FRBのパウエル議長は米連邦議会上院での議会証言に臨んだ=ロイター
【ワシントン=高見浩輔、ニューヨーク=斉藤雄太】
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は9日の議会証言で米経済は「もはや過熱していない」と述べ、利下げを探る局面になったと示唆した。
9月の利下げ開始シナリオを織り込む市場関係者に自信を持たせる内容で、金融引き締めからの方向転換を視野に入れつつある。
パウエル氏は証言冒頭から「インフレだけがリスクではない」と経済の下支えにも配慮する姿勢を示唆した。
「金融引き締めの縮小が遅すぎたり少なすぎたりすれば、経済活動や雇用を不当に弱める可能性がある」と強調した。
証言した米連邦議会上院の銀行・住宅・都市問題委員会は、委員長を務める民主党のブラウン議員が何度もFRBに早期利下げを迫ってきた経緯がある。
3月に実施された前回の議会証言では民主の議員らから金融引き締めを緩めるよう要求する声が相次いだ。
9日には、ブラウン氏がパウエル氏の発言を受けて「理解してもらえている」と評価する一幕もあった。
パウエル氏が重視するのは雇用情勢の変化だ。非農業部門の就業者数の伸びは4〜6月に月平均で17.7万人と新型コロナウイルス禍前を下回った。失業率は3カ月連続で予想外の上昇となり、6月は4.1%となった。
過熱の象徴とされてきた「失業者1人あたりの求人件数」は、かつての2件程度から直近5月は1.2件とコロナ禍前に戻った。
「直近の指標は雇用情勢が2年前と比べてかなり減速しているという、かなり明確なシグナルを送っている。
もはや過熱した経済ではない」。パウエル氏はこう述べ、金融引き締めの効果が出てきたことを何度も強調した。
物価指標が想定外の強さを見せた年初は追加利上げの可能性も取り沙汰された。この日のパウエル氏は「そのような方向はありそうにない」と明言。
「ありそうなのは、物価抑制がさらに進展し、適切なタイミングで利下げを始めることだ」と指摘した。
金融市場では「FRBが9月に利下げに踏み切るという予測がますます確かなものになった」(調査会社オックスフォード・エコノミクスのライアン・スイート氏)との声が上がった。
パウエル氏は具体的な利下げ開始の時期について言及を避けたが、金利先物市場で有力視されている「9月開始で年2回実施」という利下げシナリオを否定することもなかったと受け止められ、市場の安心感を誘った。9日は代表的な米株指数のS&P500種株価指数が再び最高値を更新した。
もっとも最近のパウエル議長はFRB高官のなかでも、金融緩和に積極的な「ハト派」的な発言が目立つ。
6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では19人の参加者のうち4人が年内は利下げできないと予想した。7人は年内1回だけの利下げを想定していた。年内2回は8人だ。9月に利下げを始めるシナリオはおおむね年内2回を前提にしている。
経済・物価には先行きのリスクも山積する。「関税の引き上げは、店頭での価格に影響を与えるのでは」。質疑では民主党議員から中国からの輸入品に60%、それ以外に10%の関税を課すトランプ前大統領の公約について質問が飛んだ。
25年末に期限を迎える個人所得税などの「トランプ減税」の延長も含め、トランプ氏が示す案はインフレ抑制の動きを最終盤で崩しかねない。明確なリスク要因だが、パウエル氏は政治的な要因が絡む問題には言及しないと説明を避け続けた。
同じく政治問題になっている移民の流入については「中長期的にみれば物価への影響は中立」との見方を示したものの、バイデン政権が打ち出した流入制限の短期的な影響を巡ってもFOMC内部では議論が収束しておらず不透明さが残る。
パウエル氏もほかの高官も「政策金利は会合ごとにその時点でのデータ次第で決める」という認識は共通している。9月会合までに公表される消費者物価指数(CPI)は3カ月分、雇用統計は2カ月分あり、現時点の利下げシナリオは確実とはいえない。
経済指標などのデータがある程度そろった8月下旬に開催される経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が9月利下げを巡るヤマ場になるとの見方もある。
調査会社パンテオン・マクロエコノミクスは「パウエル氏はこの場で年内に少なくとも1回は利下げする必要があるという明確なシグナルを出すはずだ」とみる。こうした市場の思惑通りに高金利政策の正常化に向けた環境が整うのかが今後の焦点になる。
小野亮
みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部 プリンシパル
ひとこと解説
パウエル議長は自ら、直近のJOLTSや雇用統計などの雇用関連指標が自身の雇用情勢判断の大きな変化をもたらしたことを明らかにした。
雇用には急激に悪化しやすいという非線形性があり、パウエル議長も(依然として雇用は力強いという判断だが)そのリスクを念頭に置いているのだろう。
また、次の発言(2度)も興味深い。
「インフレ抑制と最大限の雇用の支援は、法の下で平等である。」やはり、米金融政策の潮目は変わっているようだ。
(更新)
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ひとこと解説
FRBが課されている法的責務は「物価安定」と「最大雇用」。コロナ禍後のインフレ率急上昇・雇用需給ひっ迫・賃金上昇圧力増大をうけて、FRBは「物価安定」に傾斜した姿勢をとってきた。
だが、今回の議会証言でパウエル議長が明言した通り、雇用情勢はかなり落ち着いてきており、賃金上昇率も鈍化している。
失業率は3か月連続で上昇して4.1%(21年11月以来の水準)になり、新規失業保険申請件数は緩やかに増加。求人数は水準を切り下げた。
そろそろ「最大雇用」への目配りを増す必要が生じている。パウエル議長は今回の議会証言で、「物価安定」に引き続き軸足を置きつつも、「最大雇用」への目配りを増す姿勢を示したと言える。
日経記事2024.07.10より引用
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これでようやく過度の円安や、物価高は落ち着きそうですね。