1970年
東京都杉並区高円寺にあるロッテ・オリオンズ二軍合宿に行くと、玄関からまる見えの台所のガス台の上では、サンマが盛んに煙をあげていた。まもなく夕食が始まるところ。アイちゃん、女三四郎と呼ばれる二人のおばさんが用意した献立は焼魚、オムレツとベーコン、トンカツ、すまし汁。それに大きなスイカ一切れがつけてあった。二十歳前後の若者たちの集団とはいえ、彼らの食欲には驚かざるをえない。その日、炎天下の東京球場で行われたイースタン・リーグの巨人戦に勝って、意気ようようとロッカールームに引きあげてきた彼らが、まず最初にしたことは出前の注文。大もりソバとか、カレーライスとか、それぞれに好みのものをたいらげてからまだ三時間しかたっていなかった。それなのに、大抵の者がドンブリめしをおこわりをした。女三四郎に「いい?」と速達がちに聞く少年がいたので、名前を聞くと、それが昨年雲散霧消したグローバル・リーグ「東京ドラゴンズ」の最年少選手、大宮工高出身で十九歳の奈良正雄クン。背番号は88。「84はいるけど、88は名簿にないね」というと「ぼくはテスト生で、まだ登録されていないんです。あのう・・・バッティングピッチャーをしています」と答えた。八人きょうだいの末っ子。埼玉県戸田市の実家から東京球場は近いが「みんなといるほうが楽しいから」と、合宿に泊めてもらいにきた一日午後。二ハイ目をソッと出した理由がそれでわかった。月給は四万円。「オリオンズで一番安いけれど」ベネズエラのカラカスで、何日もパン一個で過ごした日を思えばなんでもないと、腹いっぱいに食べて眠そうな目にまった。
東京都杉並区高円寺にあるロッテ・オリオンズ二軍合宿に行くと、玄関からまる見えの台所のガス台の上では、サンマが盛んに煙をあげていた。まもなく夕食が始まるところ。アイちゃん、女三四郎と呼ばれる二人のおばさんが用意した献立は焼魚、オムレツとベーコン、トンカツ、すまし汁。それに大きなスイカ一切れがつけてあった。二十歳前後の若者たちの集団とはいえ、彼らの食欲には驚かざるをえない。その日、炎天下の東京球場で行われたイースタン・リーグの巨人戦に勝って、意気ようようとロッカールームに引きあげてきた彼らが、まず最初にしたことは出前の注文。大もりソバとか、カレーライスとか、それぞれに好みのものをたいらげてからまだ三時間しかたっていなかった。それなのに、大抵の者がドンブリめしをおこわりをした。女三四郎に「いい?」と速達がちに聞く少年がいたので、名前を聞くと、それが昨年雲散霧消したグローバル・リーグ「東京ドラゴンズ」の最年少選手、大宮工高出身で十九歳の奈良正雄クン。背番号は88。「84はいるけど、88は名簿にないね」というと「ぼくはテスト生で、まだ登録されていないんです。あのう・・・バッティングピッチャーをしています」と答えた。八人きょうだいの末っ子。埼玉県戸田市の実家から東京球場は近いが「みんなといるほうが楽しいから」と、合宿に泊めてもらいにきた一日午後。二ハイ目をソッと出した理由がそれでわかった。月給は四万円。「オリオンズで一番安いけれど」ベネズエラのカラカスで、何日もパン一個で過ごした日を思えばなんでもないと、腹いっぱいに食べて眠そうな目にまった。
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