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テンシュテット/ウィーンフィル「マーラー交響曲第10番~アダージョ」
テンシュテットが生涯唯一ウィーンフィルを指揮した1982年ザルツブルク音楽祭のライブです。28年の時を経てようやくディスク化されました。
マーラーの未完となった交響曲第10番、残されたアダージョの演奏です。交響曲第9番第4楽章アダージョでこの世に別れを告げたマーラーが、再度アダージョで始めた音楽。現世と天国の間で魂が再び息を吹き返して苦悩します。複雑そして病的。バイオリンの不協和音、フルートの絶叫、コントラバスの歯軋り…これはウィーンフィルの十八番です。過激ともいえる激しい感情、表現の起伏。ロンドンフィルとのスタジオ録音も素晴らしかったのですが、ロンドンフィルとの演奏が第9番の延長にあるとすれば、このウィーンフィルとの魂の叫びは、この先に一体何があるのか…それは天国なのか地獄なのか先の見えない不安・苦しみ・緊迫感…そして浮遊感・脱力モードへ移行しますが気を抜くとすぐ目の前に死が口を開けて待っています。もう死を受け入れるのか、抵抗するのか…引き裂かれるような苦悩、諦観、それが切ないくらいに美しい。集中して聴きました。こんなにいい曲だったんだと認識です。
前半にベートーベンの交響曲第3番「英雄」が納められています。始まりは控えめで「あれっ?」という感じですが徐々に盛り上がり、第4楽章終結部は堂々として非常に大きな演奏で締め括られます。そしてマーラーへと繋がります。
残念ながらテンシュテットとウィーンフィルの相性は良くなく二度目はありませんでしたが、マーラーのアダージョを聴けば正に一期一会、この30分間に音楽家、演奏家として最善を尽くしたのが分かります。相性が悪いのにどうしてこんなに美しくて迫力ある演奏が可能なのか。お互い不思議な時間だったのかもしれません。音楽を愛する人間でありプロフェッショナルです。
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