10日、ホワイトハウスの夕食会に臨むバイデン米大統領(右から4人目)やNATOのストルテンベルグ事務総長(同5人目)ら=ロイター
北大西洋条約機構(NATO)は10日、日本や韓国などインド太平洋4カ国と連携し、中国やロシアの脅威に対抗する方針を明記した首脳宣言を発表した。
ロシアのウクライナ侵略を支える中国を抑止するため、アジアへの関与拡大を明確に打ち出した。
米ワシントンで9〜11日の日程で開催中の首脳会議は、ウクライナへの長期支援策が主要議題となった。
首脳宣言は中国をウクライナ侵略を続けるロシアの「決定的な支援者」と名指しで批判した。
NATOは設立当初、旧ソ連を仮想敵とし欧州の防衛に力点を置いていた。2022年にまとめた「戦略概念」で中国を初めて「体制上の挑戦」と位置づけ、23年の首脳宣言には「中国の野心と威圧的な政策はNATOの利益や安全、価値観への挑戦」と記した。
中国への不信感が一気に高まったのは22年のロシアのウクライナ侵略がきっかけだ。ブリンケン米国務長官は10日の講演で「中国はロシアの防衛産業基盤に大きく貢献している」と非難した。
NATOにとって、ロシアを背後で支える中国は欧州の安全保障上も無視できない存在になった。
今回の首脳宣言は中国をより明確な脅威とみなした。中国が軍事部品などの供給を通じ、ロシアの侵略を後押ししていると断定した。
カーネギー国際平和財団によると、ミサイルやドローン(無人機)、戦車などの部品に転用可能な50品目について、ロシアが中国から輸入する割合は21年の32%から23年に89%に急増した。
欧米では中ロ発とみられるサイバー攻撃や偽情報の流布も相次いでいる。首脳宣言は中国発の偽情報などサイバー空間や宇宙空間での活動を問題視し、責任ある行動をとるよう警告した。
北朝鮮によるロシアへのミサイルや弾薬の供給にも「大きな懸念」を示した。安全保障をめぐるリスクが地球規模で拡大し、大西洋と太平洋で分けられる時代でなくなった。
こうした懸念に対応するため、NATOは日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国と協力を深める方針を明確にした。
ウクライナ支援やサイバー防衛、偽情報対策、人工知能(AI)などのテクノロジーを4つの旗艦プロジェクトとし、地理的な制約のない攻撃に共同で対処する。
4カ国はNATOに加盟していないが、いずれも米国の同盟国だ。インド太平洋のパートナー国「IP4」と位置づけ、初めて具体的な連携方針を示した。サイバーや偽情報をめぐっては中国やロシアの脅威が明確になっており、地域を越えて防衛網を張る。
ウクライナ支援は医療を通じた貢献を模索する。NATOのサイバー演習への参加や偽情報対策の知見共有など、具体的な協調策をこれから積み上げていく。
防衛装備はAIや量子といった新興技術を補完し合う。中国がAI兵器の開発に注力するなど最新の軍事情勢に対応する狙いがある。
ロシアが米欧の安全保障に与える脅威は長期的に続くと分析した。25年の首脳会議までに、対ロシアの新戦略を検討する。
加盟国全体で防衛産業を強化する方針も書き込んだ。加盟国間の貿易や投資の障害を取り除き、弾薬などの迅速な増産を進める。
中国外務省の林剣副報道局長は11日の記者会見で、NATO首脳会議に反発した。中国を名指しで批判した首脳宣言について「冷戦的思考と好戦的な言論に満ちている」と非難した。
林氏はNATOを「冷戦の名残であり、陣営間の対立の産物だ」と批判した。「米国が捏造(ねつぞう)した虚偽の情報を流し続け、中国を公然とおとしめ、中欧の協力を損ねている」と問題視した。
(ワシントン=辻隆史、三木理恵子、北京=田島如生)
2022年2月、ロシアがウクライナに侵略しました。戦況や世界各国の動きなど、関連する最新ニュースと解説をまとめました。