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パリ原則とやらを読んでみた4

2005-05-18 00:00:00 | 人権擁護法案
国内機構の地位に関する原則(パリ原則) 《外務省HP》

パリ原則英文版《国連人権高等弁務官事務所HP》

本原則中、最も問題を孕む章です。それは人権フォーラム21のHPが「人権擁護法案」中一番の問題点である「一般救済」「特別救済」をこの章との関連で位置づけていることからもわかります。

【準司法的権限を有する委員会の地位に関する補充的な原則】
 国内機構に対しては,個別の情況に関する申立てないし申請を審理し,検討する権限を与えることができる。国内機構の扱う事件は,個人,個人の代理人,第三者,NGO,労働組合の連合会及びその他の代表制組織が持ち込むことができる。この場合,機構に委ねられた機能は,委員会の他の権限に関する上記の原則を変更することなく,以下の原則に基づくことができる。
(a)  調停により,又は法に規定された制約の範囲内で,拘束力のある決定によって,また必要な場合には非公開で,友好的な解決を追求すること。
(b)  申請を行った当事者に対し,その者の権利,特に利用可能な救済を教示し,その利用を促進すること。
(c)  法に規程された制約の範囲内で,申立てないし申請を審理し,又はそれらを他の権限ある機関に付託すること。
(d)  特に,法律,規則,行政実務が,権利を主張するために申請を提出する人々が直面する困難を生じさせてきた場合には,特にそれらの修正や全面改正を提案することによって,権限ある機関に勧告を行うこと。

※パリ原則における「人権委員会」の第一次的任務は「議会・政府に対して勧告すること」です。したがって、個別の事案の解決に「人権委員会」が直接乗り出すことは原則できないことになっています。個別の事案に対して「人権委員会」がなしうるのは、原則として「議会・政府に対する勧告」のための情報収集することまでです。本章はその原則に対する例外をなします。すなわち、個別の事案につき「人権委員会」が乗り出すということです。
※本章は「補充的原則」であり、本章の権能を「人権委員会」に付与することを条約が求めているわけではありません(現にフランスでは認められていない)。本章の権能を「人権委員会」に与えると決定した場合、その準拠すべき原則を示したというわけです。
※(b)ないし(d)に関しては、問題はないと思います。問題は(a)です。これが公権力による人権侵害について適用される限りは全く問題ありません。しかし、条文上何の留保もないということは、私人間における人権侵害を禁ずる法律がある限り、「人権委員会」がその法律の執行として、拘束力のある決定等を行うことが出来るということです。この条項に基づき「人権擁護法案」では人権侵害一般を禁じておいて、その執行として、「一般救済」「特別救済」を規定しているのです。
※ただ、これらの権限は「人権委員会の職権行使の原則」、すなわち「議会・政府の対する勧告をおこなう」という目的を「変更することなく」おこなわれなければなりません。すなわち、特定の事案につき不公平に介入することはあってはならないということです。あくまで「人権委員会」の権限行使は議会・政府に対する勧告を通じて、法令等の改善によりなされる、すなわち、「一般性」のある形で実現されることが予定されているからです。
※この部分に関して人権フォーラム21のHPは意図的?な誤訳を掲げているようにわたしにはおもえます。彼らのHPによると本章の本文は以下のように翻訳されています
 国内人権機関は、個人の状況に関する苦情や申立を聴聞および検討する権限をもつことができる。個人、その代理人、第三者、NGO、労働組合連合またはその他の代表組織は事案を国内人権機関に提起できる。かかる場合には、委員会の他の権限に関する上記の原則にかかわらず、国内人権機関の機能は以下の原則に基づくものとすることができる。
外務省訳との一番の違いは「上記の原則にかかわらず」という部分です。これでは、「人権委員会」の第一の職責である「議会・政府に対して勧告する」と無関係に、個別的な事案に乗り出すことが出来るように読めてしまいます。では原文はどうなっているかといえば、",and without prejudice to the principles stated above concerning the other powers of the commissions"となっており、",and without prejudice"の部分を「~にかかわらず」と訳したことがわかります。しかし、これは不正確です。文章の前後との関係で普通に訳せば「公平さを損なうことなく」くらいの意味となるはずですから。わざわざ"without prejudice"という表現を使ったのは、「人権委員会」の第一の任務が「議会・政府に対して勧告すること」を通じて法令等を改善し一般的な形で人権救済を図ることである以上、個別的な案件に首を突っ込むとしても、不公平があってはならないという点を強調するためだと考えるべきです。あくまで、法令等の改善勧告が「人権委員会」の第一次的な任務なのです。(続く)

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