中国のレアアース鉱山(内モンゴル自治区)=ロイター
【北京=多部田俊輔】
中国政府はハイテク製品に必要なレアアース(希土類)の統制を強化する。
4日に7種類を輸出規制の対象に加えたほか、製錬工程を国有大手に限定する。米国が製錬を中国に依存しているのを逆手にとり、同国との関税を巡る対立に備える。
「代金をいくら払っても一部のレアアースが調達できなくなった」。貿易関係者によると新たな規制対象となったレアアースに関し、審査を理由に新規の輸出許可の手続きが一時的に進まなくなったという。
中国が輸出規制の対象に加えたのは電気自動車(EV)に搭載する高性能磁石などに使うジスプロシウムやテルビウムなど重
希土と呼ばれるものが大半だ。レアアースそのものに加え、合金や酸化物、化合物なども対象に含む。
影響は蛍光体や医療向け、軍事を含むハイテク分野に広がる。中国政府が2023年に半導体などの素材になるガリウム関連製品などを輸出規制の対象にしてから、日本など向けの輸出が審査を理由に滞っている。
外資系企業幹部は「レアアースのサプライチェーン(供給網)は中国に依存しており、当面は在庫で対応するしかない」と話す。
中国の調査会社「鉄合金在線」によると、中国のレアアース輸出のうち、日本と米国の比率は合計で53%と過半を占める。
半導体製造装置大手の本拠地があるオランダを含めると3分の2近くに達する。これらの国が今回の規制措置の矛先になっているとみられる。
国内でも統制を強化する。工業情報化省が2月に「レアアース採掘・製錬分離総量コントロール管理弁法」と「レアアース製品情報トレーサビリティー管理弁法」の草案を公表した。詳細を詰めて早期の施行をめざす。
政府はこれまで、国内での採掘は国有大手に制限していた。
新たな規則では鉱石からレアアースを取り出す製錬などの工程についても、政府が再編統合で設立した大型レアアース企業集団やその傘下企業に限ると明記した。
国有大手以外の組織や個人が製錬などを手掛けるのを認めないことも明確にした。
中国政府は2021年に資源分野の国有企業に分散していたレアアース部門を統合し、国有の中国稀土集団を設立。
同社を含む大手だけが採掘から製錬などを含めて一貫して手掛けることになる見通しだ。
レアアースの製錬などの加工状況についても企業が毎月当局に報告することを求めた。企業がレアアースの生産や流通、利用といった情報を記録し、当局と共有するよう義務付けた。
新規則の導入は米国からのレアアースの輸入が増えたことへの対応とみられる。
製錬工程は二酸化炭素(CO2)を大量に排出するうえ、十分な環境対策を講じないと周辺地域への環境汚染につながる可能性がある。そのため米国などの先進国は同工程を中国に依存する傾向があった。
中国政府はEVなど向けの需要増に備えてレアアースを増産してきたものの、国内での資源温存の観点から輸入の拡大を認めてきた。
中国の24年のレアアースの生産量はおよそ27万トン。鉄合金在線によると、これに対し、中国の同年のレアアース輸入量は13万トンほどで、国別では米国が41%を占めて1位だった。
レアアースの経済安全保障上の重要度が増すなか、サプライチェーンを握る中国が同資源を政治的に活用するケースが増えている。
中国は10年の尖閣諸島を巡る日中対立でレアアースの対日輸出を一時的に止めた。日本はレアアースを使う高性能磁石を得意とし、米国は高性能磁石を搭載するハイテク製品を手掛けることから、日米は中国に依存しない独自供給網の構築をめざした。
米国は自国での鉱山開発に動き、米地質調査所(USGS)によると、米国で10年にほぼゼロだったレアアースの生産量は23年には4万300トンとなり、世界全体のおよそ12%を占めるようになった。
鉄合金在線によると、中国の輸入量は15年の1万トンから、24年には13万トンほどに増えた。15年の輸入先はマレーシアが1位だったが、24年は米国が1位となった。中国は輸入先についても状況を注視し始めている。
中国政府はレアアースを巡り、徐々に統制を強めてきた。23年にレアアースを使った高性能磁石などの製造技術の禁輸を発表。24年にはレアアースを国家所有と明記した管理条例を施行し、国有企業のレアアース事業の再編統合を進めた。
日米も中国に依存しないレアアースの供給網構築を急ぐ。トランプ米大統領はウクライナに武器供与などを続ける条件にレアアース権益を求める。デンマーク領グリーンランド獲得に意欲を示す一因にレアアースを含む地下資源の確保があるとされる。
日本政府も3月17日にフランスのレアアースの精製事業におよそ1億ユーロ(約160億円)出資すると発表した。フランス政府も資金面から日本企業のレアアース調達を支援する。レアアースの製錬工程に関し、中国依存から脱却する狙いがある。
レアアースは兵器に搭載する高性能磁石などにも使われる。多くの国にまたがる供給網を巡り、経済安保面から日米欧と中国によるせめぎ合いが続く。
※個人情報は入力できません。日経電子版に掲載されていない内容からは回答できません。
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
-
鈴木一人東京大学 公共政策大学院 教授<label class="container_c93b8pm" data-option-container="true"><label class="container_c93b8pm" data-option-container="true">
</label></label>
分析・考察中国がいよいよ最後の切り札を出してきた。レアアースは採掘も精錬も中国がほとんどを占める物で、代替手段が乏しい。
レアアース自体はほかでも採掘できるが、精錬は二酸化炭素の排出や放射性物質を含む廃棄物が出てくるため、他国ではなかなか精錬できないのが現状。
かつて2010年にレアアースの対日輸出停止を実施したが、その際、WTOでの敗訴を受けて、しばらく封印して来た。
しかし、トランプ関税がとどまることを知らないので、中国が最強のカードを切ってきたということになるのだろう。日本を含め、米国向けだけでなく、全世界向けに輸出管理を強化すると言うことなんだろうな…。
<button class="container_cvv0zb2" data-comment-reaction="true" data-comment-id="52169" data-rn-track="think-article-good-button" data-rn-track-value="{"comment_id":52169,"expert_id":"EVP01017","order":1}">7</button>
レアアースを使う高性能磁石はEVだけでなく、家電製品や電子機器など幅広い分野で利用されています。
中国が10年にレアアースの対日輸出を一時的に止めた「レアアースショック」を受け、当時も調達先の多様化や省資源技術などの対策を進めました。
それでも中国依存を抜け出せていない対応の難しさがあります。中国はコバルトなど、レアアースのように自国での生産量が多い金属資源以外でも製錬能力を強化し、サプライチェーンで大きな存在になっています。