
自動車は対米輸出額の3割を占める(川崎市)
米トランプ政権が3日、日本を含むすべての国からの自動車輸入に25%の追加関税を課す。米国を主戦場とする多くの日本車メーカーにとっては未曽有の逆風となる。
ただ、日本の自動車産業はこれまで大きく3度、米国で台頭する保護主義と直面し、そのたびに躍進へとつなげていった。日本車メーカーは4度目の試練を成長の糧にできるか。
米オハイオ州の州都コロンバス郊外の街メアリズビル。トウモロコシ畑が広がる一帯にあるホンダの工場は今、電気自動車(EV)とガソリン車の混流生産ラインを構築する準備に追われている。
将来的にはEVのハブ拠点に育てる構想だが、足元ではEVに逆風が吹く。目先の需要の動向が見通せない中でもエネルギーシフトに備えて米国で勝ち抜こうという狙いだ。
45年前も、先が読めないという点では同じような状況だった。1980年1月、ホンダは日本車メーカーで初となる米国での自動車生産を決めた。この際に建設したのがオハイオ工場だ。
創業者である本田宗一郎の後を継いだ2代目社長、河島喜好氏は当時、「アメリカで失敗したらホンダは最大の市場を失い、大変なことになる。オハイオはホンダの生命線だ」と不退転の決意を語った。ホンダの浮沈がかかる「生命線」という重責は45年たった今も変わらない。
破壊された日本車
当時は70年代の2度の石油危機をへて燃費の良い日本の小型車が米国民に認められ始め、日米貿易摩擦の緊張感が日増しに高まっていた時期だ。日本車が受け入れられないリスクを承知の上での決断だったといえるだろう。
実際、激しい排斥運動に直面した日本勢は81年に対米自動車輸出の自主規制を始める。すると、ホンダに続きトヨタ自動車が米ゼネラル・モーターズ(GM)と共同でカリフォルニア州に合弁工場をつくるなど、日本勢の米国進出が一気に加速していった。
こうして米国に根を張り始めた日本勢。それは米国内で周期的に盛り上がる保護主義と向き合う歴史の始まりでもあった。
80年代には米自動車労働者がハンマーで日本車をたたき潰すショッキングな映像が逆風の激しさを物語った。日本勢は現地生産に乗り出す一方で、社会貢献などを通じて「侵略者」から「企業市民」へのイメージ転換を図ってきた。

トヨタ車を破壊する米労働者(1981年、米イリノイ州)=AP
2度目の試練は1990年代半ば。クリントン政権下で米通商法301条に基づいてトヨタの「レクサス」など日本の高級車に100%の関税を課すことが決まった。
当時、通商産業相だった橋本龍太郎氏が米通商代表部(USTR)のミッキー・カンター代表から贈られた竹刀をおもむろに自身の喉元に突きつけたパフォーマンスは、危機に直面する日本車の立ち位置を代弁するかのようなシーンとして語られた。
この間、日本車メーカーは日本国内でバブル崩壊の経済危機と向き合う一方で海外への生産シフトを本格化させる。
2007年に海外生産が初めて国内生産を上回った直後に、それまでの貿易摩擦とは形が異なる3度目の試練が訪れる。

08年9月にリーマン・ショックが米経済を揺るがすと翌年、GMとクライスラーが経営破綻に追い込まれた。
時を同じくして米国内で起きたのが、激しいトヨタ・バッシングだった。フロアマットの誤用から始まった大量リコール(無償回収・修理)が米国内で社会問題に発展したのだ。
トヨタたたきの結末
当時は景気対策法に自国優先のバイ・アメリカン条項を盛り込むなど、経済危機を背景に米通商政策が保護主義色を強めた時期と重なる。
かつて「強いアメリカ」の象徴だったGMを破綻に追い込んだライバルとして、トヨタを敵視する国民感情が存在したことは否めまい。
当時、社長に就任したばかりの豊田章男氏が公聴会に出席したことで風向きが変わった。
一時はトヨタが電子スロットル制御システムの不具合を隠蔽しているとも糾弾されたが、後に指摘した学者の検証に不正があったことが発覚している。
この学者がトヨタへの集団訴訟を主導する会社から資金を得ていたことも分かり、事態は急速に沈静化していった。
この時点でトヨタが米国に進出して半世紀余り。第1弾として1958年に輸出された30台の「クラウン」は米国の高速道路での走行に耐えられる品質ではなかったという。
そこから改善を重ねて品質を高め、貿易摩擦が過熱すると、日本で培ったトヨタ生産方式を米企業や災害復興の現場で生かしてもらう草の根活動などを重ね、徐々に米国民に受け入れられていった。
そんな長年の企業努力がもろくも崩れたかに見えたのが、このリコール問題だった。

ホワイトハウスで布告を手にするトランプ米大統領。
輸入自動車に対する25%の追加関税を4月3日に発動することを明らかにした(3月26日)=ロイター
ただし、危機が去るとまたもや米国を舞台にした日本車の巻き返しが始まった。21年にはトヨタが米新車販売台数でGMを上回り、初の首位となる。
GMが米市場での王座を明け渡すのは、実に90年ぶりだった。
そして現在――。EVが伸び悩む米国ではハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車が快進撃を見せる。EVで出遅れながらHV技術の改良に力を入れてきた日本車が再び脚光を浴びているのだ。
トランプ関税を逆手に
そんなタイミングで発動される「トランプ関税」。
今回は日本車だけをターゲットにしたわけではないが、最も大きな打撃を受けるのが日本勢であることは間違いない。日本からの輸出だけでなく、2000年代に入ってからカナダやメキシコからの供給体制を整えてきたからだ。
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日本からの輸出に加えて、これらカナダやメキシコなど海外拠点への影響も大きい。
現時点で日本経済全体や自動車産業への影響は正確には見通せないが、ダメージが過去3度の試練にない規模になることは明らかだ。
日本車はこの危機を再び躍進の原動力とすることができるだろうか――。問われるのは、日本車ならではの付加価値だ。
80年代には燃費の良さが米消費者の心をつかんだ。90年代も小型車の特徴を生かしつつ、「日本車はとにかく頑丈で運転しやすい」というイメージを広げることに成功した。
2009〜10年にリコール危機に直面したトヨタの豊田会長(当時は社長)は「もっと良いクルマを」と、原点回帰を訴えることで米国でも疑念を払拭していった。

ソフトウエアの力が試される(写真はソニー・ホンダモビリティの「アフィーラ」の車内、2023年)
EVへの逆風が吹く中で、当面は日本のHV技術は大きな武器になる。だが、それだけでは物足りない。
クルマの価値がモノからデジタルへとシフトする大転換を、日本車の新たな付加価値としたい。いわゆる「SDV」(ソフトが定義するクルマ)で世界の潮流をリードしなければ、台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)や中国・比亜迪(BYD)、米テスラといった新興勢の台頭にいずれあらがえなくなるだろう。
もちろん自由貿易の理念に反するトランプ関税に対して、日本政府は堂々と撤回を主張すべきだ。
その一方で日本の自動車産業には、この暴挙をさらなる進化を遂げるきっかけにしてもらいたい。トランプ関税が問うのは保護主義を乗り越える近未来の日本車の競争力だ。4度目の試練を再び躍進への踏み台とすることに期待したい。
日経記事2025.4.2より引用
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