凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

RCサクセション「あの歌が思い出せない」

2009年05月06日 | 好きな歌・心に残る歌
 忌野清志郎さんの訃報は旅先で聞いた。
 癌であることは公表されていたけれども、こんなふうに足早に逝ってしまうとは思わなかった。5月2日。憲法記念日の前日。第九条、戦争放棄の条項に対して「この条項はイマジンの詩じゃねーか、自慢しよーぜ」と言われていた。その言いようがいかにも詩人の清志郎さんに相応しかった。ちょっと早すぎる。僕は、RC及び清志郎さんの音源に全て接しているというわけでもなく、追悼の意をネットに書き込む資格があるのかどうかも分からないが、ショックであることには変わらない。
 RCサクセションの記事を以前書き出したことはあったのだが、書ききれず長い間オクラ入りさせていた。草稿時の日付を見ると2006年になっている。3年も放置していたのか。なんで書けなかったのかと言えば、生意気に思えたからである。世の中には清志郎さんを慕っている人は多い。人生の師であるとまで言う人も身近に居る。そんな中で僕が書くなどおこがましいことだと思い、もう少し熟成してからと考えていたのだが、そうしているうちに清志郎さんが亡くなられてしまった。
 2009年5月現在、ネットにはたくさんの追悼記事が溢れている。それに紛れて、僕も昔書いた拙い文章に少し手を入れてアップしようと思う。

 RCサクセションを最初に聴いたのは、やっぱり「雨上がりの夜空に」だったかと思う。中学生だった。その時は、見栄を張らず正直に言ってさほど強い印象は持たなかったように憶えている。フォーク少年だった僕がようやくロックに目覚めた頃だったのだが、ロックと言えば洋楽ばかりで、日本のバンドにはさほど興味を持っていなかった。邦楽で言えば、同時期に例えばP-MODELであるとか、ヒカシューとかのテクノ系が出だした頃で興味はそちらに向いていた。
 訳知り顔の友人が現れる。「RCって実はフォークなんやぞ」と。
 実はフォークってどういう意味だといぶかしむ僕に彼は一本のカセットテープを貸してくれた。彼の兄は大学生で音楽に造詣が深いので時々情報をくれる。そのカセットテープは、後から知ったのだがアルバムではなくシングルを編集して録音したものだった。私家版ベストだな。
 「ぼくの好きな先生」「キミかわいいね」「上を向いて歩こう」そして名曲「スローバラード」などが録音されていたのだが、その中に「あの歌が思い出せない」が入っていた。
 僕は当時かぐや姫が大好きで、山田パンダさんの歌う「あの唄が想い出せない」はよく知っていた。やさしくやわらかなパンダさんの声で奏でられるこの曲は好きだった。その曲と同じものである。
 かぐや姫のLPのクレジットを見ると「作詞:忌野清志郎/作曲:武田清一」となっている。そうか、この曲はかぐや姫のオリジナルではなかったのだな。こっちが本家なんだ。
 後に知ったのだが、この曲が世に出たのはかぐや姫の方が先であり、RCのはそのあとのセルフカバーという形になる。デビュー以来売れなかったRCであり、かぐや姫のファーストアルバムに先に採用してもらったということか。
 武田清一さんという人を僕は全然知らなかったのだが、後にこの人は「日暮し(「い・に・し・え」で有名)」を結成された方らしい。
 このことはよく知られていることで言わずもがななのだが、そもそもRCサクセションの原型は中学校の時に結成された「ザ・クローバー」というバンドである。メンバーは清志郎さんと破廉ケンチ、小林和生氏。完全にRCの初期メンバーである。そして高校進学によりバンドは一時解散、清志郎さんとリンコさんは先輩だった武田清一さんとバンドを結成、これが「リメインダーズ・オブ・クローバー(Remainders of Cloverつまりクローバーの残党)」である。ここで武田さんが出てくる。後に武田さんが離れ破廉ケンチ氏が再び合流して三人で結成されたのが「Remainders of Clover Succession(継承の意)」であって、つまりRC SUCCESSIONである(以上、なぎら健壱「日本フォーク私的大全」より)。なお、このバンド名については「ある日作成しよう」という言葉をもじったという説もあるが、これも清志郎さんが言ったことであり冗談にせよ間違いということもないだろう。
 
 さてその「あの歌が思い出せない」。今まで知っていたかぐや姫バージョンとは全く印象が異なった。そして、かぐや姫ファンには誠に申し訳ないが、圧倒的にRCの方が感動した。

  この街角 一人で何のあてもない ついてないよ ぼくに雨もふりだした

 もちろんパンダさんのもいいということは繰り返しておかなければならないが、僕には(あくまで僕にとっては)RCの歌声がより琴線に触れたということだろう。
 タイトルは、かぐや姫の方が詩的である。「歌⇔唄」。「思い⇔想い」。ここには清志郎さんの含羞が込められているようにも思う。「想い」なんてオイラには気取り過ぎじゃん、みたいな。
 歌詞も一部異なる。
 かぐや姫「君はいつもどうして今日も生きてるの/わからないよ僕は信じたいのに」
 RCサクセション「君は何を信じて今日もそこにいるの/わからないよ僕は信じたいけど」
 どちらが本当のオリジナルであるかは知らないけれども、こういう別バージョンというのはよくあること。例えば小椋佳は「白い一日」を井上陽水版と少しメロディを替え、「俺たちの旅」は中村雅俊版と歌詞を一部替えている。
 ただ、文脈、文章の意味はかぐや姫版はよく分からない。君はいつもどうして今日も生きてるの、ではどこか不自然ではないか。君はいつもどうして今日'を'生きてるの、であるなら話は分かるのだが。またもしかしたら、君は(僕は'いつも'君について考えるんだけど)どうして今日も生きてるの、の省略形であるのか。後者であるとすれば、つまり「君はどうして今日も生きてるの」が主文であり、相当にキツい一言ではないか。まさか死ねと言うはずも無し…。
 「どうして」の解釈が難しいのだろう。これを「なぜ?どんな訳で?」と読んでしまうからややこしくなる。「どういうふうに?」であるなら、助詞の「も」でもかまわない。君は、いつも(の日常を)どんなふうにして今日も(昨日も、そして明日も)生きているの、ということで、別れてしまった彼女への追想と断ち切れない恋慕の感情が浮かび上がる。文脈から言ってこれが正解だろう。ただ、ややこしい。
 RC版の方がすっきりしている。「君は何を信じて今日もそこにいるの」と歌い、後段の「わからないよぼくは信じたいけど」とも合わせて、価値観のズレが別れに繋がったことも浮かび上がる。
 かぐや姫がまさか勝手に改変したわけじゃないだろう。どっちも清志郎作だと考えられる(詳しい事情をもちろん知っているわけではないので詳細をご存知の方は教えて欲しい)。そして、かぐや姫版には当惑が、RC版には後悔の念が僕には感じられる。どっちがいいのかな。でもRCは、君は何を信じて…と歌い、僕にはそちらの方が強烈に響く。
 細かい重箱の隅をゴタゴタと言ってしまった。そんなことはどうでもいいことなのだろう。

  曇った街並み 僕には歌う歌もない 君がいつも歌ってた あの歌が思い出せない

 この部分、清志郎節が映える。言葉のひとつひとつを刻み付けるような。切なさが胸に沁み入る。大切なものを失ってしまった空虚さ。寂寞の思い。降り出した雨に傘を差すことも忘れているのではないか。

 忌野清志郎という人は本当に歌うその言葉に力を持たせる。このパワーはいったいなんだろう。
 話はそれるが、清志郎という人は「日本語ロックのさきがけ」とも評される。そもそも洋楽に日本語を乗せる事は本来難しいはずで、音楽に詞を乗せる場合、一音符一音節で通常は当てはめるものだが、一音節でひとつの単語を乗せられる欧米言語に対して日本語は基本的に一音節一文字である。構造が異なるため、洋楽の旋律に日本語を乗せると雰囲気が出にくいし意味も伝えにくい。
 例えばシャンソンだと「C'est une chanson qui nous ressemble…」とフランス語で歌えば極上であるのに「か・れ・は・よ~ 枯葉よ~」と一音符一音節の原則に忠実に歌えばとたんに間延びしつまらなくなる。♪ひとつにC'estを充てられる仏語と'か'しか充てられない日本語。
 だから、思いや雰囲気を込めようと思えば、吉田拓郎のように細かくたたみ掛けて情報量を増やしたり、桑田佳祐のように英語風に歌ったりになってしまう(しかし桑田さんの歌って清志郎さんの対極にあるような気がするなー。これはこれで好きだけれど)。
 洋楽のひとつの極みであるロックンロールを容易く歌おうとすれば、どうしても歌詞に英語が混ざった方が耳馴染みがいいのだ。けれども清志郎さんは、徹底して日本語を遣う。清志郎さんの紡ぐ詩は、外来語や決まり文句のような簡単な英語(I Love youとかベイベ~)以外は、分かりやすい母国語だ。あのライブのいつもの台詞「愛し合ってるかーい」ですら、敬愛して止まないオーティス・レディングの「We all love each other」を訳したもので、完全に自家薬籠中のものにしてしまっている。
 言葉を大切にしている人だとつくづく思うし、詩人だと思う。
 そしてさらに、言葉ひとつひとつが実に聞き取りやすい。滑舌がしっかりしているのか、子音を大切に発音しているのか。聴いていて歌詞が聴き取れないなんてことがない。こんなにはっきりと発音する人は、あとはポルノグラフィティの岡野昭仁君くらいかなぁ。しかもこんなに聴き取りやすいのにものすごく個性的な歌唱法であるのはどういうことか。
 身体の奥底から搾り出すように叫び言葉を刻む。言霊を表現できる人。本当に稀有なボーカリストだ。

 話がずいぶん脱線してしまったが、そんなこんなで僕はRCの「あの歌が思い出せない」が大好きな歌になった。
 この歌はアルバムに収録されず、「ハード・フォーク・サクセション」という初期のベストには入っていたらしいのだが廃盤となっており、僕の音源は長らく、例の友人のテープのコピー、つまりダビングのダビングで相当音質の悪いモノラル版だけだった。だが、近年これが「HARD FOLK SUCCESSION」としてCD化されたのは有難いことだった。幻の歌ではなくなったのだ。
 
  君はいつも やさしく僕を抱いてくれたけれど

 この最後の言葉も、清志郎さんが歌うと何だかいい。パンダさんは大人だが、清志郎さんはどこか少年ぽいところがある。それが、女性の母性本能をくすぐって思わず抱きしめたくなるこの主人公に似合う。男は、好きな女を抱きしめたいと願うけれども、時には抱いて欲しい時もあるんだ。いつもは突っ張って突っ張って生きている男も、それだけじゃ生きていけないんだよ。
 本当の弱い自分を見せることの出来る数少ない、もしかしたらたった一人だったかも知れない人。抱いてくれる人ってのはそういう人のはずだ。その人を失ったら、そりゃ雨にも打たれるだろうよ。忘れる事など出来ないはずのあの歌も、今は思い出せない。忘れちゃったんじゃないんだけど思い出せないんだよ。
 何と痛切な叫びなのか。

 その痛切な思いを伝えてくれた清志郎さんが逝ってしまうとは。お別れは突然やってくる。
 空がまた暗くなる。でも、風の中に君の声が聴こえる。どうか安らかに。合掌。
 

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4 コメント

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8曲目です (さくぞう)
2011-06-16 08:41:37
8曲目の書き込みになります。
「あの歌が思い出せない」・・・
「ハード・フォーク・サクセション」LPで持っています。

しかし、コレもレアな曲ですよねぇ(お互い様ですが・・・)

僕も訃報を聞いたのは、旅先の遠野YHでした。庭先で携帯のニュースを読んで呆然としました。
「青山ロックンロールショー」にも参加しました。かなり前に並んでいたので、竹中直人、大竹しのぶ、甲本ヒロトの弔辞も全て生で聞こえて、ボロボロに泣いたです。
個展やら、母校の日野高校文化祭にも行きました。

そもそもRCを聞き始めたのは、深夜放送の影響が大きかったです。
当時タモリが「トランジスタラジオ」の物まねやら、愛し合ってるか~い!?
なんて話しつつ、コノ曲をかけていて気になったのが最初ですね!
まぁ、その前から、「僕の好きな先生」とか、古井戸の「さなえちゃん」なんかは耳には入ってきていましたがね!

それに坂崎の番組でも盛んにかけていたので、このLPを予約して購入したのでした。
赤いジャケットにRCって白抜きで大きく書かれていたのを覚えています。

また、文末に「ヒッピーに捧ぐ」「空がまた暗くなる」「風の中に君の声が聴こえる」を並べてあるのは「粋」ですね!
ラフィータフィーも押さえていらっしゃるとは!
僕は、ラフィーは映画館で2回「不確かなメロディー」見ました!
チャボが居ない分、清志郎がギター弾くシーンが沢山ありますよ!
もしもご覧になっていないようであれば、是非!のDVDです。
打ち上げとか入浴とかの「素」の清志郎がとても新鮮です。
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>さくぞうさん (凛太郎)
2011-06-17 05:09:39
「HARD FOLK SUCCESSION」をLPでお持ちなのはさすがですね。僕は書きましたように当時はカセット音源しか持っていませんでした。例の日野高校文化祭やライブ葬儀にも行かれたとは、筋金入りですね。

ラフィータフィーを押さえているというほどではありませんが(汗)、「太陽の当たる場所」という歌が好きでしてね。好きな歌を三つ並べただけです。
「不確かなメロディー」は観ていません。機会を作ろうと思います。
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不確かなメロディー (さくぞう)
2011-06-17 08:42:03
>「不確かなメロディー」は観ていません。機会を作ろうと思います。
↑是非是非ですよ!
インタビューとかの対応が、全然「茶化してなくて」これまでのメディアの登場なんかとは全然違うんです。
ナレーションは、三浦友一です。
最後のほうにたった一こまですが、筑紫哲也さんが写るんですが、それだけでも泣いてしまいました。
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>さくぞうさん (凛太郎)
2011-06-18 01:23:03
いずれ観ますー(^^)
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