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サバンジ財閥(トルコ)

2022-09-14 08:57:28 | 国際政治・財閥

トルコには、サバンジ財閥とコチ財閥という2つの大きな財閥があります。

サバンジは、第一次産業をベースに発展を遂げ、コチは欧米系有力企業との提携によって重工業分野へ注力していきました。 



日系企業との関係では、前者がトヨタ自動車やブリジストンと、後者が住友商事とそれぞれ合弁企業を持つなど、深い関係を持っています。2002年になってサバンジとトヨタ自動車との間に新しい関係が生じています。

それはトヨタがトルコをイギリス、フランスに次ぐヨーロッパでの生産拠点と位置づけ、1990年からサバンジと運営してきた合弁会社のトヨタ社をトヨタ側が全面的に所有することになりました。 



これによって、新しくトヨタモーター・マニュファクチャリング・ターキー(TMMT)となった新会社は、カローラなどをヨーロッパ格国に輸出するようになりましたが、サバンジとトヨタとの友好関係が切れたわけではありません。

また、サバンジ・グループの有力化学会社ピルサ・プラスチクサナイ社は、シャープの輸入代理店となり、1999年からカラーテレビ、冷蔵庫、洗濯機、オーディオ製品などの取り扱いも始めました。




トルコ最大の産業グループ サバンジ財閥

サバンジ・グループをトルコ最大の産業グループに育て上げたのは、サキップ・サバンジ(1934-)です。 ライバルのコチ・グループを引っ張るラハミ・コチ(1931-)とは、ほぼ同じ世代ということもあり、事業だけでなく個人的にも何かと比べられます。

サキップは持ち株会社のハジ・オマール・サバンジ・ホールディングス(HOSH)社の会長であり、一族の代表でもあります。 


HOSH社の傘下には、銀行、繊維、化学、タイヤ、小売り、タバコ、食品、セメント、貿易など幅広い分野に約70社の関連会社があります。 しかも、この企業群の中には、近年、海外有力企業との合弁会社が多くなってきており、それが特徴ということが出来ます。

HOSH社が企業集団として事業を広げるにしたがって、サバンジ一族の富も膨れ上がり、今日では、その資産は約4200億円とみられています。そのもとを切り拓いたのが持ち株会社の名前にもなっている創業者のハジ・オマール・サバンジ(1906-1966)であります。





創業者オマールから事業継承後、一大グループに育てたサキップ

オマールは、トルコ・アナトリア高原のカイセリーで貧農の子として生まれました。 5歳で父親を亡くし、14歳になると郷里を捨て、職を求めて南東部の綿花産地アダナに行き、綿花摘みの労働者として働きました。 

懸命に働いた彼は、4年後の1925年になけなしの所持金を元手に、ごく小さな綿花取引の会社を興します。 これが後の大企業集団の種となりました。



その後、アダナを中心にして綿花の事業を広げ、さらに繊維、金融などの分野にも進出し、着々と財閥への地歩を築いていきました。

社名には「AKbank」(アクバンク銀行)のようにトルコ語で「白色」を意味するAKをつけるケースが多くなっていますが、これはオマールがアナトリアの「A」のカイセリー「K」出身であるという意味と、綿花の色である白を兼ねたものであります。



オマールは6人の息子に恵まれました。彼が亡くなった翌年の1967年には、その息子たちをはじめ一族が相談し、持ち株会社のもとに、それぞれの事業会社を結集するという、現在のHOSH社のスタイルに変えています。 

そして1974年にはイスタンブールへ移住し、事業の多角化に、さらに邁進しました。 しかし、1978年、オマールの長男が死去して、次男のサキップが後継者となりました。



サバンジ・グループは、その後もサキップを中心にして現在に至っています。

サキップは、子供の頃からの貧しさもあって、高等教育を受けていません。 17歳になると父オマールの綿繰り工場を手伝い、そのまま実業界入りします。 その後、綿織物、食品、銀行などの経営に携わり、次々と成功をおさめていきました。 そのなかでも銀行は、トルコを代表する民間銀行にまで育て上げ、その資金力でサバンジ・グループの拡大に寄与しました。



こうしてサキップはトルコを代表する経済人となり、1996年にはトルコ実業家総会会長(日本の経団連会長に相当)に就任しています。

また、大学などでの講演依頼も多く、日本でいうところの松下幸之助や本田宗一郎にも似た国民的人気があります。




日本や欧米企業との関係強化

サバンジは、以前から日系企業との関係が深く、1970年代には小松製作所、1987年には三菱商事、三菱自動車と提携してバス製造技術を得るなどの実績を残しています。 

今の日本で「尚武」という」言葉は死語にちかいですが、明治時代までまでは日本でも潔さや武勇を尊ぶ気風がありました。トルコには、この尚武の気風がまだ残っているそうです。



トルコは親日的な国として知られていますが、その理由の一つが、こうした気質と感性の共通性にもあると言われています。 こうした背景もあって、現在では経済のみならず他の分野でも交流が深まってきています。 そしてサキップは、両国の交流に功績があったとして、1992年に日本政府から勲二等瑞宝章を贈られています。

サバンジ・グループは、日本以外の国々とも関係を深め、とくに欧米企業との提携・合併を進めてきました。 それはICI社、クノール社、フィリップス社など20件以上に及びますが、とりわけ」デュポン社とは包括的提携関係にあり、ポリエステル関連製品を生産する他、南米での共同事業も進んでいます。

 

・デュポン財閥https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/5226329b578cb7902e701c57de715b54

・フィリップス財閥 (ロスチャイルド家と縁戚関係)https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/c37fe1b33f4e7f76239b0d1d048ebfc1





女性実業家ギュレルなど、サキップを中心に一族の固い結束

このサバンジ・グループのなかで、現在きわめて注目される事業会社が、タイヤ製造のラッサ社であります。 その理由はトップの女性にあります。

トルコはイスラム教スンニ派が国民の大多数を占めるだけに、一般的に女性の活躍の場が限られています。 それだけにトルコでは女性の経営者は珍しい。 このラッサ社のトップの女性社長の名は、ギュレル・サバンジ(1957-)で、サキップの姪に当たります。 



ギュレルは、1988年、サバンジ・グループとブリジストンとの合弁事業にも参画したやり手の経営者でもあります。 

この合弁事業は、プリサ・ブリジストン・サバンジ製造販売(A・N・ピッケル社長)といい、本社はイスタンブールで、工場はその郊外のイズミット市にあり、従業員は約1450人で、主に乗用車とトラック・バス用のタイヤ生産に携わっています。



ギュレルは、ボスポラス大学で経営管理学を修めた後、HOSH社傘下のラッサ社に入社しました。

トルコでもちょうど自動車産業が発展の兆しを見せ始めていた頃でもありました。 自動車が普及するとともに、タイヤやチューブなどの国内需要も高まり、サバンジ・グループとしてもグッドイヤー、ユニロイヤルなど、アメリカの関係会社と提携を図る動きを見せていました。



こうしたなかで、ギュレルは成長部門のラッサ社で働くことになります。 彼女はまだ若い頃、タイヤやチューブなどの研究とその技術開発を身につけるため、単身、アメリカの大学で学び、さらにカナダの企業へ研修に出向いたりと、何事にも常に前向きな姿勢でチャレンジしました。

しかし、イスラムの男性優位社会であるトルコにあっては、いくらサキップの姪といっても、これは異彩を放ったことに違いありません。 ギュレルは、現在に至るまで一貫して同社に所属し、タイヤ、チューブの開発・製造・販売に従事してきました。



こうして、このラッサ社をはじめ、ギュレルが責任者になっているタイヤ部門は、トルコ国内の自動車タイヤ生産の5割近くを占めるようになり、さらに一部はヨーロッパへも輸出されるようになりました。

ギュレルはまた、日系企業のみならず欧米企業との提携や合弁事業への展開などにも先頭に立ちました。 とくに、前述のデュポン社との包括提携も、事実上は彼女が企画・推進してきたとみられています。



こうしてサキップを中心に一族の団結も強いサバンジ・ファミリーですが、1997年には、建設・自動車・プラスチックをの事業分野を担当していた末弟のオズデミルが左翼・ゲリラに襲われ暗殺されるという悲劇に見舞われています。

しかし、これ以降、サバンジ一族の結束はさらに強まり、事業展開もより積極性を増しました。 一族は、これまで以上に社会貢献活動にも熱意を示し、その一環として1999年の秋にはサバンジ大学を設立しています。




大型プロジェクトへの参入

周知のように、トルコはボスポラス海峡を境にして、ヨーロッパとアジアの接点に位置します。

かつてのオスマントルコ帝国の血を引くこの国も、現在、ヨーロッパ側から見ると、NATO加盟国、そしてEU(欧州連合)の準加盟国であると同時に、近隣の非アラブ諸国をベースとした国会経済圏(黒海経済協力機構)の基軸国という重要な立場と位置にあります。



こうした新たな環境が、トルコ経済にとって、プラスに働くことは間違いなく、それだけにサバンジ・グループのみならず、トルコ経済界の期待も大きいものがあります。

話題の大型プロジェクトも、第三ボスポラス大橋は2016年に開通され、三井物産、住友商事などの商社と新日鉄をはじめとする鉄鋼4社によるロシア産天然ガス用パイプライン黒海経由トルコ向け鋼管敷設工事、トルコ・ストリームも2020年に開通しました。



実は、半導体含め、産業を下支えする素材や設備は日系企業の技術や社が圧倒的で、特に継ぎ目のないシームレス鋼管パイプを作れ、供給できるのは新日鉄・住金しかなく、独占市場です。


(ご参考まで)

https://books.google.co.jp/books?id=HTB898cwLCoC&pg=RA1-PA39&lpg=RA1-PA39&dq=%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%97%E3%80%80%E6%97%A5%E6%9C%AC%E7%8B%AC%E5%8D%A0&source=bl&ots=Sojq9hhrF3&sig=ACfU3U3i-tEF270uU8mFN3R2IMK29sACrw&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwieitj-5pT6AhU6xIsBHQyjBzQQ6AF6BAgUEAM#v=onepage&q=%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%97%E3%80%80%E6%97%A5%E6%9C%AC%E7%8B%AC%E5%8D%A0&f=false




こうしたトルコの地政経済上の位置は、今後那さらに重要になります。 

それはトルコの企業ばかりでなく、世界中の企業の着目するところでありますが、こうした企業側の動きにトルコ政府の動きが遅いという声が高まっています。



サキップは、講演のたびに舌鋒鋭く、この国の政治家や官僚を「寄生虫」呼ばわりして、批判しています。 この発言がまた、国民の人気を博する原因となっています。

サバンジ一族のルーツは、中央アジアの大草原を疾駆していた遊牧騎馬民族だったという説もあり、サキップの鋭く厳しい発言は、その血によるのかも知れません。

 

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