毛唐もすなるブログといふものを

日本男児もしてみむとてするなり

尊厳死

2005-03-26 14:21:56 | 社会
米フロリダの尊厳死論争:植物状態10年余、生命維持の管外す--法廷論争7年の末《毎日》

経過はこの東京新聞の特集に詳しく出ています。

この女性、1990年に植物状態に陥ったとありますから、14年以上植物状態なわけです。現在41歳ということですから、植物状態に陥ったのは27歳頃ということになります。夫は彼女が尊厳死を望んでいたと主張し、両親は夫が彼女の遺産を相続して別の女性と結婚したいだけと主張しているようです。

彼女の遺産というのは主に医療過誤による補償金百万ドル(約一億六百万円)のようで、これを受け取れると決定された後に夫は尊厳死が彼女の生前の意志(リビング・ウィル)だといい始めたと両親側は主張しています。フロリダ州では生前の意志による尊厳死が認められています。しかし彼女の尊厳死に関する生前の意志を証言したのは夫や夫の兄弟で、彼女の友人などからの証言はないようです。さらにこの夫は既に別の女性と暮らしているようなので、両親側の主張が的を射ているようにも思えます。しかし裁判所は逆の判断をしました。

フロリダ州の法律が要求しているのは《尊厳死に関する二人の証人》で、それが認められる以上、夫が尊厳死を申し立てた動機などは裁判所の関知するところではなく、両親側は法廷で夫などの証言の信憑性を崩せなかったのだから、法律的には致し方ない結論なのでしょう。連邦控訴審の判事は両親側に同情的だったといいますが、どうしようもありません。アメリカでは憲法上、生前の意志による尊厳死の選択が許されるとされており、その意思が裁判所により認定されたのですから。

両親側がいかに娘はカトリックで教義に反する尊厳死など選ぶはずはないと主張しても、リビング・ウィルについては一番最後の意思表示が重要なので、最後の意思表示の相手方として夫の方が有利なのは止むを得ないところなのでしょう。しかし、事の成り行きを知れば知るほど、わたしは両親側に肩入れしたくなります。

この夫は別の女性と結婚するのなら離婚すればいいのです。植物状態の彼女と一生添い遂げる意思を既に失っているのなら、両親の意思を優先すべきだとわたしはおもいます。この法律上の夫は彼女を愛している両親に返すべきです。この夫は彼女が植物状態でいるうちに離婚すれば補償金が手に入らないうえ、植物状態のままではいずれ医療補償金もなくなるってしまうことをおそれて、彼女の生前の意志をでっち上げた可能性もあります。

もっとも、彼女が真に尊厳死を望んでいる(彼女はまだ生存している)可能性もあります。裁判所
リビング・ウィルを認定したのも、それがまず間違いなく彼女の真意であろうと考えたからなのでしょう。うだうだ書いてきましたが、わたしが他国の他人事ながら不快なのは、この夫の行動にあるようです。もし彼女が夫の現状を見れば、尊厳死など到底選ばないと思うからです。しかし、リビング・ウィルは最後の意思表示がものをいう制度です。今回の件は他国のことではありますが、この制度の欠陥を教えてくれました。どこの国にも制度の欠陥を突いて恥じない輩がいるということです。ま、制度の欠陥を突くのはあちらの方が本家ではありますが。

ところで、この件はアメリカという国の一端をわたしたちに教えてくれます。

『今、アメリカでは保守化の動きに対する攻撃が強まっている。神はこうした策動をより一層、目に見えるようにするため、私たちにテリ・シャイボを遣わしたのだ』

この発言の主は米議会下院の実力者トム・ディレイ共和党院内総務です。キリスト教右派組織ファミリー・リサーチ評議会の会合での発言ではありますが、このように宗教的に裏付けられた価値観が今回の議会や大統領まで巻き込んだ法廷闘争の根っこにあることをよくよく知っておく必要があるでしょう。やはりアメリカは巨大な宗教国家なのです。
 

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