石油業界のナポレオン:英国のユダヤ人、マーカス・サミュエルhttps://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/7addcc3b4d7d47626e3ddf56898b30ec
からの続き
ロイヤル・ダッチ石油会社vsシェル輸送会社
マーカス・サミュエル率いるシェル輸送会社の石油業界への転向は、当然ヘンリー・デターディング率いるロイヤル・ダッチ石油会社との競合関係になりました。
当時、ロイヤル・ダッチ社は、オランダ領東インド(インドネシア)の石油を輸送するために、わずか一艘の油槽船(タンカー)しかなかったのに対して、ロスチャイルド家から資金援助を受けたシェル社は、次々に油槽船(タンカー)を建造しして、極めて安価な運賃で自己経営の石油を輸送することができました。
デターディングにとっては、このロンドン生まれのユダヤ人、マーカス・サミュエルこそが当面の敵でした。 少なくとも、ロックフェラーはそう考えて、南洋における英・蘭の石油抗争を、冷たい目で眺めていました。
どちらが倒れるか、、形勢を見た上で、石油王として、余裕をもって、勝負すればよいと考えていたのです。 大スタンダード石油から見れば、この両者の石油の量は、物の数ではなく、北米の油井は、刻々に動く秒針の間に巨万の富を生み出していました。
パイプラインを独占し、全米の石油を支配していたロックフェラー
ロックフェラーは、1881年に39の石油会社を合併し、資本金7,500万ドルとなり、米国石油の95%までを支配するようになりました。 そして、その翌年、世界経済史上の怪物、大スタンダード・トラストの成立を見るに至りました。
この石油トラストには、ジョン・ディ・ロックフェラーを中心として9人の委員からなる委員会があって、連盟39会社の代表機関となり、ここで最高政策を決定して、指令一つで連盟会社を動かし、米国石油業界を自由自在に操るようになっていました。
ロックフェラーがそういった石油王国を築きあげるまでには、経済戦上の巧みな戦略と金権を縦横に駆使した謀略があったことはうまでもありません。
1870年代、彼はまずペンシルベニア鉄道のジョウェットと提携し、密に運賃割引の協定を結びました。これらの鉄道は、米国東部の商工地帯を走っていたので、石油輸送に極めて有利な地の利を占めていました。 そして、これらの鉄道の巨頭たちはロックフェラーの会社の株を掴まされていたので、配当金の増加を謀るためにも、ロックフェラーに味方せざるを得ませんでした。
その結果、スタンダード石油競争者に対する石油輸送の運賃は、2倍にも3倍にもなり、商売はうまくいかなくなり、競争者が弱り果てたところを見込んで、ロックフェラーはこれを買収し、自分の傘下に抱き込みました。 最初、ロックフェラーが石油業に手を染めた頃には、ペンシルベニア州各地に散在する製油所から石油を購入し、これを木製の油槽馬車に積んで市場に運んだものでした。
ついで、この木製油槽馬車が、鉄製の油槽と変わり、さらに油層貨車を製造して、鉄道との割引契約によってレールの上を走らせることに成功しました。 しかし、ロックフェラーはさらに進んで、鉄道の割引運賃以下で輸送することを考案しました。 送油官線(パイプライン)が初めて作られたのです。
このパイプラインによって油井から湧き出た原油は、製油所に送られ、精油は再び管を流れて各港に運ばれます。 このパイプラインによて、最低運賃よりも約6分の1で、石油を輸送することができるようになりました。このパイプラインこそが、米国に於けるスタンダード石油社の石油専売を確立した最大の理由です。
パイプラインの設置は大変高価なもので、到底小さな会社の力では及びもつきません。直径16インチの鉄管を何百マイルと繋ぎあわせるだけでも大変な費用なのに、ポンプ装置もいれば、冬季凍結しないための保温装置も必要です。 その上、地代も払わなければならず、米国では1マイルのパイプラインが益2万ドルはかかると言います。
ちなみに現在、米国内のパイプランの延べマイル数は約20万マイル、実に地球を5重に取り巻く長さと言われています。(1マイル=1.6009km)
パイプラインを独占されては、いくら優秀な油井をもっていたところで、小さな石油業者は太刀打ちできません。従来通りの運賃を支払って、スタンダード石油に対抗しようとすれば、元値を切って販売しなければなりません。 たとえ、スタンダード石油に対抗してパイプラインを設置しようとしても、ロックフェラーはすでに金にものを言わせ政治力も支配しているので、椅子にふん反りかえっているだけで、競争相手を屈服させることができました。
贈賄、金力、政略、こうしてロックフェラーは全米の石油を一手におさめることがでいたんです。 アメリカ政府より力を持ち出したロックフェラーは欧州のロスチャイルドのような存在となりました。 そしてますます傲慢で悪どくなるロックフェラーは、1892年、セオドア・ルーズベルト大統領のトラストっ征伐となり、シャーマン法(アメリカの独占禁止法)の発動を見るに至りました。
しかし、このトラスト法は表面的なもので、政府と癒着したスタンダード・トラストは、依然として実質的に存在していました。
ロイヤル・ダッチ・シェル(実質ロスチャイルド)の設立と、争うスタンダード石油(ロックフェラー)
全米での地上に於いてはパイプラインの独占によって米国石油業を制覇したロックフェラーは同じ方法でロイヤル・ダッチ社、シェル社に立ち向かいました。西太平洋の一角から敢然として挑戦してきたロイヤル・ダッチ社は、不幸にして一艘のタンカーをもっているに過ぎませんでした。
オランダ領東インド(インドネシア)から算出する石油を世界の市場に配給するには船で輸送するしかなかったのです。 これに目をつけたロックフェラーは金の力で、片っ端からタンカーとの契約を結び、一艘たりともロイヤル・ダッチ社に利用されないようにしました。 この悪辣な閃絡は、たしかに一時的にデターディングを悩ましましたせっかくの商品もむなしく倉庫内にうず高く積みあげられるばかりで、これを輸送することができなくなりました。
ロイヤル・ダッチ・シェルの設立とスタンダード石油への反撃
ロックフェラーの横暴に対し蟷螂の斧(かまきり=弱者が自分の実力を顧みず、今日じゃの立ち向かうことのたとえ)を振りあげていたデターディングは、小我を捨ててサミュエルと提携することになりました。サミュエルが十数隻のタンカーを持っていたからです。
かくして、ロスチャイルドの仲介により、1897年、ロイヤル。ダッチ石油会社社は、シェル輸送会社と合同して、ロスチャイルドも資本参加し、改めてロイヤル・ダッチ・シェル合同会社となり、スタンダード石油に対して反撃を開始しました。
ロスチャイルドが出てくれば、当時はまだロックフェラーとは実力と格が違います。 ロスチャイルドの親戚であるクーン・ローブのジェイコブ・シフが、ロックフェラーに資金援助し、経営のアドバイザーとなっていて、ロックフェラーは今日のように巨大財閥になれたのであり、またアメリカ議会の調査によれば、1900年頃、ロスタイルド家はアメリアの富の約2倍、全世界の約50%の富を支配していたとされています。
・ロスチャイルド財閥-111 国際金融財閥の序列
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/af41696ec05203f68b46d63b897e9b3d
・ロスチャイルド財閥-196 ロスチャイルド7代目当主 Alexandre de Rothschild
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/eb9df5eb208317312b0a1bf276cdbde2
・ロスチャイルド財閥-195 2012年ロスチャイルド の投資会社RIT・キャピタル・パートナーズがロックフェラー
資産運用事業の株式37%取得
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/6aeceba979c21512d0b651606778f7fc
この合弁から、ロイヤル・ダッチ・シェルは英国資本の会社と考えられるようになり、オランダ人デターディングも大英帝国の大石油業者であるかのように考えられるようになっています。 デターディングングが振り上げた蟷螂の斧葉、既にカマキリの斧ではなくなり、ロックフェラーの牙城を脅かす切れ味をもっていたのです。
世界の石油輸送組織をも独占しようとのロックフェラーの夢は惨めにも破られたばかりか、逆にデターディングに覇権を奪いされれることになりました。 1900年までは、タンカーのほとんど全部は米国に属していましたが、今日では(欧州大戦前まで)世界汽船総トン数の10%を占め、約800万トンに達するタンカーのうち72%までは、デターディング及びその勢力下にあったのです。
ロイヤル・ダッチ・シェルをしてスタンダード石油に匹敵する石油王国を建設せしめたのは、実におの輸送力でした。そしてその輸送力を完備したのは、ずんぐりした風采のあがらないユダヤ人マーカス・サミュエルでした。
こうして陣容が整うと、デターディングは積極的に対ロックフェラー石油販売戦を開始。 海上輸送の覇権を握り損ねたロックフェラーは、各所に敗戦の憂き目を見なければなりませんでした。 サミュエルのタンカーと老チャイルドの黄金・資金力を後盾に、デターディングは戦略を縦横に駆使してロックフェラーを悩ませました。
やがて戦場は志那大陸に移され、ここにロスチャイルド一大血戦が展開します。 そして結果は、ロイヤル・ダッチ・シェルの勝利となり、ロックフェラーは極東における覇権もロイヤル・ダッチ・シェルに一時、譲らなければばならなくなりました。 これについて詳細は、次の投稿で紹介したいと思います。
(参考)
石油業界のナポレオン:英国のユダヤ人、マーカス・サミュエル https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/7addcc3b4d7d47626e3ddf56898b30ec
独ガソリン・ディーゼルエンジンと仏プジョー、そしてロスチャイルドhttps://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/e16baece0ccf5acec5e58e26f8bdcd04
ロックフェラーより早かった日本の石油商用化
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/7bf2a45203a4f71982dfdf7e53dd2c02
石油の発見と利用の人類史
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/b555050c36935ad6e972408f0bae2c6b
・ロスチャイルド財閥-16 自動車産業
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/f92d2d9e8b9e21aa5c5bb98624738254
・ロスチャイルド財閥-15 植民地アルジェリア
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/2f12b3927faea268ab5c943d43187f17
・ロスチャイルド財閥-14 鉄道事業への参入
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/d5a4e286ac7c0ae56bd9c0fc003f6e4f
・ロスチャイルド財閥ー85 ヴェネチアの黒い貴族: 人類史絶対勝者のルーツ
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/ee17d9c2af99e8fb646a1c44d6e8e129
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