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リバース・インディアンデスロック

2022年10月02日 | プロレス技あれこれ
 アントニオ猪木の技と言えば、まず思い出されるのは卍固めなのだろう。猪木の至高のフィニッシュホールドと言っていい。自身最も大切にした技ではなかったか。僕などはイメージとしてタイトルマッチ、あるいはシリーズ最終戦にしか出てこない技という印象までもつ。
 代名詞とも言える技で、オリジナルホールドと言ってもいいような気さえするが、実際は僕も昔書いたとおり(→オクトパスホールド)、ヨーロッパに以前からある技らしい。日本では猪木ののち、天龍がダサくつかった以降は鈴木みのるや西村修らがリスペクト的にやるくらいで後継者はいない、と以前書いたが、上リンク記事は15年前に書いたもので、最近は猪木の影響下にないレスラーも時々使用する。キャッチの使い手であるザック・セイバーJr.の卍固めを見ると、いかにもヨーロッパ技らしくみえるから不思議だ。

 ふと思う。猪木にオリジナル技というのはあったのだろうか。
 伝説的に語られるのはアントニオ・ドライバーである。猪木の初期のフィニッシュホールドとされる。しかしこの技、古すぎて僕は見たことがない。
 なので、雑誌やプロレス本に載る写真だけが手がかりなのだが、これはフロントネックチャンスリードロップの猪木流であるということが定説になっている。確かに、そのように見える。
 実際に見ていないので論じるのはよろしくないのは承知だが、フロントネックチャンスリードロップは、フロントヘッドロックの体勢から後方へ投げる。僕の知っているこの技は、つまり反り投げである。相手は背中から落ちる。猪木は、マットに脳天を突き刺しているように見える。だからこそ「ドライバー」なのだろう。パイルドライバー同様、脳天杭打ちなのだ。
 マットに脳天を突き刺す技といえば近い技があってそれはDDTなのだが、DDTはフロントネックロックに捕えて後方へ倒れこむ。これなら僕にもできそうに思える(後方受け身が無理か)。猪木はアントニオドライバーを多用しすぎて腰を痛め、この技を封印したのだという。DDTでは腰を痛めない。やはり反り投げだったと思われる。
 しかしながら、やはりオリジナル技とは言えない。「脳天をマットに突き刺すように放つフロントネックチャンスリードロップ」が分類としては正しいだろう。今なら垂直落下式か。

 猪木のフィニッシュホールドを年代順に考えれば、アントニオドライバー、コブラツイスト、ジャーマンスープレックス、卍固め、延髄斬り、魔性のスリーパーなどが並ぶ。バックドロップや腕ひしぎ逆十字、また腕固めなどをフィニッシュにした試合も記憶しているが、いずれも昔からある技や柔道技からの派生である。
 延髄斬りだけはオリジナルに近いような気がするが、昔僕も書いたけれども(→記事)、分類すればこれはジャンピングハイキックの猪木流である。
 猪木の技は他に、ドロップキック、ボディスラム、アームブリーカー、キーロック、ショルダースルー、ニードロップ、ボーアンドアロー、ナックルパート…いずれも先人がいる。(ナックルは反則)
 ただひとつ、リバース・インディアンデスロックだけは、先達がいたのかどうかがわからない。
 以前インディアンデスロックの記事を書いたときに、当然ながらリバース式にも言及したのだけれど、そのときも元祖が誰かわからなかった。僕の持っているプロレス技読本的なものをひっくり返したのだがオリジナルに言及があるものがなかった。
 15年前と違い、今はネット上にも資料が蓄積してきている。検索すれば驚くべきことにリバースインディアンデスロックのWikipediaまであった。そこには、リバースにするアレンジを施したのは猪木だと記してある。しかしWikipediaなのに出典が明記されてない。[要出典]と編集したくなるが面倒臭い。
 文責のないネットはあてにならないけれど、認定でオリジナルと考えてもいいような気もした。もう証言者も少ないだろう。もちろん猪木に聞けばわかるのだろうが、それも出来なくなってしまった。


 訃報を聞いたのは、10月1日の夜のニュースだった。亡くなられた当日の夜。
 その夜は遅い時間だったので酒を呑んで寝たのだが、翌朝もなんだか空虚な気分が晴れない。思ったよりも強いダメージを受けている自分に気づいた。
 もちろん猪木の病状が悪化しているのは知っていたし、激烈に痩せている姿も映像で見ていたから、ある程度は覚悟も出来ていたはずだったのだが、それでも予想外の喪失感に自分でも驚いている。同い年の橋本真也が死んだとき。馬場さんが死んだとき。鶴田が死んだとき。三沢が死んだとき。ブロディ、アンドレ、マードック、アドニスのときも辛かったけれども、今回のような落ち込みじゃなかったような。僕が歳をとったからかもしれないが。
 リング上の猪木のことを朝からぼんやりと考えていた。いろんな場面が思い浮かんでくる。

 報道は、もちろんプロレスラー猪木のことを中心に振り返っているが、やはり政治家として、あるいは「元気ですか!」と声をあげる猪木や、闘魂注入のビンタなどもとり上げている。猪木ファンは、猪木のよくない部分も多く知っているため、レスラーとしての猪木に特化して報道してくれればいいのに、と勝手に考える。
 僕は猪木が出馬したとき、猪木信者だったにも関わらず散々逡巡して投票しなかった。猪木は政治家にはならない方が良いと思った。それでも、人質解放の時、北朝鮮とのときに揶揄する声が聞こえてきたら、つい必死にかばって猪木の行動を肯定して口論めいたことにもなったりした。ファン心理は難しい。根底には、猪木がどれだけ素晴らしいレスラーだったかを知らずに猪木を語るなかれ、とやっぱり思うからだろう。ヘンなものだと自分でも思う。

 またリング上の猪木のことに思いを馳せる。
 プロレスはking of sportsであるのは疑いないが、その「プロ」という部分を最重要課題にしたという点においてもKingである。顧客満足を一義とし、「勝つ」だけではなく「魅了する」ことが最も大切だった。その頂点に猪木がいた。
 アマチュアレスリングは、基本的にタックルを狙うために前傾姿勢となる。プロレスもレスリングなのでそういう一面もある。だが猪木は、動物が獲物を狙うような鋭い目で前かがみに相手をキャッチせんとする瞬間もあれば、またすっと背筋を伸ばし両手を広げて自らを大きく見せた。その姿がいかにも美しかった。
 多くの一流レスラーはそうなのだが、中でも猪木の立ち姿の見せ方は徹底していたといえる。表情を伝えることを重視していたからかもしれない。
 ショルダースルーですら、最後まで身をかがめない。相手をロープに振り、前をしっかり見て向かってゆく。相手が返ってきたその一瞬、片方の肩口を下げて潜り込む。スピード感がある。リング中央で腰をかがめて待つ鶴田とはかなり違う(鶴田には鶴田の意図がある)。
 猪木の延髄斬りのシルエットの美しさは、ジャンプしながら上体が立っていることにある。レの字型。これはなかなか出来ないのではないか。なのでヒットの瞬間も顔が見える。多くの模倣者は頭が落ちている。確認してほしい。
 卍固めもそうだ。猪木はバランスにこだわっているように見え、極まれば必ず上体はリングに対して垂直になっている。これは左脚で相手の頭部をぐっと押さえつけるパワーが必須となる。猪木は傾かない。鈴木みのるやザックはどうしても左脚が浮いて傾げてしまう。良い悪いの話ではなく、ザックの方がタコに似ていて、鈴木の方が卍に見えるが、猪木は顔が傾かないように見せる。さらに卍固めは実は右腕が必要ない。ザックなどはその空いた右手で相手の腕をさらに極めにかかったりもするが、猪木は相手の臀部に右腕を置いて、出来るだけ左右対称であろうとしている。観客に映じる姿を常に念頭においていた。

 猪木は、またその速さがいい。一瞬のスピード感。
 Jr.ヘビーはもちろん俊敏に技を繰り出すし、ヘビー級も今はみな動きが速い。だが猪木には、緩急を自在に使い、刹那の攻防を観客に見せる技術があった。
 コブラツイストを仕掛けるときのアレはなんだろうか。相手をロープに振り、戻ってきたときに一瞬交錯したと思ったらもう完全に掛かっている。手品のようだ。そもそもなんでコブラツイストをかけるのにロープに振るのか。猪木の演出だろう。棒立ちの相手に仕掛けるよりもスピード感が何倍も増加する。コブラは立ち関節技で極まれば動かない。なので、動と静の対比をそこで見せる。
 ニードロップを落とすのに、誰よりもコーナートップに上がるのが速かったのではないか。だいたいヘビー級はよっこらしょと上がるのだが、猪木はするするっと駆け上がって直ぐに降ってくる。今なら棚橋もまあまあ速いが、棚橋はフィニッシュ技のためにある程度派手に動かなくてはならないから、スピード感なら猪木の後塵を拝してしまう。
 
 それらの、猪木のプロレス表現要素。立ち姿。一瞬のスピード。動と静。
 その白眉が、リバース・インディアンデスロックではなかったかと考えている。
 タッグマッチならなおのことこの技が映える。相手をロープに飛ばし、自らも交錯するようにロープワークを駆使して走る。リング中央で十字に交わるその刹那、スライディングレッグシザース(カニ挟み)で相手を倒すと同時に足をとり、うつ伏せに倒れた相手の足首を離さぬまま両足を畳み、自らの足を瞬時にその中へ差し込むとすぐさま仁王立ちとなって両腕を前方に出し、敵陣の相手パートナーを威嚇し牽制する。ここで、一瞬時間が止まる。猪木の千両役者っぷりが最高潮に達する瞬間。
 ロープに振ってから動きを止めて見得を切るまで5秒くらい(ワシ調べ)。全盛期だともう少し速かったかもしれない。この疾走感と緩急、表情は猪木でないと無理だろう。対比するなら歌舞伎の荒事とか高橋英樹の殺陣とか、そういうものが相応しいか。とにかく絵になる。
 このあとはご承知の通り何度も後ろに倒れて痛めつけ、若い頃は鎌固め、後年はボウアンドアローに移行して終わるのだが、この技が本当に猪木オリジナルであったとすれば、フィニッシュに結び付く技ではないが、何とも猪木らしい技を開発したものだと思う。

 僕は、年齢的にしょうがないのだが猪木のデビュー時から追っかけているわけではない。
 僕の両親や祖父母は、全くプロレスに興味がない。なので誰の影響も受けておらず、おそらく入り口は幼稚園生だった時に放映していたアニメ「タイガーマスク」からプロレスに入っている。そこに登場する馬場や猪木を見ようと、チャンネルを合わせたのだろう。しかし日プロ時代、BI砲時代は、本当に小さくていくつかの場面は記憶にあるものの体系だってない。毎週猪木を見るようになったのは、新日を旗揚げしてジョニー・パワーズと争っていたころだった。ストロング小林との死闘はよく記憶している。タイガージェットシンが悪の限りを尽くし、一方で異種格闘技路線が始まった。それが僕の小学生時代。その頃は、もう猪木信者だったと思われる。大雑把に言えば50年くらいは猪木のことを考えてきたか。
 なんだか、なーんだか寂しい。古いことを思い出すと、余計に喪失感が増す。
 いろんなリング上の猪木が、いろんな場面が、いろんな技を繰り出している猪木が思い浮かんではなかなか消えてゆかない。
 いっそのこと消えないでくれ、とも思う。次はアリキックと、谷津に切れた猪木がグラウンドからガンガン蹴り出したあの傍若無人蹴りとどっちが効いたのかを語ろうか。言ってることが意味不明になってきた。
 今日ももう少し呑まないと眠れないか、とも思う。

 アントニオ猪木氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。さよなら猪木。
 
 

 

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ショルダースルー

2012年12月02日 | プロレス技あれこれ
 「ショルダースルーがもっとも危険な技」という話は、よく聞く。
 だがそのように言われる技だが、難易度は低いのではないか。説明するまでもないが、相手と正対し、身をかがめて相手の懐(腹部あたり)に肩を入れ、そして相手を自分の肩の上にのせて持ち上げると同時に身体を伸ばして相手を上方に跳ね上げ、後方に飛ばし捨てる。補助的に腕を使うことはあっても、基本的に腕は必要ない。相手を肩にのせて跳ね上げる下半身の力と背筋力さえあれば成り立つ。さらに力はなくとも、多くはカウンターで放つためタイミングさえうまくあえば、後方に飛ばすことができる。仕掛ける側のタイミングは確かに重要だが、カウンターの勢いさえあれば非力な僕にだって出来そうである。
 相手が空中高く舞えば、見栄えがする。したがって誰もが試合に取り入れる技だが、これがフィニッシュになることは、まずない。単純すぎる技だからだろう。ボディスラムでピンフォールを奪えた時代というのは確かにあったが、ショルダースルーが決め技になっていた時代はあったのだろうか。ちょっと想像がつかない。また、この技を「得意技」として公言しているレスラーもあまりいなかったのではないかと思われる。公言するほどでもないからだろう。

 この技が危険であるのは、受ける側の技量が必要とされるからだ。相手がどのくらいのパワーで跳ね上げてくるのか。それによって、受身をとるタイミングが変わってくる。絶対に頭から落ちてはいけない。しかし中途半端に足から落ちても怪我をする。よって空中で体勢を整え、うまく背中から落下して背中と手と足で同時に受身をとる。しかし背中に目がついていないので、マットに着地するタイミングをうまくはからなければならない。一歩間違えると、大変なことになる。したがって素人に仕掛ければ一撃必殺の技だ。
 自由落下に身を任せるというのは、実に怖い。高角度から落とされるものには他にデッドリードライブがあるが、雪崩式でないかぎりその高さはリフトアップした高さであり、アンドレがやらないかぎりまず3mはいかない。ショルダースルーは跳ね上げるのでその高さは想像できない。
 よって、若手はこの技の受身を、プロレスの基本として徹底して練習するといわれる。何より危険なのだ。なんせ2階から落とされる技と同じなのだから。
 話がそれるが、僕は昔、投げ技というのは仕掛ける相手がしっかりとホールドしているほうが危険だと思っていた。叩きつける力が加わると思っていたからだ。だからバックドロップもジャーマンも本式は最後まで腕のクラッチを放さない。しかし、投げっぱなしジャーマンというものの危険さを見てから見方が変わった。手を離すほうが危ない。そうやって思えば、クラッチのあまい馬場さんのバックドロップなどは相当に怖い。またバックランドがダブルアームスープレックスで手を離して投げ飛ばしたり、必殺アトミックドロップの体勢で相手を目の高さまで持ち上げ、意表をついて後ろへ放ったりするのはかなり危なかったのではないか。
 自由落下は、危ない。プロレスでもしも殺意を持つとすれば、ブレーンバスターで相手を持ち上げ、そのままパッと手を離せばいいのではないか。こんな怖いことはない。
 なお余談ながら、ショルダースルーは英語で書けばshoulder throughだろう。しかしこれでは肩透かしではないのか。多分に日本語的発想だとは思うが、shoulder throwの間違いじゃないのかと昔は思っていた。肩投げのほうがこの技に適うような。なまじ肩透かしという言葉が日本語にあるだけにそう思ってしまう。なお、肩透かしという技は、相撲にはある。しかしもちろんショルダースルーではない。相撲の決まり手で言えば、居反りに少し近いようにも思う。これは後述。

 ショルダースルーがうまい、といえば、やはり猪木を僕は思い出す。
 ショルダースルーは、そのタイミングが難しい。ロープに振って返ってきたその反動を利用して跳ね上げるのが最も良いが、相手の懐にもぐりこまなくてはいけないためどうしても頭を下げる。しかし、ロープに振って返ってくるのを頭を下げて待っていればそれは相手に読まれてしまう。一発キックを食らって終り。ヘタをすればスモールパッケージホールドで丸め込まれてしまう。
 猪木のは、その直前まで頭を下げず相手を睨みながら、わずかに肩を下げてすっともぐり込んで跳ね上げる。猪木がショルダースルーを失敗したのを知らない。
 対していつも失敗をしていたのは鶴田だった。鶴田は、ロープに振るやいなやマットの中央で頭を下げて待ち構えている。カウンターで返ってきた相手は、最初から鶴田が中腰の体勢で、ショルダースルー見え見えで待っているために引っかからない。蹴りを放って終りである。鶴田がショルダースルーを成功させたのを、これまた見た記憶がない。
 だがこれは鶴田の名誉のために書けば、お約束のムーブだろう。プロレスは攻めて受けて試合が成り立つ。鶴田は一時期バケモノの如く強かったが、スタミナは無尽蔵であるのに攻めさせるのはあまり得意とは言えなかったと思う。なのでこのようにショルダースルーを失敗することによって相手に反撃の糸口を作った。余裕のなせるわざだが、これは観客にもみなバレてしまっている。全くのところ不器用だった。

 ショルダースルーは、受ける側の技量も必要だと書いたが、そういう意味においては相手の跳ね上げる力以上に自分の勢いで高く飛んでゆくレスラーもいる。危ないのによくやるなと思うが、受身に自信がないと出来ない。そして、そういう動きは試合を派手にする。飛んでいる間にひとアクションいれるレスラーもいた。リックフレアーなどは見事だったと思う。NWAヘビー戴冠記録保持者は伊達ではない。
 Jr.ヘビーの試合になると、飛ばされたレスラーが一回転してマットに両足で着地することがままある。跳躍力を生かして技を殺したわけだが、僕は見ていてあまり好きではなかったなぁ。もちろんレスラーはいかにうまく受身をとってもダメージは当然残るわけで、受けたくはないだろうが。だが、この動きは案外危険だと聞く。レスラーは体操選手ではなく体重も抱えているので、着地を失敗すれば足に怪我をするとも。
 基本に忠実に背中から落ちたほうが安全、とはプロレスの世界もすごいものだとは思うが。どれだけ受身というものは洗練されているのかと感嘆する。

 ショルダースルーは、このようにカウンターでリング中央で放たれるのが通常だが、ロープ際での攻防の際に放つ場合がある。相手が突進してきた場合などは、仕掛けられた側は当然勢いあまってリング下へ落ちることになる。言ってみれば断崖式ショルダースルーであり相当危険であるが、落ちる際にロープを掴んだりエプロンでワンクッション入れたりでそのまままっ逆さまにリング下、ということはまずない(そんなことがあれば大変だ)。しかし当然ダメージはありすぐにマットには上がれない。Jr.ヘビーの場合は、それを見てプランチャ、あるいは反対側へ走りトペ敢行、というのもまたお約束だ。ショルダースルーで場外に落としスイシーダ攻撃、というのはひとつの流れである。
 また、場外フェンス際でも昔はよく放たれた。オーバー・ザ・フェンスの反則があったころはそれで試合が決したことも多かったが、オーバーザフェンスが反則でなくなってからは、なぜかこのムーブは稀になったようだ。

 類似技を考えると、相手を肩に乗せて投げる技というのは他にもある。側面からであれば、柔道の肩車、またアマレスの飛行機投げというのは肩投げだろう。長州力がよく放っていた。これは、横からのショルダースルーであると言えなくもない。
 ファイアーマンズキャリーからの投げであり、必ず腕をとってはいるが、肩で跳ね上げて自由落下の形になっている。ショルダースルーの一派とは見られないだろうか。だが、その「横から」の部分が決定的に異なるため、同範疇でみにくいのも確かである。難しいかな。なお、ここに膝を出せば「牛殺し」になる。

 相手と正対して投げる、ということに拘れば、フロントスープレックスは相手を肩越しに投げるわけではないが、たとえばダブルリストアームサルトなどはショルダースルーに近い。そのリストを掴むのを省略すればショルダースルーみたいだ(もっともリストを掴まなければ成立しないが)。
 だが反り投げはブリッジを前提としているので、類似技とは言えないかも。肩で跳ね上げているわけではないからなあ。これが類似技なら、ノーザンライトスープレックスなども近い技になってしまう(汗)。

 水車落しは、さらにショルダースルーに近い。
 タックルで相手の懐に入りそのまま持ち上げ肩の上にのせ後方へ投げるのだから、これは字面だけだとショルダースルーと相似形とも言える。カウンターで入るかタックルで入るかはどちらでもいいこと。これを必殺技としていたサルマン・ハシミコフは、必ず相手の片方の手首を掴んでいた。だが、手首は掴まなくても水車落しは成立する。
 水車落しにはブリッジも必要ないのだが、肩に担いで一旦動きをためる。ここが、まずショルダースルーと違う。そして後方に倒れこんで投げる(実際にはブリッジとは言わずとも反り投げている)。ショルダースルーはカウンターでの勢いや遠心力を活用して投げるため、むしろ「跳ね飛ばす」と書いたほうが相応しい。ここが決定的な差異であるように思える。
 また、マットに落とすときに自らの体重を相手にかけ押しつぶす、というのがこの技のミソである。ここもショルダースルーと異なる。なのでかつて僕は水車落しをバックフリップの縦バージョンであると考えた(→バックフリップ)。
 ただ、ショルダースルーとは異なるものの、正対した相手を肩にのせて後ろへ投げるのだから、やはり系統は近い。

 前述した相撲の「居反り」はかなりショルダースルーに近い。四つ相撲で相手のふところにもぐりこんで肩で相手を持ち上げ、腰と背筋で後ろへと投げる。まわしをとっていても、主体は肩(背中)で投げる。そしておすもうさんにブリッジは難しい。
 しかしこんな技は普通は出ませんな。智の花が昔これを決まり手としたことがあったが、何十年ぶりとか言っていた。だが、ショルダースルーには近い。
 この居反りに近い技がプロレスにある。リバーススープレックスである。
 スープレックスと名はついているが、これは一種の返し技であって自ら仕掛けることは難しい。例えば相手がドリルアホールパイルドライバーを仕掛けようとする。当然、正対して頭を股の間に入れ、上からがぶって胴をクラッチし、逆さまに持ち上げようとする。自分からみれば相手の重心が高く、身体が背中にのっかっている状態だ。そこで、タイミングをみて上体をよっこらしょと起こし相手を持ち上げる。相手は自分の胴を持っているので跳ね上げることはできないが、そのまま後方に倒れると相手の背中をマットに打ち付けることができる。体重も乗る。
 がぶられたときの返し技として有効で、パイルドライバー以外にもパワーボムや、カナディアンバックブリーカーを仕掛ける体勢などは、返しやすい。まれにはサイドスープレックスやダブルアームスープレックスもこれで返す。
 この技で誰もが忘れられないのはカールゴッチのそれで、昭和47年の新日旗揚げ戦のメインイベントvs猪木で、ゴッチは猪木の技をリバーススープレックスで返し、何とそれでフォールを奪っている。体重のかけかたが絶妙だったのだろう。地味な返し技が必殺技に昇華した瞬間だった。
 水車落し同様その体重のかけ方がこの技のキモなので、ショルダースルーと同列には考えられないが、相手を後背部で投げるという部分はショルダースルーと兄弟技と言っていいかもしれない。
 
 派生技として、フラップジャックがある。ショルダースルーで相手を跳ね飛ばす際に、相手が一回転して受身をとろうとする動きを許さず脚をとり、そのまま後方へ倒れこむ。相手は顔面からマットに落ちる。フェイスバスターとなるが、怖い技だ。オカダカズチカが使用する。
 また、ショルダースルーで相手を上方に跳ね飛ばし、落ちてくるところで頭部を肩で受けそのままエースクラッシャーにいく。メキシカン・エースクラッシャーと称される。
 タッグの合体技においては上ふたつの複合技というのもあって、ショルダースルーからフラップジャックを仕掛けると同時に、もう一人が空中で頭部をキャッチし担いでエースクラッシャーにいく。ダッドリー・ボーイズがやればダッドリーデスドロップ(3D)、天山と小島なら天コジカッターとなる。

 なお、肩で投げるという観点を外せば、その形状と効果においてショルダースルーに実に近い技がある。モンキーフリップである。
 これは、つまり両足で放つ巴投げである。カウンターに限らないが、正対して相手の頭部を掴み(場合によっては手四つの体勢から)、ジャンプして自分の両足を相手の腹部に当て、引きずり込むように自ら後方に倒れこんでマットに背中がついたら両足を思い切り跳ね上げる。脚の力と自らの後方回転による遠心力で相手は飛ばされて、回転して背中からマットへと落ちる。相手の頭や腕から手を離せば相手はポーンと跳ね飛んでゆく。ショルダースルーが肩投げならこれは足裏投げだが、後方に跳ね飛ばすという部分においてショルダースルーと同様の効果が得られる。
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エースクラッシャー

2012年11月18日 | プロレス技あれこれ
 ネックブリーカーについて書いたので、スタナー系の技についても少し言及しておこうかと思う。アンダーソンのリバース・スタンガンがオールド・ネックブリーカーそのものであり、違う技にせよ、対応しているように思えたので。
 もっとも、スタナーについてはあまり知らない。僕は今のプロレスも好きだが、どちらかといえば自分の青春期に見ていたプロレスに郷愁をおぼえる部分も多々あり、そういう意味では、ファルコンアローなどと同様に「新しい技」として興味が薄かった。スタナーの元祖はスティーブ・オースチンらしいのだが、彼が活躍していた時代('90年代か)、私事だが僕はあまりプロレスを見られる環境におらず、ぼんやりしている間に広まった感がある。なので印象が薄かったのかもしれない。
 だが、よく見ればこれは結構えげつない技である。さらに、プロレス技というのはほぼその原型が4~50年ほど前に出揃った感があり、現在みられるものの多くはそのバリエーション技であることなどを考えると、単純な形の新技が開発されたというのも特筆すべきことであるのかもしれない(ラリアートなどと同様に)。

 スタナーは、まず相手が立っている状態で、その前で同方向に立つ。つまり縦に並んで立つ状態で、後ろの相手の頭部を肩にかつぐ。そして相手の顎を肩に固定し、そのまま自らはドスンと尻もちをつく。さすれば、相手の顎そして首に衝撃が走る。「顎砕き」である。これは厳しい。
 これすなわち、ショルダーネックブリーカーを相手の方向を違えて放つのと同じである。自らの動きはショルダーネックブリーカーと同じ。相手が後ろを向いているか前を向いているかだけの違いである。
 基本的には顎砕きであろうが、頭部の固定の仕方によっては、つまり顎ではなく顔面を肩に当てて尻もちをつけば、顔面砕き、ショルダーフェイスクラッシャーとなる。もう少し頭部を深く担げば(首根っこを肩に当てるような形であれば)、喉ぶえ砕きとなる。ギロチンドロップやラリアートに似た効果を生み出す。
 単純だが、結構なダメージを与えると考えられる。どうしてこんな技が古くからなかったのだろうか。コロンブスの卵だったのか。
 スティーブ・オースチンは、この技をロープを使った反則技から発想したという。すなわち、相手をボディスラムの要領で抱え上げて投げ、顎・首をトップロープに打ち付けるという技。ゲホゲホ言いそうな技だがこの技には「スタンガン」という名称がついていた由(反則だろうに^^;)。ロープより自らの肩口のほうがいいと改良したとか。

 さて、このスタナーとほぼ同型の技がある。エース・クラッシャーである。
 ジョニー・エースの必殺技として名高いが、見ていると、ほぼスタナーと同様の形で顎砕き・首折りの技である。
 スタナーの場合は相手に一発蹴りを入れて、そのダメージの隙に自らの身体を反転させ(つまり同方向を向く)、首を担いで落ちる、という形であったために、相手は足をついたままであることが多く、地味な(見方によっては陰惨な)印象がある。エースクラッシャーはジャンプも入り相手の首を引っこ抜くように放つ。つまりもっと動きが派手であり、相手はたいていの場合飛び上がってしまう。
 したがって、僕はずっとスタナーが元祖で、エースクラッシャーが派生技だと思い込んでいた。プロレス技の変遷は、たいてい地味→派手の系統を辿る。華々しいエース・クラッシャーはスタナーを改良発展させたものだと思っていた。
 最初に書いたが、僕はこのスタナー系の技について詳しくなく、この時代('90年代)のプロレスも詳しくない。だがちょっと調べてみれば、ジョニー・エースはスティーブ・オースチンより年齢も上でキャリアも長く、どうもスタナーよりも早くにエースクラッシャーを開発していたらしい。コロンブスの卵を立てたのは、どうやらジョニーエースのようだ。
 これは申し訳ない勘違いをしていたと思うが、惜しいのはそのネーミングだろう。「エース」クラッシャーと自分の名前を冠しているために、後発だと勘違いしてしまう。自分の名を技名に入れる場合、多くは派生技である(ジャーマンスープレックスから派生したのがドラゴンスープレックスだったりタイガースープレックスであるように。またジョニー・スパイクもそういうことだろう)。そのため、損をしているように思う。ジョニーエースはもちろんオリジナルであるから自らの名を冠したのだとは思うが、もっと一般的で単純なネーミングのほうが良かったのではないか。
 またそのネーミングが個人名であるために、技の分類においても「エースクラッシャー系」とはされず、「スタナー系(あるいはカッター系)」と言われてしまうのも、惜しい気がする。
 つまりスタナーはエースクラッシャーのパクリであると言う事も出来るのだが、関係性はどうなっているのだろう(前述のようにあまり詳しくない)。スティーブオースチンはロープワークの反則技からの発想と明言しているようであるし。
 このあたりは、詳しい方もいらっしゃるだろうからまたご教示していただければ有難い。

 エース・クラッシャーには、旧型と新型がある。旧型はスタナーと同様尻もち型だったが、ジョニーエースは放つ時にジャンプするためスタナーよりも危険性が高いことが想像され、それに加え自らの尾てい骨への負担もかなり大きかったと思われる。おそらくそうしたことが原因で、自らの身体を前方に投げ出して背中で受身を取る新型へと移行した。この新型もかなり相手の首への負担が大きいと思うが、肩に直接打ち当てる度合いは低下したようにも思われる。また、自らも背中から落ちるためにより派手になったという見方もできよう。
 その後エースクラッシャーはさらに動きが大きくなり、相手を上方へはね飛ばし、空中で首を捉えて落とすような形にまで発展した。こうなるとスタナーとはかなり趣きが異なり、ますますスタナーが派生技だったことがわかりにくくなってしまったのかもしれない。そして、エースクラッシャーはまた広がりをみせる。
 ダラス・ペイジがダイヤモンド・カッターという、新型エースクラッシャーとほぼ相似形の技を使用するが、これはエースクラッシャー由来であることははっきりしているらしい(直伝とか)。それとスタナーの誕生がきっかけになったか、どんどんこの技は広がっていく。
 WWEをあまり見る機会がないのでランディ・オートンのRKOという技はよく知らなかったのだが、エースクラッシャーやダイヤモンドカッターとどう異なるのかはよくわからないにせよ(片手なのか?)見ると相当に迫力を感じる。コジコジカッターとはかなり違うなと(もっとも小島は繋ぎ技として使っている)。そして現在、カールアンダーソンが「ガンスタン」と称して、日本でこれをフィニッシュとして使用している。
 また、バリエーションも生むようになる。田中将人はブレーンバスターの体勢から落下させエースクラッシャーに持っていくというすさまじい技を出す。また、ドラゴンスリーパーの体勢で、自ら前方回転してエースクラッシャーへと持っていく。無茶な技だとつくづく思う。危ない。
 しかし、このようにバリエーションが登場することによって、エースクラッシャーは普遍的な技になったとも言える。
 丸藤のやる不知火は、最初の技の入り方はスタナーと同じだが、一回転するため後頭部を打つことになり、これは別系統と考えるべきだろう。

 さて、エースクラッシャー、もしくはスタナー、ダイヤモンドカッターはネックブリーカーに非常に近しい技ではないかと最初に書いた。ネックブリーカーは相手の後頭部を自分の肩に乗せて落とすのに対して、エースクラッシャー系は顎を肩に乗せて落とす。相手の体の向きが異なるだけで、ダイヤモンドカッターはゴージャス・ジョージのオールド・ネックブリーカーと同じであり(ジャンプ等を加えることにより勢いが増しているが)、スタナーはビル・ロビンソンのショルダーネックブリーカーと体勢は同じである。
 しかし、ダメージを与える部位は全く違う。ネックブリーカーは後頭部、後頚部であり、エースクラッシャーは顎、もしくは顔面、のど笛となる。受ける側の体勢が間逆である以上、当然である。
 ちょっと違う発想でエースクラッシャーを見てみる。
 頭部を担いで尻もちをつく、或いは身体を投げ出して背中で受身をとり、クラッチを話さずしっかりと頭部を固定していれば相手の顎そして頚部に強いダメージを与える。また背中受身方式で頭部固定をあまくすれば、顎と頚部への衝撃は軽減するかもしれないが、顔面が肩もしくはマットに当りフェイスバスターのダメージが加わる。これは、ブルドッキングヘッドロックに実に近いのではないか。
 ブルドッキングヘッドロックは、近頃とんと見なくなった。カウボーイ・ボブ・エリスが元祖とされ、僕がプロレスを熱心に見ていた時代は日本人選手ではラッシャー木村、そして外人選手ではアドリアン・アドニスがよく放っていた。最近みないので一応書いておくと、まず相手をヘッドロックにとらえ、走って勢いをつけジャンプ、自らマットに倒れこみ、その衝撃で相手の頚部にダメージを与えるという技だ。
 ラッシャー木村のそれは、ヘッドロックを離さないことによって首に強い衝撃を与える。アドニスは、ジャンプした瞬間にヘッドロックを解き、抱えていた腕を上に向け、ちょうどエルボーを後頭部に押し付けるようにしてマットに顔面を叩きつけ、フェイスバスターの効力も加味していた。
 無骨な木村式がスタナー、華麗なアドニス式がダイヤモンドカッター(もしくはRKO)に対応するのではないか。そういえばアドニスがきれいなジャンプで最後はマットにすべりこむように背中で受身をとっていたのに対し、ドタドタと走る木村はむしろ尻もちをついていた(ように見えた)。
 エースクラッシャーとブルドッキングヘッドロックとの差異は、相手の頭部を肩に担ぐか、脇に抱えるかの相違である(とも言える)。
 エースクラッシャーは、瞬く間にマットに広まった。その流行が、ブルドッキングヘッドロックを廃れさせたのではと想像してみる。牛の首根っこを捕まえてねじり倒すことから発想されたカウボーイ系の技であるブルドッキングヘッドロックよりは、エースクラッシャーのほうがよりスピーディで見栄えがしたのかもしれない。木村もアドニスも、もうこの世にいない。
 完全な想像だが、ブルドッキングヘッドロックという技が好きな僕には、少し残念なような気がするのである。もっとも、これは当然ながらエースクラッシャーのせいではないが。
 
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ネックブリーカー2

2012年10月31日 | プロレス技あれこれ
 中西学が復帰を果たした。これについては、いち中西ファンとして素直に喜びたいと思う。
 死んでいたかもしれない状況、そして下半身不随、よくて車椅子と言われた中から懸命にリハビリに取り組み、動けたどころか1年4ヶ月をかけてリングに再び上がるというその姿には、プロレスラーの強靭さと執念というものを感じざるを得ない。彼が自分と同世代ということを考えると、感嘆の思い止まない。しかしくれぐれも、無理をしないでほしいと願う。
 長年のダメージを措いて簡単に言ってしまってはよくないが、中西負傷(脊髄損傷)の直接の原因はジャーマンスープレックスを受けたことである。
 素人ながら、後頭部そして首(頚部)への攻撃が、レスラーにとって最も危険なのではないかと思う。後藤のバックドロップで馳浩は生死をさまよった。そして、ライガーボムで亡くなったプラム真理子、バックドロップで亡くなった三沢光晴。いずれも、後頭部を叩きつけられている。恐ろしいと言わざるを得ない。一歩間違えば死。そのギリギリのところで説得力ある試合を提供するレスラーの凄みを、忘れずに観戦したい。

 それは、措いて。
 例えば後頭部にダメージを与える場合、プロレス技としてはまず2種に分かれる。後頭部をマットに叩きつけるか、あるいは直接後頭部に打撃を加えるか。
 前者が、バックドロップやジャーマンスープレックスである。そして後者が、延髄斬りなどである。
 身体に衝突するのが肉体の一部なのか、それともマット等かによって、技は分類されてしかるべきだ。背中への攻撃の場合、相手を抱えあげて、そのままマットに背面を叩きつければボディスラムだが、自分の膝の上に背面を叩きつければそれはシュミット式バックブリーカーとなる。全く違う技である。
 だが、これが一緒くたになってしまっている技がある。最も危険な後頭部から頚椎への攻撃、ネックブリーカーである。

 僕は昔、ネックブリーカードロップという記事を書いたことがある。その中では、まず大昔に首を捻る技というものがもしかしたらあって(それがネックブリーカー)、そして捻った上でマットに後頭部を落とすからネックブリーカードロップではないか、と書いた。捻って(首をねじ折る所作すなわちネックブリーカー)、落とす(ドロップ)。
 これはスイングネックブリーカードロップを念頭に置いて書いているが、ショルダーネックブリーカーも一応首をロックして落としているため苦しいながらも同様だと考えた。馬場さんのランニング(ジャンピング)ネックブリーカードロップも、腕が首にラリアート気味に当る(引っ掛かって鞭打ち気味にカクンとなる)ところでネックブリーカーが成立し、そして後頭部をマットに落とすのでドロップである、とした。
 その後、少し考え方がかわった。
 上記記事には「ネックブリーカー」という言葉にとらわれるあまり首を捻る(もしくは引っ掛ける)部分が技の主体であるような書きぶりもあったが、やはりこの技の主体は「ドロップ」の部分である。落として後頭部にダメージを与えている。したがって、スイングネックブリーカードロップやジャンピングネックブリーカードロップはマットに後頭部を叩きつけるので同じ枠内だが、ショルダーネックブリーカードロップやキン肉バスターは自らの肩に後頭部(頚部)を叩きつけるので別枠と考えた方が良いだろうと思っている。ボディスラムとシュミット式バックブリーカーが異なるように。
 言い分けをするならば、肩に後頭部(頚部)を落とすものはネックブリーカーと呼び、マットに落とすのをネックブリーカードロップとするか。ビル・ロビンソンも肩に「落とし」ているので、相応しくないかもしれないが、そんなふうに考えていた。

 だが、前回記事を書いた頃はあまり充実していなかったwikipediaでネックブリーカーを見てみると、全く異なることが書いてある。
 「ネックブリーカーはネックブリーカードロップと混同されるが、別の技である」と。
 wikipediaが言うには、スイング式もショルダー式もネックブリーカーであり、馬場さんがやるカウンターで引っ掛けて落とすもの(派生技含)が唯一ネックブリーカードロップであると言う。へー。何か納得がいかず。スイング式だって落としてるやん。
 ただ、有難いことにネックブリーカーの原型について言及されていて、引用させてもらうと「立っている相手の後方から相手と背中合わせになり、相手の後頭部を掴み自らの肩の上に乗せ、そのまま相手を倒しながら自らの背中をマット上に倒し、その衝撃で相手の頭部へダメージを与えるというもの」らしい。元祖はあのゴージャス・ジョージらしいが、なるほどと頷かされる。
 僕が昔書いた記事では、首を捻るのがネックブリーカーか、などと書いているが、どうもそれは異なるようだ。訂正しておこう。またこれがネックブリーカーの原型であるならば、スイング式とショルダー式にどのように分派していったかもよくわかる。
 そうやって考えれば、wikipediaが書くところのネックブリーカーは、決まった時の形状は相手の首(後頭部)が肩の上に乗る。スイング式はフロントヘッドロックのような形から捻り上げて落とすが、結果的に後頭部はマットに落ちるものの方向から考えれば頭は肩(あるいは上腕)の上だ。つまりこれがネックブリーカーの基本形と考えていいのだろう。背中合わせで(脚の向きは双方逆となる)首は肩の上。
 ネックブリーカードロップは、相手の頭部が脇の下にくる。ここが異なる。さすれば後頭部の下には肩も腕もないため、マットに叩きつけられるより仕方が無い。「別の技」というのも、うなづける。
 そもそも、馬場さんのあの技に「ネックブリーカー」を冠したのがいけなかったような気もする。ゴージャスジョージの技をネックブリーカーの原型とするならば…いやしかし、馬場さんのあの技はカウンターで首をカクンと引っ掛け、落として後頭部を打ちつける前にまず首そのものの破壊を狙う。ラリアートの原型と言われるくらい首へのダメージが考えられている。じゃやはりネックブリーカーだろう。そもそもゴージャスジョージの技は首というより後頭部で、バックヘッドブリーカーじゃなかったのか。いや、あの技も十分首には負荷がかかっている。
 だんだん袋小路に入ってきた。
 ただ、wikipediaが全て正しいわけではないだろうがが首肯できる部分もあるので、表題はネックブリーカードロップ2ではなく一応、ネックブリーカー2としておく(笑)。

 前回記事でも「キン肉バスターはネックブリーカーではないか」と書いたが、広義に解釈すると首を破壊する技はみなネックブリーカーとなる。
 一応、便宜的にドロップ式、スイング式、ショルダー式と無理やりに分類する。
 ドロップ式で昨今最も目立つのは棚橋のスリングブレイドである。派手な技で見栄えがするが、空中で旋回することにより馬場さんのネックブリーカードロップよりも「腕を首に引っ掛けてラリアット的ダメージを与える」威力が軽減されている。よって、フィニッシュホールドになり得ない技となっている。
 また潮崎のゴーフラッシャーをネックブリーカードロップの一形態としている意見もある。これはファイナルカットも含めて考えねばならないのかもしれないが、決まった形はネックブリーカードロップに似ているものの、これはやはり違うだろう。
 ネックブリーカードロップのその「ドロップ」という部分においては、ゴーフラッシャーはドロップすぎるくらいドロップである。しかしながら、ネックブリーカードロップの力のベクトルは落下するだけではなく、カウンターですれ違って首を引っ掛けられ逆方向に引っ張られる力のベクトルがどうしても重要であると考えられる。
 ゴーフラッシャーには下向きの力しか働いていない。したがってあれは、やはり変形ブレーンバスターだろう。
 しかし背中落ち式ブレーンバスター(バーティカルスープレックス)の決まった形というのは、ネックブリーカーに酷似しているね。フロントヘッドロックから捻って(つまり横向きに回転させて)後頭部を落とせばスイングネックブリーカー、持ち上げて後方に倒れこんで(つまり縦向きに回転させて)後頭部を落とせばブレーンバスターか。スイングネックブリーカーとブレーンバスターは、系統の同じ技だったのだな(暴論)。
 
 さて、ドロップ式以外のネックブリーカーだが、先般実に興味深い技を見た。カール・アンダーソンのリバース・ガンスタンである。
 アンダーソンのガンスタンは、相手と同じ方向を向いて前に立ち、相手の頭部を肩に乗せて前方ジャンプし首や顎、顔面にダメージを与える技であるが(つまりダイヤモンド・カッターと同型ね)、そのリバース型は相手と逆方向を向いて背中合わせとなり、相手の頭部(後頭部)を肩に乗せて前方ジャンプする形になる。え?つまりこれって、スイング式どころかあのゴージャス・ジョージの開発した原型ネックブリーカーとほぼ同じではないか。
 なんだか回りまわって先祖がえり的な感じもするが、このリバースガンスタンがネックブリーカーであれば、原型とは前方ジャンプの部分だけ異なるのか。あるいはコーナートップから飛びついて仕掛ける場合もあり、ジャンプ式ネックブリーカーと呼んでもいい。そしてこのジャンプ式(仮)は、スイング式よりもショルダー式よりもさらに原型に近く、ほぼ正調である。正調なんだから、リバースガンスタンなどと言わず堂々とネックブリーカーと呼んでくれよ。裏の裏は表みたいな話で気持ち悪い。

 スイング式はどんどん廃れてゆく傾向にあると思われる(蝶野や小川以来見ていない気がする)。
 派生技の代表としてドノバン・モーガンのコークスクリュー・ネックブリーカーがある。相手をフロントヘッドロックにとるだけでなく脚まで抱え、スイングしてネックブリーカーを決める。簡単に言えばフィッシャーマンズスープレックスの体勢から横回転して叩きつけるわけで、受身がとりにくそうだ。しかしこのコークスクリューネックブリーカーとフイッシャーマンズスープレックスとの関係性も、前述のスイングネックブリーカーとブレーンバスターの関係性と同じだな。
 他に、最終的に肩もしくはマットに後頭部を叩きつける、という部分(この部分が技の肝ではあるのだが)を除けば、近い技はある。しかもえげつない。永田がやる首へのドラゴンスクリューである。武藤もやるか。あれはまさに「首捻じ切り技」であり、怪我をしないかとヒヤヒヤしてしまう。
 さて、MVPのやるプレイメーカー(首に脚を引っ掛けて回転して後頭部を叩きつける技)もスイング式だとみられる向きもあるが、こうなるともう線引きがわからなくなる。ドラゲー吉野のライトニングスパイラルもネックブリーカーみたいな気がしてきた。さすれば河津落しもネックブリーカーか? 頭がゲシュタルト崩壊してきた。

 さて、ショルダー式だが、以前にキン肉バスターがショルダーネックブリーカーの派生技だと書いた。固定して首(後頭部)を肩に叩きつける技は、この2種しかないと思っていた。
 オカダ・カズチカが今、リバース・ネックブリーカーという技を使用する。
 オカダは売り出し方はともかく、レスラーとして見ていて本当に楽しい。あの風貌で現在世界一かもしれないドロップキックや、ダイビングエルボー、ツームストンパイルドライバーなどの伝統的な技をしっかり使用して試合を組み立てる。あのレインメーカーとかいう意味の分からない技さえなければいいのにといつも思っているのだが(ボストンクラブやらねーかな)、それはさておきリバースネックブリーカーである。
 このネーミングもまた奇を衒わず古典的でいいが、この技は首を肩に打ち付ける技ではない。膝である。
 双手刈りの状態で相手の両足を抱えたまま上体を起こし、相手を後方に逆さ吊りにしたうえで相手の身体を少しずらし片方の手で頭を抱える。つまりシュバインの体勢から片膝に後頭部(頚部)を当て、落として打ち付ける。
 膝に相手の頭部を打ち付ける技と言えばまず馬場さんのココナッツクラッシュ(椰子の実割)を思い出すが、オカダの場合は相手を逆さまに背負い固定することによって後頭部を狙うことに成功している。これはかなりのダメージが想像されフィニッシュにしてもいい技であり、肩ではなく膝であってもネックブリーカーと称することが新しい。キン肉バスターを下方にずらした形態とも言えるので、ネックブリーカーと称しても全く問題は無いと思われる。ネックブリーカーの範囲が広がったとみていい。ショルダー式ではないが、ダメージは近い。ニー式ネックブリーカーか。
 
 このリバースネックブリーカーまではネックブリーカーの範疇と考えていいと思うが、そうなるとさらに考えなければならない技がある。後藤洋央紀の牛殺しである。相手をファイヤーマンズキャリーで持ち上げ、頭部を抱えたまま相手を足の方から横方向に投げ捨てる。その際に相手の後頭部(頚部)を自分の片膝に当てて落とす。なんともえげつない技である。
 これもダメージは完全にネックブリーカーのそれだが、ネックブリーカーとしては相手を完全固定していない。なので打ちつけられる瞬間がわかりにくく危険だ。さらに、こういう言い方をしていいかどうかわからないが後頭部(頚部)への衝撃を加減できない。なので、怪我の可能性が高まる。実際に天山がこれで怪我をしている。
 牛殺しもリバースネックブリーカーもネックブリーカーの範疇なのかもしれないが、オカダの技の方がプロレス技としては完成していると言えよう。後藤のは、固定が甘ければ見方によっては落ちてくる相手の後頭部を狙った突き上げニーパットだ。
 後藤の牛殺しは、いつも見ていてヒヤヒヤする。最近は雪崩式にも手を染めている。
 プロレスは、相手を殺す(怪我をさせる)ために競技するのではない。四天王プロレスの時代もそう思ったが、そんな綱渡りのような技を放たなくてもオカダのように説得力のあるプロレスは出来る。天山や中西のようなベテランでも怪我をするのだ。少なくとも雪崩式はいかがかと思うのだがどうか。
 
 雪崩式の牛殺しを見ていて、ディックマードックのカーフブランディングをふと思い出した。この技も、見方によればネックブリーカーである。ネーミングも偶然ではあるが「仔牛の焼印押し」であり酷似している。こじつけて無理やりに言えば、雪崩式牛殺しはリバースカーフブランディングである。コーナーに上るのも攻守リバースであり、落ちる向きも逆だ。
 マードックのカーフブランディングはコーナーを背にして立つ相手に対し自らは後方からコーナートップに上り、相手の後頭部(頚部)に膝を押し当てそのまま前方へ飛び相手の顔面からマットへと落ちる。相手の頚部と身体の一部(膝)を固定して衝撃を与えるためネックブリーカーの一種と解釈できるが、まともに決まれば相手の生命をも奪うほどの技である。こんな危険な技はなかなか無い。
 ただし、まずマードックは仕掛ける場合相手を選ぶ。藤波のような受身のベテランにしか仕掛けない。そして双方ともがマットに前向きに倒れ落ちるため、距離感もつかみやすく、またさすがにマードックも全体重を頚部に押し当てた膝にかけることはできない。必ず相手の抵抗があるため、最後は少し崩れた形になる。
 本当に完璧に決まれば危ないというギリギリのところで技を放ち、見る側に緊張感を保たせ説得力を褪せさせないところは、一流だった。それが雪崩式牛殺しには難しい。なんせ受ける側は背面からマットに落ちてゆくのだから。後藤に全てを託さざるを得ない。そこが、怖い。
 後藤は気性の荒さを前面に出しパワーもあり、中西路線を継承する力を十二分に感じる。いいレスラーになった。くれぐれも、相手に怪我をさせないような技で観戦する我々を納得させてもらいたいと願う。中西の復帰を見て、ことさらにそう思う。
  
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反則技 4 (凶器攻撃)

2012年09月20日 | プロレス技あれこれ
 プロレスの反則といえばそれはチョークや急所攻撃も連想されるが、最も典型的なものは、凶器を使用することである。
 いや…かつては典型的であった、と書いたほうがいいだろうか。現在のプロレスにおいては、凶器攻撃はさほど目立たなくなった。むろん、現在でも凶器攻撃がなくなったわけではない。椅子や机などは頻繁に使用される。鉄柱にもよく相手をぶつける。
 しかし、僕が「凶器攻撃」と言って想像するものとはちょっと違う。かつて凶器とは、もっと鋭角的なものだった。

 基本的に凶器攻撃とは、本来リングに持ち込んではならない何らかの器物(危険物)を用いて、相手にダメージを与える攻撃を示す。
 ただし、何も道具を使用せずして「凶器攻撃」が成立してしまう場合がある。それは人体の中にも、凶器となりうるパーツがあるということ。すなわち「噛み付き」。
 これは圧倒的に「銀髪鬼」フレッド・ブラッシーが有名である。
 とにかく伝説が多すぎる。曰く「ヤスリで歯を研いでいた」「テレビ観戦をしていた老人が噛付きによる流血シーンでショック死」「相手の血を啜って肝炎がうつった」等々。
 僕はリアルタイムでブラッシーを見ていない(むしろマネージャーのイメージが強い)のだけれども、幼稚園くらいだったと思うが、何かの雑誌(少年誌だったと思う)でブラッシーが噛み付き血を啜る写真、そしてヤスリで歯を研ぐイラストなどを見た記憶がある。今も鮮明に脳裏に甦らせることができるが、それは、幼児だった僕にすればホラー、怪談とほぼ同じで、強烈な恐怖心を残した。夜中にトイレに行けないような。
 ブラッシーのリング上での具体的なことは、当時何も知らない。ネックブリーカードロップを得意としていたというのも知らない。ただとにかく「怖かった」その記憶は今も鮮烈だ。

 僕はその幼年期から、現実と架空が交わりながらプロレスに馴染んでゆく。架空とは漫画(TVアニメ)のタイガーマスクである。ブラッシーも、タイガーマスクに登場する。
 タイガーマスクは、ご存知の通り「虎の穴」という悪役レスラー養成機関が重要な役割を果たしている。したがって、反則技が数多く出てくる。その大半は、凶器攻撃といえる。もちろん現実にはありえない凶器も出てきたが、リアルのプロレスにも登場する凶器もあった。
 その当時の「リアル凶器」の代表格だった「メリケンサック」というものは、もはや絶滅危惧種だろう。
 メリケンサックとは一種の「鉄甲」である。拳にはめる鉄輪。そもそも正拳が反則であるのに、さらにこんなものを装着して殴れば相手は大変なダメージを負う。使い手は、ディック・ザ・ブルーザーやクラッシャー・リソワスキーなどの荒くれ者。僕らは子供の頃、ダンボール紙やガムテープでメリケンサックを手製しては遊んだ。
 もうひとつ古典的な凶器攻撃として、マスクの中に凶器を仕込み、ヘッドバットを放つ方式がある。ミスターアトミックがおそらく元祖だと思うが、デストロイヤーなどもやっていた。相手の額が割れ、返り血で自らの覆面も赤く染まる。もうこんな反則技はほぼ絶滅したのではないかと思われる。

 そんな漫画とクロスオーバーした幼年期を経て、僕が本格的にプロレスに夢中になっていった時期には、全日に「黒い呪術師」アブドーラ・ザ・ブッチャー、新日に「インドの狂虎」タイガー・ジェット・シンがいた。
 この二人のレスラーは、日本のマットに登場した最後の「ヒールらしいヒール」だと思う。二人以後は、典型的な「悪玉レスラー」は存在しない。
 その反則技としての凶器攻撃は、陰惨なものだった。「凶器は鋭角的なもの」という僕の印象は、ブッチャーとシンから出ている。
 彼らの試合は、ロックアップから始まることはほぼない。相手がリングインしたとき、或いはそれより前に花道などで襲い掛かる。シンなら持っているサーベルの柄などで突いたり、ターバンで首を絞めたりする。そしてなし崩しにゴングが鳴り、いつの間にか試合に突入している。場外で鉄柱や椅子などを利用した反則攻撃で相手を痛めつけ、リングではコブラクローや地獄突きなどのノドを狙った技、或いはトーキックなどの反則技で相手を追い詰める(そういえばブッチャーの靴は凶器シューズと呼ばれた特殊な形状だった。実際蹴っている場面は知らないが)。
 そうして相手にダメージが蓄積された試合後半、凶器をこっそりと手に持つ。多くはタイツやシューズの中から取り出すが、最初からタイツに入れてあれば怪我をするので場外乱闘の途中にでも隠し持つのだろう。それは、五寸釘のような尖った金属製のもので、総じて大きくない。だが小型でも、観客やTV視聴者は凶器を取り出す一部始終を見ているので恐怖心が煽られる。しかし観客には見えてもレフェリーにだけは見えないよう巧みにブラインドをつくので、使用前に発見されることはまずない。これを相手の額に突き立てる。ここから、ほとんどは流血戦となる。
 こうやって書いていても試合は反則技のオンパレードだが、いくつかパターンはあると思う。凶器攻撃について分類してみたい。

 まずは、その場に固定して存在するもの(設営されたもの)を活用する場合。これは、解釈は実は難しい。
 主たるものは鉄柱攻撃である。相手を頭から叩きつけて流血、が最も多いか。さらに鉄柱とロープを繋ぐ金具などを活用することもある。クッションを取ってしまえば、これは危険だ。さらに、コーナーに押し込んでタッチロープで首を絞めるというのもある。
 ここらへんまでは間違いなく凶器攻撃の範疇だが、場外乱闘で相手を会場の壁に叩きつけたりするのは、凶器攻撃にあたるのだろうか。
 凶器攻撃についてのルールは、以下である。全日は「器物・危険物を使用しての攻撃」を反則と規定し、新日は「リング内外を問わず器物(試合進行の妨げとなる危険物)を使って相手競技者に危害を加えてはならない」とする。これだけなので、難しい。
 鉄柱はリングの一部であり設置された状態で動かないが、おそらくは危険物と見なせるだろう(よってコーナーにクッションがある)。しかし壁やら何やらはどうなのか。よく場外乱闘において固い床に直接ブレーンバスターなどの投げ技を放つことがあるが、あれは反則なのだろうか。実に難しい。プロレスは、リング内でのファイトが前提ではあるが、場外での戦いを完全には禁じていないからだ。
 上記新日ルールにも「リング内外を問わず」という文言がある。リング外での戦いを認めていることになる。さらに、勝敗に「場外ノックアウト」が存在することによってもわかる。この場外ノックアウトは、リング内でダメージを負ったのちリング外に落ち、そのまま20カウント内に上がれなかった場合だけを示すのではなく、場外乱闘の末に上がれなかった場合も有効となる。
 場外に居る相手に向かって放つスイシーダ系の技は反則技ではない。とすれば、場外パイルドライバーなどは極めて危険な技だが、反則ではないことになってしまう。
 こういうことはあまり考えたことがなかったので迷宮に入りそうだが、やはり壁や床も「凶器」であると僕は考えたいと思う。理由は、固いから(笑)。もちろんリング内と同様5カウント以内で放たれるため、反則技ということになるだろう。
 なお、新日のルールに「故意に相手競技者を場外フェンスにぶつけてはならない」という一文もある。これも、凶器攻撃の一形態と考えていいだろう。しかし、故意でない場合というのは存在するのだろうか。偶然に相手をフェンスにぶつけてしまう? よくわからん。
  
 さて、次に器物を使用したわかりやすい凶器攻撃について。その中でも、会場に存在する備品を凶器として活用する場合。
 これは、会場のパイプ椅子が使われることが最も多い。場外乱闘において、畳まれたパイプ椅子の座面で背を思い切り叩く。座面がよく吹き飛んでいる。
 この反則技で思い出すのは何といってもジプシー・ジョーで、しかも叩くのではなく叩かれ役としてである。殴られるのが得意技というのも尋常でない話だが、椅子で殴打されても平気な顔を見せ逆に椅子が壊れるというパフォーマンスは、その体躯の頑強さを大いにアピールした。
 しかし座面にはクッションもあり、また衝突面積も広いので鍛え上げたレスラーには本来ダメージは少ないのではないか(一般の人はやってはいけないが)。また金属製のパイプ部分で腹などを突く場合もあるが、こちらのほうが効きそうに思われる。
 椅子攻撃は最も頻度の高い凶器攻撃で、観戦すれば少なくとも一回くらいは見られる。それがためあまり恐怖心を煽らないが、マットに持ち込んで置き、その上でパイルドライバーやパワーボムなどを仕掛ける場合がある。あれは、怖い。
 長机も多く使われるようになった。かつては相手を殴るのに使われて危険だったが、最近は立てかけてそれに向けて相手を叩きつける。或いは、場外で机の上に相手を置いて、そこにコーナートップからプランチャを仕掛ける。たいてい机は真っ二つになり、衝撃をうかがう事ができる(もっとも、机が折れないとかえって危険だと思われる)。
 他には、本部席にあるゴングやそれを鳴らす木槌、実況用マイクのコード(首を絞める)、またリング設営に使用されリング下にしまってあったはずのスパナなどの道具、リングに上るための梯子なども、凶器として利用された。
 ヒールはそのあたりにあるものは何でも凶器として使うのである。「視界に入った」という理由で。
 現在では、たまにゴングや梯子などは見かけるものの、たいていは椅子と長机くらいしか使われない。絶滅種としては、お客さんが持っていたもの(傘など)。観客のものを使えば補償が必要となりややこしいので廃れたと思われる。あるいはバケツやビール瓶など。今はついぞ「61分三本勝負」などは見かけないが、昔はタイトルマッチにこの形式が多く、インターバルがあるため水を入れた瓶やバケツは常備されていたのである。三本勝負が皆無となった現状ではもうこんなものはない。(実際バケツや金盥、ガロン缶などを凶器として使うと、コントのようになってしまうのが難点だったとも思える)

 次に、自ら凶器を持ち込む場合であるが、これにもいくつかパターンがある。
 まずは、表立って持ち込んでいるものを凶器として使用する場合である。多くは、コスチュームとそれに付随する装飾品を転化する。
 レスラーは様々に飾り立てて入場する。全く飾らずタイツ一枚で出てくるアンドレのようなレスラーもいるが、多くはガウンやシャツなどを羽織っている。このガウンやシャツすら凶器と化す。タオル一枚でさえ、首を絞めるのに使用できる。
 また装飾品もレスラーは多く持ち込む。ワフー・マクダニエルらインディアン系のレスラーは羽根飾が美しいウォー・ボネットを被った酋長スタイルで登場する。対してハンセンらはカウボーイの装束。こういうところからドラマが生じ、衣装はプロレスに欠かせないが、こういうものは全て凶器となる。牛追いのための鞭、カウベルなどは相手を殴打するのに最適だ。
 ただし、レスラーがみなコスチュームを凶器に転化するわけではもちろんない。ブロディもたまに入場時に振り回すチェーンを使うこともあるが、常時ではない。だが、悪役レスラーはこういう装束を大いに活用する。
 かつてアメリカでヒールとして活動していたグレート東郷ら日系レスラーは、たいてい下駄を履いて入場した。これは、凶器とするために履いていたと言っていい。まずこれで殴りかかって相手にダメージを負わせる。
 シンが振り回すフェンシングのサーベル、上田馬之助が持つ竹刀などは、その典型といえる。シンのサーベルは一応は狂気の演出道具だが、実際にこれで攻撃するからたまったものではない。もっとも、柄の部分を利用する。あれで突き出したら事故につながる。
 矢野通は番傘を持ち込んでいるが、番傘は強度がなくしかも現在は結構高価なものなので、あまり凶器としては使用していないようだ。北斗晶の木刀は…どうだったっけか。
 
 こうした例は、今も多い。例えば真壁がブロディの真似をしてチェーンを持っているが、あれを腕に巻きつけてラリアートを放つ。ああいうのはブロディへの冒涜であり全く好きになれない行為だが、コスチュームの一部を凶器として使用する一例である。
 また、飯塚高史が使用する「アイアンフィンガー・フロム・ヘル」という阿呆らしい凶器も、コスチュームの一部と考えていいだろう。入場時から堂々とアピールし、密かに持ち込んだ空気がまるでないからである。
 僕がかつてイメージしていた「凶器」というものには、まさにその「密かに持ち込む」空気感ががあった。だからこそ、陰惨な感じが滲み出たと言える。そして、形だけでもレフェリーのブラインドをついて攻撃するからこそ、凶器が卑劣な「ヒール」というものの存在を際立たせてきたように思える。現在の椅子や長机攻撃にその陰惨さはない。むしろカラリと明るい。それは、現代プロレスにもうかつてのようなヒールが存在しないことからの帰着であると考えられるが、それは措く。

 その「隠し持った凶器」だが、それにも幾パターンがある。
 まずは、固形の武器でないものの使用。目潰しに使われることが多い。
 かつて日系レスラーは、入場時の下駄による攻撃とともに、持ち込んだ塩を撒くことがあった。さらに、塩を相手の目に摺りこむ。痛そうだ。
 目潰しとしては、滑り止めのロージン(松脂の粉)なども撒かれる。白い粉をわっと投げつけられたレスラーが目を押えてのた打ち回る光景は、よくある。
 口吻による噴霧もある。単純に水を噴いたり、矢野通が酒を噴いたりもするが、やはり毒霧がもっともインパクトが強い。ザ・グレート・カブキの入場パフォーマンスから始まり、ムタやTAJIRIが使用する。赤や緑の毒霧を相手の顔面に噴きつけるが、その成分が何なのかは定かではない。
 最も強烈なものは「火炎噴射」だろう。ザ・シークがおそらく元祖だと思われ、のちに多くのヒールによってコピーされた。日本でも、ミスターポーゴや大仁田厚が火を噴いた。

 さらに、前述したように鋭角的な凶器を隠し持ち、ブラインドをついて使用し流血に追い込むパターン。僕にとって、凶器攻撃と言えばこれである。
 大きさは、たいていは手のひらに隠れる程度のサイズ。レフェリーに見つからず、すぐにタイツなどに隠せるように。針金の太いやつとか五寸釘的なもの(的なもの、とはつまり僕も見ていてはっきりとは確認できていないのだ。チラ見せしかしてくれないので)。これで、主として額を狙う。前頭部は最も流血しやすい。血がドバっと出る。
 ヒールによる凶器攻撃はこの流血こそが主目的であり、血が止まらないさまは試合をヒートアップさせる。ブッチャーは額が割れやすく(額はいつもザクザクの傷だらけの形容である)、ちょっとしたことで流血し、さらに相手も凶器によって流血させるから、いつも双方血だるまの試合となる。
 たいていはそういうパターンだが、ブッチャーはあるとき、その凶器にフォークを選んだ。ブッチャー&シークvsファンクスの試合は、現在でも語り継がれている。それほど、凄惨な試合となった。
 このフォーク攻撃の凄惨さの理由は、ブッチャーがフォークで額を狙うのではなく、腕を狙ったことにあると僕は思っている。主としてテリーファンクが狙われたが、腕は傷つけられても額ほど流血しない。したがって、傷口がよく見えてしまう。思わず僕は目を覆いたくなった。後年、大仁田厚が有刺鉄線デスマッチで皮膚が裂けるさまをいやというほど見せつけ酸鼻を極めたが、ああいうのはやはり本人が言うとおり「邪道」だ。少しもカタルシスを得られない。ブッチャーのフォークによる腕攻撃はそのはしりだったと言えよう。結果的にこれに逆襲したテリーはスターダムに躍り出たが、結局残忍さだけが残ったように思う。
 まだ頭部からの大量流血のほうがマシ、とは変な話ではあるのだが、凶器も度を過ぎるのはよろしくない。個人的意見ではあるけれども。

 他に、凶器を表には出さず、コスチュームの中に忍ばせて攻撃するという例もある。
 この嚆矢は前述の如くミスターアトミックのマスク内凶器による頭突き攻撃だろう。マスクの中に忍ばせたのはコインともビールの王冠とも言われるが、コインであれば自らのほうがダメージが大きいのではないか(クッションを入れていたのかな)。いずれにせよ捨て身の凶器攻撃と言える。
 このコスチューム内凶器の例は、あまり多くない。噂の範疇で、あの猪木vsアリ戦でアリがグローブに石膏を入れていたという話があるが、おそらくは虚構だろう。対抗して猪木がシューズに鉄板を忍ばせようとしたという話もあるが、話としては面白いが無理だろう。そもそもこれはプロレスではなく異種格闘技戦であるが。
 その後、僕が見た中では、コスチューム内凶器の例が一度だけある。驚くことに木村健吾がやった。
 木村健吾は、新日本プロレス内では常に関脇クラスだった。上には猪木、坂口(またストロング小林)、そして同世代には藤波が居て、ずっとその下に甘んじていた。長州力も居たが、長州は造反によってメインへと上り詰めた。前田日明も登場し、ずっと引き立て役をせざるを得なかったのは辛かっただろうとは思う。さらに次の世代である武藤らも台頭してきていた。
 木村は藤波と組んで猪木・坂口組を破り初代IWGPタッグ王座に就いた。Jr時代以来久々に脚光を浴びた木村は、ついに藤波に挑戦。木村は藤波を押しまくり、ついにレッグラリアートでピンフォールを奪う。だがこのとき、木村は脛のサポーターに凶器を忍ばせていた。スパナだったと言われる。試合後すぐに発覚してしまった。
 この凶器攻撃の意味は何だったのだろうか。善人キャラからの脱却を狙ったのだろうか。しかしその後のヒール転向も、中途半端に終わった。そして、年齢もあり徐々に序列が下がっていった。
 いろんなことを思う。木村はいいレスラーだった。ジャンピング・パイルドライバーは実に美しく、何よりその体躯は猪木に酷似していた。しかしプロレスには、実力だけでは如何ともし難い何かが存在していて、木村を頂点には立たせなかった。

 その木村が凶器を使った80年代後半。ブラッシーやシークはもうリングにはおらず、ブッチャーやシンも既に悪玉としての存在感はなかった。本当の肉体を傷つけるための陰惨な凶器の存在は、この木村の脛に忍ばせたスパナを最後に、終焉を迎えたといえる。遺恨試合となった藤波と木村の再戦のレフェリーには、何とかつての凶器攻撃の雄であった上田馬之助が登用され、その上田が木村の反則攻撃を徹底して封じたことも、それを象徴しているかのように思える。
 その後凶器攻撃はまだプロレスには存在しているものの、かつての陰惨さは失われた。イス大王として栗栖正伸が脚光を浴びたのはすぐその後の90年代初めであり、これも凶器のありかたが変わったことを思わせる。現在の飯塚のアイアンフィンガー・フロム・ヘルに、かつての五寸釘の暗さはない。
 もちろん、それはいいことだと僕は思っている。プロレスは研ぎ澄まされた肉体同士のぶつかり合いが至上であるべきで、何かそこに尖った物などが介在すべきではない。
 ただ、現在の凶器攻撃は、肉体の限界を超えていること、危険度が増していることを誇示するために展開されているようにも見える。長机が真っ二つに割れるさまは、その状況を如実に表している。これもまた、好ましくないように僕には思えるのである。

 反則技の話、おわり。
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反則技 3 (急所攻撃)

2012年09月01日 | プロレス技あれこれ
 人間には急所というものがある。異形のレスラーとてそれは同様。なので、急所を攻撃することは当然反則であり、厳禁とされる。
 具体的に急所はどこを示すのかについては、団体のルールにより少しづつ異なっている。
 喉を急所とする見方もあるが、これは気管そのものを急所と捉えるか、あるいは喉笛、ノドボトケを急所と考えるか。喉笛であればラリアートなどは反則技となってしまう。しかし多くのルールはそうは捉えていない。気管は確かに急所だろうが、多くのルールブックは「喉を絞めること」を反則としており、場所というより行為だろう。喉への反則攻撃については反則技1で言及した。
 どこでも共通して急所としているのは、目と金的である。これは、絶対にいけない。プロレスに限らず、どんな格闘技もこれは禁止しているだろう。金的攻撃=急所攻撃とすぐに連想される。ああ考えただけで気分が悪くなる。
 ところでふと疑問に思うのだが、股間攻撃が反則とされることについては、男子プロレスだけのローカルルールとして考えたほうがいいのだろうか。手元に資料がないので検索してみたが、今は日本の女子プロレスはみなインディーズ化しており、公式サイトもブログのようになっているのがほとんどで、ルールまでなかなか示してくれていない。なのでわからないのだが、どうなんだろう?
 とにもかくにも、金的攻撃は少なくとも男子においては反則である。

 ただ、金的攻撃が反則技として成立するのかは、微妙だ。プロレスには「5カウントルール」があるため、金的攻撃ですらその範疇に入ってしまう可能性はあるが、ルールブックにはたいてい「あまりにも悪質な反則行為を行った選手に対し、レフェリーの判断で即、反則負けを宣告する時もある」との一文が入っている。金的攻撃はこれに該当するのではないかと推測する。そりゃそうでしょ。あそこへの攻撃だけは、ダメだ。これが悪質すぎる行為という考え方に、全ての男性は賛成するだろう。
 したがって金的攻撃は反則技ではなく、反則であると考えられる。なので多くは、レフェリーのブラインドをついて行われる(やっぱりあるんじゃないか^^;)。
 2種に大別できると思うのだが、ひとつは金的そのものを狙ってダメージを与えようとする場合。直接蹴ったり、あるいは腕を股間に入れて振り上げて当てる。また、アトミックドロップの要領で持ち上げ、トップロープに落とすという方法もよく見られる。
 多くは相手がスタンディング状態でなされ、グラウンドでされる(いわゆる電気アンマ方式)ことはほとんどない。ダメージがわかりにくいからだろうか。例外として、コーナーポストを股の間に位置させ、場外から引っ張るという方式がある。うはぁ、書いているだけで僕にもダメージがある(汗)。
 もうひとつは、防御のために行われる場合である。具体的には、スタンディングでバックをとられスープレックスを放たれんとしたときに、脚を後ろに蹴り上げる。バックをとられた場合は通常、上半身を曲げてエルボーで防ぐことが多い。ずるいやり方で爪先を踏んづけるというのもある。しかし股間はもっとずるい。昔初代タイガーマスクがスープレックスを放つとき、よくブラックタイガーがこれをやった。あれを見ていて憤慨したものだ。そんな省エネ型で解こうとするな、と。
 他に例外として「股間の急所を握ること(新日公式)」がある。握りつぶすのなら論外で大変な反則だが、オカマレスラーが「そっと握る」のであればこれは「相手に精神的ダメージを与える」ことで5カウント以内なら反則技の範疇だろう。
 とにかく金的攻撃は、いずれにせよ卑怯感がつきまとうやり方であり、ヒールしかやらない行為だ。だから、金丸がヒールとしてイッチョマエでもないのによくこれをやっていた時は本当に腹が立った。オマエ中途半端なんだよ。またアナウンサーも「うまく頭を使っています」などと実況してアホかと思った。悪役として生きる、憎まれる覚悟を持たないと金的攻撃はやってはいけないのだよ。そこの分別はちゃんとしなさい。
 またグレーゾーンの技に、マンハッタンドロップがある。向かい合って双手刈りから抱え上げ片膝に落とす。いわばアトミックドロップのリバースバージョンである。ニューヨークの暴れん坊アドリアン・アドニスが得意とした。アドニスがさかんにこの技を用いていたときは、当然尾てい骨狙いであり反則とはみなされていなかったのだが、落とす角度によってはこれは急所に当たる。蝶野らは、そのようにして使用した。
 よってグレーゾーンと書いたが、この今は亡きアドニスの技を反則技として本当に用いないでほしい。違うんだよ本当は。そんな卑怯な技じゃないんだ。
 さて、アドニスで思い出したのだが、アドニスは金的攻撃はしなかったものの一人で勝手に痛がっていた。例えば藤波をボディスラムで投げ、マットに倒れたことろをコーナーに上がってエルボーを落とそうとする。その刹那藤波は立ち上がり、コーナートップにいるアドニスに雪崩式ブレーンバスターを放たんとして駆け上がり、まずボディにパンチを打つ。すると、アドニスはトップから崩れ落ちてターンバックルに股間を打ち付けてしまうのだ。悶絶する哀れなアドニス!
 これはアドニスの得意技(?)だったが、男が股間を打つ行為を自らするわけがない。したがってこのポーズはフェイクだったと思う。しかし、あんなふうに落ちたら絶対打つだろう。アドニスの位置は我々と違っていたのかもしれない。そういえば白人は前付きだというぞ。外国製ジーンズはファスナーの位置が上に(こういう話は技となんの関係も無くただの下ネタなので略)。

 金的と並ぶ危険な急所攻撃に、目潰しがある。技名だと「サミング」となるが、いくら名称があっても、これも金的と並んで反則技ではなく反則だろう。
 ただ、プロレスにサミングはほとんどない。総合やボクシングではあったりすると聞いているが(ジェラルド・ゴルドーのアレとかグローブに松脂をすり込んで目を擦るとか)、プロレスは「明日がある」スポーツであるため、相手の目を傷つけることは欠場に繋がりプロモーターから干されてしまう。したがってほぼこのルールは遵守される。前田日明が長州の顔面を後ろから蹴って眼底骨折に追い込んだ結果、解雇された。これには他に様々な事情があるが措いて、目への本気の攻撃は反則負けより代償は大きくなる。
 僕が見たことがあるのは、小鉄さんが天山に不意をついて指で突いたもので、突いたというより触れたという程度だろう。天山は悶絶したが、これはエキシビジョンであり「初っ切り」みたいなものだろうか。
 他に猪木が昔、アウェイで韓国のパクソンナン、パキスタンのアクラムペールワンにサミングをしたことが伝えられているが、この真相はよくわからない。ただ、プロレスのサミングは「よっぽどのこと」だと言えるだろう。
 
 金的とサミングはこのくらいにして、他に急所攻撃として「目・鼻・口・耳へのあらゆる攻撃(全日公式)」というのがある。鼻と口と耳か。
 基本的には顔面には目以外にも急所が多く、それは眉間だったり人中(鼻と口の間)であったりするが、突起している鼻と耳、歯や舌がある口への攻撃は特にご法度ということだろう。新日公式はもう少し具体的に「鼻を掴む、口の中に手を入れる、耳を引っ張る」と書いている。
 ルールとしてはあいまいだが(これでは例えば新日では鼻へのヘッドバットはOK、また全日では耳そぎチョップはNGとなる)、極端でなければ「反則技」の範囲内とみていいだろう。鼻の穴に指を入れたり耳を引っ張ったり歯や舌を掴んだりするのはプロとして魅せる競技に相応しくなく、嘲笑の対象になるから避けるのが賢明だと思われる。キャメルクラッチ中に口のなかに指を入れて引っ張ったりすることは時々見られるが、レフェリーはカウントを取る。反則技だ。

 他に「手足の指関節への攻撃は、三本以上でなくてはならない(全日公式)」というのがある。これは、折れるからだろう。昔タイガーマスク(佐山)へのインタビューでこういうのがあったようなおぼえがある(記憶で出典無く不正確です)。
 「じゃ、タイガーはアンドレにも勝てると?」
 「そうですね。戦法によっては」
 「どう攻めれば勝てるのですか」
 「手の指を一本一本折っていけば勝てます」
 なんとも怖ろしい話だが、アンドレがそう素直に指を折らせてくれるだろうか。それはともかくとして、プロレスは相手に怪我をさせるために競技をしているわけではない。上田馬之助がかつて指を逆に曲げる攻撃をしたりしていたが、それでも指は四本掴んでいたような。指一本への攻撃は、ほぼ反則技としても存在していないと思われる。折れるもん(汗)。

 だいたい急所攻撃というのは以上である。ルールは、みぞおちや脇腹(レバー)への打撃については明文化していない。これは暗黙の了解という部分もあるだろうし、正拳でなければレスラーもプロだから「うまく相手の攻撃をずらす」ことが可能だろう。そういう受身が出来ないようでは厳しいようだが駄目なのだろう。
 ところが、もうひとつ身体内で「掴むな」と書いている箇所がある。どのルールにおいても然り。それは、頭髪である。
 確かに毛を引っ張られたら痛いが、決して髪が急所だということではないだろう。頭髪を掴むと攻撃が有利になる、という視点からのルールだろうと思われる。だが、昔のルーテーズ、武藤敬司やハルクホーガン、また秋山準あたりは明確に「頭髪は急所だ」と考えていたかもしれない。おい、掴むな抜けるじゃないか!
 実際には、頭髪はよく掴まれる。ダウンしたのを起こすときはたいてい頭髪に手をかけている。みんな反則である。したがって5カウント以内に起さなければならない。
 ヘッドバットも、そうだ。ボボ・ブラジルらは頭を正面から両手で掴みぶつけていたので反則ではないが、大木金太郎や藤原組長の「一本足頭突き」は髪を掴んでいた。あれはみな反則技の範疇となる。
 さらに反則技として、ディックマードックのカーフブランディング(仔牛の焼き印押し)が挙げられると思う。マードックは藤波に各種技でダメージを負わせ、コーナーに背中から叩きつける。藤波が朦朧としている間にマードックは、コーナートップに上がって後ろから藤波の頭髪を掴む。朦朧としていた藤波がハッと気づくがもう遅い。マードックは藤波の後頭部にヒザを押し付け、そのまま前方へなだれ落ちる。極めて危険度の高い技だが、これは頭髪を掴んでいる時点で反則である。よって、髪を持ってから5秒以内に仕掛けなければならない。
 この技は天山が一応継承しているが、天山は頭髪を持たず後頭部もしくは首を両手でホールドして仕掛けている。そっちのほうがツルツルレスラーにも仕掛けられなおかつ反則にもならず良いのかもしれないが、あの「藤波がハッと気づく」くだりが天山の技にはなく、そこが多少ものたらない。もっとも稀代の受け手である藤波が居ないことが不幸なのか。それに、牛は天山であって牛が牛に焼印を押すというのはどうなのだろうか。
 他にも頭髪を掴む技はあるだろう。フェイスバスター。アドニスのブルドッキングヘッドロック。みな、反則技となる。5カウント以内でなされなければならない。

 頭髪と同じくこれも急所攻撃ではないのだが、ついでに言及しておきたい。「コスチューム等を、掴んだり、引っ張ったりする行為(全日公式)」について。
 コスチュームということは、マスクもその範疇となる。したがって「マスク剥ぎ」は反則となる。これは技とは言えないから、ただの反則。
 マスクに手をかけることが反則だという認識は一般的だが、タイツはどうか。タイツに手をかけることは、ブレーンバスターで普通に行われている。したがってブレーンバスターの多くは反則技なのである。むろん5カウント以内ならOK。だから、両者の「どっちが投げるか」の攻防で長く時間がかかるのは本来ダメなのだ。しかし、これは技の攻防として黙認されている感がある。
 ドリルアホール・パイルドライバーを放つ場合には、正面から相手の頭部を股間に挟み込み、胴をクラッチして相手を逆さに持ち上げて落とす。この際に、相手の胴を持たずタイツを持って引き上げればそれは反則となる。これもブレーンバスターと同様に技の過程であるのでそれほど大した問題でもなさそうだが、この場合はレフェリーがチェックを入れる。アンドレがこの方式でやろうして止められていた。
 これは、バディ・オースチンのパイルドライバーによる惨劇が記憶にあるからだろうと推察される。
 オースチンのドリルアホール・パイルドライバーは、タイツを掴んで持ち上げる。この方式は、相手の胴をしっかりとホールドする方式と異なり、加減が出来ず体重がもろに脳天にかかる。つまり、威力がすさまじくなり怪我をする。怪我をするどころか、オースチンはこのタイツ掴み式で2人殺している。即死だったと言われる。したがって、パイルドライバーでタイツを持つのは反則技の範疇に入らず完全な反則として厳しく取り締まられることになったのだろう。
 このようにタイツを掴む行為にも、黙認されているものから完全に反則とみなされるものまで状況により様々だが、もうひとつだけ。
 ディックマードックと藤波が(またこの2人か^^;)場外乱闘を繰り広げて時間が過ぎる。20カウント近くなり戻らないとリングアウトになるため、藤波がエプロンに足をかけて上がろうとすると、マードックが後方からタイツを掴んで引きずりおろそうとする。その刹那、藤波のタイツが下がって、おしりがぷりんとむき出しになるのだ。
 もうこの光景は、何度も見た。これは藤波に一種の恥辱を与えているわけで、精神的ダメージを加える反則技となる。さらに、このことによって藤波はあわててタイツを引き上げようとし、その隙にマードックがリングインしてしまう。勝敗を左右する反則技と言える。

 しかし、この項にはマードックとアドニス、そして藤波の登場頻度が高かったが、技を受ける天才だった藤波は反則技ですらしっかりと受け止めていたことにいまさらながら驚く。その藤波の巧さを、今は亡きマードックやアドニスは、よく分かっていたのだろうと思う。
 
 次回に続く。
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反則技 2 (合体技)

2012年08月16日 | プロレス技あれこれ
 全日の公式ルール第5条において、「タッグマッチにおいて、試合権利のない選手が攻撃を加える行為」を反則とする一文がある。
 タッグマッチという試合形式は、周知の通り複数の選手がチームを組んで対戦する。ただし、リング内で戦えるのは1名づつが決まり。それ以外の選手は自陣コーナーのロープ外側(エプロン)で待機する。選手交代は、自陣コーナーにあるタッチロープを持っている状態でタッチしなくてはいけない(ローカルルールは存在するが基本は以上)。
 選手交代はタッチのみで成立し、待機選手はそれ以外の状況でリングに入ってはいけない。また、交代は速やかに行われなければならない。
 ということで、本来はカットプレー(今ピンフォールされんとする味方、また長期の極め技で苦しめられギブアップ必至の味方選手を助けるためにリングインして相手を蹴散らす行為)も厳禁である。まして、本来エプロンにいなければならない待機選手がリングインして技を繰り出すことはもちろん出来ない(ルール上は)。
 したがって、タッグ戦において二人もしくはそれ以上で行う攻撃は、全て反則技である。無論5カウント以内で仕掛けられる。

 二人がかりの攻撃というのは、もしかしたらタッグマッチという試合形式が始まった100年以上前から存在していた可能性もある。もちろん実態はよく知らない。
 日本に初めてタッグマッチがお目見えしたのはもちろんシャープ兄弟の来日だが、この時既にシャープ兄弟の自陣コーナーに押し込んでの二人がかりの攻撃はみられる。しかしまだ「合体技」とまでは言えない範囲かと。せいぜい両者が交互にストンピングを繰り出す程度である。そして、力道山と木村はもちろん二人がかりの技など出していない。日本人がデカくてずるい外人選手を倒す、という当時の日本プロレスのプランにおいて、力道山と木村が反則技である合体技を繰り出すわけにもいかなかっただろう。
 さて、その程度だったプロレスの二人がかり攻撃が「合体技」もしくは「ツープラトン」と呼ばれるまでの完成度まで到達するのはいつ頃だろうか。
 二人が同時に技を繰り出す場面は、その後しばしば見られるようになった。多くはロープに振って、戻ってきたところをダブルチョップ。またはダブルカウンターキック。ダブルエルボー。ダブルドロップキック。
 ただ、これらはあくまで「二人でやる技」であって名称がついていたわけではない。日本においてはミルマスカラス、ドスカラス兄弟のダブルクロスチョップ(またはダブルドロップキック)が「編隊飛行」と呼ばれたが、これは技名を示していたわけではない。

 タッグチームというのは、基本的にはシングルプレイヤーが二人で組む場合が主で、昔はタッグ専門のレスラーというのは少数派だったと思われる。日本に初来日した外人レスラーがシャープ兄弟というほぼタッグ専門チームだったためにこれを意外に思われるむきも少なくないだろうが、当時はタッグ専門でシングル戦をほとんどやらなかったレスラーというのはそれほど多くなかったのではないか。僕はシャープ兄弟くらいしか思い出せないのである。他の代表的なチームだったブルーザー&リソワスキー組など、いずれもシングルプレイヤーとしても傑出している。他は、時代が下ってマクガイヤーブラザーズくらいか。
 タッグチーム名、というものもなかった。「ブッチャー&シーク組」などとたいていは表記され、例外として兄弟チームなどはその姓で「トロス・ブラザーズ」「ファンクス」また「スタイナー・ブラザーズ」などと呼ばれた。兄弟でもないのに「バリアント・ブラザーズ」などと名乗っていたチームもあり、それほどタッグチーム名というのが一般的ではなかった証左だろう。ヤマハブラザーズ(山本小鉄&星野勘太郎)も同様の兄弟ギミックである。「BI砲」というのもあったがあくまで愛称的なものであり、やはり「馬場&猪木組」が通常である。
 血縁由来以外でチーム名というのが前面に出てきたのは、僕の知る限りではファビュラス・フリーバーズくらいからではないかと思う。いや、テキサスアウトローズが先か。しかしこれはダスティ・ローデスとディック・マードックという既にシングルプレイヤーとして傑出していた二人のチームであり「ローデス&マードック組」と表記してもなんら違和感なく、やはりテキサスアウトローズというのはBI砲と同様に愛称的なものだったと思われる。ブロンド・ボンバーズも、レイ・スティーブンスとパット・パターソンというシングルでも一流の選手のチーム。あ、ザ・ブラックジャックスってのも居たな。だんだん難しくなってきたがそのへんで措く。
 フリーバーズは、タッグチームとして頭角を現した。当時はマイケル・ヘイズとテリー・ゴディと言っても誰のことかわからなかった感がある。もちろん後にゴディはシングルプレイヤーとしてぐっと知名度が上がるのだが、そもそもはタッグチームのパワー担当だった。そうして、フリーバーズという名前がシングルよりも先行してゆく。
 80年代はアメリカでそういうタッグチームが花盛りだった感がある。「世界のプロレス」という番組があり、当時高校生だった僕は毎週楽しみにしていた。そこで観たファビュラス・ワンズ、ロックンロール・エクスプレス、ミッドナイト・エクスプレス。彼らはフリーバーズとは異なって同じタイプのレスラーでタッグを組み、各々の個性を前面に出さずチームワークを中心としたファイトで、他のシングルレスラーが暫定的に組んだタッグを翻弄していた。そうしたムーブメントの中で、ロード・ウォリアーズという突出したチームが出現する。
 彼らの出現において「合体技」「ツープラトン攻撃」というものが極みに達した感がある。

 ウォリアーズは例えば、マットに倒れている相手の上に、味方をデッドリードライブの要領で投げてボディプレスとするような技を使う。パワーでとにかく常識外のことをやってのけていた。
 そのウォリアーズがフィニッシュホールドとした技がまた驚異的だった。まずアニマルが相手を肩車で担ぎ上げ、そこへホークがコーナー上から相手をめがけてダイビング・ラリアットを放ち、同時にアニマルが後方へ投げ捨てる。つまりラリアートとバックドロップが一緒になったような複合技である。やられる側はたまったものではなく、まずフォールを奪われる。それまでの合体技からひとつ段階を上がった技と言えよう。
 この技には当初名前はなかった。スカイハイラリアットとか言われていたような気がするが記憶が定かでない。その後、日本に来日してからだと思うが「ダブル・インパクト」という名称で固まったように思う。或いはこの技は、「二人がかりの○○」「ダブル○○」と表現されていたにとどまっていた合体技に、初めて固有の名称がついた嚆矢ではなかろうか(僕の記憶では。もしかしたらもっと前にあったかもしれないが)。
 その後、合体技に固有の名称がつくことが当たり前になっていく。合体技がプロレス技の一形態として成立していく過程である。
 ただし、たいていは分かりにくい名称ばかりだ。全然技の形状がネーミングに生かされていないものばかり。「ブラックサンデー」「リミットレスエクスプロージョン」「N・G・A」などと言われても、その状態が全く浮かんでこない。困ったことではあるのだが。

 合体技は、いくつかに分類できる。
 最も古典的なのは、同時に二人がかりで同じ技を相手に放つことだろう。二人で相手をコーナーに追い詰め、よってたかってチョップやストンピングを浴びせる。こんなのに技名などない。例外として三人タッグの場合だが、かつて長州力率いる維新軍団が全員で一斉に相手の背中にパンチを連続して叩き込むことがあり、これを「太鼓の乱れ打ち」と称した。これはめずらしく形状を的確に捉えたネーミングだった。
 さらにコーナーではなく、ロープに振って二人揃って攻撃する場合。「ダブルドロップキック」「ダブルエルボー」などがある。
 この「ダブル○○」で最も迫力があったのは、何といってもハンセン&ブロディの「超獣コンビ」だろう。チョップ、カウンターキック、エルボーそしてドロップキックまで二人で繰り出したが、中でも凄かったのは「ダブル・ショルダータックル」だった。この二人はもともとアメフト出身であり、それが容貌もファイトスタイルも異なった超スターレスラーである二人の唯一の共通点だったと言っていい。相手をロープに振って、二人がマット上で並んで片腕を下ろしてセット、そして還ってきた相手に揃って肩口から激突する。その強烈な衝撃で必ず相手は吹っ飛ぶ。個人的には、僕はハンセン&ブロディのダブルショルダータックルを合体技では至上のものと考えている。
 同時に二人がかりで同じ技を繰り出す例としては、同方向からでなく前後から挟撃する、つまり「サンドイッチ式」もある。ラリアートやトラースキックがよく放たれる。しかし「サンドイッチ式延髄斬り」というのはどうなのだろうか。延髄は後ろにしかなくサンドイッチ出来ないのだが。
 
 さらに、二人がかりでひとつの技を仕掛ける場合。
 これは、ダブルブレーンバスターあたりが最初だろうか。重くて持ち上がらない巨漢レスラーを二人で持ち上げる場合によく用いられていた方法だが、一応、威力も増すと考えられる。なお二人がかりのジャーマンスープレックスというのもあって、これはジャーマンの体勢に入った味方を後ろからジャーマンで投げるという「縦関係」である(新崎人生とアレクサンダー大塚が放つ)。角度は強烈になるが味方も当然ダメージを負う。
 この系統の究極形は何といってもツープラトン・パイルドライバーだろう。一人がドリルアホール・パイルドライバーの体勢で相手を持ち上げ、もう一人がコーナー上段でそのひっくり返った相手の両足を裏から掴む。そして、パイルドライバーで相手を脳天から落とすと同時に、足を持ったもう一人が飛び降りて上からマットに突き刺す負荷を加える。二人がかりの脳天杭打ち。「ハイジャック・パイルドライバー」と称される。
 ヤマハブラザーズが始めたという話も聞いたことがありよくわからないが、僕が知る上ではこの技はアドリアンアドニスとボブオートンJr.の「マンハッタン・コンビ」のものである。このやんちゃでトンパチな二人のえげつない合体技として認識している。
 これは、多くのタッグチームが使用する技となる。長州力とアニマル浜口がよくやった。そしてついにはハンセン&ブロディまでもが使い、馬場さんの無欠場記録を途切れさせている。

 また、一人が相方の技をアシストする合体技もある。
 古典的には、羽交い絞めにしてもう一人が攻撃を加えるやり方。これはよく避けられて誤爆、仲間割れの要因となっていくのもまた古典的である。
 味方のスピードや高度を補助する場合も。コーナーの相手に味方を振って串刺し式をアシストしたり、前述のデッドリードライブ式ボディプレスなどもそうだ。テンコジカッターなど、こういうのはきりがないほど存在する。
 結構衝撃的だったのはマンハッタンコンビで、まずオートンがベンジュラムバックブリーカーで相手を固定し、そこへアドニスがコーナー上からニードロップで落下し首を狙うというもの。今ではこれに類似した技はしばしば見られるようになってしまったが、この時はさすがに「殺す気か!」と思ったものだ。
 「俺ごと刈れ」というのはSTOのアシストバージョンだとは思うが、例えばコブラツイストに固めた相手にミドルキックを放つのは、アシストなのか複合技なのかわからなくなってくる。どっちが主体なのか。

 と言うように、もうひとつは複合技であるのだが、この代表格は前述のダブル・インパクトだろう。厳密に考えればこの技はラリアートの威力が減じてしまうようにも思えるが、それでも落下角度が厳しいために説得力はある。
 サンドイッチ技でも、一人がラリアート、一人がエルボーであればそれは複合技となる。しかし複雑になると何だかわからなくなる。刈龍怒というのはもちろん小川直也のSTOと橋本真也の水面蹴りの複合技だが、本当に必要があるのかどうもよくわからない。

 なお、合体技というのはあくまで反則技である。したがって5カウント以内でないと技として成立しないのは当然のこと。したがって、打撃技と投げ技しか成り立たない。二人で相手の両腕を腕ひしぎ逆十字固めに捉えたりするのは、反則技ではなく「反則」である。
 また、いくら技として成立していても「反則技」である。なので、これをフィニッシュにするのはいかがなものかと僕はいつも思っている。厳密に言えば、補助付きパワーボムなどのそのままフォール技でなければ、合体技を繰り出したあとに「体固め」という技でカウントを奪っているわけであり問題はないのかもしれないが、どうも釈然としない。昔は、合体技のあとはレフェリーはカウントをとらなかったはずなんだけどなあ? いつから合体技がフィニッシュになったのだろう。やっぱりウォリアーズからかもしれないけれども。

 なお、合体技もルールによっては、仮に5カウント以内であっても完全に反則となる場合もある。稀有な例だが、昔猪木と国際軍団(ラッシャー木村・アニマル浜口、寺西勇)による1vs3のハンディキャップマッチが行われたことがある。その際は、待機選手がリングインすることが厳密に取り締まられた。
 ハンディキャップマッチというのは、たいていは例えばアンドレのような異常な体躯のレスラーに二人がかりで対戦するような「肉体の差を埋める」ために組まれる試合。なので、当然合体技は出されてもいい。むしろそれがあってこそで、二人がかりでもアンドレを持ち上げることが出来ずダブルドロップキックも効かない、なーんて場面を観るものである。しかしこの場合は体格差がなく、ツープラトンをやられれば一気に試合が決してしまうために、そのような形態となったのだ。
 この最初の試合(2度あった)の主役は、レフェリーの山本小鉄だったと言っていい。待機選手がカットインに入ろうとするのを、小鉄さんは身体を張って止め続けた。絶対に手出しはさせぬという強い意志が伝わり、場内から大「小鉄コール」が沸き起こった。
 これは、小鉄さんが強かったから出来たことである。思えば、昔はレフェリーはみなレスラーあがりだった。日本で見れば沖識名に始まり、ジョー樋口、ユセフトルコ、ミスター高橋、タイガー服部らは全て元レスラーだった。小鉄さんのような一流レスラーではなかったが、それなりに皆バックボーンを持ち毅然とした態度がとれた。ミスター高橋もロープブレイクを無視した外人レスラーにミドルキックかましたりしていたからね。和田京平さんくらいからかなあ。レスラー経験の無い人がレフェリーになっていったのは。レッドシューズ海野とかは弱そうだ。一概に言ってはいけないが、もうこういう試合を裁けるレフェリーはいないかもしれない。マイティ井上は引退したし。保永昇男はどうしたかなあ。

 話が合体技からそれた。次回に続く。
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反則技 1

2012年07月29日 | プロレス技あれこれ
 どんなスポーツにもルールがありそれに逆らったプレーは「反則」となる。「反則」は、基本的には犯してはならない事柄であり、反則を犯したものには一定のペナルティが与えられるのが通常である。競技によっては反則行為を犯せば即敗退、となる場合もある(陸上短距離のフライングなど)。
 したがって、やってもいい「反則行為」というものは本来は存在しないはずである。
 細かいことを言えば例えばサッカーには「マリーシア」とよく呼称されるレフェリーのブラインドをつく反則行為があったりするが、もちろん公式に認められているものではない。認められる行為であればそれは、反則ではない。
 ところが、その「認められている反則行為」という、言葉だけでみれば完全に矛盾したプレーが、唯一プロレスリングにのみ存在する。それを総称して「反則技」と呼ぶ。
 なぜそのような「反則技」が存在するのか。それは決してルールがいいかげんであるからではない。原因は、プロレスルールの二重構造による。

 プロレスファンであれば常識の範疇であり、またプロレス好きでなくとも極めて知れ渡っている「プロレスのルール」であるが、一度ちゃんと整理しようと思う。
 実はプロレスのルールには「ローカル・ルール」というものもある。団体によって微妙な差異があるのだが、おおまかな部分はほぼ統一されている。
 一例として全日本プロレスの公式ルールを紹介する。
第5条 主な反則行為
 拳で殴打してはならない。ただし、レフェリーのチェックを受けたオープン・フィンガー・グローブを着用した場合は許可されるが、顔面への攻撃はしてはいけない。
 頭髪・コスチューム等を、掴んだり、引っ張ったりする行為。
 爪先で蹴る行為。
 噛み付く行為。ひっかく行為。
 肘・膝などによる鋭角的な攻撃。
 金的へのあらゆる攻撃。
 手足の指関節への攻撃は、三本以上でなくてはならない。
 喉をしめる行為。
 ロープエスケープをしている相手に対しての攻撃。
 タッグマッチにおいて、試合権利のない選手が攻撃を加える行為。
 目・鼻・口・耳へのあらゆる攻撃。
 器物・危険物を使用しての攻撃。(凶器攻撃)
 覆面レスラーの覆面を剥がしたり、引っ張る行為。
 レフェリーへの暴行。
 このような行為が禁止事項であり「反則」となる。
 他団体もほぼ同様である。新日本プロレスの公式ルールを参照しても、ニュアンスが多少異なれど基本的には変らない。これ以外に新日には「故意に相手競技者を場外フェンスにぶつけてはならない」との一文が加わっている程度である。これは、場外フェンスを設けていない団体も存在し、ローカルルールと言える。(場外フェンスは今はどこにでもあるが、昔は全日はじめ他団体には存在しなかった。これは新日本で始まったとされる。タイガージェットシンが暴れまわって危険だったから。当時はオーバーザフェンスという反則もあった)
 で、これらの反則を犯した場合のペナルティは「敗退」である。
 前述全日のルールの「第4条 勝敗の決定」において、試合の勝敗決定要因として以下の項目が挙げられている。「ピンフォール」「ギブアップ」「KO」「レフェリーストップ」「リングアウト」「TKO」「試合放棄」「ドクターストップ」「反則」と列記されている。反則攻撃を行えば負けなのだ。これは、全てのスポーツの中でもかなり厳しいルールだと言える。
 ただし「留保」が付く。
 「第5条 主な反則行為」中の一文「以上が主な反則行為で、レフェリーの判断で反則カウントを取ることが出来る。また、レフェリーの判断下において反則行為はこの限りではない」。そして「第4条 勝敗の決定」中の「相手が反則行為を繰り返し、レフェリーが5カウントを数えた場合、勝ち。※また、あまりにも悪質な反則行為を行った選手に対し、レフェリーの判断で即、反則負けを宣告する時もある」という説明。
 あまりにも有名なプロレスのルールである、反則行為は「5カウント以内はOK(ただしやりすぎちゃダメよ)」という規定。これにより「反則行為」は「反則技」へと昇華する。5秒以内なら、やってもいいのだ(あまりにも悪質でなければ)。
 この「あまりにも悪質な反則行為」というのも非常に文学的ではあるが、一応「生命に関わる行為」「選手生命に関わる行為」「翌日の試合に影響を及ぼす行為」と解釈しておこう。そういう行為は反則負けの要因となる。したがい、それ未満の行為(攻撃)は、「反則技」の範疇となる。

 では「反則技」には、どういう技があるのか。
 全日、新日とも、ルールブック筆頭に挙げられているのが「体のいずれの箇所をもナックルパート(正拳)で殴打してはならない(新日)」である。拳で殴る行為は、反則である。殴ってはいけない(但し、5秒以内ならその限りではない)。
 一発殴るのに5秒もかかるスローパンチなど幼稚園児でも避けられる。そんなパンチは存在しない。したがって正拳での殴打は「反則技」となる。
 レスラーは皆、盛大にこの反則技を使用している。これについては以前記事にしたので参照していただきたい。→ナックル
 他に打撃系の反則といえば、爪先での蹴り(トーキック)、そして肘、膝を鋭角的に使用した打撃である。
 これは、あまり使用されない。
 ひとつには拳と異なって加減がしにくいことがあるだろう。プロレスは相手に怪我をさせるために技を繰り出すわけではなく、具体的にはダメージを蓄積させるためである。トーキック(足で行う打撃では最も鋭角的)はそれを超えてしまう可能性がある。実に危険。相手の腹にトーキックをぶちこめば、腹腔破裂の可能性も出てくる。5秒以内の技であっても、危険すぎる。
 なのでトーキックはほとんどのレスラーが使用しないが、僕が知る中では唯一、タイガージェットシンが多用していた。腹部を突き上げるように爪先で蹴る。危ねーなーと思っていつも見ていた・
 鋭角的なエルボーも同様に危険である。実際のエルボー攻撃は肘の先端を使わない。エルボーパッド、エルボースマッシュは肘関節から前腕外側をヒットさせ、エルボードロップやエルボースタンプは肘関節から上腕外側をヒットさせる技である。アックスボンバーは肘関節側面。
 ニー攻撃もこれに準じ、基本的に先端を鋭角的には用いない。例外的に、武藤のシャイニング・ウィザードはその開発初期、膝の先端が相手頭部に正面からぶち込まれていたと思う。あれは、反則技であったと言ってもいいだろう(もちろん5秒以内だが)。この初期型は危険すぎるのですぐに改良され、膝関節上部腿部分が相手の頭部側面に回し蹴りのようにヒットする形態となった。現在のシャイニング・ウィザードは反則技ではない。
 このように、肘・膝の鋭角的攻撃は怪我をするため通常は5秒以内であっても鋭角的には使用されない。
 したがい、打撃系の反則技は、ほぼナックルパートに限られるということになる。また一部トーキックも使用されるが(シンとかね)、一般的ではない。
 なおローカルルールでは、例えばUWFで頭突きが反則となったりもしたが、一般的にはなんら問題は無い。また、チョップが反則とされる国(地域)があったと聞いた事があるが、詳細は知らない。手刀も鋭角的だからなあ。しかし力道山の空手チョップや橋本の袈裟斬りチョップ無き現在、日本のチョップの大半は掌を使用しているので鋭角的ではなくなっているが。
 地獄突きも鋭角的ではあるが、あれは貫手であり鍛え上げたレスラー相手ではなかなかに通用しない。顔面、喉笛、みぞおちなど場所限定となるだろう。なので、反則とはされていない。
 他にも、コーナー上段からの攻撃などが反則とされている場合があるが、いずれもローカルルールである。

 プロレス技は、打撃技・投げ技、極め技(絞め技・関節技)から成る。ジャイアントスイングや雪崩式リングインのような例外もあるが、基本的に攻撃形態はこの3種類に分類される。打撃技においては前述のように主としてナックルが反則技となっているが、他の形態ではどうか。
 投げ技には、反則技はない。ローカルルールとして、例えば藤波辰巳が放つドラゴンスープレックスが危険すぎるとWWWF(現WWE)で「禁じ手」とされたことがあったが、これも「反則技」の範疇であったかどうか。現実的にはルール上は問題がなく、選手を壊す可能性があるので止めてほしい、との要請による。「禁じ手」という技はアンドレのツームストンパイルドライバーなど多々あるが、それらは厳密には反則ではない。
 極め技にも、反則技はほぼ無い。関節技は加減がきくので、相手を壊さない程度であればそれは認められるのがプロレスである。ヒールホールドなどはかなり危険度が高く多くの格闘技では禁止されているが、プロレスにおいて「靭帯や半月板を損傷しない程度で」仕掛けるのは合法である。

 ただひとつ、絞めで禁止されている技がある。それは、チョーク攻撃である。首を絞める行為。首を絞めれば呼吸が出来なくなって死んでしまう。プロレスは殺人のために試合をしているのではない。当然ながら反則となる。スリーパーホールドのように頚動脈を絞めて「落とす」のは合法であるが、気管は絞めてはいけない。
 余談だが、チョークが総合格闘技において合法とされているのがどうも納得いかない。すぐにギブアップするからかまわない、と考えているからなのだろうが、これは明確に「殺す」技である。プロレスのように5カウントがない試合で仕掛けていい技なのだろうか。派生して安田がギロチンチョーク(ワンハンド・チョーク)を掛けたりノゲイラがスピニングチョークを得意技としていたりしたが、実に恐ろしいと思う。(スピニングチョークが喉を絞めているのかには疑問があるがそれはさておき)
 このチョーク攻撃はもちろん反則だが、のどに手がかかっているだけで気道をふさがなければいい。したがってチョーク・スラムなどは無問題である。ネックハンギングツリーもOK。
 問題は絞めていると考えられる技で、ひとつはやはりチョークスリーパーだろう。
 スリーパーホールド(裸絞め)は、技術が必要である。頚動脈を圧迫するように仕掛けて脳への血流を阻害し、落とす。これをヘタなレスラーが力任せにやれば、喉まで絞まってしまうことになる。そうなれば、反則である。ただし、これは外見では判断がつけにくい。
 ただ、スリーパーで喉を絞めるということの多くは、腕でノドボトケを圧迫するということになる。気管を絞めようと思えば本来喉仏より少し上だが、レスラーの太い前腕だけで的確にポイントを押えるのは難しいので、そうなる。
 喉仏を前腕で押されたら。これは自分で喉笛を押してみればわかるが猛烈に痛い。したがってチョークに入ったなら掛けられた側は痛いからアピールをする。そしてレフェリーがチェックに入って反則カウントをとる。5カウント以内に技を解かないと反則負けとなる。
 ここで、グレーゾーンの技がある。猪木の「魔性のスリーパー」と称された、衰えた後年の猪木がフィニッシュとした技のことである。この技の判断は難しい。
 藤原組長に掛けたスリーパー、高田へのスリーパーなどが初期の代表例だが、カクンと入って瞬時に落ちる。落ちる、ということは頚動脈絞めであり喉絞め→呼吸困難による失神ではない。実際喉に入っているとは思えないのだが、vs天龍戦においてレフェリー(タイガー服部)は、このスリーパーをチョークスリーパーと判断し反則とした。あの角度だと違うと思うけれどもなあ。

 この魔性のスリーパーが「反則技」であったかどうかは措いて(よくわかんないんだもん)、喉攻撃のもうひとつの代表的な反則技は、コブラクローである。 
 コブラクローは、もちろんタイガージェットシンの技である。シンは、大試合ではブレーンバスターやアルゼンチンバックブリーカーなども使用したが、通常の試合は大抵このコブラクローで決めていた(もっとも凶器使用による反則負けが多くコブラクローがフィニッシュに結びつくことは少なかったと思うが)。
 さて、コブラクローは反則技、と書いたが、実はそうではないという説も。wikipediaなどは「気管ではなく頸動脈を絞めているので、反則のように見えて、実際は反則ではない」と明確に書いている。そぉかあ?
 コブラクローは通常のクロー技と異なり指2本で喉仏を挟み、そのまま押すことになって頚動脈を圧迫していると言われるが、僕が見た中ではノドボトケを掴んでいるように見えたこともあったぞ。実際はノドボトケを掴んでも反則ではないかもしれないが、角度によっては喉も絞まる。スリーパーのように曲げられない前腕で絞めるのと違い、指はいかようにでも動くので、ノドボトケであろうが頚動脈であろうが気管であろうが自由自在に攻められ、しかもレフェリーに見えにくい。これは、チョークと言ってもいいだろう。パッと見れば、これはどう見ても首を絞めている以外には見えないよ。
 シンがコブラクローを繰り出しても、たいていは反則カウントをとられなかった。だから反則ではない、との見方もあるが、それは単にレフェリーの裁量だったからではないか。たいていはコブラクローとロープブレイクがセットになっていて、二重に反則行為が行われており多くはロープブレイクで反則カウントがとられていたことと、シンは他にもトーキックや凶器攻撃で反則だらけであり、いちいちコブラクロー如きで反則カウントをとってられなかったのかもしれない。しかし、あれはやはり「反則技」だろう。
 なお、コブラクローは別名サフォケーションクローとも呼ばれる。suffocationって窒息の意味だから、やはりコブラクローは反則と言える。
 しかしサフォケーションクローという名称はコブラクローを指すのではなく、チンロックやキャメルクラッチ、またステップオーバーフェイスロックなどの際に、鼻の穴と口をふさいで呼吸できなくなる顔の掴み方を指す、ともいう。鼻と口をふさげばそれは窒息するわな。喉は絞めてないけどね。これは、反則としてどう位置づければよいのかは迷う。口や鼻への攻撃、とも見られるけれども、ふさいでいるだけなのでね。しかし明文化されていなくとも、呼吸できなくする行為はすなわち殺人行為であるから、サフォケーションクローはどっちにせよ反則技だろう。

 次回に続く。
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大外刈り

2012年06月27日 | プロレス技あれこれ
 プロレスという競技はもちろんKing of sportsであるのは間違いないが、これが不可思議なことに子供の頃からずっとプロレスを続けてきてプロレスラーになった、という例はまずない。レスラーの多くは、他のスポーツ出身である。もちろんアメフトや体操出身者なども居るが、他の格闘技からの参入が多い。
 そもそもプロレスという競技は、様々な格闘技の発展系(集大成)であるという見方も出来る。プロレスのルーツをどこに求めるのかという話は、古代ギリシャのパンクラチオンからプロレスは始まったのだ、という雄大な説から、アマレスの賞金マッチ説、サーカスの出し物説まで様々あるが、その技術的なルーツを辿れば、イギリスの「キャッチ・アズ・キャッチ・キャン」と呼ばれるレスリング、グレコローマン式レスリングあたりがベースとなるだろう。ギブアップもしくは相手の両肩をマットに付けることを決着とするルールであり、プロレス興行のルーツが米英であることは定説化しているので、それはもう間違いない。そこへ、参入する競技者のバックボーンから、各地に伝わる様々な格闘技のエッセンスが入りこみ、現在のプロレスがある。

 日本のプロレスにおいてもそれは同様で、特に日本では伝統的格闘技として相撲と柔道があり、その技術がプロレスへ流入した。それは、日本のプロレス黎明期に相撲出身の力道山と柔道出身の木村政彦が突出した存在であったことも寄与していると考えられる。当時の日本人レスラーはほぼ相撲ないしは柔道出身であり、ハロルド登喜がボクサーであったことくらいしか例外が無い。アマレス出身者等がプロレスに参入するのはもう少し後の時代となる。
 興行という面からは長い歴史のある相撲が日本のプロレスの形を作ったとも言え、また徒弟制度やトレーニング方式、食事などでは大いに影響を及ぼしたが、「技」の面から言えば、さほど相撲はプロレスには浸透していない。相撲は土俵から押し出す、また足の裏以外が地面につくことが勝敗の分かれ目であり、プロレスとはあまりにかけ離れていたことがある。もちろん頭突きなどは相撲も得意とするが、相撲から来た技としては、力道山の空手チョップが相撲の突き押し、張り手をルーツとしている他、鯖折り(ベアハッグはそもそも輸入技だが)やすくい投げくらいしか出てこない。天竜チョップという摩訶不思議な技もあったが。
 それに比べ柔道は、その技術がかなりプロレスに生かされた。戦後間もない頃は、柔道は現在の講道館柔道よりも以前の柔術系の技がまだ残されており、投げ技、固め技(絞めや関節技)の他、当て身技と呼ばれる打撃技まであった(講道館では禁止)。このうち、関節技については現在も腕ひしぎ逆十字固めなど、頻繁にその姿を見ることが出来る。これら柔道系の関節技は海外のプロレスにも輸出されていった。
 しかし、柔道とプロレスでは決定的な違いがある。それは、柔道は着衣で行う格闘技だということ。したがい、絞め技、投げ技においてはそのままプロレスには移行できない。もちろん頚動脈を抑えるツボであるとか、相手の体勢の崩し方、体重移動まで柔道の技術は相当に使えるのだが、アレンジが必要となる。三角絞めなど着衣とあまり関係無い技はいいが、それ以外は難しい。ことに、投げ技はそうだろう。バックドロップが柔道の裏投げをルーツとしているという説はよく言われるが、相当にアレンジされている。
 
 柔道の投げ技は、本来かなり威力のあるものである。現在の柔道はどちらかといえば護身よりも教育を旨としているようで、相手の背中を畳につけることが出来れば一本であり、怪我をしないように受身をとりやすく投げる。だが、柔道(柔術)は組討由来であり、相手を倒すために投げる技術もやはり存在している。
 コミックスの話になるが「1・2の三四郎2」で、プロ柔道の金田麻男が背負い投げにおいて引手釣手をどちらも引きつけないで、背中から落とさず垂直に頭から畳に叩きつけた。漫画ではあるが、見てゾッとした。柔道の投げは、いかようにでも必殺技になりうる。
 ただし、前述のようにプロレスは着衣がないため、相手の襟も袖も掴めない。したがって袖釣込腰などは使えない。ばかりか、ほとんどの投げ技にアレンジが必須となる。刈ったり払ったりの足技の他は、そのまま使用できるのは双手刈や俵返など。また、大腰は相手の脇に手を入れ腰に乗せて投げる。さらに一本背負いは相手の上腕を掴む。なので無着衣でもOKである。佐々木健介が「逆一本背負い」を使う。
 それ以外は掴む場所がなく、実際プロレスではあまり使われない。

 その中で、大外刈りはプロレスでも例外的に一部のレスラーが使用している。
 全日本柔道選手権を7度獲った小川直也がプロレスに転向したとき、フィニッシュ技に開発したのはSTO(Space Tornade Ogawa)だった。このネーミングは猪木とされているが全くもってヒドい。しかしながら、これはどう見ても大外刈りである。
 大外刈りの説明は不要とは思うが一応書くと、お互い正面から組み合った状態で、袖を持つ引手、襟を持つ釣手をぐっと引き胸を合わせ、同時に相手の側面に踏み込んで上体を押し込み、左に踏み込んだなら右足で相手右足を刈り(相手の膝下に自分の足を合わせて後方へ振る)、相手を後ろに倒す技である。相手は背中から床へ落ちる。
 上体の引付が強く足を高く刈れば、相手は後頭部から落ち危険な技となる。
 STOは、裸体のプロレスでは引手釣手がとれないため、引手は相手の対面する腕をとり、釣手は相手の首に回す。このことで首が固定され、受身がとりにくくなる。そして胸を合わせた際に体重を相手に乗せさらに大きく刈ることで、威力を増している。完全に後頭部を狙っている。
 ほぼ同系の技に、垣原賢人のカッキーカッターがある。Jr.ヘビーのカッキーは足を大きく振りかぶり一瞬で刈ることによってスピードを増し、超ヘビー級の小川のSTOと同様の威力を生み出している。瞬時にバタンと倒れるため、実に受身がとりにくい。
 他に佐々木健介のSTKがある。これはSTOのコピーだが、釣手を首ではなく顎にすることが異なっている。
 相手を引き付けて、後頭部を狙って後方へ倒す、ということであれば、プロレスには同様の技がいくつもある。ロック・ボトムもそうだろう。これは、足を刈って倒すのではなく上方へ持ち上げて叩きつける。体重を乗せる、ということになればスパインバスターにまで広がってしまう。方向性から言えば、チョークスラムも身体の向きは同じである。
 しかしダメージに近い点はあるにせよ、「足を刈って後方に倒す」ということが大外狩りの重要な点であり、技術的に全く異なる技と考えられる。むしろ、身体の向きは異なっているが河津落としが類似技と言える。
 
 柔道の投げ技において、大外刈りは最も「柔道らしい」技と言える。知名度は、内股や背負い投げと並んで高いだろう。したがって、柔道においてもオールラウンドプレイヤーであり自らの代名詞のような技を持たなかった器用な小川が、プロレスにおいて「柔道出身」であるというアイデンティティを前面に出すために大外刈りを選んだのはプランとして頷ける部分がある。ただ、プロレスは着衣がないためどうしても変形の「STO」とせざるを得なかったのもまたよく理解できる。
 柔道出身のレスラーは多い。僕が実際に観戦して知っている範囲でも、大物として坂口征二、さらに柔道選手として実績のある小原、武藤、経験者として村上和成、橋本、金本、健介らがいるが、この中で関節技等はともかく、柔道の投げ技を取り入れているのはわずかに健介くらい。海外に目を転じれば超大物のルスカ、ヘーシンク、そしてバッドニュースアレンらがいるが、ルスカの払い腰など凄まじかったものの、やはり絞めや関節技への布石だった。どうしても着衣の問題から、投げ技をフィニッシュに出来なかったものと思われる。また彼らには、立ち技でノックアウトを狙うという発想に欠けていたのかもしれない。寝技の方が確実である。そこが、小川の非凡さをまた浮かび上がらせる。
 日本人である僕としては、柔道技の凄さをもっとプロレスでアピールして欲しいとは願っているのだが。吉田や石井慧は総合に行っちゃったからなあ。

 柔道出身としての実績で言えば小川直也は確かにピカ一だが、かつて日本のプロレス界にはもっと凄まじい選手が居た。もちろん、木村政彦である。「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」と謳われ、小川や吉田、石井はもちろんのこと、山下や斉藤でもルスカやヘーシンクでも、全盛期の木村には敵わなかっただろうとされる(誇張ではなく)。さすれば、柔道界においては世界最強だ。そういう選手が、レスラーだった時代がある。
 グレーシー柔術関連の話や、また「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」という評伝が昨年大ベストセラーとなったことで、木村政彦については昨今よく知られている。その木村が最も得意としていた投げ技が、大外刈りだった。
 木村は、実は身長が170cmしかない。これは時代を考えても、決して大きな方ではない。
 大外刈りは相手の身体を上方に浮かせないため、仕掛ける側の身体が大きいほうが体重を乗せるのに有利である。プロレス技になると「浴びせ倒す」ことになるためことさらである。190cmをゆうに超える小川直也は言わずもがな、カッキーもJr.ヘビーとすればそこそこ上背はある。木村はもっと小さい。なのに、どうして大外刈りを得意としたのか。背負い投げなど重心を低くとる技のほうが有利なのに。
 その木村政彦の大外刈りの描写が、上記評伝にいくつか書かれている。
 木村の大外刈りは、乱取りでは禁じ手にさえなったという。それは、相手へのダメージが大きすぎるからだ。まず、足を刈るときは踵で打撃を与えるが如くだったという。ふくらはぎもしくはアキレス腱にかかと蹴りを食らわすわけだ。そして一気に倒す。もちろんこれで柔道では一本だが、この踵の打撃で相手の足は壊され、さらに投げる角度が鋭いため相手は受身をとれず脳震盪を起すのだと。何という凄まじさか。
 この大外刈りに対するエリオ・グレイシーの目撃談が上記本にある。
「エリオは木村の大外刈りを見て自らの格闘技観が変わるほどのショックを受けた。エリオは実戦では投技は役に立たない、最後に仕留めるには絞め技か関節技しかないと思っていた」
 その投げ一発で対戦相手を失神させたのは衝撃的だったということである。
 有難いことに、その木村とエリオの試合の動画が残されている。こちら。エリオは、木村の投げを警戒していたにもかかわらず、大外刈りで投げられている。あのグレイシー柔術の始祖であり不敗を誇ったエリオすら「わかっていても投げられた」のであるから、これはもう防ぎようのない技なのだ。
 その木村の大外刈りは、強力な刈り足で相手のバランスを崩すばかりか、釣手で相手を押し倒すように投げている。胸を合わせて浴びせ倒す形ではないところが怖い。強烈な腕力で畳に叩きつけているのだ。そして、スピードが尋常ではない。これでは、生半可な相手であれば確実にK.O.されてしまう。エリオはその後も踏ん張ったが、結局これまた必殺の腕絡(アームロック)で腕を折られて敗れた。

 だが、この試合は柔道(柔術)である。僕はプロレスにおいて木村が繰り出す大外刈りが知りたいのだ。
 しかし上記「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」は木村の名誉回復を目的として著されており、木村のプロレス時代は黒歴史の扱いである。なので、さほど試合内容に言及されているわけではない。かと言って他に依拠する資料もないので、頼る。
 木村がプロレスラーとして活動した期間は、短い。日本に限れば、昭和29年のシャープ兄弟がやってきたシリーズだけである。しかしその試合内容の詳細はわからない。上記評伝にはわずかに腕の逆取り、腕固め、一本背負い、投げ技などと記されているだけである。そりゃ細かなことなど記録には残らないだろう。よく資料映像として出されるこの動画を見ても、大外刈りは出されていない。投げ技としては、相手がヘッドロックに来たところを大腰とみられる投げ、一本背負いを2回、さらにフロントヘッドロックからまた大腰的な投げを放っている(この技は面白い。フライングメイヤーとも異なる)。そして巴投げ。さらに、エプロンから一瞬の足払いをかけてベン・シャープに尻もちをつかせている。ここらへん、達人の片鱗が窺える。あとはヘッドシザース、ステップオーバートーホールドくらいか。このヘッドシザースはリバースで掛けていて、のちのフランケンシュタイナーの原型をみるようである。腕も固めているが残念ながらこれは必殺の腕絡ではない。
 さて、他に残されている動画はあの力道山戦である。こちらこちら
 この試合で、実は木村は大外刈りを出しているらしい。ただしその場面は残されてはいないようだ。現在出回っている動画は、木村有利の場面は全てカットされているという。非常に惜しいことである。したがって木村の技は、開始早々の一本背負いくらいしか見られない。腕固めもあるが、ハンマーロックからの不完全なアームロックへの移行であり、とても必殺の腕絡にはなっていない。
 木村は、どんな大外刈りを出したのだろうか。木村一流の必殺技である大外刈りを。
 だがその後の試合展開から見て、力道山にさほどのダメージを与えたものとは思えない。エリオに対して繰り出した、相手の後頭部を腕力でマットに叩きつけるが如くの大外刈りではなかったのだろう。
 もしもあの大外刈りを放ったならば。エリオでも投げられた大外刈りである。力道山は防ぎようがなかったはずだ。そして後頭部に相当なダメージを負うことになっただろう。そうなったら、日本のプロレスの歴史は、変わっていた。さらに「オオソトガリ」がプロレス技として定着した可能性がある。後の「STO」なんてヘンな一代きりのネーミングでは終わらず、バックドロップやブレーンバスターのような古典に昇華した可能性も、ゼロではなかった。惜しいことだったと思う。
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ネックハンギングツリー

2012年05月31日 | プロレス技あれこれ
 こうしてプロレス技の話を書いていると、ここしばらくでずいぶんと様相が変わったなと感じる。活躍しているのが自分より若いレスラーばかりになった、というのもあるのかもしれない。彼らは、もちろん僕が見てきたプロレスとは違うものを見て育っている。現IWGP王者(2012/5月現在)のオカダ・カズチカなどは1987年生まれで、僕がこのブログを始めた頃にデビューし、新日本に来たのは2007年。隔世の感がある。当然のことながら、僕より20年以上若い。アントニオ猪木の全盛期など知らないだろう。もちろん彼はプロレスマニアだったはずで、かなり古い試合のVTRだって見ていると思うが、あまり参考にしてはいまい。
 そのオカダがツームストン・パイルドライバーを用いているのは、うれしくもある。これはカール・ゴッチ以来の技。この技を有名にしたのはモンスター・ロシモフ時代のアンドレ・ザ・ジャイアントで、ターザンタイラーを病院送りにしてしまい以後禁じ手にしたという話が凄みを呼んだ。僕らの時代はむろんタイガーマスクの得意技として印象に残る。彼のような体格があればもちろんフィニッシュ・ホールドになりうる技でありそれを期待したいが、今のところ「レインメーカー」とか称する、手を繋いでネックブリーカードロップ(アックスボンバー?)という、非常に分かりにくい技でフィニッシュとしている。ああいう技が、若い人にはうけるのだろうか。僕などにはとても大技には見えないのだが。

 もう少しツームストン・パイルドライバーを前面に押し出してほしいと僕などは願うものだが、いわゆる「古い技」と呼ばれるものも、時々このように復権したりする。中西が使用したアルゼンチンバックブリーカーもそうだろう。あの技は、完全に死に体だったはずだ。カナディアンはまだ少し坂口らが使っていたが、アルゼンチンはあのタイガージェットシンが猪木からギブアップを奪うという衝撃以来、沈黙の中にいた。それをフィニッシュに持ってきた中西は、ある意味センスがあったと思われる。もう彼の復活は無理だろうか。
 パイルドライバーは、今は鈴木みのるがフィニッシュにしている。これも、一種の復権か。鈴木の場合は「ゴッチ式」という従来と異なるクラッチの仕方で、ここに何とか個性を出したいと思ったのだろう。ただ本来の「脳天杭打ち」と呼ばれるドリルアホール・パイルドライバーは、とんと見なくなった。危険なのか、それとも難易度が高いのか。パワーボムが流行りだして、全てとって代わられた気がする。諏訪魔のような高角度のパワーボムもなされているくらいだから、パイルドライバーだって危険度は同様だと思うのだが。かつてのボブ・バックランドや木村健吾のようなジャンピング式など、結構な見せ場が作れるとは思うのだけれどもね。ファルコンアローなど語る気も起きない。
 そうした技の中で、まず復権することはないと思われる技もいくつかある。例えば、ベアハッグ。海の向うではまだ使用されることもあるだろうが、現在のスピード重視の日本のプロレスではまず無理だろう。力皇猛が一時期使用したが、待ちきれずすぐに派生技へと繋げた。その力皇も引退してしまった。
 そういう技は、いくつかある。キャメルクラッチ。また、コブラツイストでさえその仲間に入ろうとしている。
 ネック・ハンギング・ツリーはその最右翼だろう。

 ネック・ハンギング・ツリー。おそらく誰もが聞いたことがある技だと思う。知名度は高い(と思うけど今はそうでもないかな?)。言わずと知れた「人間絞首刑」である。
 そうは言っても一応書くが、正面から両手で相手の首根っこをむんずと掴み、そのまま両腕をさしあげて相手を上方に持ち上げる。つまり「吊り上げる」わけ。相手の体重を支えているのは首根っこだけであり、その技が掛かった姿はまさに首を吊っているのと同じである。相当に恐ろしい技であることは、これだけでわかると思われる。普通なら悶死してしまうぞ。
 子供の頃、4の字固めや逆えび固めはよく真似したりしたものだが(良い子は絶対にやってはいけない)、このネックハンギングツリーだけは絶対に真似出来なかった。むろん、危険ということが大前提としてあるが、これは大変に腕力が必要な技なのである。なんせ相手の体重を首の部分で支えて目よりも高く差し上げなければいけない。無理である。
 つまり、相当な怪力でないと出来ない技となる。なんせレスラーの体重は常人並ではない。相手を腕力だけで持ち上げる技は、他にもパワーリフトなどがあるが(あれは技かな?)、腕への負担はネックハンギングツリーの方が上だろう。いくら力自慢でも、これはギブアップまで長時間続けることはなかなか出来ない。アンドレがグラン浜田を長時間持ち上げることは可能だろうが、そんな対戦は現実的ではない。

 ここで、ちょっと考える。この技は、どう効くのだろうか。
 これは、案外難しい問題のように思う。プロレスは、首を絞めるのは当然反則である。したがって、この技は実は絞首刑ではない。
 首根っこを掴む、と書いたが そんなところを持ったら反則である。実際は、下顎を両手で支えているのである。その下顎、エラの部分に負荷として自分の体重がかかる。そうなるとかなりキツかろうとは思うのである。おそらくは親指がエラか下顎の内側に食い込んでいるに違いない。レスラーは基本として常人よりも遥かに首を鍛えているが、こういう部分を攻められることは想定外だろう。鍛えられないところは、急所となる。
 この痛みももちろんだが、呼吸もおそらく困難になる。相当な負荷がかかるゆえに。
 そして、首が自らの体重によって伸ばされる。これも、案外キツいのではないか。首関節が脱臼するなどということはないと思うが、究極はそうなる。グラウンドで相手の手首を取り両足を相手の首と脇腹に当てて踏ん張って引っ張る技があり、僕はジャイアント馬場式アームバーと仮に呼んでいるが、これは肩関節の脱臼を狙う技である。それと同じ事を首関節でやっていると言えよう。一種の「ひっぱり技・引っこ抜き技」としても分類できる。首を引っこ抜く技としては藤原組長がフェイスロックを仕掛ける際に後方からよく「首を栓抜きで引っこ抜くように」と表現されるが、ちゃんと掛かればネックハンギングツリーのほうがキツいのではないか。

 かような拷問技だと推定されるが、この技が現在ほぼ幻の技となっている。いや、正確に言えば時々は出る。相手の首根っこを掴んで(便宜上この表現とする)勢いをつけて持ち上げる。この状態でネックハンギングツリーだが、それは一瞬だけで、そのまま相手を前方に叩きつける。仕掛ける側は足を開いて尻餅する形で着地するので、高角度ライガーボムとでも言おうか。一種のパワーボムである。ジャイアント・バーナードがやる。これでは、ネックハンギングツリーとは言えない。派生技にもならないのではないか。むしろ変形チョークスラム(喉輪落とし)だろう。こんな形でしか、姿を垣間見ることが出来ない。
 この技は、やるほうだって大変なのである。
 まず、相手の体重を支えきれる腕力がないと始まらない。そんな力持ちはヘビー級でしか考えられないから、必然的に相手も100kgを超える。ジュニア混合のタッグ戦ならそうでない場合も考えられるが、こういう技はシングルでないと掛かりにくい。
 さらに、高身長であること。例えば大仁田厚が馬場さんに掛けようと手を伸ばしても吊り上げることが出来ない。漫画になってしまう。相手と同等の身長であれば理屈上は仕掛けられるが、見栄えがよくない。やはり、ある程度の上背が必要となる。背の高い怪力レスラーでないと、あまり仕掛けても絵にならない。
 日本で言えば坂口や鶴田などがやっていたが、得意技の範疇にまで入るかどうか。馬場さんの身長であればそれは絵になっただろうとは思うが、後年のあの細腕繁盛記をみるととてもネックハンギングツリーという発想が浮かばない。その後、日本人レスラーでこれをやったのは、中西くらいだろうか。
 僕がちゃんとしたネックハンギングツリーを見た最後は、スコットノートンだったかもしれない。しかしウォリアーズにせよ誰にせよ、いずれも短時間の技でありギブアップを奪うまでには至らないのが実情だろう。漫画のタイガーマスクではこれを仕掛けて相手が泡を吹き気絶、というシーンが出てきたような記憶があるが、そんなことはなかなか起こらない。

 この技の代名詞的存在として、かつてはアーニー・ラッドが居た。
 これは僕の記憶なので資料として考えないで欲しいが、アーニーラッドはネックハンギングツリーでギブアップを奪ったことがあったのではないか。今少し検索してみたがそういう話は出てこないので記憶違いかもしれないが、それほどラッドはネックハンギングツリーを得意技としていた。
 身長207cm。馬場さんにも匹敵する。ただこれが不思議なことに体型のバランスが良く、さほど異形の者として映じなかった。もちろん大変にデカくて、試合をして相手レスラーと組み合うとその大きさはよくわかるのだが。アンドレと組み合うとこれまたアンドレが常人に見えた。その長い手足により日本では「毒蜘蛛」と異名をとった。
 アメフト出身であり、タックルやベアハッグなども得意としたが、この長い手足を生かす技も多く使用した。それはフロント・キックであり(馬場さんやアンドレと同様である)、またギロチン・ドロップも映えた。さらにフライングボディプレスも敢行したが、こういうところがいわゆる「巨体レスラー」とは一線を画した均整のとれた体躯であったことを証明している(実際、あまり違和感が無い)。
 そのアーニーラッドの長い腕を十二分に生かした技が、ネックハンギングツリーであったとも言えるかもしれない。身長と腕の長さでラッドを凌駕するレスラーはほとんど居ないため「人間絞首刑台」の役割を果たすには十分に過ぎた。
 そのラッドも亡くなってしばらく経つ。ネックハンギングツリーを必殺技として使い得る、そういう意味での後継者はいない。 

 必殺技とまで昇華せよとは言わない。今なら誰がこの技をこなせるか。田上や高山は盛りを過ぎた。高橋裕二郎は圧倒的に身長が足らない。それこそ、身長のあるオカダ・カズチカがやれば、目よりも高く相手を吊るし上げてニヤリとでもすればヒールチャンピオンっぽいとは思うが、やらないだろうな。

 とりあえず、東京スカイツリー開業記念として書いてみた。
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キーロック

2012年04月30日 | プロレス技あれこれ
 「キーロック」という活字をみて「ローキック」と読み間違えた人がいた(嘘)。だが、どうもそれくらいキーロックという技の知名度は下がっているらしい。
 残念ながら、最近はめったに見ない。かつては、大試合にはよく登場した古典的技だった。
 タイトルマッチなどでは、試合中盤に繋ぎ技として相手を痛めつけ体力を奪う技が必ず出る。それは、執拗なヘッドロックであったり、また足にはトーホールドやインディアンデスロック。そして腕には、キーロックがよく出された。ことにUWFがアームロックなどをメジャーにするまでは、腕への攻撃といえばやはりキーロック。これで腕を殺し、終盤相手がバックドロップなどを放とうとするとクラッチが甘くなったりする。「キーロックが効いてますね」。そんな様子をよく見た。重要な技だったはずだが。

 キーロックとは、相手をマットに仰向けに倒した状態で片方の腕をとり、その腕を畳んで、その「く」の字型に曲がったところ(肘関節内側)へ自分の腕を差し込み、その自分の腕が中に入った状態で「く」の字を上から押しつぶすように両足で締め上げる。足でぐっと絞り上げるのだから、肘の内側に棒を差し込み万力で捻じり上げるに等しい。引っ張り込むように力を入れればなおさら効く。そりゃ痛いだろう。さらに、血流も止まってしまう。
 この技の、見た目にもキツさがわかるのはその血流で、掛けられた相手の手が血の気を失い真っ白になってゆく。長時間になれば壊死するぞ。それだけでも「締まってるな」との実感が見えるが、さらに掛ける側も、腕を一本差し込んでいるのだからこっちの血流も止まる。痺れるのか感覚が失われるのか、よく差し込んだ手をもう一方の手で叩いて感覚を確かめるしぐさも、この技の恒例である。
 その形状から基本的にはキーロックと呼ばれるが、古館伊知郎アナはよくショートアームシザースとも言っていた。scissorsって鋏なのね。これも、雰囲気はわかる。
 広義でいえば関節技の範疇であり、極限にまで締めれば肘関節の脱臼にも繋がるが、どちらかといえば関節、ジョイント部分を極めるというよりも絞り上げる技である。筋肉を破壊するとでも言うか。

 元祖は、僕はずっとダニー・ホッジだと思っていたのだが、ホッジよりも古い時代からあるらしい。もしかしたらプロレスのオリジナル技ではない可能性もある。ただ、プロレス技とすれば地味な部類なのだろうが、サブミッション技としては相手への密着度合いがそれほど高くなく、また攻める側が起き上がっているので観客に見やすく、そういう意味ではプロレス的といえる。
 昔は、馬場さんのようなタイプを除けば、みんな使ったのではないか。大木金太郎や猪木。タイガージェットシンまでも使っていたように記憶している。

 キーロックは、簡単には外れない。相手の片方の腕に両脚でもって掛けているわけで、アームロックなどと異なりパワーの違いも歴然としている。何とかロープブレイクに持ち込む以外方法がないが、掛けられている側は概して仰向けであり、ボストンクラブのようにほふく前進でロープには逃げられない。しかも相手の身体が頭部に近いところに位置するため、4の字固めなどのように背中で這ってズリズリとも行けない。また、その相手の位置から、蹴りなどで外させることも難しい。
 何とか起き上がって、自分の腕に丸まってまとわりついている相手を押し込んで、エビ固めの如く両肩をマットにつけフォールに行こうとする、しかし相手が両脚にさらに力をいれ体勢をうんせと元に戻し、また悶絶する、というのもこの技の見どころかもしれない。
 その逃げ方として、最終手段がある。片腕にまとわりつく相手をそのかいな力でもって持ち上げ、ロープまで運ぶというもの。これは、技を掛けられていて痛いうえに、片腕で相手の体重をものともせずよっこらしょと持ち上げなければならないため(レスラーはたいてい100kg超えしている)、非現実的である。重量挙げの世界記録だって260kgくらいで、片腕だとその半分となるが、そんなキーロックを掛けられたまま相手を持ち上げることが出来れば、重量挙げでもオリンピックで通用するはず。
 しかし、これを力自慢のレスラーはやるのだな。これもキーロックにおける名場面のひとつとして挙げられる。
 そんなことを最初に誰がやったのかは知らないが、有名なのはカール・ゴッチである。ゴッチはキーロックの返しに長けていて、猪木のキーロックを逆にエビ固めで返してフォール、なんてのもあったが(体重の掛け方が絶妙なのだろうが猪木の返しをゴッチは許さなかった)、テーズとタッグを組んだ試合では、キーロックを掛けられたままで猪木をよっこらしょと担ぎ上げ肩の上に乗せてコーナーポストまで持っていった。
 常人ではない。
 これは、前述したように非現実的でいくら力自慢であってもなかなか出来ないことなのだ。存在そのものが非現実的なアンドレ・ザ・ジャイアントなら軽いものかもしれないが(しかし猪木もアンドレにキーロックを仕掛けるかね^^;)、100kg超えの人間を、技を掛けられながらそう簡単には持ち上げられない。長州力がやはり猪木を持ち上げようとして失敗していた。腕力だけではなく技術もやはり必要なのではないか。
 僕が印象に残るのはボブ・バックランドで、何度もキーロックを持ち上げている。バックランドも相当なテクニシャンで、しかしWWFのチャンピオンであるからパワーファイトを要求されるという矛盾の中で戦っていたが、このキーロックのリフトアップ外しはそういうレスリングに長けた、ドン・レオ・ジョナサンやバックランドのようなファイターに許されるものであるような気がする。ボブ・サップなどはやはり失敗している。

 リフトアップの話が長すぎた。
 さっきから猪木のキーロックの話ばかりになっているが、のちキーロックは、藤波辰巳へと継承されていく。ヘビーに転向してからの藤波はよくキーロックを仕掛けた。
 「長すぎたショートアームシザース」というフレーズがある。当時新日本プロレスは金曜8時の生放送だったが、藤波が執拗にキーロックを掛けすぎたために放送時間内に決着がつかず、古館伊知郎アナが「長すぎたショートアームシザース!」と叫んだ。ロングとショートをひっ掛けた台詞で、古館さんはうまく言ったと思っただろうな。
 状況によってはキーロックを長時間掛けることで生まれるドラマも当然あったと思う。我慢比べは見ごたえにも通じる。
 しかし、この長すぎたショートアームシザースは批判も浴びた。
 時代が移り変わる途上であったこともあるだろう。昔のような序盤は静かに組み立て徐々に盛り上がって終盤を迎える、ある意味牧歌的なプロレスは徐々に影を潜め、最初からスピーディーで息をつかせない試合展開が望まれる時代となっていた。全日本はまだ馬場さんが君臨していたためにさほどでも無かったが、新日本はスピード化が進んだ。そのスピード化プロレスの先鞭をつけたのは、新日本プロレスにおいては藤波自身であり、タイガーマスクの登場によって決定的なものとなった。ヘビー級においても、タイガージェットシンやブッチャーのような流血、反則、善玉悪玉の時代は過ぎ、ハンセンやブロディ、ホーガンといったテンポの良いレスラーが主役に躍り出た時代。キーロックは試合が膠着するため「掛けた側が休んでいる」「時間稼ぎ」と見られるようになり、野次も飛んだ。
 キーロックの攻防を楽しめなくなった(こう言っていいかどうかわからないが性急な)観客の存在(僕も含めてかもしれない)。それが、この技をリングから追いやった。他にも「消えた技」は多い。首4の字なども時間稼ぎ、休憩と見られた。休んでいるわけではないにせよ、ベアハッグなどの時間がかかる技も。
 関節技はその後UWFの台頭によって「極まれば必殺」の十字固めやアキレス腱固め、さらに各種アームロックや脇固めなどが登場し、ハンマーロックやトーホールドなどのかつては決め技だったもののその後「繋ぎ技」となったものは、衰退していった。昔から残っているものは足4の字固めなどのギブアップを狙える技に限られるようになった。
 かつての「繋ぎ技」の終焉。しかし、プロレスは3分で試合を終わらせるわけにはいかない。技の攻防がどうしても必要になる。したがってかつての必殺技を序盤から中盤に出さざるを得なくなる。そうしてバックドロップもブレーンバスターも、ジャーマンスープレックスでさえも痛め技の範疇になっていった。そうなるとフォール技はさらに過激なものにならざるを得ない。脳天を打ちつける技。首を破壊する技。雪崩式や断崖式。技のインフレへと進むことになる。
 三沢の死までそこに結びつけようとは思わないが、そういうプロレスになってしまったターニングポイントが、この「長すぎるショートアームシザース」(を楽しめない性急な我々)にあるような気がして仕方がない。
 キーロックで手のひらがどんどん血の気を失い白くなっていくのを見て恐ろしさを感じたプロレス。もうその時代に還ることはないのだろうか。

 いや、「キーロックの終焉」を語るには少し早かったかもしれない。我々にはまだ渕がいた。
 渕正信。大仁田厚、ハル薗田と共に若手三羽烏と呼ばれマットに上がっていた頃が、僕が最もプロレスをよく観ていた頃と重なる。その若手だった渕も、58歳となった(2012年現在)。永遠の独身であり、ラッシャー木村に「おい渕…結婚しないのか…心配なんだよ…」としみじみネタにされていたが、その頃のラッシャー木村の年齢を超えた。
 全日育ちとしては珍しくカール・ゴッチの薫陶をうけており、そのテクニックは観ていてたまらない。また「悪役商会」などのユーモラスなプロレスも懐ろの内であり、幅が広い。世界Jr.ヘビー級王座には5度輝いており、3度目のときは防衛14回の記録を持ち(当時の最多防衛記録)、そのときの在位期間3年7ヶ月は歴代最長である。馬場さん死後の全日分裂のときは敢然として全日に残った。カッコいい。
 もうキャリア39年目だという(→渕ブログ)。この人は、馬場さんと猪木がタッグを組みブッチャー&シン組と戦ったあの伝説の"ハッテンニイロク"プロレス夢のオールスター戦(1979年)に出場しており、それから月落ち星流れ昨年「ALL TOGETHER」武道館大会にも登場した。これは、特筆されてもいいことではないのか。渕正信は、凄い。
 そのフッチーが、キーロックを今も使い続けている。
 特に、ベテランとして前座試合をこなす最近は、派手な技を避けてキーロックを多用しているとも聞く。前座は技を絞ってメインイベントを盛り立てるという馬場さんの教えからなのだろうが、そこでキーロックの出番となる。しかも、ギブアップさえ奪っているという。何が繋ぎ技だ、キーロックは、決して一休みでも時間稼ぎでもない、と言わんばかりに。痛快極まりない。
 と言いつつ、この話は伝聞である。僕は最近全く生観戦をしていないため、その渕の前座試合を観ていない。これはいかんな。一度、その大ベテランのキーロックを観に行かなくては。
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トペ

2012年03月31日 | プロレス技あれこれ
 TV中継においてアナウンサーが「出た!トペコンだ!」という、その言い回しにどうも慣れない。どうしても違和感が残る。略すことによって軽く聞こえてしまうからだろう。合コンとか糸コンなどと同系列の音に響く。
 もう既にプロレス実況も僕より遥か年下のアナウンサーがやっているこの時代となってはただのオールド・ファンの繰言になってしまうのかもしれないが、技の名は、長くてもちゃんとアナウンスして欲しいと本当に思う。寿限無ではないのだから、トペ・コン・ヒーロがそんなに長い名称とも思えない。もっとも、アナウンサー含め現在のファンは「あけおめ」「ことよろ」世代なのだろうからさほどの違和感を感じないのかもしれないが。
 
 トペ・コン・ヒーロという技は、場外にいる相手へ、リングから飛び出していって体当たりをかける技のひとつである。もう少し具体的に言えば、場外で立っている相手に対してロープを越えて前方回転し、背面から相手にぶつかる。いくつかバリエーションがあって、トップロープを掴んで、体操の後ろ回り大車輪のように回転しつつ場外に飛び出し背面から相手にぶつかるもの。またはロープを掴まず助走をつけてトップロープを飛び越えて前方回転し、相手に背面からぶつかるものがある。後者は、ノータッチ式トペ・コン・ヒーロと呼ばれることもある。
 これはルチャ・リブレ(メキシコプロレス)の技で、スペイン語である。
 コン・ヒーロというのは「回転して」という意味だということだ。初代タイガーマスク全盛期を知っている人であれば「風車式バックブリーカー」のことを古館アナウンサーが「ケブラドーラ・コン・ヒーロ」と呼んでいたのを記憶していると思う。その「風車(回転)式」という部分がコン・ヒーロである。もっと分解すればヒーロというのが回転という意味であり、そこを略してトペコンと言ってしまうと、何の技なのかわからなくなるではないか。
 以上のことは屁理屈であるが、何が慣れないかという本音は、トぺと言いつつ背面から当たる技であるということなのだろう。背面から当たる技は、ルチャ・リブレにおいてはセントーンではなかったのか。
 もちろん、セントーンは相手が寝転がっている状態のところへ放つ技だということはよく知っている(→セントーン)。この場合は同じ背面から当たる技でも相手が立っている。つまり、背面ではなく腹面からと仮定すれば、ボディプレスとボディアタックの違い。同じ背面を使用する攻撃であっても、名称が異なるのは理解できる。
 しかしトペという技は、ドラゴンロケットだったのである。僕にとっては。背面から当たる技ではなく、頭部からから突っ込んで体当たりする技。

 これは、僕のただの思い込みだということはもう承知している。子供の頃、トペという技の名を初めて聞いたとき、意味が分からず調べた。そしてトペ(tope スペイン語)とは、英語でいうトップ(top)のことだと知り、ああそれで頭からぶつかる技をトペと言うのだな、と合点したことに始まる。
 これは「頭から衝突する」と考えるより「頭から飛び出す」と解釈したほうがいい。なので、頭から飛び出してそのまま相手に衝突するのはもちろんトペだが、回転し結果背面から当たっても、それもトペの一種なのである。
 実はあまり納得していないのだが、そうして理解はしている。言うものはしょうがない。

 言うものはしょうがないので続けるが、つまりトペ・スイシーダという技とトペ・コン・ヒーロという技は、全く違うものである。トペ・スイシーダがドラゴンロケット。
 言葉の話から先にすると、スイシーダ(suicide)とは自殺のこと。英語でも読みは違うが綴りは同じなのでわかりやすい。まるで自殺するほど危険な技であるということか。場外へ飛び出すということは着地はリングのマットではないのだから、ある意味自殺行為ではある。
 ならば、同じく場外へ飛び出すトペ・コン・ヒーロもスイシーダではないのか。正しくはトペ・コン・ヒーロ・スイシーダと呼ぶべきだとまた言いたくなる。
 屁理屈だとわかっているので止めようとは思うが、もう少しだけ。
 場外へ飛び出さないトペというものも、実はある。リング内におけるフライングヘッドバットがそれに当たる。コーナートップから倒れている相手に向けて飛ぶダイビングヘッドバットとは異なり、立っている相手に仕掛ける。相手をロープに振ってカウンターで仕掛ければ衝突力が増す。相手に頭から飛び込んで頭突きをかますわけで、腕を前方に出すフライングクロスチョップなどと違って、勇気が必要なことが傍で見ていてもわかる。気をつけの姿勢で飛んでいくのって怖いよ。またかわされると受身がとりにくい。これは、星野勘太郎がやっていた。さすが男気の塊である勘太郎さんである。ただ、この技をトペと称していたかどうかは記憶にない。
 ならば、場外へ飛び出さないトペ・コン・ヒーロも存在する。前方回転して背面から当たればそうなる。相手が立っていればトペ・コン・ヒーロ。倒れていればサマーソルトドロップ(サンセットフリップ)。
 プランチャ(ボディアタック)も、リング内であればそのままプランチャであり、場外へ放てばプランチャ・スイシーダ(プランチャ・コン・ヒーロという技もあってややこしいのだが)。
 ここまで"拘泥"して実況しろとは言わない。しかし「トペコンだぁ」って言い方はヒドくないかい(まだ言ってる)。
 
 トペ・スイシーダをメキシコから初めて日本へ持ち込んだのは百田光雄であると言われる。しかし、僕は全く見た記憶がないなあ。昔は百田光雄はTVマッチにはほとんど出なかったということもあるかもしれない。前座の百田弟の試合は会場で何度かは観戦しているが、馬場さん時代の全日は前座で派手な技を使用することを嫌っていたため(メインを生かすという理由)、トペ・スイシーダなんて技は出す機会があまりなかったのではないかと想像する。この技を日本に膾炙させたのは、何と言ってもジュニア時代の藤波辰巳だ。
 当時は、メキシコの技をそのままスペイン語で呼ぶことは稀だった。僕の記憶だとウラカン・ラナはそう呼んでいたように思うが…記憶違いかもしれない。セントーンという名称もなかったのではないか。当然トペやプランチャという名称も浸透しておらず藤波のトペ・スイシーダは「ドラゴンロケット」と名づけられた。
 ジュニアの王者としての藤波の登場は、画期的だった。メキシコのルチャ・リブレというものは既にミル・マスカラスによって日本に広く紹介されてはいたものの、藤波の試合はまたそれとは違った。ルチャの要素を取り入れてはいたものの、それといわゆる新日本の「ストロング・スタイル」をうまく融合させた実に新鮮なものだった。藤波の使用する技も独特のものがあり、それらは「ドラゴン殺法」と呼ばれた。そしてこのドラゴン殺法の中でも、ドラゴンスープレックスとドラゴンロケットは、必殺技の双璧だったと言えるだろう。
 ドラゴンスープレックスは、日本ではひとつの普遍的な技の名称として定着した。これは一般的にはフルネルソンスープレックスであり、一時期新日と敵対関係にあった全日(後身のノアも含めて)は絶対に「ドラゴン」と言わなかったが、いつの間にか雪解けした。もはやフルネルソンスープレックスなどとは誰も呼ばない。
 他にもドラゴンスクリューをはじめ、ドラゴンスリーパーなど藤波の名を冠した技はいくつも残っている。だが、ドラゴンロケットは「ジャイアントコブラ」や「アントニオドライバー」などと同じく藤波一代で終わった。もちろん藤波の後輩としてタイガーマスクがデビューしたと同時にルチャのスペイン語名技がどっと日本に入り、トペ・スイシーダという名称が一般化したことによる。古館アナウンサーは、前述した舌を噛みそうなケブラドーラ・コン・ヒーロなどという技名もちゃんと伝えていた。そうした中、藤波もヘビー級転向とともに空中殺法を用いなくなってゆき、ドラゴンロケットという名は、消滅した。

 トペ・コン・ヒーロが日本に上陸したのは、いつかなあ…。
 藤波以来Jr.ヘビー級が日本でも盛んになり、タイガー以降はルチャ・リブレが日本にかなり浸透したため、いつ日本で披露されていてもおかしくはないが、どうもタイガーマスクやチャボゲレロがトペ・コン・ヒーロを日本でやっていたのを観た覚えがないのだ。資料的には日本人第一号はマッハ隼人だと言われるが、日本で披露したのかどうかはわからない。
 記憶で言えば、ザ・コブラがやったかもなぁ。これもただのぼんやりとした記憶なので信用しないでほしい。確実なのは、二代目タイガーマスク(三沢光晴)がそのデビュー戦において、トペ・コン・ヒーロを使用している。これは鮮明に憶えている(ビデオに録って繰り返し観たから。しかしそのテープもβで、実家で処分されちゃったかなあ)。
 全日本のTV中継の倉持アナウンサーはあまり技をよく知らないため(失礼^^;)、三沢タイガーがトップロープを飛び越え前方回転して相手にぶつかっていったとき「プランチャだ!」と叫んだ。解説の竹内宏介氏が「あれは背中からぶつかっていきましたね」と、プランチャではない旨の訂正を入れても「すごいプランチャ攻撃!」と言い続けた(倉持さんはよくこういうことがあった)。
 しかしゴング竹内氏も「背面落とし」とまでは言ったもののトペ・コン・ヒーロとまでは言わなかった。マスカラスヲタでルチャリブレに造詣が深い竹内氏が知らないわけはなく、当時は全くトペ・コン・ヒーロという名称が一般的でなかったことがわかる。
 そんなトペ・コン・ヒーロも、以来30年近く経ち「トペコン」などと略されるようになった。 

 この場外へ飛ぶという「スイシーダ」系の技でも、トペは頭から飛び出していくために勢いが必要だった。プランチャは場外に落ちた相手を見据えながらトップロープを掴んで反動をつけて飛び出すだけでよかったが、トペはそうはいかない。飛び出すスピードが必要なため、一旦反対側のロープへ走って助走距離を確保しなければならない。プランチャと異なり時間がかかる。しかも、相手に避けられれば一大惨事となる。
 であるために、場外に落ちた相手のダメージを見極めなくてはいけない。ダメージが強すぎて場外床にのびたままでは、トペは仕掛けられない。相手が立っていなくてはいけないのだ。また、立ち上がっても避けられるようであれば自爆してしまう。その、立っていてしかも避けられないという非常に難解な機微をとらえるのが実に難しい。
 藤波と戦っている相手が場外に落ちる。すると、ドラゴンロケットを期待する観客の歓声が一気に上がる。藤波はマット中央で一瞬間を持つ。行くか、行かないか。その間が、この技の肝である。相手の状態を見て(なんせ驚くべき難解な機微)、また走り出そうとする反対側を見る。そうして少し逡巡したのち、思い切って走り出す。観客の興奮の針が振り切れる瞬間である。
 藤波の「行くか、行かないか、さあどうするか」の一瞬の大見得は、トペ・スイシーダを出す場合のアクションとして今も受け継がれている。また初代タイガーマスクは、これに一味加えた。走り出したはいいが相手の体力の見極めに誤りがあり、相手が避けようとした。自爆必至。そのときタイガーは、飛び出そうとしたトップロープとセカンドロープの間でロープを掴み、くるりと一回転してマットに戻る。そんな離れ技も出した。

 トペ・コン・ヒーロともなると大変な跳躍力が必要とされる。ドラゴンロケットに代表されるトペ・スイシーダがトップとセカンドロープ間を抜けるのに対し、ノータッチ式などはトップロープを越えていく。しかも回転しつつ飛ぶので、相手の位置が確認できない。実に、危険である。まさにスイシーダ技だと言える。
 なのに、背面から当たる必然性があまり感じられないことが、惜しい。というか、背中に目がないためまずジャストミートすることはないし、当たったとしてもそれほど相手にダメージを与えられているのかどうかが観客に分かりにくい。頭からぶつかった方が衝突力がより鮮明に見える。派生技で三沢光晴が「エルボー・スイシーダ」をやるが、これがスイシーダ系技の中では最強であるようにも感じられる。トペ・スイシーダとて、リング内で出されるトペ(フライングヘッドバット)の如く、完全に頭突きをやれているわけではあるまい。頭方面からぶつかっているだけだ(手を前に出して飛ばないと怖い)。エルボーがおそらくもっとも破壊力があるだろう。
 ノータッチ式のトペ・コン・ヒーロは、確かに技としては派手である。だが、命を賭してまでやる価値が本当にあるのかは、わからない。

 興ざめするようなことを書くようだが、僕はこれら「スイシーダ系」の技が、あまり好きではない。プランチャもスイシーダでないほうがいい。
 それは、技はリング内で完結してほしい、という考え方からきている。だって、見にくいじゃないか。リング内の、ライトが当たっているところで技は出してくれ。
 そして、技にレスラーの肉体以外の要因が入るのも好きではない。リングのマットから場外には、落差がある。フラットではないため、異なるファクターが入る。それは、雪崩式や断崖式と呼ばれる技が好きではないのと同じ理由である。僕は、トップロープからの攻撃も好きなほうではない。利用していいのは、ロープの反動くらいにしてほしい。
 そして、危険すぎるということ。
 片山明の悲劇を、プロレスファンなら知っていると思う。彼は新日からSWSへと渡ったレスラーで、僕も新日時代は会場で試合を見たことがある。跳躍力があり、トペを得意技としていた。彼のトペ・スイシーダは、トップロープを越えて放たれる。それだけでも並みの跳躍力でないことがわかる。
 この片山の放ったトペ・スイシーダが乱れ、片山は頭から場外の床に突き刺さった。
 瞬間の動画はネット上にも上がっていたが、張らない。もう20年前のことだ。
 この事故は、何かが引っかかったアクシデントと言われていたが、金沢克彦氏の著作に片山明さんのインタビューが載っており、それを読むと、そのままトペでゆくかそれともコン・ヒーロでやるか一瞬迷った上でのことであるように語られている。片山さんは一命をとりとめたが、今も車椅子の生活である。歳は、僕とかわらない。
 こういうのは、嫌だ。

 スイシーダ系の技は、見にくいこともあり、しかも「難解な機微」問題もあって、それほどみんなが使う技でなくなっても、僕はいいと思っている。ただ、それでもレスラーたちは飛び出し続けるのだろうな。
 もう再び「事故」がおこらないことを切に願うしかない。そして「トペコン」なんて略して煽るのはもう止めたらどうか。軽々しすぎるようにも聞こえる。
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フットスタンプ

2012年02月29日 | プロレス技あれこれ
 プリンス・デヴィットというアイルランドのレスラーがいて、ここのところ新日本プロレスジュニアの第一人者となっている。実に運動神経がいい。その跳躍力には時として惚れ惚れする。技も多彩で、高さがあるために常に美しく映える。
 彼は、80kgそこそこに体重を絞っている。ジュニアヘビー級は100kg未満であればOKなので、まだまだ体重は増やせるはずなのだが、より技の切れをよくするためにストイックにそれ以上増やさないのだろう。プロレスラーは受身を取るためにあるていどの体の分厚さというものは必要で、痩せているとダメージが大きくなるため、肉の鎧を付けるのが一般的である。無差別級ならその体重は青天井であり、階級別なら制限ギリキリまで太るほうが有利である。打撃技の威力は体重に比例する。そういう競技の中で、いかにも体脂肪率が低そうなデヴィットの体躯は、修行僧を思わせる。
 技も多彩だ。ペガサスキッド以来のスープレックスをはじめ、投げ技、打撃技、身軽さを活用した体当たり系技などを息つく間もなく繰り広げる。完全にジュニアのエースとして君臨している。
 そこまで身体能力に優れ精進を重ねるレスラーであるのに、彼はどうしてダイビングフットスタンプを得意技にしているのだろうか。

 フットスタンプという技は、そのまま解釈すればいい。マットに倒れている相手に向かって、飛び上がってドスンと足裏で踏みつける。相手のボディの上に着地すると言ってもいい。多くは、両足を揃えて踏む。その場合、完全に体重が足裏の面積でかかることになる。
 自分の体重を相手に浴びせてゆく打撃技として、ボディプレス、ヒップドロップ、ニードロップ、エルボードロップ、ダイビングヘッドと様々あるが、負荷を他に逃がすことなく100%相手に浴びせる技は、セントーン(巧いサマーソルトドロップ含)と、このフットスタンプしかない。
 さらに、セントーンと比べて体重の乗る面積が小さい(背中と足裏では必然的にそうなる)。したがって、よりフットスタンプの方がその面積に対する負荷が大きいこととなる。レスラーの体重が、その足裏に集中して飛んでくる。
 より高くから飛べば、物理の法則でどんどん衝撃が増す。ダイビングフットスタンプという技は、コーナーに上って飛び降りる。多くは腹部を狙うために、相手が仰向け状態のところへ落ちてくる。
 考えてもみればいい。僕なら腹の上にボウリングの球を落とされても終わりだろうに、プロレスラーがジャンプして足を揃えて落ちてくるのだ。悶絶必至であることはいうまでもない。
 数多いプロレス技において、その拷問度合いはトップクラスだろう。
 にもかかわらず、こんなにつまらない技もそう多くはない。はっきり言って、僕は嫌いだ。

 なぜ「嫌い」とまで明言するのかといえば、まずこの技は、全く技術を必要としないからである。僕でも簡単にできる。倒れている相手の腹の上に飛び上がって足を揃えて乗るだけでいい。それだけで相手はゲフッとなり悶え苦しむ。コーナートップから飛び降りるにはちょっと勇気がいるが、それも可能である。目測を誤るということもあるまい。
 そして、リスクが生じない。
 普通のフットスタンプはもちろんのこと、コーナートップから飛び降りたとしても、全くノーリスクである。コーナーからのダイブ技は常に「自爆」という危険性を伴う。ニードロップを避けられればヒザをマットにしたたか打ち付けることになる。ヘッドバットもセントーンも、失敗すれば大変なダメージを負う。それでも果敢にレスラーは飛ぶわけで、そこに、普通の人では出来ないレスラーならではの勇気と受身技術が必要となってくる。ところがこのフットスタンプには自爆がない。避けられたらそのままマットに着地すればいいだけ。こんなの、ずるい(幼稚な表現だが本音)。
 さらに、見栄えが悪い。
 この技を得意としていたレスラーに越中詩郎、佐野直喜、小川良成らがいるが、いずれもかわりばえせず相手の腹の上に足を揃えて落ちてくるだけ。体勢は直立不動のままであり、アクションが少ない。ただの自由落下である。なので悶絶技にもかかわらずそれが伝わりにくい。表現すれば「チョンと相手の上に乗る」くらいの感じである。よくよく考えればこれはえげつない技なのだが、よくよく考えねばならないところに、この技の致命的欠陥があるといっていいかもしれない。
 観客も沸きにくい。後に佐野直喜は、コーナートップからマットへのダイブだけではなく、リング下の相手にも放ついわゆる「断崖式」も繰り出すようになったが、それでも仕掛ける側はただ直立して落ちるだけなので、こけしの如く見栄えがしない。
 以上の理由で、僕の中では「つまらない技」の最右翼となってしまう。技と言えるかどうかも、僕には疑問である。

 プリンス・デヴィットのダイビングフットスタンプは、それらとは確かに一味違う。
 彼は、コーナートップから飛び降りるのではない。そこから上昇して、十分に高度を稼ぐ。その最高到達地点でヒザを抱えるように縮める。ジャンプして脚を屈するために空中で一瞬止まって見える。これはつまり滞空時間を長く感じさせるわけで、そこから相手の腹部めがけて落下と同時に脚を思い切り突き伸ばす。落下と同時に屈伸式ドロップキックを叩き込むようなもので、それは見栄えがすると同時に多大な悶絶への説得力を生じさせる。これは、本当にえげつない。
 このデヴィットの技は確かに、僕でも可能な「腹の上にチョンと乗る」フットスタンプとは一線を画する。
 しかしそれでも、フットスタンプはフットスタンプなのである。これだけ身体能力が高く技術力のあるデヴィットがどうしてもやらねばならぬ技ではない。

 では、フットスタンプはどうすればプロレスの中で生きるのだろうか。
 まずは、見栄えである。それは、デヴィットが体現している。高さ、そして滞空時間の長さ、さらに脚を突き出すことによる串刺し感。これで、フットスタンプは技に昇華する。
 しかし、これはデヴィットだから出来るのである。前述したように、デヴィットは80kgそこそこしかない。だから、ここまで危険なことが可能なのである。ジュニアヘビーでも、軽い部類のレスラーのみ可能。もうひとり、ロウ・キーのフットスタンプも印象に残る。彼も、体重はさほどではない。
 逆に言えば、越中や佐野ではこういう形のフットスタンプは無理なのである。越中や佐野は実に器用なレスラーであり、デヴィット式の突き刺すようなフットスタンプくらいおやすい御用で繰り出せるだろう。しかし100kg超えしている彼らがデヴィットやロウ・キーのようなフットスタンプをやれば、相手の腹腔が破れてしまう。プロレスは、相手を殺すための競技ではない。なので、足を揃えて直立姿勢でチョンと降りる程度しか出来ないのだ。
 そして、佐野や越中はかつてジュニアヘビーで一時代を築いたレスラー。つまりヘビー級の中では軽量だ。相手はたいてい彼らよりデカい。なので、いかにも軽い技に見えてしまうのである。相手に全体重を浴びせるという技にも関わらず。
 なので、彼らがフットスタンプをやることに賛成が出来ない。
 もっと重量級のレスラーがフットスタンプをやれば、それはえげつなさが伝わるに違いない。アンドレがセカンドロープに上って落ちてくれば観客は皆「やめろー!」と叫ぶだろう。ただ自由落下するだけで迫力満点となる。しかし、それは無理である。相手が確実に怪我をする。
 僕が知る限りで、「やめてくれ!」と思わず叫びそうになったフットスタンプは、橋本真也のそれである。あれだけデカいのが落ちてくれば、相手はどうなることかと思ってしまう。あれくらいのレスラーでないとフットスタンプは活きない、と言える。
 しかしながら、その橋本のフットスタンプでさえ、やはり違和感をどうしても持ってしまうのである。何故か。それは前述した「技術いらず」「リスクを負わない」という点において、だ。これは「ずるい技」であるという感覚がどうしても抜けないからである。
 逆に言えば、これはレスラーのキャラクター次第で活かせるのだ。

 今のプロレス、ことに日本のプロレスは、もはや善玉悪玉の区別で感情移入して観る視点が減じた。技術の凌ぎ合いが観点の主流である。それはそれでもちろんいいと思うのだが、フットスタンプのような技は「悪役」がやってこそ生きると僕は思う。凶器攻撃にせよチョークなどの反則にせよ、いずれも「ずるい」技は悪役がやるものだ。
 フットスタンプは、反則ではない。しかし、リスクを負わず省エネで最大限の効果をあげるこの技は、悪役がやってこそはえるのではないか。デヴィットがこれをやることの最大の違和感は、ここにある。
 ケビン・サリバンというレスラーがいた。今はどうしているのかな。若い頃はテクニシャンとして知られたケビンだったが、のちに悪役として名を馳せた。凶器攻撃で血を流すスタイルだった。
 彼が、ダイビングフットスタンプをやった。実に似合っていた。この技は、腹の上にドスンと落ちてきて相手が悶絶するのを舌なめずりして喜んでいるくらいのレスラーでないと似合わないような気がする。そのリスクなしというずるさも、観客の感情移入に役立つ。
 矢野通などは、フットスタンプが似合いそうだと思う。フィニッシュにせず、苦しむ様子をしばらく眺めているような佇まいを見てみたいものだと思う。もう既にやっていたとすればごめんなさい。

 さて、フットスタンプのもうひとつの道は、技術的に極めることである。デヴィットのフットスタンプも極限までいっているとは思うが、それでも見方によればプロでなくても真似できる技だ。その、さらに上をいく必要性がある。
 ムーンサルト・フットスタンプというのがある。その名の如くコーナートップからムーンサルト回転をして両足で相手ボディに着地するという離れ技で、福岡晶が開発したとも言われる。女子プロレスをはじめ、男子でも現在は使い手が何人もいるようだ。これもリスクを負わない点は残るものの、その素人には決して真似できない技術力によって、善玉がやっても必殺技として認めうるものになってくる。
 しかし、ちょっとエグくないかいこの技。遠心力が加わるのはまたキツいよ。何度か凄惨な場面を見たぞ。そこまでしてフットスタンプをやらなくてもいいのではないのだろうか、とつい思う。

 フットスタンプという技は、足裏に体重をのせて踏みつける技、との定義もできる。さすれば、近い技はストンピングである。
 ストンピングになると、急に卑怯な感じが失せる。視点とは、勝手なものだと思う。だいたい、これは基本技である。とにかく相手を踏み倒す技であり、誰でもやる。ただし、フィニッシュには結びつかない。
 ストンピングは蹴りだろう、との見方もあるが、stompとstampは類義語のようですね。辞書ひいてもイマイチよくわからんけれども、stompはドシンドシンと踏み鳴らす意味らしく。足の甲ないしは爪先、踵、踝をつかえば蹴り、足裏であれば踏みつけ、と定義してみるかな。じゃローリングソバットはストンピングの一種か、と問われればまた迷宮に入るのだが、ストンピングは足裏を使い、ドシンドシンと相手を踏む(ように蹴る・蹴り倒す)。力のベクトルは下方、ということでいいかな。
 僕などは、長州の鬼気迫るストンピングは印象に残るなあ。インタータッグ戦で谷津と組んで、鶴田天龍を相手にしたときの、肋骨を痛めながら空を飛ばんばかりに勢いをつけて相手を踏み倒そうとしたストンピングは今でも思い出す。蹴れば肋骨に響くのに何度も何度も渾身の力を振り絞ってね。ああいう試合がまた観たい。
 両技とも足裏に体重をのせて相手に対峙することには共通項があるが、ストンピングはもちろん片足でガンガン踏み倒そうとするわけで、両足をそろえるフットスタンプとはその点で明確に違う、とも言える。その場でジャンプして相手を踏みつける場合は確かに違う。しかし、コーナーから飛び降りて片足で踏みつければ、それはストンピングかフットスタンプなのか。ダイビング・ストンピングなど聞いたことがなく、やはりそれはフットスタンプではないか。シングル・フットスタンプ。
 しかし、両足でも体重の乗る面積が小さく衝撃が強いのに、全体重が片足では腹に足がめり込んでしまう。そんな危険なことは誰もしないので、技として成立しないから誰も考えないのだろう。
 ならば、ディック・ザ・ブルーザーのアトミック・ボムズ・アウェイは何なのだろうか。あれは、コーナーから片足で踏み潰さんと落下してくるのだぞ。

 とはいいながら、僕のように力道山が死んでから生まれた世代では、「生傷男」デック・ザ・ブルーザー・アフィルスなど伝説上の人で、もちろん全盛期など知らず懐かしプロレスのビデオで数回観たにすぎない。しかし、その迫力たるや凄まじいレスラーで、ある意味不世出であるとも言える。胸板というかその体躯は、異常に分厚い。あんな身体は見たことがない。そのパンパンの盛り上がった、しかもボディビル的ではない膨れ上がった筋肉。プリンス・デヴィットと比べるのも変だが、明らかに異形の人だったと思う。
 技らしい技は、ない。とにかく殴る蹴る。顔をつかんで捻じ曲げる(チンロックに近いがもっと力任せ)。腕をつかんで捻りあげる(関節技というにはあまりにも力任せ)。クロー攻撃(というより掴んで握りつぶす)。コーナーに叩きつける。全くのところ、規格外のレスラーだ。技は、ボディスラムくらいか。用心棒あがりらしいが、さもありなんとも言えるファイトスタイル。喧嘩だな。何でもいいから相手を叩きのめすのだ。
 そのフィニッシュホールドが、アトミック・ボムズ・アウェイと呼ばれる技である。
 
 相手に殴る蹴るの暴行をくわえて(格闘技であるプロレスでこの表現はおかしいがそう言いたくなるのだ)、相手が抵抗できなくなったらマットに叩きつけ、自分はコーナートップに上がる。そして、ジャンプ一番、マットに飛び降りて相手を踏み潰すのだ。それが、アトミック・ボムズ・アウェイ。足を揃えて落下してくるフットスタンプなんてものではない。踏み潰し技だ。
 ただ、古いレスラーなので僕も数例しか観てはいない。しかし最近は動画サイトというものがあってまことに有難く、Dick The Bruiserで検索していくつも観戦した。いやはや、やはりすさまじい。こんなのやこんなのが典型かなとは思うが、もう少し若い頃はニードロップも使っていたようだ。いくつかそういう例を見た。
 これは、自爆を避けるためにヒザから落ちるのをやめたのだろうか。いや、このおっさんはそんなチンケなことなど考えてはいまい。だいたい、アトミック・ボムズ・アウェイを出す前に既に相手はノックアウト状態であることが多く、よけようにもよけられないではないか。
 思うに、ニーでもストンピングでもどっちでも良かったのではないか。コーナーに上がってとどめを刺すのは、それが派手だからやっていたのであって、それ以上ではなかったように思える。相手を潰せて自分が満足ゆくなら、ヒザでも足裏でもどっちでもいい。踏み潰すほうが楽そうだな。じゃそっちにするか。その程度のことだろう。
 こういうタイプのレスラーは、もういない。腕力が強いということと、腕っぷしが強いというのは違う。技の切れをよくするため身体を絞り込み最高のパフォーマンスを見せようとするデヴィットのようなレスラーも好きだけれど、身体に肉をつけまくって相手が抵抗しようともかまわず前進して叩き潰すブルーザーのような個性もまた、見たい。そしてフットスタンプが似合うとすればそれはブルーザーだろう。本人は、串刺しフットスタンプなんてしゃらくさい、俺は踏み潰すだけだ、と言うだろうけれども。
 
 
 

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ナックル

2010年11月29日 | プロレス技あれこれ
 プロレス技の話として書いていいかは迷うが、ナックルパンチ、或いはナックルパート。正拳、パンチングのことである。もちろん、プロレスにおいては反則である。

 なんでもありのプロレスの中で、パンチングが禁じ手になっているのは実に象徴的である気がする。この制約によってプロレスが面白くなっていると感じるからだ。というのも、人間の肉体の中でどこが最も威力を持つ部分かと考えれば、それは「拳」ではないかと思えるからである。
 衝突力そのものは、蹴りの方があるだろう。ただ、拳はスピードで勝る。喧嘩をするときはまず殴るだろう。蹴りを出させる前に勝敗を決する力が拳にはある。
 だからパンチングだけの格闘技(ボクシング)があり、そしてパンチングを許している他の格闘技(キックボクシングや総合格闘技)も、素手でのパンチングは禁じてグローブを装着させる。それほどパンチは危険なのだ。
 したがって、素手で勝負するプロレスの場合、パンチングは禁止しなくてはいけない。もちろん「危険である」という部分が最も大きいが、プロレス技に拳を開放してしまうと、これに勝る技がないため、全てのレスラーがまず拳で相手と立ち向かう。試合時間は短くなり、投げ技、関節技などのバリエーション豊かなプロレス技が消え、ただ殴って試合を終わらせ、結果間違いなくプロレスは衰退する。肘打ち、頭突きは許してもパンチングは許さない。この制約が面白いプロレスを成立させている。
 だったらプロレスに「ナックル」なんて技はないはずなのだが、それがあるのがまたプロレスの奥深さと言っては自己弁護に過ぎるか。
 プロレスは、5秒以内であれば反則は行ってもよい。そして、一発殴るのに5秒を費やすはずもなく、レスラーは頻繁に相手を殴っている。

 しかし、5秒以内でも反則は反則。したがって、僕はナックルという技を積極的に肯定する気になれない。
 それはひとえに「ずるい」と思うからである。目潰しや急所打ち、凶器攻撃と同じ範疇。殴ればそりゃ勝てるよ。殴れば簡単なのに、殴らずに我慢してみんな技を仕掛けてるんじゃないか。近道通ろうとするな。悪者め。
 こういう考え方は、もう過去のプロレスの見方である。
 昔のプロレスというのは、悪玉と善玉がはっきりと分かれていた。ベビーフェイスとヒール。リンピオとルード。そして、善玉が悪玉を懲らしめることによって観客がカタルシスを得るのである。
 で、悪玉の条件とは何か。それは、反則である。
 相手に凶器で攻撃を仕掛ける。ブッチャーはフォークを持ち、タイガージェットシンはサーベルを振り回す。そんなので攻撃されたら「正々堂々」と戦う馬場さんや猪木ら善玉がやられる。そしてやられてやられて後半盛り返す。観客は卑怯な反則攻撃によるストレスが溜まっているので一気にそれが発散される、という寸法。
 この「善玉・悪玉」というアングルは、ハンセンやブロディの登場で消えた。しかしアニメ「タイガーマスク」を観、ブッチャーやシーク、シンや上田馬之助の暴れっぷりを知る世代の僕らには「反則」というのは悪玉がやるものだという概念がまだ残っている。
 しかし「善玉・悪玉」というアングルを作りにくい正統派レスラーが相手だとどうするか。馬場さんや猪木は、もうそういう見方を捨て、ファンクスやロビンソン、バックランドと対戦していた。肉体のぶつかり合う凄さで「vs悪者」という視点を凌駕しようとした。だが、僕が生まれる前の力道山の時代は、やはり"正義の味方"力道山を演出せねばならなかったようだ。じゃどうするか。どうして相手を「卑怯な悪いヤツ」に見せるか。
 ひとつは、タッグ戦におけるチームワークである。力道山・木村組に対するシャープ兄弟は、頻繁にタッチを繰り返し、木村政彦を集中攻撃した。こういうのはタッグワークとして当然だが、観客側には「シャープ兄弟が二人がかりで木村を苛めている」ように見えたのである(当時は)。で、堪忍袋の緒が切れた力道山が空手チョップ、という寸法。全然悪くないシャープ兄弟がヒールに見える錯覚。
 もうひとつは、ちょっとした反則である。
 鉄人ルーテーズといえば、パックドロップを切り札にして936連勝のチャンピオン。悪の要素などない。しかし日本で力道山と対戦する場合はそうはいかない。ここで、パンチングが出てくる。
 ルーテーズはヘッドロックが得意技である。ぐいぐい締め付ける。これはバックドロップの伏線になっていることは有名であって、強いヘッドロックによって相手も仕返しにヘッドロックを掛けたくなり、仕掛けたとたんテーズのバックドロップに沈む、という寸法。
 そして、テーズがヘッドロックを仕掛けるとき、テーズはよく相手の頭部、あるいは鼻っ柱にパンチを打ち込むのである。
 これはさほど強いパンチではない。挑発だろう。相手にヘッドロックを掛けさせるための。全てがバックドロップへの伏線になる。だが、パンチは反則であり、テーズはヘッドロックを掛けつつレフェリーに背を向け、ブラインドを突いてパンチを入れる。
 これは「卑怯」に見えますな。時代劇を見慣れている日本人観客には。テーズはチャンピオンで強いはずなのにあんな審判に隠れて反則をする。ずるい。そしてテーズですら日本では悪玉となるのだ。
 この遺伝子が僕にも残っていると言っていい。だからパンチングは、嫌いだ(笑)。

 したがって、正統派レスラーは拳を使うことを恥と思って欲しい。これは、僕の持論である。
 ナックルと言って有名なのは、もちろん猪木の鉄拳制裁というやつである。相手の頭をつかんで大きく腕を引いて放つので、古館伊知郎はこれを「ナックルアロー」と呼んだ。僕は猪木教に入信しているが、それでもこれはいただけなかった。しかも、拳の中指を鋭角的に出して殴っている。こんなの卑怯だと思う。
 しかし、さすがに猪木だって最終的に拳で勝負は決めない。卍固めや延髄斬りで勝つ。ただ、一度だけ「疑惑の一戦」があった。UWFとの抗争での猪木vs藤原喜明。この試合のフィニッシュは魔性のスリーパーだったが、その直前に猪木の藤原への下腹部への蹴り(急所か?)と、顎へのナックルがあった。試合後、猪木なら何をしてもいいのか、と激昂した前田日明が猪木にハイキックを見舞った。
 しかしこの「ナックル」と見られた技は、後日プロレス誌の写真によってナックルではなくエルボーであったことが判明した。この写真は、あの昭和44年の日本シリーズ読売Gvs阪急で、誰もが本塁封殺だと思った土井が実は捕手をかいくぐりホームを踏んでいて、岡田主審の正しさが証明されたあの一枚と同等の価値があると思うのだがどうだろう。
 閑話休題。
 さすがに「反則」のパンチで試合が決まることなどないと思っていたら、それを覆すレスラーが現れた。ジェリー・ローラーである。
 しかも「世界のプロレス」で見たローラーは、完全にベビーフェイスで観客の声援を受けていた。悪役ならともかくそんなベビーフェイスが、パンチングをフィニッシュホールドとしているのだ。当時の僕は訳がわからなくなった。その技は「フィストドロップ」である。
 マットに仰向けに倒れた相手に対し、コーナーでロープを二段くらい上がりそこからジャンプ、そしてなんと拳を相手に叩き込む。これがローラーのフィストドロップだった。反則じゃないか!
 観客は拍手喝采である。しかし、僕はこういう技は嫌いだ。というか、何故これが成立するのかがわからない。カウントを入れてはいかんのではないか。
 このローラーの「フィストドロップ」と相似形の技を、ザ・グレート・カブキがフィニッシュにしていた。トラースキックで相手を倒し、セカンドロープ上から振りかぶって相手の喉笛を正拳で突く。カブキはそのまま「正拳突き」と呼んでいたがローラーのフィストドロップと同じだ。ただ、反則でカウントをとることに抵抗はあるものの、カブキの正拳突きを僕は容認していた。それはカブキがヒールだったからだ。
 ヒールがやってこその「反則」である。ベビーフェイスが反則をやれば、観客の気持ちの持って行き所がなくなる。もうベビーフェイスとヒールという枠組みなどない日本プロレス界だが、だから余計に「パンチング」などという反則は慎んでもらいたい。
 フィストドロップは、ロープ上から飛ばなくても倒れこむ方式のものもある。テッド・デビアスやウォリアーズのホークなどが得意としていた。何度も言うがあれは、反則である。グーパンチって何だよ。天山が「ボクシングの練習をしてきた」とリングに上がりパンチを出したとき、オマエはレスラーのプライドがないのか、と憤慨した。あんなのプロレスへの冒涜だ。レスラーはレスラーの矜持を持って、頭突きとモンゴリアンチョップで勝負しろ。何故ボクシングの風下に立とうとするのか。

 さて、そのパンチングであるが、どこまでが反則でどこまでがOKなのか、というのは難しい。プロレスは「正拳」で殴ってはいけない、と定めているだけである。
 チョップ、張り手はOK。突っ張りもOK(そんなのやるのは天龍以外見たことないが)。そして掌打・掌底突きもいい。これは拳が使えないプロレスでは非常に効果的な技である。ライガーは今でも打ち、ときにフィニッシュにしている。
 問題は、拳を握ったときだ。握ればみんなダメ、といえばそうなのだが、ダークゾーンにある技もある。
 握りながらも実際に打つのは掌側の場合。あの維新軍の「太鼓の乱れ打ち」てのはそうだろう。拳を握ってはいたが拳を使っていない。あれはセーフかなとも思う(しかし複数で乱れ打ってるのでルール的にはアウトだが)
 中西学がよくやる野人ハンマーというのはどうなのだろう。両手を組んで相手に叩き付けるやつ。ダブルアックスハンドルとかスレッジハンマーとか呼ばれるが、あれもパンチの一種だとみることは出来る。「殴り倒す」という言葉が実にピッタリくる豪快な技。これもセーフにしたいな。
 もっと微妙なのが「裏拳」だ。これはアジャコングがフィニッシュにしているので余計ややこしい。これは相当にグレーゾーンであると思うのだが…野人ハンマーを片手でやってるだけ、とも見える。
 結局「正拳突き」がダメだということか。ストレート、ジャブ、アッパー、フック。拳の先端(指の第二関節あたり)が相手に当たる殴り方、と考えていいだろうか。

 そのナックル(パンチでも正拳突きでもいいが)が、プロレス技では反則であるということは何度も言った。そして、その「反則」という部分を超えて、僕は好きではない技だということも言った。その理由は、試合が成立しにくくなるとかボクシングの下風に立つからとかいろんな理由もあるが、やはり「ずるい」の一言に尽きるかと。結局そこに立ち戻る。だから悪役がやれば憎悪感が出るし、善玉のやる技ではない。
 だが、一人だけ善玉であるのに「パンチ」をやっても許されるレスラーがいた。僕もこの選手がパンチを出すと「いいぞいいぞ」と叫んだ。「ずるい・卑怯だ」という感情は全く湧かなかった。
 そのレスラーとは、星野勘太郎である。
 
 「突貫小僧」の異名を持つ突撃ファイター。負けん気は誰よりも強く、心意気が強く浮かび上がるファイトスタイル。「セメントでやれば最強は星野勘太郎」という伝説もある。少なくとも、気迫で星野勘太郎に勝るレスラーはいなかったと言っていいのではないか。
 その星野勘太郎は、山本小鉄とヤマハ・ブラザーズを結成し一世を風靡したが、僕はそのヤマハブラザーズの全盛期は知らない。僕が最もよくプロレスを観ていた時代は、小鉄さんが引退し、星野勘太郎はもうベテランの域に入っていた。
 星野勘太郎に、一度だけ握手してもらったことがある。「握手してください」と頼んだとき、ふっとこちらを振り向いたその星野の顔の怖さはいまだに忘れられない。ちょっと眉をひそめ「うるせぇな」と言わんばかりの表情。しかし、別に怒鳴られることもなく普通に握手をしてもらった。それならサインも貰えばよかったのだが、そのときはその勇気が出なかった。
 力強い手だったが、身長はもしかしたら僕よりも低いのではないか、とそのとき思った。公称170cmだが、レスラーってのはたいてい多めに申告するものだ。160cm台の可能性もある。
 その身体で、星野勘太郎はヘビー級だったのだ。信じられない。じゃどんなデブか、どんな筋肉か、と言われても困る。確かに若い頃の星野の写真を見るとはちきれんばかりの身体つきをしているが、僕の知る、握手をして貰った頃のベテラン星野は、そんなに横幅はなかった。まず95kg以下だろう。それでも、ヘビー級として戦っていたのだ。
 これは、当時の事情がそうさせたのだろう。星野勘太郎のデビューは昭和36年。まだJr.ヘビー級なんてのは、一般的ではなかった。プロレスはほぼ無差別級だったのだ。Jr.ヘビーという階級は、藤波辰巳が発掘したようなものである。のちに日本はタイガーマスクや大仁田といった世界チャンピオンを輩出する国となったが、星野の時代はJr.ヘビーでは商売にならなかった。なので、グラン浜田はメキシコに行かざるを得ず、星野、山本小鉄はヘビー級としては上背が決定的に足らないにも関わらずヘビー級としてしか生きる道はなかったのだ。もう15年若ければ、おそらく佐山聡とJr.ヘビーでライバル物語をつくっていたのではないだろうか。
 しかし、時代はそうじゃなかった。星野勘太郎は、その身体で2mもありそうな、また130kgもありそうな外国人レスラーとも当たっていく。その気迫で圧倒するようなファイトは決して見劣りすることなど無かったが、体格差はいかんともしがたい。そんなときに、星野勘太郎は一発パンチを相手にお見舞いするのだ。
 そもそも星野は、高校時代はボクサーだったのだが「腕が短い」ことでボクシングを断念した経緯もある。拳には自信あり、だ。さらに相手をヘッドロックにとらえ、連続パンチを叩き込む。ルーテーズはブラインドに隠れて一発だったが、星野は堂々と連続パンチをぶちかます。
 なんで星野勘太郎のパンチ攻撃が卑怯な感じが全くしないか、お分かりだろうと思う。小兵レスラーがヘビー級の土俵で気迫満点で立ち向かっているのだ。感情的には「パンチのひとつも入れてもまだハンデは埋まらない」のである。大型レスラーの方が体躯のぶん既に「ずるい」のである(これは理不尽な物申しだと承知しているが、あくまで感情論)。
 UWFとの抗争時には、星野はとうに40を過ぎていた。しかし、長州らの大量離脱で対抗戦のコマが足りず、星野も前線に出て戦った。むしろ星野が牽引した部分もあったのではないか。坂口とタッグを組めばそれはもう大人と子供だったが、その子供が誰の気迫をも凌駕していたと僕は思う。前田に反則のパンチでも何でもかましたれ。だって前田は192cmもあるんだ。年齢もうんと前田は若い。それだけでもう、前田はずるいじゃないか。
 以上のようなことで、僕は星野勘太郎のパンチだけは、反則であろうと何であろうと容認していた。いやむしろ、好きだった。

 その星野勘太郎さんが逝くとは思っていなかった。脳梗塞で倒れて約2年経つが、リハビリは順調であると聞いていたので。
 先だって、小鉄さんの追悼記事を書いたばかりだ。こんなところまでタッグの息を合わせる必要など無いのに。義理堅さも過ぎるよ。
 星野さんは、引退後はプロモーターとして神戸で活躍する傍ら、「魔界倶楽部総裁」として人気が出た。星野さんにそういう若松さんのような役割は似合わない、と思っていたのだが、気迫と度胸で見事にこなしていた。すごいな。「ビッシビシ行くからな!」という台詞まで流行った。痩せてしまったが、あのパンチはずっと健在だった。
 好きなレスラーが次々と逝く。もうたくさんだ。合掌。 
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ボディプレス

2010年08月31日 | プロレス技あれこれ
 小鉄さんが死んだ。28日の朝のことだったらしい。僕はちょっとネットを離れていて30日の朝刊で知った。思わず声を出してしまった。そんなバカな、としか言いようがなかった。
 
 一年とちょっと前の話。珍しく酒場でプロレスの話をしていた。
 棚橋が好きな人がいて、「ハイフライフロー」は今までのプロレスにあったボディプレスとは一味違う、という。あの空中での所作が、普通に落ちてくるだけではなく衝突力を倍加させるのだと。単なるボディプレスでないところが素晴らしいのだと。
 その人は(酒場でしか会わない人だけれど)僕よりも20歳ほど若い。その歳でプロレスファンであってくれることがもう嬉しいわけで、僕などは何でも頷くことにしている。また彼は、会場に繁々と足を運ぶので、僕の化石のような進歩の無いアタマの中とは違う。
 確かに、棚橋のボディプレスは近年見ごたえがあると僕も思う。「ハイフライフロー」などと勝手に自分で銘打つネーミングは僕は嫌いで、そんなところで独自色を出そうとするよりボディプレスという技とその名に刻まれた歴史に誇りを持って欲しいと願う部分においては多少の不満はあるが、技自体は、いい。
 ただ、あの空中で屈伸をするような所作、そして大きく四肢を広げぶつかる姿は、決して棚橋のオリジナルではない。もちろん、外道や田中将斗や諏訪魔が始めたわけでもない。あの、少しでも衝突力を上げようとするアクションは、山本小鉄に源流がある。それを若い人にも知ってもらいたくて、その時は少し余計な口ばしを挟んだ。

 ボディプレス。ビックバン・ベイダーらが倒れた相手にジャンプしてのしかかっていくのをダイビング・ボディプレス。助走をつければランニング・ボディプレス。そしてコーナートップもしくはロープから倒れた相手に落下していくのがダイビング・ボディプレス。分類すればこれくらいか。さらに、そのダイビング・ボディプレスが、ムーンサルトプレスやシューティングスタープレス、関空トルネードらに細分化されていく。
 以前僕はボディアタックという記事を書いたことがありその折にボディプレスについても言及したのだが、ここでもう一度書いてみたいと思う。
 
 ボディプレスという技は、そもそも重量級の選手が得意とする技であったはずだ。相手を押し潰すのが目的であるため、自分の体重が軽ければ効果がない。
 「おばけカボチャ」「人間空母」と呼ばれたヘイスタック・カルホーン。このアンドレよりも重いレスラーが繰り出すボディプレス(フライングソーセージとも呼ばれた)が本来のボディプレスであり、効果も絶大であったはずである。なんせ270kgが上から降ってくるのだ。
 その後、アンドレもボディプレスを得意としたし、キングコングバンディやバンバンビガロ、またビックバンベイダーらが後に続いた。正統派ボディプレスの系譜だろう。
 それとは別に、ルチャリブレからの系譜もある。これはつまりプランチャからの発展系。
 プランチャとは、ボディアタックのことである。そのため、基本的には相手はマットに倒れてはいない。スタンディングの相手に体ごとぶつかっていく技である。ミル・マスカラスの美しいプランチャはもはや伝説と言っていい。
 そのプランチャで、相手がダウンしているところへ飛び込めばそれはダイビングボディプレスとなる。そういう技が派生してもそれはおかしくはない。ルチャは軽量級のレスラーが多いため、より高くジャンプして落下したほうが、物理の法則にのっとってダメージが大きくなる。

 アメリカン・プロレスにおいては、やはり重量級の技であったと言っていい。そしてヘビー級が主体のマットにおいては、ダイビング・ボディプレスはそれほど珍重されなかったのではないか。危険度云々もそうだが、重いやつはたいていは飛べない。
 その常識を覆すレスラーが「スーパーフライ」ジミー・スヌーカであったろう。115kgの体重を誇りながらアンコ型ではなく(元ボディビルダーであるから当然だが)、その並外れた跳躍力で次々と敵を押し潰していく。コーナートップから飛ぶその姿も美しく、四肢が長いために実に絵になった。

 ところで、そのスヌーカと同世代の小鉄さんは、小兵レスラーである。公称170cmだが、もう少し上背はなかったようにも思う。160cm台ではなかったか(間違っていたらごめんなさい)。身体を鍛え上げ筋肉はパンパンに張りヘビー級で通用したが、アメリカではボディプレスをするレスラーのタイプではない。しかし星野勘太郎とタッグを組んだ「ヤマハ・ブラザーズ」で小鉄さんは、ダイビングボディプレスでアメリカを席巻した。スヌーカがデビューする数年前の話である。もしかしたらスヌーカは小鉄さんのダイビングボディプレスに影響された可能性もある(妄想)。
 小鉄さんのダイビングボディプレスは、その軽量ゆえに少しでも相手に与えるダメージを大きくしようと、空中でタメをつくる飛び方をした。実際はそういうアクションが相手に与えるダメージを左右するかはわからないのだが、コーナートップから飛び出すと一度手足をぐっと縮めて、そしてわっと広げて落ちてくる。小兵の小鉄さんが、身体を大きく見せようとの工夫であったのかもしれない。このダイビングボディプレスは「カエル式」また「ガメラ式」とも呼ばれた。
 今の棚橋のハイフライフローと、相似形であると言える。別に僕は棚橋を嫌いではないしむしろ応援している。あのカッコつけたナルシストキャラもそれはアングルとして成功しているかどうかは疑問だが頑張ってるなとも思う。ただ、そのハイフライフローなどというこまっしゃくれたネーミングのダイビングボディプレスに「それはガメラ式だ」と一言いってやりたい。小鉄さんの記憶をとどめさせるためにも。

 小鉄さんはサラリーマン経験を持ち、同時にボディビルで身体を鍛え、昭和38年に日本プロレスに入門した。力道山最後の弟子として知られる。その上背の無さから何度も断られたものの、鋼鉄の意志で入門を勝ち取った。
 その後星野勘太郎とのタッグ「ヤマハブラザーズ」で一世を風靡した後、猪木と新日本プロレス旗揚げに参加する。最初は所属レスラーも少なく、猪木とユセフ・トルコと新人の藤波、そして小鉄さんだけの寂しい旗揚げ写真が有名である。
 小鉄さんがいなければ新日本プロレスはなかった。まだ30そこそこで若かったにもかかわらず、猪木の片腕として八面六臂の活躍をした。現場監督、マッチメイク、鬼コーチそして興行の営業に至るまで。猪木はああいう大風呂敷の男であるからして、しっかりとした小鉄さんとマネージャーの新間寿がいなければ、早晩新日は潰れていたに違いない。有名な話として、あの新日本のライオンの社章、そして「KING of SPORTS」のコピーも小鉄さんが考えたとされる。
 小鉄さんは早くに第一線を退いた。なので、僕は小鉄さんの試合の記憶は実に少ない。前座を務めることが多かったせいもあるだろう。
 これについては本人はかなり不満だったようだが(まだ40歳くらいだったので)、猪木からの要請であったと聞く。道場主として、審判部長として、そしてTV解説者として会社を支えねばならなくなった。人材が小鉄さんしかいなかった、ということもあるだろう。
 小鉄さんが解説席に座った古館伊知郎とのTV実況は、新日本プロレスの黄金期を呼び込んだ。IWGP構想、そしてタイガーマスクの登場。金曜8時には皆がTVに釘付けになったはず。僕も、懐かしい。小鉄さんは一線を退いたとはいえまだまだ身体はレスラーのものであり、場外乱闘で放送席になだれ込むレスラーを一喝し、時に審判としてリングに立った。猪木vs国際軍団のハンディキャップマッチで、身体を張って一人で相手陣営の乱入を止める小鉄さんに、場内で「小鉄コール」がこだました。
 本人は、その著作やインタビューから想像するに、竹を割った性格であったようだ。若手レスラーを鍛えに鍛えたが愛情を伴うために今でも弟子たちは慕っていると聞く。その道場から前田日明や高田延彦が育った。
 プロレスに対する愛情は半端ではなく、その矜持も人一倍だった。武藤敬司のプロレスLoveも、棚橋の「愛してます」も中邑の「いちばん凄いのはプロレスなんだよ」も、小鉄さんに源流がある。新日本プロレスの元を辿れば、全てカリスマ猪木と、ゴッチイズムと、小鉄さんにその源を見ることが出来る。そして、プロレスの良心を担っていたのは、間違いなく小鉄さんである。

 タッグを組んだ星野勘太郎も今、脳梗塞を患い病床に。なんとか復活して欲しいと本当に思う。プロレスラーは現役時代に身体を酷使しすぎるがゆえに、みな早く逝き過ぎる。小鉄さんは例外だと思っていただけに、ショックが大きい。
 小鉄さんは、力道山、馬場さんそして猪木が日本のプロレスの表の象徴だとすれば、もうひとつの面の象徴だった。享年68歳。若い。まだまだ小鉄さんの活躍の場はいくらでもあったはずなのに。
 日本のプロレスの土台を支え続けた鬼軍曹・そして愛すべき人山本小鉄さんに慎んで哀悼の意を表する。
 小鉄さん、あまりにも残念ですよ。
コメント (2)
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