キヤノンとリサイクル・アシストとの間で、使用済みインクカートリッジにインクを再充填して販売する行為がキヤノンの特許侵害を構成するかどうかで争われていた事件で、知財高裁がキヤノン勝訴の判決を出しました(こちら)。
具体的には、キヤノンの特許が消尽するかどうかで争われていたようです。結論としては、
特許の消尽の問題としても面白い事件なのだと思いますが、個人的に気になったのはリサイクル・アシストの「控訴人のビジネスモデル」という主張です。要は、純正品のインクタンクが非常に割高でインクタンクにより暴利を得ていると主張しています。この主張に対し裁判所は、次のように判示しています(少し長いですが、引用します。一部省略、下線は「ぴて」による。)
インクカートリッジ関しては、以前にICチップを搭載することにより再生品が作れなくなるのではないかということで公正取引委員会でも問題とされ、結果として再生業者が再生品を作ることができるということで問題なしとされています(こちら)。
今回は、ICチップではなく特許権の行使によって再生品の製作を阻止することが適切か否かという問題になるかと思います。この点、裁判所は、
個人的には、「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」で47thさんが論じられている(こちらとこちら)aftermarket monoplyの問題と密接関連した問題ではないかと思っています。
具体的には、キヤノンの特許が消尽するかどうかで争われていたようです。結論としては、
「特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(第2類型)に該当するから,本件発明1に係る本件特許権は消尽しない。」として、キヤノンの特許侵害を構成するとしています。
特許の消尽の問題としても面白い事件なのだと思いますが、個人的に気になったのはリサイクル・アシストの「控訴人のビジネスモデル」という主張です。要は、純正品のインクタンクが非常に割高でインクタンクにより暴利を得ていると主張しています。この主張に対し裁判所は、次のように判示しています(少し長いですが、引用します。一部省略、下線は「ぴて」による。)
しかし,まず,控訴人のビジネスモデルが被控訴人主張のようなものであることを認めるに足りる証拠はない。(中略)控訴人の販売するプリンタ本体の価格が不当に低く,純正品のインクタンクが不当に高いことを客観的に裏付ける証拠は見当たらない。事実認定の当否についてはよく分かりませんが、それ以外の部分の判示についてはもう少し詳細に検討していただいてもよかったのではないかと感じました。1000円の商品における200円~300円の価格差というのはかなり大きいと思いますし、独占の状態での「過大な利益」と自由競争の結果の利益とはまたちょっと評価が違うのではないかと思います(そんなに利益が出るのであれば、新規業者がどんどん参入してくるでしょうし。)。裁判所も独占禁止法の問題について認識しつつも、あっさりと「そのような特段の事情をうかがわせる証拠を見いだすことはできない。」という一言で片付けてしまっていますので、少し不親切だなと感じます。「特段の事情」を例示してもらってもいいのではないかと思いますが、そもそも事実認定の段階で「控訴人のビジネスモデルが被控訴人主張のようなものであることを認めるに足りる証拠はない」としていますから、あっさり流したのでしょうか。
また,特許権者は,産業上利用することのできる発明をして公開したことの代償として,特許発明の実施を独占して利益を得ることが認められているのであり,特許製品や他の取扱製品の価格をどのように設定するかは,その価格設定が独占禁止法等の定める公益秩序に反するものであるなど特段の事情のない限り,特許権者の判断にゆだねられているということができるが,本件において,そのような特段の事情をうかがわせる証拠を見いだすことはできない。
しかも,仮に,被控訴人の主張するように,純正品の価格が製造原価を大幅に上回るものであるとしても,純正品とリサイクル品との価格差(前記(2)カ(イ)認定のとおり,1個当たりの小売価格は,純正品が800円~1000円程度,リサイクル品が600円~700円程度である。)並びに控訴人及び被控訴人が負担する費用(被控訴人の側においては,リサイクル品の製造,輸送等に費用を要するとしても,特許発明に関する研究開発費,本件インクタンク本体の製造費用等の負担を免れているわけである。)を勘案すると,控訴人が純正品の販売により過大な利益を得ているとすれば,被控訴人においても過大な利益を得ていることとなるから,そのような被控訴人が消費者保護の見地から控訴人の本件特許権に基づく権利行使を否定すべき旨をいう主張は,採用の限りではない。
インクカートリッジ関しては、以前にICチップを搭載することにより再生品が作れなくなるのではないかということで公正取引委員会でも問題とされ、結果として再生業者が再生品を作ることができるということで問題なしとされています(こちら)。
今回は、ICチップではなく特許権の行使によって再生品の製作を阻止することが適切か否かという問題になるかと思います。この点、裁判所は、
(前略)もとよりリサイクル品の製造,販売等が一切禁止されるべきことをいうものではない。純正品が特許発明の実施品でない場合にはリサイクル品の製造,販売等が特許権侵害に問われる余地はないし,純正品が特許発明の実施品である場合においても,特許権が消尽するときは,同様である。と判示しています。これは再生品を特許侵害することなく製造することが不可能な場合には、純正品の独占を認めるのが特許法の趣旨であるということなのでしょうか(特許法は、もともと特許権者の独占権を認めているので。)。結局独禁法第21条の解釈の問題になるような気がしますが、その点を論じるのは私の能力を超えていますのでこの辺で止めておきます。
個人的には、「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」で47thさんが論じられている(こちらとこちら)aftermarket monoplyの問題と密接関連した問題ではないかと思っています。
アメリカでも、一般的なアフターマーケット独占を禁ずるべきかどうかについても、現在はやや消極的な意見が優勢なところに加えて、更に特許権の行使としてなされる場合には、特許権が優先されるというのが現在の傾向です。もっとも、より一般的な文脈でみたときの競争法と知的財産権の調整は、かなり議論が分かれているところで、今後日本でも独占禁止法のエンフォースメントを強化する方向にいくとすれば、いっそう議論が必要になる分野という予感はしています。
独占禁止法と知的財産権制度はどう調和すべきなのか、難しい問題だと感じています。
最近では外国企業にアイデアを知られないようにするために、あえて特許出願をしないケースも増えているようです。発明を公表して科学技術の進歩を促すためにはそれなりのインセンティブを特許権者に与えなければいけないとは思います。しかし、特許権者にはライセンスするかしないかも含めた広範な権限が与えられているために、その行使の仕方によっては必ずしも好ましくない結果ともなりうるように思います。
どのように両者のバランスをとるべきなのか、学説の動きに注目していきたいと思っています。
コメントありがとうございます。
正直に申しますと、私の不勉強で、判決でいうところの、特許権が消尽しない第1類型、第2類型というのが理解しずらくて、その点に関するコメントを避けてしまいました。特許発明に係る製品を一度流通に置いたにもかかわらず、まだ特許権が消尽せず特許権者が権利を行使できるというのは、なかなか直感的に理解が難しいものですから・・・。
判決では、第1類型や第2類型の場合は、特許権者が受け取った特許発明の公開の対価の範囲を超えている(ので特許権は消尽しない)という理屈付けのようですが、個人的にはよく分からないところです。
また、よろしくお願いいたします。