(元TBSテレビ社会部長:神田和則)

入管法改正案とは?

まず、改正案の柱について整理しておきたい。

在留資格がないとして入管当局に摘発、収容された外国人は、大半が帰国しているが、送還に応じない人たちがいる。その数は21年末時点で3224人(22年末の速報値で4233人)、入管庁は「送還忌避者」と呼ぶ。

また、難民条約の難民には当たらないが、ウクライナのように紛争から避難した人たちを保護するためとして、難民に準じた「補完的保護対象者認定制度」を導入する。

このほか収容する代わりに「監理人」の下で退去強制手続を進める「監理措置制度」を設ける。収容するか、「監理措置」とするかは個別に判断し、収容した場合は3カ月ごとに継続するか否かを検討する。一方、退去命令に従わない、「監理措置」の間に逃亡-などの場合、刑事罰を科す。

入管庁は、法案提出後に関連資料を公表し、改正案の中身や趣旨の説明を試みている。だが、この問題をずっと追ってきた目で見ると、本来、書かれるべきことが書かれていないことに気付く。

1.「送還忌避者」は犯罪者なのか?

改正案の発端は、入管に収容される人が増えて収容が長期化したことにあるが、これは東京五輪に向けて収容を強化した入管庁自らが招いた結果に他ならない。このことに各資料は触れていない。

「現行入管法の課題」 出入国在留管理庁HPより

今回は、犯罪件数2620件と数字だけが記載されている。罪種別では、入管法違反が504件とあるが、在留資格がない人たちなので当然多くなる。交通関係法令違反326件には「赤切符」の罰金が、刑法違反には未遂も含まれると見られる。「その他404件」は、まったくわからない。最多は薬物関係法令違反で、強盗・強盗致傷などもあるが、いずれも背景事情は不明だ。

見方を逆転させれば、最も少なく見ても3分の2の人は犯罪と無関係ということになる。

このほか「仮放免」の人たちの「逃亡事案が多発」にも違和感がある。

「仮放免」は病気などを理由に入管側が一時的に収容を解く措置だが、「(21年12月末時点で)収容者79人、仮放免者2546人、仮放免逃亡者599人(22年末速報値は約1400人)」と、これも数字だけを並べ「仮放免許可を柔軟に運用するなどし、大半の者は収容していない」のに、「逃亡し当局から手配中の者が年々増加」とある。

「柔軟に運用」というが、収容強化で進んできた方針を転換させた原因はコロナ禍だ。施設内での感染拡大を防ぐため、やむなくとった措置で、収束すれば再収容する構えを見せていた。そこは触れていない。

名古屋入管収容中に死亡したスリランカ人女性の遺族が国に賠償を求めた裁判で、代理人を務める指宿昭一弁護士は指摘する。「『送還忌避者』は、入管庁が宣伝するような犯罪者の巣窟ではない。多くは難民申請者で、1割は未成年や子どもたちが占める。送還されると家族が分離されてしまう人たちもいる。帰るに帰れない事情がある。冷静に見なければならない」

2.保護すべき難民は保護されているのか?

「3回以上の難民申請者の送還を原則可能にする」。これが改正案の最大の狙いだ。

入管庁は、その理由として「難民かどうかの判断は適切にしているが、認められなかった人が一律送還停止の規定を乱用して居座る。だから収容が増えて長期化する」という。

「入管が見落とした難民を探して認定したいと思っているのに、ほとんどみつけることができない」。資料「現行入管法の課題」の「難民認定制度の現状」では、2年前の法案審議で参考人を務めた法務省の難民審査参与員の発言を引用し、主張を正当化している。

「現行入管法の課題」 出入国在留管理庁HPより

本当に難民認定の判断は、適切なのだろうか。

入管庁は先日、昨年の難民認定数を202人と公表した。前年を大きく上回ったものの不認定は1万人を超える。

今回の認定増には特別な事情があった。全体の7割はアフガニスタン人で、多くはタリバン政権を恐れて避難した日本大使館の現地職員とその家族が占める。全国難民弁護団連絡会議(全難連)によれば、当初、外務省は迫害の危険があるにもかかわらず帰国を強く勧め、中には帰った人もいたという。それでも残った人たちが集団で難民認定された。

2年前に軍事クーデターが起き、民主化を求める市民が弾圧されているミャンマー人は26人しか認められず、不認定は2000人近い。

カナダなど欧米では相当の高率で難民認定されているトルコ国籍のクルド人に至っては、1人だけ。それも裁判で入管庁の不認定処分が取り消された結果だ。

今年3月、同性愛者への迫害を理由に難民申請したものの不認定となったウガンダ国籍の女性を、難民と認めるよう国に命じる判決が確定した。この女性は、難民審査参与員による“二次審査”で「何らの難民となる事由を包含していない」とされて口頭の意見陳述すら退けられていた。

難民を見落としているのは誰なのか。「祖国に帰されたら命が危ない」と何度も申請を繰り返すのは、難民として保護されるべき人が保護されていないからだ。

法案提出後の3月、入管庁は「難民該当性判断の手引き」を公表した。「判断する際に考慮すべきポイントを整理し、明確化した」としている。だが、これは8年も前に有識者会議が出した提言に、ようやく応えたものだ。

当時の有識者会議メンバーで全難連代表の渡辺彰悟弁護士は批判する。「手引きはUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のハンドブックやガイドラインという国際基準を踏まえたものになっていない。迫害する側から個別に把握されなければ難民と認めないという、これまでの考えを改めるとは明らかにしていないし、難民の客観的証拠を持ち出せず逃げてきた人に対し“疑わしきは申請者の利益に”とする原則への言及すらない。改正案を通すためのエクスキューズに過ぎない」

3.国際機関の批判に答えているのか?

2年前には、国連人権理事会の特別報告者と恣意的拘禁作業部会も「3回以上の難民申請者の送還は、生命や権利を脅かす高いリスクの可能性がある」「収容に司法審査(裁判所の関与)がない」「上限のない収容は拷問・虐待に当たる可能性がある」と述べて、「改正案は国際的な人権基準を満たさない」とする共同書簡を日本政府に送った。

22年11月には国連自由権規約委員会が日本政府に同様の意見を出し、「国際基準に基づいた包括的な庇護法」を早急に整える必要性を訴えている。 

送還停止規定は、小泉政権時代の2002年、中国・瀋陽の日本総領事館に駆け込もうとした北朝鮮の5人が、領事館員の目の前で中国の武装警察によって連行される事件が契機になった。難民保護を求める声が高まり、04年の法改正で導入された。

日本は、今年12月にジュネーブで開かれる「第2回グローバル難民フォーラム」の共同議長国を務める。この会議は18年に国連総会で採択された難民保護の取り決め「グローバル・コンパクト」を基盤とし、難民を迫害の危険がある国に送還してはならないという「ノン・ルフールマン原則」を中心に据えている。国際機関からの指摘を無視し、最も重要な国際原則を踏まえない法改正を進める議長国とは一体、何なのか。

元難民審査参与員の阿部浩己・明治学院大教授(国際人権法)は語る。「難民調査官は極端に狭い解釈によって不認定を出し、それに不服を申し立てても、難民審査参与員は、難民認定についての研修すらないまま、それぞれの基準で判断をしてきた。手続きのあり方に重大な欠陥があるのに、3回目以降の申請者を送還してしまえば、難民条約に違反する事態を引き起こしかねない」

4.ウクライナから避難した人たちは救われるのか?

改正案は「難民には当たらない紛争避難民など、人道上保護すべき人を確実に保護するため」として「補完的保護対象者認定制度」の創設をうたう。しかし、ここにも矛盾がある。

難民とは、人種、宗教、国籍、特定の社会集団の構成員、政治的意見という5つの原因のいずれかによって、迫害を受けるおそれがあるため、母国の外にいる人を言う。

「補完的保護対象者認定制度」は、5つの原因には当たらなくても「迫害を受けるおそれ」のある人たちを対象に“準難民”として保護するのだという。

全難連は、入管庁が17年からの5年間で紛争からの退避を理由に人道配慮で在留特別許可を認めた14件を分析、12件は「補完的保護対象者」には当たらないとしている。

しかも、いまの難民認定と手続きも、担当者も同じだ。昨年は、難民の“一次審査”だけで結論が出るまでに平均2年9カ月がかかっている。迅速な保護はあり得ない。

そもそもUNHCRの「国際的保護に関するガイドライン」では、戦争避難者も難民と認定され得る。人道配慮による在留特別許可も含めれば、いまの法律で対処は可能だ。現にウクライナからの避難者は新制度を待つまでもなく手厚く保護されているし、アフガニスタンの人たちも難民と認定された。

「入管庁は改正案全体を通すために、戦争から避難したウクライナの人たちを口実にしている。火事場泥棒だ」。厳しく批判されるゆえんは、ここにある。

5.原則収容主義からの転換になるのか?

「監理措置」となれば「監理人」の下で社会に出て生活する。2年前の法案は、「監理人」に生活状況の報告義務を課し反発を呼んだが、今回は、必要があるときに報告を求めると修正された。収容された場合は3カ月ごとに見直すかどうか検討するという。

2年前の国会で参考人を務めた児玉晃一弁護士は「“その他の事情”であれば何でもありだし、『監理人』の報告が必要と決めるのも主任審査官の裁量だ。報告が必要とされれば、民間人に動静監視を義務付けることになる。就労や逃亡には懲役も含む刑罰が設けられるので、いまの『仮放免』より強固な締め付けになる。入管庁に都合がいいだけだ」と批判する。

現在の「仮放免」では、本人と信頼関係のある弁護士や支援者が保証人になっている。多くは「監視義務が生じる『監理人』は引き受けない」と言う。成り手がいなければ、金銭で請け負う“監理人ビジネス”の余地が生じる。人権侵害の温床となった“生活保護ビジネス”の二の舞にさえなりかねない。

6.改正案で問題は解決するのか?

難民審査参与員でもある鈴木江理子・国士舘大教授(社会学)は、「裁量によって他人の人生を左右するのはあってはならないこと」としたうえで「入管庁は、管理監視強化によって排除を推し進めているが、求められるのは、適切な難民保護と人道的な視点からの在留特別許可、そして送還を拒む人を新たに生み出さないための移民・難民政策の確立、それに向けた法整備だ」と語る。

一連の取材で聞いた阿部教授の言葉をあらためてかみしめている。

「国境を管理する入管庁が難民認定に関わる仕組みに極めて問題がある。入管庁とは切り離し、国際的な人権基準を守り、難民保護を目的とした独立機関を設けない限り、根本的な解決にはならない」

「現行入管法の課題」はここに尽きる。

 

 

 

ウィシュマ・サンダマリさん(遺族提供)

ウィシュマ・サンダマリさん(遺族提供)

 2021年3月、名古屋出入国在留管理局で収容中に死亡したスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん=当時(33)=の遺族が国に損害賠償を求めた訴訟の弁護団は6日、国側が提出した監視カメラ映像の一部を公開した。
 映像は、21年2月22日から、死亡が確認された3月6日までのものを弁護団が計7本、計約5分間に編集した。「病院に行きたい」と訴えるウィシュマさんに「権力ないからできない」と応じる入管職員の様子や、「サンダマリさん、サンダマリさん」と何度も呼びかける職員の声に反応しない、死亡確認直前のウィシュマさんの様子などが収められている。
①2021年2月22日9時50分~
飲食ができなくなったが「できれば食べたい」と訴えるウィシュマさん
②2021年2月23日19時17分~
「私きょう死ぬ」と口走るウィシュマさん
③2021年2月23日19時27分~
病院に行きたいというウィシュマさんに「できない」と応じる入管職員
④2021年3月2日18時45分~
ウィシュマさんを動かそうとして「重たいわ」と愚痴をこぼす看護師
⑤2021年3月5日14時31分~
うめくウィシュマさんに「痛いのが分からんようになったらかなわん」と声をかける看護師
⑥2021年3月5日14時50分~
横たわるウィシュマさんを前に「この間の産婦人科の先生はかっこいい」などと雑談する職員ら
⑦2021年3月6日14時7分~
「サンダマリさん、サンダマリさん」という職員の呼びかけに反応しないウィシュマさん
 

 

 

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