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次世代の窒化ガリウム半導体、24年EV採用で普及へ

2023-09-04 08:56:21 | エレクトロニクス・自動車・通信・半導体・電子部品・素材産業


                独インフィニオンが開発したGaN基板

 

電圧を制御するパワー半導体で強度が高い化合物を使った次世代品の研究開発が進む。有力候補の1つが窒化ガリウム(GaN)半導体だ。

シリコン単体を使った従来品と比べ電力ロスが小さく、大電力を消費する電気自動車(EV)やデータセンターへ利用が期待される。

普及には高価格が壁だが、2024年以降にGaN半導体を採用したEVが発売される計画があり、量産化で利用が広がる可能性がある。

パワー半導体は電気を流したり止めたりするスイッチの役割。同じ製品内でも部品によって対応する電圧や電流の大きさが異なるため、電圧や電気を変換する目的で使われる。

性能向上はEVの航続距離の延長や工場の省エネなどにつながる。GaN半導体は一部のEVに採用されている炭化ケイ素(SiC)半導体の次の世代に当たる。

GaN半導体は熱伝導率が大きく放熱性に優れている。スイッチの切り替え時に発生する電力ロスが従来品の半分以下であり、発熱量が小さい特徴がある。EVやデータセンター、小型電源などへの活用が期待されている。

一方で高電圧・高電流に弱く、鉄道や発電所などの用途には向いていない。量産化が進んでいないためSiCと比べて高額な点も課題だ。




基板技術に強み

パワー半導体は化学メーカーが開発した「基板」にトランジスタなどの素子を組み合わせて電子回路を積んだ「デバイス」を製造。

これを「システム」で制御する仕組み。このうち日本勢が強いのが基板技術だ。特許庁によると、00〜19年に世界で出願された関連特許の4割を日本勢が占めた。

GaN基板は三菱ケミカルグループ日本製鋼所と共同で従来より製品寿命を延ばす新たな製造法を開発した。23年度下期からサンプル出荷を開始し、24年度にも量産に乗り出す。住友化学も24年度に量産体制を整える予定だ。

デバイスではロームが22年3月にGaN製パワー半導体の量産を始めた。23年4月に新製品を発売して商品群を増やし、データセンターやACアダプター、通信基地局などへの利用を見込む。

東芝は24年度に新製品の市場投入を計画する。ルネサスエレクトロニクスニデックとEV向け駆動装置の開発で協力しており、GaNデバイスへの参入を検討している。

GaNデバイスには大きく2つの構造があり、現在主流の「横型GaN」はシリコンなどで製造した基板の上にGaN結晶を形成し、横方向に素早く電流を流す仕組み。加工に手間がかかるGaN素材を表面だけに使うため比較的実現しやすく、ロームや東芝が手掛けている。

一方でGaNの基板上にGaNを積むのが「縦型GaN」だ。全てGaN素材なので技術とコストの両面で事業化のハードルは高いが、より高電圧に耐えられる。EVで用いる電圧が800〜900ボルト帯になると、横型では耐えられない可能性がある。

国内では主に化学メーカーが開発している。豊田合成も大阪大学などと基板からデバイスまで一貫して開発している。

パワー半導体を制御するシステムは独ボッシュや中国勢が開発に力を入れている。国内企業ではロームが3月、GaNデバイスの動きを制御するIC(集積回路)技術を開発した。

電流・電圧の制御にかかる時間を従来の4分の1にあたる2ナノ(ナノは10億分の1)秒まで短縮。必要な部品も減らし回路の小型化に成功した。




世界市場、28年に2900億円に

次世代パワー半導体として有力候補のGaNが普及する起爆剤になりそうなのがEVだ。

パワー半導体分野で数十社と連携している名古屋大学の山本真義教授は「24年にもGaNを搭載したEVが発売される。その時はテスラ並みのインパクトがあるだろう」とみる。

米テスラは17年、EVの「Model 3」にスイスSTマイクロエレクトロニクスのSiCパワー半導体を採用した。これを契機にSiC製品の量産と低コスト化が進み、他の用途にも一気に普及した。

24年に発売するEVの具体的な車種名やメーカー名は非公開だが、車載充電器(オンボードチャージャー)にGaN製のパワー半導体が使われ、海外メーカーが24年以降に発売する複数の車種にも搭載が決まっているもようだ。

車載充電器は冷却水が循環していない駐車時に稼働するため、発熱を抑える目的でGaNを使う利点があるとみられる。

仏調査会社のヨールによると、GaNパワー半導体の世界の市場規模は22年時点で約2億ドル(約290億円)だった。28年には10倍の約20億ドルまで膨らむ見通しだ。

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日本勢、デバイス開発で後れ

日本勢はGaN製の基板開発で先行する一方、デバイスでは海外勢に後れをとる。日本はパワー半導体のデバイス全体で2割程度のシェアだが、GaN製品に限ると1%以下だ。

独インフィニオンは3月、米大手ガンシステムズの買収を発表。24年に20億ユーロ(約3180億円)を投じてマレーシアの工場を稼働させるなど先行する。

名古屋大の山本教授は、「日本はデバイス各社が自前主義で研究開発を進めた結果、基板技術からデバイスへの応用が進まなかった」と指摘する。

パナソニックホールディングスは20年、半導体事業を台湾の新唐科技(ヌヴォトンテクノロジー)に売却した。

現在は基板開発にのみ関わっており、デバイスはGaN関連技術を海外企業にライセンス提供するにとどまる。基板技術を持つ住友化学は海外のデバイスメーカーとの取引を増やしている。

今後高い成長が見込めるGaNだが、政治リスクが浮上している。中国商務省と税関総署は7月、ガリウム関連の製品を輸出規制の対象にすると発表した。

8月から中国の輸出業者は当局の許可がない限り輸出できなくなった。米国が主導して先端半導体の輸出など対中規制を強めてきたことへの対抗措置とみられる。

米地質調査所によると、中国のガリウム生産量は世界の98%を占める。現在は目立った影響はないが、日本の半導体戦略に響くおそれがある。

(向野崚)



[日経ヴェリタス2023年9月3日号]より引用

 

 

 



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