて必要ないわけだ。
名前なんでどうでもいいのだ。
だって“台所”なんだから。
きっと、ネットで検索してもでてくるハズもないだろう。
広く世間に知らしめて営業する必要などない、
もんじゃ屋さんの原点に忠実なスタイルを
しっかりと貫いているのである。
そしてお客さんも、お店のおばちゃんも
「うちの“もんじゃ”が本物!昔からの味なのよ。」と
胸を張って言っていた。
***************************
“モヤシ”にはけっこうこだわりがある。
「グルメモヤシ」は細すぎて繊細なようだが、
逆にみずみずしさにかける。
「緑豆モヤシ」や「ブラックマッペ使用」などは
一番オーソドックス。昔からの正統派“モヤシ”である。
あの「ヒゲ」と呼ばれる部分はなるべく取り除いてから
使うようにしているが、結構めんどくさい。
でもあのシャキシャキ感を味わえると思うと、
時間があれば、ひと手間かけてとっている。
そして、ここ数年前からのお気に入りが
最近CM でしきりに宣伝している雪国“モヤシ”だ。
しっかり太い。しかも、なんと根が切ってある。
つまり「グルメ」タイプと「オーソドックス」タイプの
欠点をみごと克服しているのだ。
CMで「高いから絶対買うなよ~」と止められているが
あの手間を考えると、本当にありがたい。
ところが最近、“モヤシ”売り場に異変がおきた。
なんと、その雪国“モヤシ”がいつも売り切れなのである。
あれだけ、買うなと歌っているにもかかわらず、
人間はへそ曲がりだ。
***************************
そんな話を息子にしたら、
「それってさ~、まるで自分が売れない時から一生懸命
応援していたインディーズのグループが、いきなり
メジャーデビューしちゃうとさ、なんだか急にさびしいよね。
そんな気分でしょ?」と分析してくれた。
そうね、あたらずとも遠からずかな。
まあ、言われて見ればそんなカンジかも。
“モヤシ”はいつの日かまた落ち着いて買える日がくるだろう。
そんな程度の思い入れかもしれない。
なにしろ、量産できるモノだから。
でも、世界にたったひとつしかない、あの大切な台所、
“もんじゃ屋さんの原点”がメジャーデビューなどしたら
お客である「もんじゃ家族」たちはきっと悲しむだろう。