7日の東京株式市場で日経平均株価が激しい値動きとなり、一時前日比1174円(3.4%)高の3万5849円をつけた。
取引開始直後は一時900円超下げる場面もあったが、急速に持ち直した。朝方は冷え込んでいた相場の雰囲気が一転するきっかけとなったのが、午前10時半すぎに伝わった日銀の内田真一副総裁による「ハト派」発言だ。
日経平均は寄り付き直後、前日終値からの下げ幅が一時936円となり3万3700円台をつける場面もあった。過去最大の下落幅を記録した5日に保有銘柄が下落した個人投資家が、信用買いの追い証(追加証拠金)の解消に向けて出した売りが膨らんだ。
マーケットの空気を一変させたのが、北海道函館市で開かれた金融経済懇談会での日銀の内田副総裁の発言だ。
内田氏は「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはない」と述べた。「当面、 現在の水準で金融緩和をしっかりと続ける必要があると考えている」とも語り、追加利上げに対する株式市場の警戒感が和らいだ。
発言を受け、為替市場では円相場が一時1ドル=147円台半ばをつけ、2円ほど円安方向に振れた。日経平均の午前の終値は、789円高の3万5464円だった。
日銀の金融政策決定会合での植田和男総裁の「タカ派」発言が日本株急落の要因の一つだっただけに、内田氏の「ハト派」発言に株式市場も大きく反応した。りそなアセットマネジメントの黒瀬浩一チーフ・ストラテジストは「市場は株式市場が不安定でも円安対策の方が優先されるのではないかと懸念していた。その懸念が払拭され、発言効果はしばらく続くだろう」と話す。
アセットマネジメントOneの浅岡均シニアストラテジストも「機械的に利上げを進めるのではないというスタンスは、マーケットが望んでいた発言」と分析する。
「地銀といった金融機関を主体に、おっかなびっくりではあるが、買いは入ってきている」。大手証券のトレーダーは話す。内田氏の講演内容が伝わると、東京株式市場では幅広い銘柄に買いが広がり、東証プライム市場では全体の85%にあたる1401銘柄が値上がりした。
ディスコは一時前日比16%高、三井住友フィナンシャルグループも12%高をつけた。前日に最大1000億円の自社株買いを発表したキヤノンも11%高と急騰した。
三井住友トラスト・アセットマネジメントの上野裕之チーフストラテジストは「割安で好業績な銘柄には押し目買いが入っている印象」と指摘する。
内田副総裁の発言は市場にとって一つの安心材料にはなったものの、「相場が落ち着いていれば利上げはするという趣旨だろう。毎月勤労統計や物価指標への注目度も高い」(みずほリサーチ&テクノロジーズの坂本明日香主任エコノミスト)との見方もあった。
三井住友信託銀行の瀬良礼子マーケット・ストラテジストは「今の市場参加者は心理的に不安感でいっぱいで、冷静にファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を見極める力を失っている」と指摘する。投資家が相場の乱高下に振り回される展開はまだしばらく続きそうだ。
(大久保希美)