人はなぜ戦争をするのか

循環器と抗加齢医学の専門医が健康長寿を目指す「人」と「社会」に送るメッセージ

人類進化の流れに逆行するイギリスのEU離脱

2016年06月24日 17時22分15秒 | 社会
国民投票の結果、イギリスがEUから離脱することが決まった。26年前に東西ヨーロッパの壁が取り払われ、ヨーロッパが一つに統合されるという画期的な歴史的流れに一つの終止符が打たれた。

イギリスのEU離脱の影響は単に経済的ダメージにとどまらない。イギリスにおける閉鎖的国家主義の台頭は、アメリカにおけるトランプ氏の躍進に代表される世界的な排他的民族主義の流れを加速させることになるであろう。わが国も例外ではない。自民党の改憲草案にもみられるように、安倍政権は粛々と個人主義から国家主義への転換を図ろうとしている。世界の主要国がナショナリズムに走り、軍事力で国益を守ろうとする時、その先にあるのはささいなきっかけに端を発した世界的規模の戦争の勃発である。

人類はこれまでの歴史の中で着々とグローバル化を進めてきた。多くの人々は、国家や民族を超越した国際協調の時代が訪れ、やがて戦争やテロはなくなるであろうと信じてきた。今回のイギリスのEU離脱は人間社会の歴史が後戻りしたことを意味している。

人間社会の進化の歴史は、生命進化の歴史を彷彿とさせる。我々の祖先である古細菌が20億年前にミトコンドリアと共生し、莫大な力を持つ細胞に進化した。しかし、これらの単細胞は自らの利益のためにのみ増殖し、決して他の細胞と相いれることはなかった。しかし、生命は個体がよりよく生存する方向に進化する。10億年前に細胞が寄り集まり、多細胞化したのは、個々の細胞が独立して生活するよりも、細胞同士が協調して機能した方が、生存に有利だったからだ。細胞間の壁を取り払い、食物や情報を共有するようになった多細胞は、やがて生命社会を凌駕するようになった。我々人間は、60兆個におよぶ細胞が、それぞれ独立しているにもかかわらず、栄養と情報を共有して、何と100年におよぶ寿命を謳歌しているのだ。

しかし、人間の細胞も閉鎖的に振る舞うことが多々ある。たとえば、ガンである。ガン細胞は先祖返りした細胞である。ガン細胞は、多細胞生物への進化に画期的な役目を果たした「接触阻止」という不戦の遺伝子、いわば細胞の憲法9条をないがしろにして他の細胞に浸潤していく。憲法9条を変えたからといって侵略戦争を始めるわけではないという意見もあるが、ガン細胞も最初から浸潤するような悪性の細胞ばかりではない。多重遺伝子変異と言って、ガン化制御を司る遺伝子を少しずつ突然変異させ、徐々に悪性度を強めていくのである。

人間が長く健康でいられるのは、細胞が構成する小宇宙が協調して機能を果たしているからである。軍事力は一時的な戦争の抑止力にはなっても、決して恒久的な平和をもたらさない。北太平洋プレートとユーラシアプレートが力で押し合い、やがてその均衡が破綻した時、東日本大震災が起きた。軍事力による見かけ上の平和は必ず均衡が崩れるのである。この地球上から、戦争やテロをなくすには、根気の要る作業ではあるが、民族や宗教、国家の垣根を超えて融和し、協調する以外にない。いつの日か、世界がEUを超えたグローバルな組織を作り、そこにイギリスを含めた世界中の国が参加することを願ってやまない。人類のさらなる進化の方向性はそれ以外にないと思うからである。

このブログは少子高齢化社会を生き抜く真のサクセスフル・エイジングとは何かをテーマに、健康長寿を目指す「人」と「社会」に向けてミトコンドリアの立場と視点からメッセージを送っています。