30日、初回投票が実施されたフランス下院選のパリの投票所=ロイター
【パリ=大西康平、シントラ=南毅郎】
6月30日のフランスの国民会議(下院)選の初回投票で、与党の劣勢が鮮明となった。
極右や左派連合は財政拡大を訴えており、政府債務の膨張懸念が仏国債金利の上昇圧力となっている。市場の警戒感は、過大な赤字が広がる欧州各国にも広がりつつある。
初回投票の得票率は極右の国民連合(RN)が首位、左派連合が2位となったもようだ。RN、左派連合は共に財政支出拡大につながる主張を掲げる。
仏シンクタンクのモンテーニュ研究所によると、電気やガスへの付加価値税の20%から5.5%への引き下げや、年金給付額拡大といった主要政策は合計で年間で約200億ユーロ(約3兆4500億円)の費用がかかる。2024年の政府予算全体の4〜5%にあたる。移民への補助金削減などを主張するが、実効性の乏しさが指摘される。
左派連合「新人民戦線(NFP)」も最低賃金の引き上げや生活必需品の価格抑制といった目玉政策の年間の財政負担が約560億ユーロの規模にのぼる。
フランスの財政赤字はすでに厳しい。米格付け大手S&Pグローバル・レーティングは5月末に仏国債の格付けをダブルAからダブルAマイナスに1段階引き下げた。
フランスの財政赤字の国内総生産(GDP)比率は2023年に5.5%と、3%以内という欧州連合(EU)ルールを逸脱する。
マクロン大統領は財政再建で27年には3%に下げる計画を立てているが、同氏が率いる与党連合は3位に沈む見通しだ。
公的債務のGDP比率も23年ベースで109%に達する。米ゴールドマン・サックスの試算では、RNが選挙で躍進するリスクシナリオで27年に120%まで上昇すると試算する。
市場では既に仏国債への売りが膨らんでいる。
長期金利の指標となる10年物国債利回りは28日に約3.25%と、マクロン氏の下院解散発表前の7日比で約0.15%上昇(価格は下落)し、7カ月ぶりの高水準を付けた。信用リスクを示すドイツに対する上乗せ金利(スプレッド)は約0.75%と、17年以来7年ぶりの高水準まで上昇した。
1日の外国為替市場では、ユーロは対ドルで前週末時点からほぼ横ばい圏で取引されている。極右の伸長などの結果はある程度予想されていたため反応は限定的だ。
もっとも、利払い費を押し上げる国債金利の上昇は中長期的に財政の重荷となる。保有する国債の価格下落で銀行など金融機関での損失発生を招きかねない。
ある英運用会社の債券運用担当者は「下院解散直後から仏国債の持ち高を減らし続けている。政治の先行きが読めない局面では投資を控えざるを得ない」と話す。
「財政健全化を目指す姿勢が否定されれば、本格的な債券市場の危機が発生して(ドイツに対する)スプレッドは2〜3%まで上昇する可能性がある」と英キャピタル・エコノミクスのアンドリュー・ケニンガム・チーフ欧州エコノミストは分析する。
財政問題は欧州各国に影を落とす。EUの執行機関である欧州委員会は6月、フランスやイタリアなど域内7カ国の財政赤字が過大だとして、財政規律の改善に向けた勧告を表明した。
構造改革案を9月20日までに示さなければならず、25年予算の編成で紛糾する恐れがある。
先行きも厳しい。欧州委が今春まとめた経済予測によると、フランスの財政赤字比率は25年も5%台で高止まりする。
ユーロ圏20カ国で最も高いのはスロバキアの5.4%で、イタリアとベルギーが4.7%となる見通しだ。
フランスを含むユーロ圏の市場安定を担う欧州中央銀行(ECB)は財政不安の行方を注視している。ラガルド総裁は17日、パリ近郊のイベントで記者団に「金融市場の円滑な機能に細心の注意を払っている」とコメントした。ロイター通信が伝えた。
ECBはマイナス金利政策を解除して利上げを始めた22年7月、市場の動揺を抑える新たな緊急措置「トランスミッション・プロテクション・インスツルメント(TPI)」の導入を決めた。金利が無秩序に急騰するなど不測の事態に備え、必要に応じて国債などを買い支える内容だ。
もっとも、実際の発動条件は厳しい。買い入れの規模は「リスク次第で事前の制約はない」と定めるが、財政規律の改善などが前提になる。各国のモラルハザードを避けるため、無条件で買い入れはしない方針だ。
2024.07.01より引用