
わたしのもっとも敬愛するベースボールプレーヤーである野茂英雄が大谷に会うためにわざわざキャンプを訪れたというニュースがあった。「誰もやっていない二刀流にぜひ挑戦し続けてほしい」と励ましたとの報道。栗山監督にも「もっとわがまま聞いてやってほしい」というような話をして背中をおしたらしい。
それを読んで「さすが、野茂」とうれしくなった。

大谷の二刀流挑戦については多くの評論家が「そんなものできるか」と否定的で、野村元監督のように「野球をなめてるのか」的な発言もある。
日本では打撃の神様・川上哲治が一時二刀流だったらしい。といっても戦前の話(1938~1941)。実働4年間で登板39のうち先発が25回。投球イニングがちょうど200。通算成績11勝9敗、防御率2.61と目立った成績ではない(Wikipediaより)。
しかしながら、バッティングはすでに「神様」にふさわしい成績だった。投手として入団した1938年を別とすると、1939~1941の3年間は二刀流にもかかわらず打者最高成績に匹敵する内容。とりわけ長打率、OPSは3年連続リーグトップ。1939と1941は打点と打率の2冠。1940はホームラン王だった。

メジャーでもフェルナンド・バレンズエラが打撃もすごいと話題だった記憶があるけど、調べてみたら確かにシルバー・スラッガー賞を2度とってはいるものの驚くようなバッティング成績ではなかった(わたしの記憶違いか)。
二刀流はやはり無理なのか?
いや、いた。ものすごい選手が二刀流の活躍を残していた。ベースボールの歴史上最大のヒーローであるベーブ・ルースだ。
メジャー・デビューは1914。ヤンキースのライバル ボストン・レッドソックスのピッチャーとしてだった。。最初はボストン所属の投手だったという話は聞いた記憶があるが、これほどの実績を残していたとは知らなかった。この年出場した5試合のうち4試合が投手としての出場だったそうだ。ヤンキースに移籍後も登板した5試合すべてで勝利投手となっているがほぼ打者としての出場でありファンサービス的な位置付けだったようだ。
しかし、ボストン時代の成績は投手としてもすさまじい。実働6年間(1914~1919)で89勝46敗4セーブ。1年目を除くと実働5年で実に87勝45敗、防御率2.16。まさしくエース級の活躍といえそうだ。1916・1917の2年間が投手としては絶頂で先発79試合で完投58完封15、23勝、24勝を挙げて1916年は防御率トップの1.75だった。
1917年までは投手以外での出場は44試合だそうだが1918・1919の2年間はまさに二刀流の時代。言葉にならないほどすごい。
投手としても13勝7敗、9勝5敗の成績を残しながら、打者としても長打率、OPSが2年連続でトップ。2年連続でホームラン王で3割以上をマーク。1919年は打点王も獲得している。いくら戦前の話とはいえけた外れの選手だったことは疑いようがない。

ベーブ・ルース以降(以前も)二刀流として目立った成績を残した選手はいないようだ。
日本では投手兼任8年間で通算65勝、打者としても通算1137安打を打った解説者としてもおなじみの関根潤三さんが二刀流最高成績ということらしい。二刀流時代にも打数は少ないが3割を2度マークしているし、3シーズン連続で10勝以上(最高16勝)を記録している。どちらも立派な数字だとは思うが、逆に言うとどちらも「けっこういいピッチャー、バッター」というくらいの評価にとどまる。

2人とも、いずれかのタイミングでバッターに転向している。大谷翔平は果たしてどちらの道へ挑むのか? 昨年の成績は投手で3勝0敗、防御率4.23。バッターとしては77試合に出場して打率238でホームランが3本、打点20。数字だけ見ればどちらも物足りない。ただ、よーく考えれば大谷は高校出たばかりの1年目のルーキーなのである。高卒ルーキーがレギュラーを獲るのも極めて難しいなか、投打の両方でレギュラーに近い(兼務ゆえに数字的には控えレベルだが)働きを見せたともいえる。
そういう意味では今年が勝負ではないかと思う。大谷クラスの素質で今年もこのくらいの数字だと、球団としてはひじょうに「もったいない」という議論になるはずだ。
投手に専念すればうまく育てれば近いうちに15勝~20勝期待することはできそうだし、打者1本なら今でも3割30本いけるかもしれない。
ピッチャーとしてはもちろん日本最速の速球に魅力があるが、それこそ球が速けりゃ勝てるという時代では今はない。170kmなら話はまた別だが。
ベーブ・ルースほどの成績でも、やっぱり最後は打者に専念している。大谷の柔らかいバッティングは天才的な気がする。
大谷はここまですでに5試合に登板して3勝を挙げている。バッターとしても打率379の高打率を残し、打点12、ホームラン1本。何よりすごいのは現代野球では最も重視される指標であるOPSが1.008をマークしていることだ。
5月8日(2014)現在、規定打数に到達している選手ではソフトバンクの内川がOPSトップで1.002。1以上は内川ただ1人しかいない。
すでに5試合に登板しているということは、投手としてほぼローテーションを守ることを優先しながら合間に野手としても出場しているパターン。投手としてはこのペースで行くと二桁勝利は可能だ。打者としてはどうしても打数が足りないのが痛い。また、外野を守ることが多いのも負担が大きいのではないか。イチローにも匹敵するレーザービームにも期待してるのかもしれないが、少々欲張り過ぎな気もする。1塁など比較的負担の軽いポジションが望ましい気がする。背も高いんだし。
現代の専門化、高度化したベースボールでは二刀流は確かに簡単ではない。ベーブルースほどの成績を残すことは至難に違いない。しかも相手はベーブ・ルースなのだから。史上最高の選手!
いずれどちらかに専念するにしても、二刀流の間に部門最高成績のタイトルを1つくらい取ってほしいと思う。
がんばれ、大谷! 今、日本のプロ野球で一番見てみたい選手にちがいない。