凛太郎の徒然草

別に思い出だけに生きているわけじゃないですが

谷山浩子「てんぷら☆さんらいず」

2010年02月11日 | 好きな歌・心に残る歌
 聴くとすぐにその頃の自分に引き戻される曲、というものは誰にもあって、僕はそんな話をいつも書いているのだけれども、そういう思い出話とは別に、決まった時間に常にその曲を聴いていたせいで、条件反射的に「時間帯」というものを連想してしまう曲というものがある。
 例えば、全ての人に賛同が得られるわけではないのだが、ある年齢より上の関西生まれはパルナスのメロディーを必ず知っている。そして、聴けばすぐ日曜の朝のような感覚になってしまう。
 小学生の頃。今は週五日制であり子供たちも土日休みだが、僕らの時代は土曜日は午前中授業、そしておなかを減らして家に帰ってくる。給食もいいがうちで食べるごはんもまた愉しい。このごはん以降、1日半の自由な時間が始まる。既にわくわくしつつ、ごはんをパクパクと食べる。流れる音楽は、TVからの吉本新喜劇。これが休日のオープニングテーマである。
 以降、休日を連想させる曲がいろいろある。土曜の夜は、僕らの時代はやはり全員集合のテーマがもっとも親しまれていたか。そして明けて日曜、パルナスである。この哀しげな旋律は郷愁をともなって、いかにも休日の朝である。一部の人には分かってもらえると思う。
 
 先日もそんな話題が酒の席で挙がっていた。これには当然、個人差がある。年代にも地域にも家庭環境にも左右される。
 朝といっても、NHK連続ドラマの数々のテーマを思い浮かべる人や、おはようこどもショー、ピンポンパンのテーマからポンキッキまで様々。関西だと「おはよう朝日です」のテーマである紙ふうせんの「朝(あした)の空」とかね。♪あなたと私出逢った日から~
 これがさらに「深夜を連想させる曲」ともなれば、完全に十人十色である。

 人によっては、深夜といえばウィークエンダーや11PMのテーマを連想するらしい。僕はそんなTV番組は子供の頃見せてもらえなかったので経験が無く深夜を連想出来ない。11PMを観られるようになったのはもうある程度大人になってからで、その時代であれば既に11時は深夜ではなかった。
 例えば僕は、ちょっと想像がつかないかもしれないけれども「シオノギMUSIC FAIR」のテーマ曲を聴くと、ものすごく夜が更けているような感覚にとらわれる。完全に幼児体験みたいなものだが。ミュージックフェアは現在土曜の夕方に放送されているようだが(長寿番組だな)、僕が幼い頃は火曜の9時半からの放送だった。9時半なんてのは宵の口もいいところであるが、その頃にはもう寝ていた時代が僕にもあったのだ。司会は当然長門裕之・南田洋子夫妻。今とはテーマのアレンジも変わっているのだろうか。当時はまず最初にティンパニの音がダン・ダン・ダン・ダンと響く。もうこれだけで「ああ寝る時間をもう過ぎてるな」と思ってしまう。

 僕は小学校の高学年くらいから深夜放送を聴きだしたので、以降はTVからラジオに感覚も移っていく。小学校の時は日本列島ズバリリクエスト。中学からはどちらかといえばMBSヤングタウンに移行していく。曜日によってズバリクとヤンタンを聴き分けていた感じか。日曜は「ぬかるみの世界」。ただそれらのオープニングテーマを「深夜だ」と思うかといえばそうでもない。ズバリクは11時、ヤンタンは10時であり、さほどまだ遅くはない。
 エンディングになるとそれは深夜だろうと思うが、ズバリクなどは終了午前3時であって、もうとてもじゃないが小学生は起きていない。ところがヤンタンは午前1時であり、これはよく番組終了まで聴いた。
 思い出すのは、ニルソンの「Without You」である。ここでもちょっと書いたことがあるが、ヤンタン水曜日(後金曜日)のエンディングテーマだった。谷村新司・ばんばひろふみ・佐藤良子の黄金トリオ。必ずエンディングまで睡魔に負けず聴いた。この曲を聴けば、今でも夜も更けた時間に引き戻される。

 深夜の曲として万人が同意するだろう曲にBittersweet Sambaがある。ご存知オールナイトニッポンテーマ。
 オールナイトニッポンが京都でネットされたのは中学生のとき。これにより近畿放送(もうKBS京都になっていたか)ではズバリクの終了時間が早まり、いや番組そのものが無くなってしまい、最初は相当に恨んだものだ。が、それでもオールナイトニッポンを聴きはじめる。そして結局馴染んでしまうのだから薄情なものである。その頃の話はここでも触れた。
 今思うと、本当に元気だったと思う。いつも一部終了まで聴けたわけではなかっただろうが、松山千春や中島みゆき、こうせつ、つぼイノリオ、鶴光は結構終わりまで聴いていた。それで翌日ちゃんと学校に行って、クラブ活動までしていたのだから。今なら3時まで起きていては翌日使い物にならない。
 二部まで聴くことはめったになかった。そりゃ無理。しかし、パーソナリティによっては何とか頑張って聴いていたときもある。

 谷山浩子がオールナイト二部を始めたのは、もう僕はもう高校生だったか。これは、睡魔と格闘しつつ必死になって聴いていた。こんなの聴いていたらもう睡眠時間は3時間未満であり、授業中よく寝た。高校生ともなれば相当ずうずうしくなっていた。たださすがに周りにはリスナーはおらず「勝手にニャンニャンするな」と言っても誰にも通じないことが哀しかったような。
 その谷山浩子のオールナイトニッポンのオープニングは、もちろん「てんぷら☆さんらいず」。

  午前5時ノ新宿駅 長イホームニ散ラバル
  赤イ朝陽ヲ集メテ 新鮮ナトコロヲ オナベデ カラリト カラリト カラリト
  何度聴いても「午前5時ノ新宿駅"ノ"」と聴こえるのだけれどもなあ
 この曲が、僕にとっては最も深い時間を感じさせる曲だ。完全なる真夜中の曲。
 これについては賛同してくださる方も多いと思う(ことに、谷山オールナイトのリスナーだった人は)。
 もちろん、全くの主観である。曲の解釈をすればこれはちょっと違う。「午前5時~」とうたわれているとおり、これはミッドナイトではない。朝の日の光を天ぷらにしようと言うわけで、もう夜が明けている。
 余談だが、午前5時の新宿駅を何度も経験している。んーと、正確には午前4時半から5時かな。新宿駅の始発はそのくらいの時間だったかと。朝まで呑んでいる不埒な男であるが(最近はそんなことしてないけど)、何故か朝日の記憶がない。つまり、いずれも秋冬春だったのだろう。たいていはまだ暗かった。したがって「てんぷら☆さんらいず」は夏のうただということになる。
 もっともこのうたはそのあと「午後6時の表参道~」と続き夕陽も揚げてしまう。このうたの解釈をするのは野暮の極みだと思うのでこれ以上は避けたいと思うが、ちなみに「春一番ノ酢ノモノ」も出てくるので季節は2月末か3月初旬、その頃はまだ5時は暗いか…ああ本当にどうでもいい話だ。あまり理屈を言うと新宿で壁からはえてくるまもる君を見ることになってしまうので止そう(わかる人はわかりますね)。
 それにしても、

  タタケ桜貝! 吹キ鳴ラセ白熊! 踊レレレレオ!
  本日開店 御来店オ待チ申シ上ゲマス

 この世界に入ってしまえば、時制など彼岸のことのように思える。これら幻想の世界は、街に音が溢れる昼間よりも、深閑とした、夾雑音が全く無いミッドナイトがやはり相応しい。妖精たちが人目をはばかることなく踊りだせる、夜も深い時間。

 考えてみれば、谷山浩子のうたとの出会いは、いつも深夜から始まった。
 谷山さんのうたを最初に聴いたのは「河のほとりに」だったと記憶している。ラジオ「コッキーポップ」においてであることは間違いない。この人は14歳で曲が世に出、15歳でもうアルバムを編んでいる早熟な人であって、昔のことはさすがに知らない。コッキーポップが出逢い。
 このコッキーポップが既に、真夜中の番組である。僕が聴きだした頃は、谷山浩子とN.S.P.がいつも流れていた。

  黙ってこのままそばにいてください 悲しい思い出流してしまうまで

 透明感のある声。静寂の中をそっと降りてくるように囁きかける。
 よく谷山さんのうたは「童話」「メルヘン」「少女漫画」「幻想」などというキーワードで語られる。それも一応、分かる。ちょっと不思議な世界であり、僕などのような理屈っぽい男からすれば異質な世界なので、そういう表現をしてしまった方が楽だ。
 ただそう紋切型だけで言ってしまいたくはないので、いろいろ考えてみる。しかしなかなか言葉が浮かばない。だいたい、谷山さんのうたは、そんなメルヘンチックな童話的世界ばっかりではない。怨恨や情念もある。そして不気味な感覚。本当は怖い世界もある(この本当は怖い…というのはメルヘンと相通ずるのでまたややこしいけど。しかし「Cotton color」は多分日本で一番怖いうただろうな)。
 ひとつだけ言えるとすれば、谷山さんのうたは、何かをしながらでは聴けない。例えば掃除しながらB.G.Mに流すのに相応しくない。街を歩きながら聴きたくない。といって集中しないとダメだ、というわけでもない。そのときの自己の世界に、谷山浩子の音以外のものを入れたくない、と思わせられるのだ。少なくとも僕にとっては。
 やっぱり「夜深い時間」に馴染んだ習いが影響しているのかもしれないとも思うし、僕が俗世に浸り切っているので、世界観を移さないと染み込んでこない、ということもあるのかもしれないとも思う。夾雑物を除き、無垢な状態で聴きたい。そして、ちょっとした無重力空間に入りたいのだ。
 その空間に入ったとたん…陳腐で申し訳ないけれども不思議な浮遊感を得る。そのメロディーは、とにかく透き通っていて美しい。もちろんフォーク調の旋律もあれば古い歌謡曲を連想させるものもあるが、大部分はあまり聴き馴染のない世界観を与えてくれる。前衛芸術か。いや、そんなのもあるにはあるが、もっと人間の根源的な部分に問いかけてくる調べを持っているような。
 何を書いているのかよくわからなくなってきたけれども、綺麗な旋律なのだ。そして、谷山さんの声がまた僕たちに魔法をかける。その年齢不詳の声が。その声と旋律が、夢とうつつのはざまに僕を誘う。
 ただ、浸っていると「暗い緑は骨が好き あなたの骨を舐めて溶かします」なんて言われてしまうので僕はまた漆黒の闇を右往左往しなくてはならなくなるのだけれど。「Rolling Down」のラストシーンなんて映画「キャリー」より怖いぞ。

 谷山浩子は深夜がふさわしい、と言っておいてあまり怖いうたばかり聴いてしまうと寝られなくなってしまうので「てんぷら☆さんらいず」に戻りたいけれども、このうただってその不条理感を思えば、背筋にモゾモゾしたものを感じてしまったりするわけで。これはもしかしたら「注文の多い料理店」かもしれないと思ってまた右往左往するのだけれど。

  一度食ベタラ モウ帰レナイ

 魔術にかかってしまうとでも言うんだろうか。ただ、その「取り込まれる」感覚というのはなんとなしに分かる。谷山さんには中毒性がある。
 初期の「お早うございますの帽子屋さん」「ねこの森には帰れない」。名作「カントリーガール」。またCMになった「風になれ」。人に提供した「MAY」「土曜日のタマネギ」「うさぎ」。「みんなのうた」で高名になった「恋するニワトリ」「まっくら森の歌」などの一群のうた。最近では「ゲド戦記」の音楽。
 こうした「誰もが知ってる谷山浩子」だけを取り上げても、その中毒性をある程度は理解していただけると思う。まさに「一度食ベタラモウ帰レナイ」のだ。
 
 ただし、「夾雑音のない時間に谷山浩子」をあまりやりすぎるのは身体に毒なような気がしたりもしている。僕はこの記事を書こうと思って、数日間、夜に谷山浩子をずいぶん聴きなおした。さすれば、寝不足になった(分かりきったことだが)。夢もみてしまう。もうおっさんなので、体調と話し合って聴かねばならないと当然のことを反省したりもしているのである。昔、オールナイト二部を聴いてそのまま学校に行った若い頃とはもう違うのだ。

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6 コメント

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14曲目 (さくぞう)
2011-06-27 08:45:41
14曲目の書き込みになります。
「てんぷら☆さんらいず」…
いやいや、聞いてましたねぇ~!!!
木曜深夜2部でしたよねぇ~!

組織票でも何でもOKのリクエストとかありましたよね。
どこだかの高校で対向してダンボールに葉書入れてとかありましたよね。

「上越新幹線」というグループの歌を覚えています。

同じ時間を布団の中?で共有していたのですね。

またまた色々思い出してしまいました。
確か熱狂的な横浜ファンで、スコアブックまで付けていたとかね!

2年くらい前に日比谷のニッポン放送のイベントで生「谷山浩子」見て(聞いて)きました。
デビューでは、中島みゆきよりも大先輩になるのかな!?
返信する
>さくぞうさん (凛太郎)
2011-06-28 02:44:37
いやいやオールナイト2部は眠かったっすよね(笑)。僕はここで書いていることについてはあまり自信がないんです。いつもモーローとしつつ聴いていたので。ただ「てんぷら☆さんらいず」が聴こえると、夜が深い。そんな感じ。
みゆきさんと谷山さんって友達の印象がありますねー。確かに最初のデビューは谷山さんのほうが早いかもしれませんが、みゆきさんもアマ時代の実績はありますし、ポプコンは…似たような時期だったかなあ。河のほとりより時代の方が前だし、歳はみゆきさんが結構上だし…。同世代的くくりでいいのかしらん。
返信する
久々に谷山浩子さん (siam_breeze)
2011-07-02 20:11:33
はじめまして。
谷山浩子とオールナイトニッポンと上越新幹線でググってHITしました。
この3つのフレーズを理解できる人は皆無かと思っていたのですが、貴兄のサイトを知ることができました。
谷山洋子の2部のオールナイトは私もちょうど高校一年生でした。
3時に起きて、ラジオ聞いて、そのまま起きていて学校へ行ってました(家が横浜で高校が吉祥寺だったので毎朝5時30分起きだったのでちょうど良かった?)。

で、上越新幹線ですが、たまたま知り合いだったこともあってサーカスや6番目の待つわのレコーディング(スタジオ取り)などに参加してました。
彼らは今も元気なのか、全く知りませんが(笑)。

そんなこんなで実は谷山浩子さんとは食事やお茶をしたこともありました。

先日、ほぼ30年ぶりに谷山浩子さんのCD(昔のCD)を購入しました。
懐かしく聞いてます。

返信する
>siam_breezeさん (凛太郎)
2011-07-03 16:05:37
はじめまして。どうもありがとうございます。
上越新幹線でヒットしたのは↑のさくぞうさんのコメントからでして、僕はそこまでコアなリスナーではなかったと思います。なんせ深い時間で、半分寝ながらでしたので。ただ上越新幹線はなぜか憶えています。他に「おはようございますの豆腐屋さん」とかなかったかな。ちょっと曖昧なんですが。
谷山浩子さんと席を同じくされたことがあるとはうらやましい。そういうことを思い出しながらまた谷山さんのうたを聴くのもいいですね。
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siam_breezeさん (さくぞう)
2011-07-04 08:35:18
僕なんぞが、コメしても良いものかと思いながらも、コメントさせて頂きます。(凛太郎さんお借りしますネ)
>谷山浩子とオールナイトニッポンと上越新幹線
↑このキーワードで今頃ググるというのもレアですよねぇ~!!!
言われてみれば、「6番目の待つわ」ってのもあった気がします。
あと、ダンボールで投票したのは、どこかの高校の校歌だった気がしますが、いかがでしょうか?
「豆腐屋さん」ってのも聞いた覚えがあります。
いやいや、netってスゴイですね!!???
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Unknown (Unknown)
2023-07-13 14:21:29
全部同じ日のことだと思い込むから
おかしく思えるのであって
季節別に歌ってると考えれば良いのでは?

緯度からして
午前五時に新宿で朝日が上ることはない
という話ならわかりますが。
返信する

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