IGTへの薬物介入で2型糖尿病発症リスクの40%抑制を示したVictory Study
家族歴を有するIGTにはより積極的な介入が必要
日本において,耐糖能異常(IGT)へのαグルコシダーゼ阻害薬ボグリボース
の介入効果を検証したVictory Studyの結果がLancet(2009; 373: 1607–1614)
に発表され,治療介入により2型糖尿病発症リスクが約40%低下することが示さ
れた。
同試験のサブ解析を含めた結果が第52回日本糖尿病学会年次学術集会(5月
21~24日,大阪市)で紹介され,主任研究者である順天堂大学大学院教授の河盛
隆造氏は,特に糖尿病家族歴を有するIGT例ではインスリン分泌能が低いために
糖尿病発症リスクが高いことから,より積極的な介入が必要であると報告した。
生活習慣の改善と薬物介入で1年後に6割が正常血糖応答へ復帰
Victory Studyは,国内103施設が参加したランダム化プラセボ対照二重盲検試
験。対象は,世界保健機関(WHO)によるIGTの定義を満たし,かつ,高血圧,脂
質異常症,BMI 25以上,2型糖尿病の家族歴のいずれかの危険因子を有する2型糖
尿病発症高リスク者1,780例。参加者は生活習慣改善の指導を受け続けたうえ
で,αグルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース0.2mg×3/日)投与群(以下,治療
群)897例とプラセボ群883例に割り付けられた。
介入期間は3年と設定されたが,1次エンドポイントである2型糖尿病の発症,2
次エンドポイントである正常血糖応答への復帰が認められた例では試験の治療レ
ジメンが中止された。なお,HbA1Cや空腹時血糖測定は3か月ごと,75g経口糖負
荷試験(OGTT)は半年ごとに行われた。
この結果,介入期間は平均48.1週(治療群45週,プラセボ群51.3週)だった。
1次エンドポイントの2型糖尿病への進展,OGTT糖尿病型への進展については,プ
ラセボ群106例に対して治療群では50例で,治療群のハザード比が40.5%有意に低
下した(P=0.0014)。2次エンドポイントである正常血糖応答への復帰について
は,治療群599例に対しプラセボ群454例で,治療群で1.5倍高かった(P
<0.0001)。なお,1年後の復帰率はプラセボ群45.7%に対して治療群59.0%だった。
IGTへのαグルコシダーゼ阻害薬による介入をみた国外での試験としてはSTOP-
NIDDM(Lancet 2002; 359: 2072-2077)があるが,この試験では,アカルボース
投与により2型糖尿病発症リスクが25%低下し,心血管疾患発症リスクも有意に
低下していた。河盛氏はこの試験と比較し,今回のStudyでは,より大きな糖尿
病発症抑制効果が認められた点や,正常血糖応答への復帰率も高かった点を強調
した。しかし,今回の試験では大血管障害の発症率は低く,両群に有意差は認め
られていなかった。
家族歴を有するIGTでインスリン分泌能が低下傾向
全例を対象に2型糖尿病発症リスクをみた多変量解析では,BMI高値,OGTT 2時
間血糖高値,インスリン分泌指数低下が有意なリスク増加因子として挙がった。
一方,ボグリボース投与のみが発症抑制因子であった。背景別にみた両群の2型
糖尿病発症リスクの比較では, 2親等内に糖尿病患者が存在すると申告した例,
インスリン分泌指数0.4以下,運動量低値例でボグリボース投与の効果が有意に
大きかった。
そこで,家族歴の有無別にみた試験開始時OGTT成績の解析では,家族歴を有す
る群は年齢がより若く,BMI低値の傾向であったのにもかかわらず,30分,120分
の血中インスリン値は家族歴なしと申告した群よりも有意に低値を示していた。
河盛氏は「家族歴が明白なケースに対しては,高血圧や脂質異常症といった他の
リスク,または運動不足や過食などのリスクが少し加わるだけで2型糖尿病を発
症する可能性が高い点を説明し,家族あげて積極的な発症防止に努めるべき」と
指摘した。
今回,正常血糖応答への復帰が認められた例の,その後の無投薬下での追跡結
果も報告されたが,復帰12週間後OGTTで糖尿病型への移行が認められたのは1%
に満たず,40%は正常血糖応答が持続されていた。さらに,1年後のHbA1Cによる
検討でも2型糖尿病(6.5%以上を糖尿病と定義)への進行は2%弱にとどまり,
HbA1C 5.8%以下が7割強という結果だった。
この結果について河盛氏は,「STOP-NIDDMではアカルボース投薬終了時IGTで
あった例の16%が,投薬中止12週間後には糖尿病型に移行した。日本人ではα-グ
ルコシダーゼ阻害薬投与の効果が長期に持続し,また食事療法の効果を高める作
用があると捉えている」と述べた。
早期介入で医療経済効果も期待される
東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝内分泌内科准教授の森豊氏は,この試験に対
するコメントとして,IGTの段階での薬物介入により,増加の一途をたどる糖尿
病関連医療費を抑制できる可能性を報告した。
厚生労働省の調査によると,糖尿病医療費は年間1兆1,165億円となっている
が,このなかには虚血性心疾患や脳血管障害などは含まれていない。全ての合併
症を含めると年間5兆円に達するのではないかとの指摘も出ている。
同科教授の田嶋尚子氏と国際医療福祉大学教授の池田俊也氏の検討では,
Victory Studyの対象に相当するハイリスクIGTへの介入で,1人あたりの追加薬
剤費(ボグリボース)が増加したとしても,全体の糖尿病医療費が約50万円削減
されることで,国民全体では20年間で1.1兆円の医療費削減効果がもたらされる
という試算結果が出ている。
今回のVictory Studyの結果を受け,現在,IGTへの適用拡大も含めた検討が進
んでいることが最後に報告された。
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家族歴を有するIGTにはより積極的な介入が必要
日本において,耐糖能異常(IGT)へのαグルコシダーゼ阻害薬ボグリボース
の介入効果を検証したVictory Studyの結果がLancet(2009; 373: 1607–1614)
に発表され,治療介入により2型糖尿病発症リスクが約40%低下することが示さ
れた。
同試験のサブ解析を含めた結果が第52回日本糖尿病学会年次学術集会(5月
21~24日,大阪市)で紹介され,主任研究者である順天堂大学大学院教授の河盛
隆造氏は,特に糖尿病家族歴を有するIGT例ではインスリン分泌能が低いために
糖尿病発症リスクが高いことから,より積極的な介入が必要であると報告した。
生活習慣の改善と薬物介入で1年後に6割が正常血糖応答へ復帰
Victory Studyは,国内103施設が参加したランダム化プラセボ対照二重盲検試
験。対象は,世界保健機関(WHO)によるIGTの定義を満たし,かつ,高血圧,脂
質異常症,BMI 25以上,2型糖尿病の家族歴のいずれかの危険因子を有する2型糖
尿病発症高リスク者1,780例。参加者は生活習慣改善の指導を受け続けたうえ
で,αグルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース0.2mg×3/日)投与群(以下,治療
群)897例とプラセボ群883例に割り付けられた。
介入期間は3年と設定されたが,1次エンドポイントである2型糖尿病の発症,2
次エンドポイントである正常血糖応答への復帰が認められた例では試験の治療レ
ジメンが中止された。なお,HbA1Cや空腹時血糖測定は3か月ごと,75g経口糖負
荷試験(OGTT)は半年ごとに行われた。
この結果,介入期間は平均48.1週(治療群45週,プラセボ群51.3週)だった。
1次エンドポイントの2型糖尿病への進展,OGTT糖尿病型への進展については,プ
ラセボ群106例に対して治療群では50例で,治療群のハザード比が40.5%有意に低
下した(P=0.0014)。2次エンドポイントである正常血糖応答への復帰について
は,治療群599例に対しプラセボ群454例で,治療群で1.5倍高かった(P
<0.0001)。なお,1年後の復帰率はプラセボ群45.7%に対して治療群59.0%だった。
IGTへのαグルコシダーゼ阻害薬による介入をみた国外での試験としてはSTOP-
NIDDM(Lancet 2002; 359: 2072-2077)があるが,この試験では,アカルボース
投与により2型糖尿病発症リスクが25%低下し,心血管疾患発症リスクも有意に
低下していた。河盛氏はこの試験と比較し,今回のStudyでは,より大きな糖尿
病発症抑制効果が認められた点や,正常血糖応答への復帰率も高かった点を強調
した。しかし,今回の試験では大血管障害の発症率は低く,両群に有意差は認め
られていなかった。
家族歴を有するIGTでインスリン分泌能が低下傾向
全例を対象に2型糖尿病発症リスクをみた多変量解析では,BMI高値,OGTT 2時
間血糖高値,インスリン分泌指数低下が有意なリスク増加因子として挙がった。
一方,ボグリボース投与のみが発症抑制因子であった。背景別にみた両群の2型
糖尿病発症リスクの比較では, 2親等内に糖尿病患者が存在すると申告した例,
インスリン分泌指数0.4以下,運動量低値例でボグリボース投与の効果が有意に
大きかった。
そこで,家族歴の有無別にみた試験開始時OGTT成績の解析では,家族歴を有す
る群は年齢がより若く,BMI低値の傾向であったのにもかかわらず,30分,120分
の血中インスリン値は家族歴なしと申告した群よりも有意に低値を示していた。
河盛氏は「家族歴が明白なケースに対しては,高血圧や脂質異常症といった他の
リスク,または運動不足や過食などのリスクが少し加わるだけで2型糖尿病を発
症する可能性が高い点を説明し,家族あげて積極的な発症防止に努めるべき」と
指摘した。
今回,正常血糖応答への復帰が認められた例の,その後の無投薬下での追跡結
果も報告されたが,復帰12週間後OGTTで糖尿病型への移行が認められたのは1%
に満たず,40%は正常血糖応答が持続されていた。さらに,1年後のHbA1Cによる
検討でも2型糖尿病(6.5%以上を糖尿病と定義)への進行は2%弱にとどまり,
HbA1C 5.8%以下が7割強という結果だった。
この結果について河盛氏は,「STOP-NIDDMではアカルボース投薬終了時IGTで
あった例の16%が,投薬中止12週間後には糖尿病型に移行した。日本人ではα-グ
ルコシダーゼ阻害薬投与の効果が長期に持続し,また食事療法の効果を高める作
用があると捉えている」と述べた。
早期介入で医療経済効果も期待される
東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝内分泌内科准教授の森豊氏は,この試験に対
するコメントとして,IGTの段階での薬物介入により,増加の一途をたどる糖尿
病関連医療費を抑制できる可能性を報告した。
厚生労働省の調査によると,糖尿病医療費は年間1兆1,165億円となっている
が,このなかには虚血性心疾患や脳血管障害などは含まれていない。全ての合併
症を含めると年間5兆円に達するのではないかとの指摘も出ている。
同科教授の田嶋尚子氏と国際医療福祉大学教授の池田俊也氏の検討では,
Victory Studyの対象に相当するハイリスクIGTへの介入で,1人あたりの追加薬
剤費(ボグリボース)が増加したとしても,全体の糖尿病医療費が約50万円削減
されることで,国民全体では20年間で1.1兆円の医療費削減効果がもたらされる
という試算結果が出ている。
今回のVictory Studyの結果を受け,現在,IGTへの適用拡大も含めた検討が進
んでいることが最後に報告された。
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