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復習命

肘の骨折とXpの必要性

2008年12月29日 11時43分14秒 | minor
 1次・2次医療機関をよく受診する肘外傷の患者に対して、X線検査を行わなくても、簡単な肘伸展検査で骨折の有無を予測できる――。そんな研究結果を、英Royal Devon and Exeter Foundation NHS TrustのAndrew Appelboam氏らがまとめ、BMJ誌電子版に2008年12月9日に報告した。

 肘外傷患者に骨折が見つかる頻度はさほど高くはないが、現時点では、どういう場合にX線検査を行うべきかを指示したガイドラインはない。診察時に骨折の有無を予測する方法があれば、不要なX線検査は回避でき、コスト低減が可能になる。

 先に行われた小規模研究で、外傷のある肘の完全伸展が可能なら、臨床的な意義のある骨折は存在しない可能性が示唆された。だが、この方法が日常診療で有効かどうか、また、小児患者にも適用できるかどうかは確認されていなかった。

 そこで著者らは、肘伸展検査が、日常診療において骨損傷の有無を見分けるために役立つかどうかを判定するため、2次医療機関で、成人については多施設前向き介入バリデーション試験を、小児については多施設前向き観察研究を実施した。

 英国南西部の5つの救急部門で、2004年7月から2006年4月まで患者の選出を行った。

 成人(今回は15歳超とした)と小児(3~15歳)合わせて2127人が急性の肘外傷で救急部門を受診した。発症から72時間以内などの条件を満たした1740人(成人は960人、小児は780人)を選出。成人患者の年齢は16~94歳(平均年齢38歳)、小児患者は3~15歳(平均年齢は10歳)だった。

 患者には来院時に鎮痛薬を投与し、肘伸展検査は診察項目の一つとして以下のように行われた。

 腕を隠さない衣類を着て着席している患者に、手のひらを上向きにして床と水平になるところまで腕を持ち上げ、肘を伸ばした状態で維持するように指示する。左右の腕の肘の伸び具合が同じであれば「完全な伸展」と判定する。

 完全伸展が確認された成人患者にはX線検査を行わず、鎮痛薬と、必要な場合のみ三角巾を提供し、帰宅させた。

 小児患者の場合には、肘伸展検査の結果にかかわらず、担当医の判断でX線検査を実施した。 

全員に対して、電話を使った追跡を7~10日後に行った。また、再受診の基準(肘を完全に伸ばせない、痛みが弱まらないまたは強くなっている、腕の機能に問題がある、それ以外に心配がある)のいずれかに該当した場合にはX線検査を受けるために再受診するよう患者に指示した。

 主要アウトカム評価指標は、X線検査における骨折の存在、または、X線検査なしの7~10日時点の回復に設定。

 骨折の存在が確認された患者は全体の31%に相当する538人だった。

 成人患者958人のうち、完全な伸展が可能だったのは313人(33%)。完全伸展が可能だったにも関わらず骨折があった患者は5人(1.6%、95%信頼区間0.5%-3.7%)。うち2人は肘頭骨折で、手術が必要だった。

 肘伸展が不完全だった647人のうち311人(48%)に骨折が見つかり、84人は肘関節内に浸出液が認められた。

 小児では、778人中289人(37%)が肘を完全に伸展できた。それらのうち12人(4.2%、2.2%-7.4%)が骨折と診断された。6人には関節浸出液も見られた。

 完全伸展が不可能だった491人の小児のうち、骨折と診断されたのは210人(43%)。59人には関節浸出液も認められた。

 全体では、肘伸展検査の骨折検出の感度は96.8%(95.0%-98.2%)、特異度は48.5%(45.6%-51.4%)となった。

 成人患者では感度は98.4%(96.3%-99.5%)、特異度は47.7%(43.7%-51.6%)、小児患者ではそれぞれ94.6%(90.7%-97.2%)、49.5%(45.2%-53.7%)となった。感度は成人で有意に高く、特異度には差はなかった。

 完全な肘伸展可能であることの骨折診断における陰性予測値は、成人が98.4%(96.3%-99.5%)、小児は95.8%(92.6%-97.8%)。

 陰性尤度比(1-感度/特異性)は、成人が0.03(0.01-0.08)、小児が0.11(0.06-0.19)だった。

 肘伸展検査は高い感度と陰性予測値を持ち、日常診療において適用可能と考えられた。成人患者で外傷後に肘関節が完全に伸展できない場合は、約50%に骨折が存在するため、X線検査を行うべきだろう。

 一方、完全に伸展できる患者で、肘頭骨折がないと確信できる場合にはX線検査を先送りしてもよい。ただし、X線検査を行わない患者については、7~10日以内に症状が解消しなければ再受診するよう指示しておく必要がある。

 なお、成人患者に比べ小児の患者には幾分注意が必要だ、と著者らは述べている。

 原題は「Elbow extension test to rule out elbow fracture: multicentre, prospective validation and observational study of diagnostic accuracy in adults and children」、全文は、こちらで閲覧できる。