1970年
「リキんじゃったよ。ひっかけてばかりいたな」と長島はなんども首をかしげてバスにのった。江夏(阪神)平松(大洋)のように球威のある投手にねじ伏せられたのなら、あきらめもつきやすい。だがいつか点がとれると期待しつつ、ズルズルとすべり落ちたような試合だった。それだけにくやしさもひとしおらしい。しかし試合前、先発田辺を予想した選手は、苦しそうな顔はしなかった。それまで十二打数六安打とカモにしていた黒江はこういった。「打てれば、どんなピッチング・フォームでも気にならないもんですよ、打てれば・・・」もっとも、ふるい立って打席にはいった黒江でさえ、ノーヒットで八回には代打と交代している。一日にはONが久しぶりのアベック・ホーマー。上向いた打棒をバックに今季最長ロードに出たやさきに、カチンと出ハナをくじかれたようなものだったろう。打の責任者荒川コーチも「ウーン」と考え込むようにいった。「カーブと落ちる球だったなあ。それほど振り回さずにミートしたはずなんだが、当たりがボヤーンという感じでね。後半はカーブにマトをしぼったのだけれど、バッターはストレートを意識していたようだ。やはりタイミングをはずされてしまったのかなあ」足をまっすぐ肩口まで上げ、投げる変型フォーム。ちょうど今春来日した大リーグSFジャイアンツのマリシャルに似たフォームから和製マリシャルという人もいる。長島もまっさきにこの変型を話題にしていた。「上げた足の下から顔が見えるようだ。あのギッコンバッタンした足はいやだよ」とフォームを気にして試合にのぞんだ結果も「あのフワフワッとした感じにやられちゃった。スピードがないのにタイミングがはずされちゃうんだ」
この日、巨人で唯一の複数安打を打った王の当たりも、本来の痛烈なあたりではない。王シフトの間を縫うようにして流し打ったのがヒットになり、思いきり引っぱったのは凡打になっている。巨人ナインでただひとり「タイミングがあった」という王でさえ引っぱりきれないところに、田辺の強さがのぞいているようだ。チャンスは二回二死二、三塁と六回の二死満塁。二回は打者が投手の高橋一でものにならず、六回はそれまで中堅後方に強い当たりをとばしていた森だった。ところが一塁真っ正面のゴロ。「フォークだよ。それまではよかったのに」といかにも残念そうな表情をしていた。いずれにせよ、チャンスになればピタリ止まる巨人打線は、直っていないことはたしかだ。九月十日の後楽園につづいて、巨人打線は田辺の変型フォームの前に、またもシャッポをぬいだ。「どうもウチはカーブが打てん」とぶぜんとした表情の川上監督。二ゲーム差に迫られたことよりも、こうも特定投手に押えられることに頭が痛いようだった。
木俣監督「はじめの1点ではものたりなかったが、木俣の2ラン・ホームランが六回に出て試合は決まった。田辺は八回、ONに打順が回ってくる前にランナーを出さなかったのがよかった」
「リキんじゃったよ。ひっかけてばかりいたな」と長島はなんども首をかしげてバスにのった。江夏(阪神)平松(大洋)のように球威のある投手にねじ伏せられたのなら、あきらめもつきやすい。だがいつか点がとれると期待しつつ、ズルズルとすべり落ちたような試合だった。それだけにくやしさもひとしおらしい。しかし試合前、先発田辺を予想した選手は、苦しそうな顔はしなかった。それまで十二打数六安打とカモにしていた黒江はこういった。「打てれば、どんなピッチング・フォームでも気にならないもんですよ、打てれば・・・」もっとも、ふるい立って打席にはいった黒江でさえ、ノーヒットで八回には代打と交代している。一日にはONが久しぶりのアベック・ホーマー。上向いた打棒をバックに今季最長ロードに出たやさきに、カチンと出ハナをくじかれたようなものだったろう。打の責任者荒川コーチも「ウーン」と考え込むようにいった。「カーブと落ちる球だったなあ。それほど振り回さずにミートしたはずなんだが、当たりがボヤーンという感じでね。後半はカーブにマトをしぼったのだけれど、バッターはストレートを意識していたようだ。やはりタイミングをはずされてしまったのかなあ」足をまっすぐ肩口まで上げ、投げる変型フォーム。ちょうど今春来日した大リーグSFジャイアンツのマリシャルに似たフォームから和製マリシャルという人もいる。長島もまっさきにこの変型を話題にしていた。「上げた足の下から顔が見えるようだ。あのギッコンバッタンした足はいやだよ」とフォームを気にして試合にのぞんだ結果も「あのフワフワッとした感じにやられちゃった。スピードがないのにタイミングがはずされちゃうんだ」
この日、巨人で唯一の複数安打を打った王の当たりも、本来の痛烈なあたりではない。王シフトの間を縫うようにして流し打ったのがヒットになり、思いきり引っぱったのは凡打になっている。巨人ナインでただひとり「タイミングがあった」という王でさえ引っぱりきれないところに、田辺の強さがのぞいているようだ。チャンスは二回二死二、三塁と六回の二死満塁。二回は打者が投手の高橋一でものにならず、六回はそれまで中堅後方に強い当たりをとばしていた森だった。ところが一塁真っ正面のゴロ。「フォークだよ。それまではよかったのに」といかにも残念そうな表情をしていた。いずれにせよ、チャンスになればピタリ止まる巨人打線は、直っていないことはたしかだ。九月十日の後楽園につづいて、巨人打線は田辺の変型フォームの前に、またもシャッポをぬいだ。「どうもウチはカーブが打てん」とぶぜんとした表情の川上監督。二ゲーム差に迫られたことよりも、こうも特定投手に押えられることに頭が痛いようだった。
木俣監督「はじめの1点ではものたりなかったが、木俣の2ラン・ホームランが六回に出て試合は決まった。田辺は八回、ONに打順が回ってくる前にランナーを出さなかったのがよかった」
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