凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

旅の移動手段 その7 船舶・飛行機

2007年11月17日 | 旅のアングル
 船旅が好きだ。
 初めて旅行手段として船に乗ったのは多分小学生の時の家族旅行で、神戸から別府までの船旅だったと思うが、この時は子供が幼かったせいもあろう、親父は奮発して個室を用意していた。確かベッドに寝たのもその時が初めてであったと記憶しているし、非常に高揚したことを憶えている。船中一泊の、さほど長くない瀬戸内の旅で、ほぼ乗っている間は夜だったので船外の風景などの記憶もないが、幼い僕には充分に印象に残った。

 次に乗るのはもう一人旅だっただろうか。青函フェリーだったか。いや待てよ、その前に宮島航路があった。
 航路、と言っても、この船の乗船時間は約10分に過ぎない。広島県の宮島口~宮島を結ぶ連絡船であるわけだが、この宮島行きの船というのは、国鉄(現JR)が就航させている。であって、この船は列車の切符の延長線上で乗れるのだ。扱いとしては普通列車に準ずることになっている。こういう鉄道連絡船は昔はいくつかあった。青函連絡船(青森~函館)。宇高連絡船(岡山県宇野~高松)。仁堀連絡船(広島県仁方港~愛媛県堀江。これは連絡船かどうかは怪しいが国鉄の運航)。これらは普通切符で乗船できた。懐かしい時代。さらに昔の関門航路などはもちろん知らない世代ではあるが。今は青函にも宇高にも橋がかかり、仁堀航路は廃止された。こういう船はもう宮島にしかない。
 宮島口駅から桟橋までは少し歩く。乗船すると、もう目的地の宮島は目前に見えている。海中に浮かぶ威風堂々とした厳島神社の大鳥居が徐々に近づいてくる。そうしているうちにすぐ下船。鹿たちが群れ集まってくる。
 この約10分の乗船時間の間に、ビールを一本飲み名物のあなごめしを食べる悦楽を知ったのは後年大人になってからのことである。これは美味いのだよなぁ。

 こんなふうにして、短い連絡船、例えば桜島フェリーであったり串本~大島の巡航船(これは無くなっちゃったな)であったり、はたまた佐渡行きや対馬行きなどちょっと長めの船便であったり、島に渡るときはたいてい船に乗る。むろん飛行機という手段を持つ大きな島もあるが、やっぱり船で行ったほうがいい、と僕は考える。ワクワク感が出るような気がするのだ。飛行場to飛行場というのは点で結ぶ旅行のような気がしてしまう。
 昨今、近距離の島にはどんどん橋が架かっている。前述の串本大島の「今日も行く行く巡航船」が無くなって久しいが、明石海峡大橋やしまなみ海道をはじめ、どんどん繋がっていく。これは実に便利になる話であり地元の方々にとって慶賀であるのだが、旅行者にとっては半々である。車で旅するぶんには渡りやすいが、自分の交通手段を持っていないとかえって不便になる。バスの本数だって少ないこともあるし、近距離だとアホらしい。でも歩くと長い。以前平戸大橋を歩いていて風に吹き飛ばされそうになった。
 併用が最も有難いのだけれどもなぁ。でもそれは贅沢というものだろう。でも尾道~向島の船が無くなったらイヤだなぁ。旅情ばかり追い求めるよそ者は厄介なのだ。

 僕は、船舶で一泊するのが好きだ。
 ヘンな話だが、なんとなしにゆったりとした気分を味わえる。時間がかかると思われるかもしれないが、夜に出て朝着くのであればさほどでもない。飛行機のダイヤ次第では、ずっと船のほうが便利である場合もある。
 例えば関西から五島列島に行く場合。飛行機だとまず長崎か博多へ行くことになるが、金曜の夜に乗るには時間が合わない。そして五島行きの便が不便である。乗り継ぎが難しい。結局途中どこかで一泊しないとたどり着けない。
 最も効率的な行き方は、博多~福江間のフェリーに乗ることである。夜のうちに博多まで新幹線で行ってしまう。博多発フェリーは深夜0:00くらいに出るのだ。博多で一杯やってからでも充分間に合う。そして乗り込んで朝には福江島に着いている。フェリー料金はホテル一泊分より若干安い。そして朝からレンタカーを借りれば、ゆっくり教会や隠れキリシタン関係の史跡を巡ることが出来る。船中一泊で時間も生み出せるのだ。急がば回れ、みたいなものである。
 
 僕は北海道にすら飛行機で行ったことがない。もう旅行では20数度も訪れているのだけれども、一度も無い。そのうち船で行ったのは…7~8回ほどを数える。
 学生のときは、もちろん金銭的にそっちの方がずっと安かったからではあるが、社会人になってからも車を持ち込む際はフェリーを利用した。飛行機で行ってレンタカーよりずっと安上がり、という利点もあるが、時間がさほど変わらなかったというのもある。僕は金沢に10年ほど住んでいたのだが、小松空港から北海道便は昼間に一便あるのみである。東京で乗り継ぎ、という手段もあるがそれは贅沢すぎるし、休みの前日に出発してもどのみち東京で一泊せざるを得ない。
 船であれば、新潟の直江津港から室蘭(岩内)までの便が出ている(現在休航)。これは深夜発であり、金沢~直江津は高速で2時間ちょいで行ける。乗り込めば、日が暮れる前には上陸である。さほど変わらない(余談だが、日本海側を回るフェリーの料金というのは異常に安い)。それに、のんびりと船旅が出来るではないか。

 この記事は「移動手段」の記事であるのだが、船に関して言えば単純に移動手段と割り切ることが僕には出来なくなる。上記の北海道便だって、そんなに時間は変わらない、と言いつつやっぱり時間はかかるのだ。ただ、この船に乗っている時間というのが愉悦なのである。船旅の悦楽というのはやはり捨てがたい。
 と言って、別に豪華客船に乗ろうとかそういう話ではない。そんな経験などしたことがないし、これからも多分やることはないだろう。宝くじに当たって世界一周の船旅、てな機会が絶対に巡ってこないとは限らないが、なんだかそれは面倒臭そうで。豪華客船の本は何冊か読んだが、食事ひとつにしてもネクタイを締めなければならない。タキシードも必要だったり。いやそういう楽しみがあってもいいのだが、育ちの悪い僕には堅苦しくて。僕が好きなのは、長時間船に乗ることによる「何もしなくてもいい、何も追いかけてこない」時間の確保であるからだ。そのたまらない自由な感じ。
 北海道に行く舞鶴~小樽間フェリーのことを考えてみよう。この船は、かつては一日半かかったのんびりした船だった(夜出て船中二泊で翌々朝とか)。しかし、今では20時間程度である。短くなったのはむしろ残念という気持ちさえある。深夜発であり、休前日でも充分に間に合う。料金は安い。一人一万円前後(繁忙期には高くなる)、車航送の場合はその料金に大人一名は含まれる。僕の車は軽であり4m未満だから概して安い。
 出航までの時間に、僕は既に宴会を始めてしまう。2等船室の一画を占め、持参している弁当を広げる。手作りでもいいしスーパーで買ってもいい。そしてクーラーボックスにはビールと酒。たいていは花見の宴会風である。これから旅が始まるという高揚感が全身を覆っている中で呑む酒は美味い。
 そうして酒がまわった頃、出航の時間となる。船はゆっくりと岸壁を離れてゆく。デッキに出て、街明かりが遠くなるのを見ながらウイスキーのラッパ呑みをしているのはたまらない。旅情が極まるときというのはこういう時間ではないのか。そして酩酊して就寝。
 翌朝は好きなだけ寝坊。そして起きたら一杯のコーヒー。余談だが、船というのはレストランも併設しているがたいてい高い。そしてメニューが少ないので好みのものがあるかどうかわからない。なので基本的に「持ち込み」である。有難いことに、お湯だけは提供してくれる。なので、カップ麺などを持ち込めば安く上げることは出来る。僕はと言えば、朝のコーヒーもインスタントを持参して勝手に作っている。レストランでもコーヒーくらいは飲めるが、僕はデッキに出て風に当たりながら喫したいのだ。レストランのカップを持ち出すわけにはいかない。
 そしてブランチ。ワインを一本開け、パン、生ハム、チーズ、缶のレバーペーストなどを広げて(フォアグラを買いたかったが高かった)悠々と食べる。お湯を注げばスープも出来る。結構極まりない。
 晴れていればデッキに出て、或いは展望室のソファーでゆっくりと読書。音楽を聴きながら読みかけの小説を広げつつ、ビールを一本。かもめが舞いトビウオが跳ねる。陸地はかすかにしか見えない。電話もかかってこない。こんな贅沢があろうか。そしてこの先には北海道が待っているのだ。
 昼を過ぎればアルコールの摂取を止める。夜には着いて運転しなくてはいけないからだが、ここがちょっと不満。昔は翌日の朝着だったのでまだ飲み続けられたのだが。まあそんなことはいい。着けば小樽の美味い魚が待っている。そうしているうちに壮大なサンセットを堪能し、船が港に入る。船旅は楽しい。

 今まで最も長かった船旅は沖縄便だっただろうか。神戸を夕方に出て、直通ではなく奄美列島を経由して那覇に行く最も時間のかかる船に乗った。学生ならではだっただろうが、この船が冬のことでもあり遅れて、翌々日のお昼到着のはずが夕刻になった。48時間である。退屈はしなかったが、荒れる海で三半規管がやられてしまったようで、上陸してしばらくは身体が揺れていた。歩道橋に上がって思わず「この橋揺れている」と思いあわてて手すりを持ったが、なんのことはない自分の頭の中だけが平衡感覚を失っていたのであった。
 余談だが、僕は有難いことに船酔いというものには強い。こんな状況でも気持ち悪くなることはなく、せいぜい前述のように揺れに順応してしまう程度だ。だから船旅が好きなのかもしれない。船酔いの経験はただ一度、以前与那国島への旅で書いたようなダッチロール式揺れの時だけだ。

 長い船旅というのは愉しいものの、やはり時間がどうしてもかかるので断念せざるを得なくなってくる。沖縄に行くのはやはり船が一番だろうとは思うが、これだけ時間がかかっていたのでは今では無理である。それでも果敢に滞在時間を削って船で旅立ったこともあったが、今では沖縄に行くのは船より飛行機の方が安いのである。昨今のダンピング、格安航空券の出回り方はすごい。というわけで、現在では約2時間でひとっ飛びである。味気ないと言えば味気ない。
 飛行機というものには、沖縄便以外は、数えるほどの海外経験を除きプライベートで乗った記憶がほとんど無い。小松~羽田というのは何度か仕事で乗ったことはあるが、個人的にはほとんど飛行機には乗らない。
 別に怖いというわけではないが、面倒なのである。飛行場はたいてい離れているのでアクセスに時間がかかる。発ギリギリに飛び込むわけにもいかず待ち時間が長い。それなら新幹線に乗ってしまえ。そんなんで飛行機とはあまり縁がなく語るほどの材料が無い。
 飛行機で乗っていて楽しいのは、晴れた日に窓際を確保出来たときだけだろう。富士山を眼下にする感動を知る人は多い。数少ない経験から言えば、沖縄便でエメラルドグリーンの海に浮かぶ島々を眺めつつ高度を上げ、そして屋久島、種子島を真下に見る。あああの川は安房川だ、さすれば宮之浦岳のピークはあそこだな、じゃ縄文杉はあのへんか。はたまた四国上空。おお高知平野じゃないか。桂浜も見えるな。鏡川が糸のようだ…。一応地理には強いので楽しめる。そして飛行機は徐々に高度を下げ、旋回する。おお、中百舌鳥古墳群が真下だ。仁徳陵古墳はやっぱり凄い。あっ大阪城だ。もう降りてきてるんだなあんなに大きく見えるぞ…と言う間に伊丹空港着。今は神戸空港なので、うわ明石海峡大橋だ、てな具合。だから席確保のために早く空港に行かなくてはいけない。すると待ち時間が長い。うーむ。
 
 やはり飛行機について語ることは出来なかった。まあいいか。旅の移動手段についての話はこれで終わり。

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6 コメント

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船旅 (jasmintea)
2007-11-17 21:26:10
私は客船で船旅ってあまり良い思い出がないのですが島間を結ぶ小さな船に乗るのは大好きです
やっぱりしまなみ海道は最高かな♪
しかしウィスキーのラッパ飲みですかぁ?ぐぐーっときそうですね~

飛行機の旅はドラちゃんのどこでもドアみたいに一気に目的地に着いてしまうので旅情がなく好きではありませんが、凛太郎さんが書いて下さったとおり、空の上は素晴らしいです
地形を見ながら地図と照合したり、海の青と空の青を比べたり雲の観察をしたり。
鉄道より飛行機の方が安いので最近は空の旅が多いような気がします。
返信する
船舶免許取得が必要か。 (まるちゃん)
2007-11-17 23:32:26
凛太郎さん 船酔いに強いって?
うらやましい。

船旅 優雅なイメージ。
ううう イメージのバカあ。
神戸→横浜 豪華客船の旅 お食事も憧れ。
だのに。
船長さん「この船始まって以来の大揺れです」
まるちゃん ずっとベッドの上。
ナニも食べてない ナニも楽しんでない。
ううう くくく。
クルマ酔いは 自分で運転することで克服したんだけどっ。
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>jasminteaさん (凛太郎)
2007-11-18 23:41:32
船旅というものは、あまりいい印象を持ってらっしゃる方が少ないですよね。まず「立っている床が揺れる」ことが前提なので、長時間ともなるとたいてい疲れてしまう。僕はその空間が好き、という珍しい人間なのですが、通常は短い乗船時間の方がいいでしょうね。物珍しさを感じているうちに終わると言いますか。船上は風景がいいですからね。
ウイスキーのラッパ呑みというのは、カッコつけてるだけなんですよ。焚火の話で書いたとおり。

飛行機は、別にダメだということじゃなくて機会が少ないという理由で語れないのです。今はフリーツアーに代表される格安航空券のおかげで身近ですしね。
ただ、そこに楽しみを見出そうとすれば、窓際の席につくしかないのですね、僕にとっては。地図を見ているだけで楽しくなる僕などは、あの上空の眺めはこたえられませんね。だから曇りの日などはじつにつまんない(汗)。
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>まるちゃん (凛太郎)
2007-11-18 23:46:12
船酔いというのは、やっぱり体質なのかもしれませんね。ダメな方はホントにダメ。
当方、連絡船とフェリー専門なので豪華客船というものにはついぞ乗船したことはないのですが、それって惜しいですよね(汗)。せっかくの憧れのお食事も…。損害賠償を請求できないものでしょうか? (笑)
TVで漁船の船長さんが話していたのですが、自分で操っているぶんには平気だけど、人に乗せてもらうと気分悪くなったりするよ、なんて話が。操舵手になっても克服できるかどうか…(おっと夢の無い話だな^^;)。
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船旅 (組長~!)
2007-11-27 14:24:54
私も船旅が大好きです!船旅はゆったりできますよね。

渋滞している道をしんどい目をして走るより、目が覚めたら九州!とか、北海道!とかの方がずっと快適です。

先日、新しく作られた『さんふらわあごーるど』の就航の日に運良く乗船する事ができました。

どこもピカピカで、一層ワクワク感が増しました!

これを読んだら、また船に乗りたくなって来た・・。
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>組長~!さん (凛太郎)
2007-11-29 23:13:11
九州行かれていたのですね。お帰りなさい。リフレッシュには良かったのではないでしょうか。ブログ拝見しておりました。相変わらずいい文章ですねー。
コメントは、楽天メンバーでもなくライダーでもない僕が闖入するのは場違いなような気がして遠慮していましたが、フリーページの旅行記はまたじっくりと読ませていただきます♪
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