ぴてのひとりごと

法務や福岡ソフトバンクホークスの話題など、徒然なるままに書き込んでいるブログです。

企業会計基準と公正妥当な会計慣行

2006-02-18 02:02:39 | 法務
 公正妥当な会計慣行と商法、証取法の関係について面白い論文が2点ありました。「会計基準の設定と「公正ナル会計慣行」」(判例時報1911号、弥永真夫)と「リース会計基準変更に関する法的検討」(商事法務1755号、田路至弘 圓道至剛)です。

 粉飾決算やそれに基づく違法配当は刑事罰を伴う違法行為ですが、なにをもって粉飾決算というかは公正妥当な会計慣行に委ねられています。そこで、公正妥当な会計慣行とはなにか、という問題を避けて通ることはできません。実は、ここには二つの問題があります。

①ある会計処理が公正妥当な会計慣行か否か
②ある会計処理が唯一の公正妥当な会計慣行か否か

 現在、企業会計基準は、財団法人 財務会計基準機構の企業会計基準委員会(ASBJ、こちら)で作られています。①の問題に関連して、ASBJの定める企業会計基準について、田路弁護士、圓道弁護士の論文で次にような指摘があります。
 ASBJには会計基準設定権限を有する旨の法的根拠がないため、ASBJが定めた企業会計基準が公正妥当な会計慣行に該当しない可能性もありうる。つまり、企業会計基準に従って計算書類を作成することが会社法上違法となるケースもありうることを示唆しています。
 弥永教授の論文でも「現在の多数説が、企業会計審議会の公表した会計基準が「公正ナル会計慣行」であると強く推定されるというレベルでとどまり、「公正ナル会計慣行」であるとは言い切っていないとすれば、(後略)」と書かれており、田路=圓道論文と同様のことを示唆しているようにも読めます。

 企業会計基準に従っているにもかかわらず、違法と解される場合が完全に否定しきれないというのはやはり問題ではないでしょうか。最低でも企業会計基準にしたがっていれば問題ないというセーフハーバーとして認められるべきであり、そうでないと何に準拠して計算書類を作成すればいいのかについて常にリスクが存在することになってしまいます。これでは、会社が著しく法的に不安定な状態に置かれてしまうのではないでしょうか。そういう観点からすると、ASBJの策定する企業会計基準に法的根拠を与える必要があるのではないかと思います。
(米国のFASBはSECから会計基準を設定する権限を与えられていたように思いますが、どうだったでしょうか?)

 これだけ見ても、会社法と会計の問題も実は非常に難しい問題をですね。

 ②の問題についてはさらに難しい問題ですね。公正妥当な会計慣行は二つ以上のものが並存しうるので、ある会計慣行に従わないことが本当に違法かどうかは、その会計慣行が唯一の公正妥当なものかどうかというのを検証しなくてはなりません(正確には、その会社が従った別の基準が公正妥当な会計慣行に該当するか否かを検証する必要があります。)。この点については、時間があれば別の機会にじっくり考えてみたいと思います。