人はなぜ戦争をするのか

循環器と抗加齢医学の専門医が健康長寿を目指す「人」と「社会」に送るメッセージ

健康と平和  -すべての病気の原因は細胞同士の戦争である-

2018年02月20日 08時16分30秒 | 健康
人間の幸福をおびやかす最大の原因、それは病気と戦争ではないかと思います。私たちは普段、健康や平和を当たり前のように享受しています。健康と平和は失われて初めて気付くかけがえのない宝物です。病気になって初めて健康のありがたさに気づき、戦争になって初めて平和の尊さを振り返ります。

病気と戦争は一見、何のかかわりもないように思えます。しかし、実は、病気と戦争の原因は同じなのです。戦争は国家間の争いを武力で解決しようとしたときに起きますが、病気も細胞同士が種々の化学物質を武力として使用した結果として起きます。病気は、その原因はさまざまであっても、そのすべてに細胞同士の争いが関わっているのです。

人間は60兆個の細胞からなる多細胞生物です。それらの細胞は、食べ物が潤沢にあり、健康な時はお互い協力し、助け合って生きていますが、病原体の侵入や環境の変化などで細胞が争いを始めると病気を発症します。インフルエンザなどの感染症は病原体という体外からの侵入者と、白血球など、免疫細胞との戦争です。ガンは、細胞が異常な増殖を始め、正常な組織を破壊する病気です。ここでも、ガン細胞と正常細胞、そしてガン細胞を退治しようとする免疫細胞との戦いが繰り広げられています。自己免疫疾患は、免疫を担当する細胞が、本来は異物と認識しない自己の組織や細胞を非自己と認識し、これらを攻撃することによって発症します。アレルギー疾患も異物に対する過剰な免疫反応が原因です。

地球上にはさまざまな生命が存在します。すべての生命が限られたエサを求め過酷な生存競争を繰り広げている限り、生命体同士の争いは避けられません。弱肉強食、食物連鎖が自然の摂理ともいえる地球上で、ほとんどの生物には、その生物を捕食や寄生によって殺す天敵が存在します。しかし、文明を進化させてきた人間は他の多くの生物と異なり、天敵はいないといって過言ではありません。人間にとって最大の外敵は目に見えない病原微生物ですが、これらも抗生物質やワクチンの発達により克服されようとしています。

人間の生命を脅かす最も恐ろしい病気は何でしょうか。最も克服するのが困難な病気はガンです。その理由は、私たちの祖先はガン細胞だからです。今から約20億年前、生命が多細胞化する以前、地球上には微生物と単細胞だけしか存在しませんでした。単細胞の性質はガン細胞と同じです。ガンが無秩序に増殖するように、単細胞も常にエサを求めて争い、十分なエサさえあれば無限に増殖します。細胞は本能的に自らの生存と子孫の繁栄のためにのみ行動しています。ガン細胞も人間の体の中で自らの子孫を増やすことだけを目的に生きています。ガン細胞は他の細胞を押しのけて増殖し、やがては正常臓器を破壊して個体を死に追いやります。実はこのガン細胞の所業こそが細胞本来の姿です。ガンは、体の中に宿る細胞がかつての姿を取り戻した病気に過ぎないのです。ガン細胞は、もともと受精卵の時は同じ遺伝子を持っていたのですが、自分の増殖に都合がいいように突然変異させてしまった細胞です。

私たちの体の中にあるすべての細胞がガン細胞になる性質を持っています。一日に数千個は発生するといわれるガン細胞ですが、我々はめったにガンになりません。人間の寿命は約80年ですが、そのうちガンを発症するのは約半数の人間です。これは奇跡といってもいいくらい稀有な確率でしかガンは発症しないことを示しています。私たちがガンにならないのは細胞の勝手な増殖を許さないように遺伝子が驚くほど厳密に管理され、細胞内が高度に民主化されているからです。また、たとえガン細胞が発生してもその増殖を許さない免疫システムが確立されているからです。

ガンは人間にとって憎むべき病気です。しかし、ガン細胞を責めるわけにはいかないのです。ガン細胞は体の中が平穏な状態で発生することはありません。細胞がガン化するためには必ず何か引き金となる要因が存在します。加齢、喫煙、飲酒、肥満、ある種の病原体への慢性の暴露、これらは細胞に生存に対する脅威を与え、その結果、生き延び、子孫を増やそうとする自然の反応として遺伝子を突然変異させてしまうのです。人間社会も同じでしょう。ある国に経済制裁や武力による威嚇を加われば、その国は生き延びようとして国家の遺伝子に相当する憲法を突然変異させてでも武力を強化し、抵抗しようとするでしょう。かつてのわが国がそうであり、現在の北朝鮮も同じような立場に立たされています。

私は、健康や平和の大切さを考える時、生命進化の歴史に想いを馳せます。私は、人間社会の歴史は生命進化の歴史と同じ道を辿ると考えています。なぜなら、人間社会は人間の集団であり、人間は細胞の集団で構成されているからです。つまり、細胞の考えていることを人間が考え、人間はその考えに基づいて行動を起こし、社会を動かしているのです。ガン細胞であった私たちの祖先が争いをやめ、協調して多細胞化し、個体というグローバルな小宇宙を築き上げてきた進化の歴史にこそ、人類が平和な世界を築くために学ぶべき教訓が隠されていると思います。祖先の細胞が脈々と築き上げてきたガン化制御のしくみとはどのようなものだったのでしょうか。人類が生命進化の歴史に学ぶ時、戦争のない世界が訪れるのではないでしょうか。憲法改正論議が活発となる中、本当に今のままの憲法でよいのかという不安を感じておられる方も多いと思います。しかし、生命進化の歴史は、今の日本国憲法の理念こそ、人間社会が再びガン化しないために守るべきであることを教えてくれます。これからのシリーズが日本国憲法の在り方について考える一助となれば幸いです。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿