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「トクリュウ」犯罪の脅威 警察捜査の大転換迫る 編集委員 坂口祐一

2024-05-17 08:22:30 | 安全保障、戦争・軍事・テロ・ハニトラ・スパイ・犯罪・詐欺



 

治安や事件の分野で、最近耳にするようになった言葉がある。匿名・流動型犯罪グループ、略して「トクリュウ」だ。

暴力団のような組織性はなく、離合集散を繰り返す。犯罪の実行犯はSNSでそのつど募り、収益を吸い上げる中核部分の正体は見えない。そんな新しいタイプの犯罪集団のことを指す。

 

日本では長い間、組織犯罪といえば暴力団だった。企業活動にも根を張り、社会と「共存」してきた。だが1992年の暴力団対策法やその後の暴力団排除条例の施行で封じ込めが進む。

「暴力団=反社会的勢力」の意識が浸透し、暴力団の構成員・準構成員の数は92年の9万600人から、2023年は2万400人にまで減少した。

 

暴力団は公然と拠点を構え、看板を掲げ、名刺を持ち歩いていた。これは組織犯罪の国際常識からはかけ離れている。

「マフィアは地下の存在。やさしそうな隣のお店のご主人が、実はマフィアの幹部だった! というのが犯罪組織のはず」。かつて薬物対策の国際会議に出席した海外の捜査幹部から、こんな驚きの声を聞いたこともある。

 

姿さらさず、実行犯は切り捨て

トクリュウの一部は暴力団と連携したり、後ろ盾にしたりしながら、暴力団と入れ替わるように勢力を広げている。

しかし暴力団のように、自分たちの存在を示すことでカネを得るような手法はとらない。自らの姿はさらさず、「闇バイト」として使った若者らは躊躇(ちゅうちょ)なく切り捨てる。

 

トクリュウを象徴する犯罪が特殊詐欺だ。オレオレ詐欺として2003年ころから問題化し始め、20年たったいまも被害は絶えない。

犯行グループを逮捕しても、多くはだましの電話をかける「かけ子」や、現金を引き出す「出し子」といった末端の実行犯。そもそも「バイト」なので黒幕や首魁(しゅかい)の素性を知らない。

 

組織中枢に打撃を与えることができないまま、毎年数百億円が闇社会に消える。目に見える暴力団を相手にしてきた警察の手法やセオリーでは戦えないのだ。

金塊の密輸入や強奪、コロナ禍での給付金詐欺、事前に電話で資産状況を確かめるアポ電強盗、若い女性客に多額の借金を背負わせる悪質なホストクラブ、オンラインカジノ、住宅のリフォーム詐欺――。

 

時々の社会情勢を反映するこうした問題の背後にも同様の集団が見え隠れするに至り、警察も本腰を入れる。

警察庁は露木康浩長官自らが名付け、定義した「トクリュウ」が警察にとって「警戒の空白」となっているとして、全国の担当部署の警察官700人以上の増員を決定。さらに拡充する構えだ。

 

24年4月には同庁に対策の司令塔となる参事官ポストを新設し、主要な警察本部は専従体制を整えつつある。5月に開いた全国刑事部長会議でも「部門や罪種にこだわらず、警察の総合力を発揮して戦略的な取り締まりを」などと指示した。

だが体制拡充や連携強化だけでは解決は難しい。現場の実行犯から組織中枢へと突き上げられないトクリュウ犯罪の脅威は、警察に捜査理念や手法の大転換を迫る。

 

 

横断と俯瞰

警察庁が目指すのは、「横断的・俯瞰(ふかん)的」捜査。個別事件で明らかになった情報をとにかく網羅的にシステムに入れ、蓄積する。

それを固有名詞、時間軸、犯罪の手口など様々な要因で比較・分析し、ひも付ける。そうした中からトクリュウ中枢の姿を浮かび上がらせる。

 

現場を起点にした「地べた」からの捜査に加え、それとは逆方向の、総合的なデータ分析から個別事件に迫る「空中戦」的な捜査。

これまでも組織犯罪対策では重要とされてきたが、十分な人員を確保することができず活用しきれなかったともいえる。

 

特にカギを握るのは、犯罪集団の目的である「カネ」の動きだ。

トクリュウ担当参事官に就いた石井啓介氏は、「カネの流れをつかみ、溜まり(たまり=カネが集まっているところ)を把握することが重要。そこにキーパーソンがいるはず」と話す。

 

大きな武器の一つに、「疑わしい取引」がある。

金融機関や宅地建物取引業者などは犯罪収益との関係が疑われる不審な取引があった場合、所管官庁への報告が義務付けられている。

 

こうした取引情報を集約・分析する資金情報機関(FIU)は発足当初、金融監督庁(現・金融庁)に置かれたが、その後、国家公安委員会・警察庁に移管された。

23年の届け出件数は過去最多の70万7929件に上る。ただ同年中に取引情報が端緒となって検挙された事件は1038件、すでに着手している捜査の過程で情報を使い検挙した事件は2160件。制度を活用する余地はまだまだあるのではないか。

 

 

暗号資産(仮想通貨)の普及で近年、マネーロンダリング(資金洗浄)はより巧妙、不透明になっている。

この点では明るい材料もある。警察庁が22年、国が直接捜査を手掛けるために初めて設置したサイバー特別捜査隊(4月からサイバー特別捜査部に拡充)がトクリュウ捜査支援に向け、暗号資産の追跡で実績を上げている。

 

時間がたつとやり取りが消えてしまう匿名ツールにどう切り込んでいくか。

SNSでの闇バイトの応募を効果的に規制できるのか。電子機器から証拠を見つけ出す「デジタルフォレンジック(電子鑑識)」や、犯罪抑止対策に他省庁を巻き込んでいく技量も問われる。

 

「ポスト暴力団」を象徴するように現れたトクリュウの存在は、日本が「国際標準」の組織犯罪時代を迎えたということを示しているのかもしれない。

 

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

 

福井健策のアバター
骨董通り法律事務所 代表パートナー/弁護士
 
分析・考察

なぜ犯罪が匿名・流動化するかと言えば、社会全体が匿名・流動化しているからですね。

オンライン海賊版を例にあげましょう。

現在、世界には翻訳版を含めて1000を超えるマンガ海賊版サイトがあり、月間10億もの訪問を集めます。

多くの場合、運営は個人か数名で、わずかな元手で、安価なネットサービスを匿名で組み合わせて使っているだけです。

ノウハウはダークウェブに転がっており、多少のネット知識で使えます。

児童ポルノも、転売ヤーも、多くのネット型犯罪は基本的には同じでしょう。

摘発は、非常に厄介です。

無論、本格的な組織が裏にいるケースもありますが、中心など無い、分散型の「誰でも犯罪」が多い実態も見逃せませんね。

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日経記事2024.05.17より引用
 
 
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