人はなぜ戦争をするのか

循環器と抗加齢医学の専門医が健康長寿を目指す「人」と「社会」に送るメッセージ

マイノリティが人類を救う

2018年09月28日 16時36分57秒 | 健康
自民党のある議員がLGBT(「Lesbian」(レズビアン、女性同性愛者)、「Gay」(ゲイ、 男性同性愛者)、「Bisexual」(バイセクシュアル、両性愛者)、「Transgender」(トランスジェンダー、出生時に診断された性と自認する性の不一致の頭文字をとった用語)は生産性がないとする論文を発表し、物議を醸しだしました。LGBTに限らず、世の中には民族、宗教、文化でマイノリティに含まれる人たちが存在します。わが国が全体主義に染まっていく流れの中でこういった人々を排除する動きが益々盛んになってきたことは残念です。

そもそも、人間が自分と異なる遺伝子の人たちを排除するのは自然な現象なのです。それは、人間の祖先が利己的なガン細胞だったからです。かつて、地球上に単細胞生物しか存在しなかったころには、生命は無性生殖で子孫を残していました。無性生殖ではすべての細胞が全く同じ遺伝子を持っています。無性生殖は有性生殖のようにお互いの遺伝子を交配することなく、倍々ゲームのように自らを増やします。無性生殖は子孫を繁栄させるうえで、非常に効率がいい方法です。ちょうど、全体主義の世の中で、少数意見を排除し、国民が一丸となって同じ方向に進んだ方が国家の繁栄にとっては効率的なのと同様です。しかし、それは一時的な繁栄に過ぎません。メディアを含め一億総国民が全体主義化した結果が、太平洋戦争という悲惨な戦争を引き起こし、わが国を滅亡寸前にまで追い込んだという歴史的な事実を忘れてはなりません。最近では、共産党一党支配の中国だけでなく、わが国やアメリカまでもが、少数意見や人権の尊重という民主主義の基本姿勢をないがしろにして、その場しのぎの経済成長に固執する姿は、世界平和の前途に暗い影を落としているように思えてなりません。

無性生殖も、全体主義と同じです。世界に全体主義国家が増えるほど、核戦争による人類滅亡の危険性が高まるのと同様に、無性生殖では遺伝子の多様性が失われているために、ひとたび天敵が現れれば、その種が絶滅する危険性が大きいのです。例えば、世界にエイズウイルスが蔓延するとします。しかし、そのような致命的な感染症が蔓延しても人類が滅亡することはないと考えられています。それは、ある少数の人達はエイズウイルスに感染しない遺伝子を持っているからです。そういった少数の人たちの遺伝子を受け入れることで人類は生き延びることが可能なのです。生命は、生命進化の歴史の中で、無性生殖から有性生殖に切り替えることで多様な遺伝子を獲得し、種の保存を確実にしてきました。

単一遺伝子でしか増殖しないガン細胞は一時的に繁栄しても、やがては滅亡します。人間社会も、多様な民族、宗教、文化を受け入れていかなければ、破滅への道を歩む危険性を孕んでいることを肝に銘じなければなりません。

再生医療に隠されたガンの危険性

2018年07月31日 17時10分12秒 | 健康
iPS細胞を用いた再生医療が、いろいろな疾患に対して保険診療可能な段階に入ってきました。これは難病で苦しむ患者さんには待ちに待った朗報です。しかし、iPSの臨床応用に際して懸念されるのが発ガンの問題です。京都大学再生医療研究所は、「iPS細胞から作られたドパミン産生細胞を患者の脳内に移植して、パーキンソン病の治療を行う治験を実施する」と発表しました。同時に「発ガンには細心の注意を払う」とも述べています。

iPS細胞は日本語で「人工多能性幹細胞」と呼びます。英語では「induced pluripotent stem cell」と表記しますので頭文字をとって「iPS細胞」と呼ばれています。 名付け親は、世界で初めてiPS細胞の作製に成功した京都大学の山中伸弥教授です。山中教授は数多くの遺伝子の中から、ES 細胞(胚性幹細胞)、すなわち受精卵で特徴的に働いている4つの遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を見出し、これらの遺伝子をマウスの皮膚細胞(線維芽細胞)に導入し、数週間培養しました。 すると、送り込まれた4つの遺伝子の働きにより、リプログラミングが起き、ES細胞に似た、様々な組織や臓器の細胞に分化することができる多能性幹細胞ができました。

iPS細胞を用いた再生医療には懸念がありました。それは移植したiPS細胞のガン化です。それは、iPS細胞に組み込まれた4つの遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)はガン遺伝子と呼ばれ、発ガンに際して特徴的にたくさん作られるからです。それでは、受精卵がめったにガン化しないのはなぜでしょうか?それは、受精卵にはこれらのガン遺伝子が勝手に働かないような制御機構が備わっているからです。胎児を含めてヒトには細胞が勝手に増殖しないように極めて民主的なしくみが確立されています。何度も申し上げるように、ヒトの祖先はガン細胞であり、生命はガン化を制御する遺伝子を獲得しながら進化しました。すべての細胞はその中にある民主的な仕組みが壊れれば、いつガンになってもおかしくないのです。

細胞のガン化を防ぐ制御機構には、国家のガン化を国民に知らせる役割を果たすメディアに相当する情報伝達系があり、その情報を受け取って政権を交代させることができる権利を持った細胞内の国民であるミトコンドリアが存在します。受精卵は子宮の中で分裂を繰り返しながら増殖し、最終的には60兆個からなる人体を構成する様々な臓器に分化します。もし、この過程で勝手に増殖するような細胞が出現すれば、もはや正常な胎児に成長することはできません。つまり、成長や発育は常にガン化と隣り合わせにあるということなのです。残念ながらiPS細胞に受精卵と同様のガン化制御機能が備わっているのかは現時点でははっきりとわかっていないのです。

国家の成長や発達も受精卵の分裂、増殖に似ています。考えてみれば当然のことです。ヒトは細胞からなり、ヒトの集団が国家だからです。細胞の考えていることをヒトが考え、ヒトの考えていることに基づいて国家が動くのです。江戸時代に鎖国をしていたわが国は、独自の文化を発展させることはあっても、成長や発達とは無縁でした。国家がガン化することはなく、他国と戦争をすることもなかったのです。わが国が近代国家として成長を開始したのは明治になってからです。わが国は瞬く間に成長、発達を遂げ、世界でも有数の軍事大国に成長しました。しかし、成長の影にはガン化の危険性が潜んでいました。昭和になり、わが国は正常な発育から軌道がはずれ、いつしかガン化への道を歩んでいたのです。歴史作家の司馬遼太郎は著書『この国のかたち』において、「日本はそれなりにすばらしい歴史を築いてきた。ただ一時期を除いては」と述懐しています。その一時期とは昭和初期です。司馬遼太郎はこの時代を「奇胎が生まれた時代」だと言います。奇胎とは受精卵を育む絨毛に発生したガンです。すなわち、昭和の一時期、成長する国家の一部がガン化し、やがて胎児が死ぬように国家を滅亡に導いた異常な時代が100年近く前にあったという事実を改めて認識しなければならないのです。最近の若い人たちがそういう歴史に興味を持たないのは非常に残念で危険なことだと思います。

わが国の現状を見れば、とても議会制民主主義国家とは思えないほど、民主主義の基盤がゆらいでいます。民主主義が壊れた細胞で成長のみが加速するとガン化するように、わが国もガン化への道をひたすら歩んでいるように思えてなりません。ガンは自覚症状が出てから気づいたのでは手遅れなのです。今ならまだ間に合います。わが国の再生や成長の影に潜むガン化の危険性を今こそ取り除かなければならないと思います。

生命進化の歴史に学ぶ世界平和への道

2018年04月25日 08時00分42秒 | 健康
「憲法9条で日本の平和は守られるのでしょうか」、誰もが疑問に思い、悩む問題です。私は憲法9条が戦争の抑止力になるとは考えません。憲法9条があるから戦争にならないと考えるのは現実的ではありません。しかし、憲法9条を改正し軍備を強化したからといって戦争を抑止できるという保証はありません。9条を改正して戦争のできる国になれば、戦争の機会は増えます。ですから、「戦争をしないために軍事力を強化するのだ。軍備を強化しても絶対に戦争をしてはいけない」と主張することには矛盾があります。絶対に戦争を回避したいならば、自衛隊さえも解散してすべての武装を解除することです。この場合、戦争はおきませんが、わが国の主権は侵害されるでしょう。人間の本性、その集団である国家の本性はガン細胞ですから、必ずわが国を狙って攻撃をしかける、ならず者国家が出てくるはずです。ですから、わが国は防衛力を持たなければ侵略されるに違いありません。そのために自衛することが必要になるのです。憲法9条が目指すところは、専守防衛に徹して戦争のリスクを最小限にとどめることです。かつて、戦争の抑止力という大義名分のもと、各国がこぞって武力を強化し、やがて大戦争に発展した過去の暗い歴史の反省に立って国際社会から託された憲法が第9条なのです。

国家に武力は必要なのでしょうか。残念ながら、現時点では必要と言わざるを得ません。それは、憲法9条では外国からの侵略を防ぎえないからです。現実に武力で国家主権を侵害しかねないガン細胞のような国家やテロ集団が存在します。こういった組織から国家や国民を守るためには自衛の手段が必要です。憲法9条を改正しなくても軍備は強化できます。日本国憲法は専守防衛を掲げています。専守防衛に徹する限り自衛隊は合憲で、軍備の強化も可能です。「憲法に自衛隊の存在を明記すべし」と主張する意見がありますが、そうであれば、「自衛隊の武力行使は専守防衛に限る。集団的自衛権はこれを認めない」と併記すべきです。

では、人間社会は戦争に備えて永久に武力を強化し続けないといけないのでしょうか。人間の祖先がガン細胞で、私たちがその遺伝子を引き継いでいる以上、他国やテロ集団からの侵略を防ぐために人間社会は永久に武力が必要だと思います。しかし、武力の在り方は大きく変わらなければなりません。歴史学者のウィリアム・H・マクニールは著書『戦争の世界史』で「人間が互いに憎み、愛し、恐れ、寄り集まって集団を形成し、その集団の団結と生存能力が他の集団との敵対のかたちで表現され、同時にそのような敵対によって維持されるものであるかぎり、戦争がなくなることはない」と述べています。戦争を回避する国際法がなければ、武力競争の行き着く先は武装平和の均衡が崩れた時に起きる核戦争と人類の滅亡です。武装平和は大地震の前兆に似ています。東日本大震災は太平洋プレート、ユーラシアプレート、北米プレートとフィリピン海プレートが押し合う境目にひずみが生じ、地震という形でエネルギーを放散して発生しました。同様に武力が均衡を保ってせめぎ合うときは一見平和に見えても、お互いにすさまじいストレスがかかっています。過去の歴史が物語るように、何かの偶発的な事件で大規模な軍事衝突に発展する危険性があります。軍備の増強で蓄えられたエネルギーが一気に放散するのです。世界を巻き込む核戦争が勃発した時、放射能はまるで津波のように人類に襲い掛かるでしょう。

マクニールは「人間社会は戦争の根絶を目指すのではなく、いかにしてその被害を最小限にとどめるかに知恵をしぼらなければならい」とも述べています。そして、核や化学兵器の無差別な使用から人類を救う唯一の手段は「世界政府の樹立」ではないかと結論しています。「世界政府」とは現行の国際連合をさらに発展させた国際的平和維持機関であると解釈することができます。その機関は各国の主権を多少制限してでも、法的な拘束力を持って軍事力を行使できる組織ではないかと思います。つまり、「世界政府」の下では憲法9条に相当する国際法に基づいてすべての国から専守防衛以上の軍事力を行使する権利を奪います。もし、交際紛争やテロなどの武力衝突が発生した際には、話し合いで調停を進めるとともに、これに従わない場合には合法的に軍事介入できる仕組みです。まさに、人体における免疫システムにそっくりです。人間の先祖のガン細胞は、未熟な国際社会と同様に、各々が武装して生存競争を繰り広げていました。約10億年前に遺伝子の憲法9条ともいえる接触阻止の遺伝子を獲得した細胞が現れました。その結果、細胞同士が争いをやめ、今日の生命の大躍進に繋がる多細胞化を実現しました。その際、相手の細胞を攻撃する毒素などが個々の細胞から奪われました。代わりに、ガン細胞を排除し、外界から侵入した細菌やウイルスを退治する免疫システムが出来上がりました。人体に暮らす約60兆個の細胞を平等に守る自衛の組織です。私たち人間はこの免疫システムのお陰で健康に暮らすことができるのです。人類の存続は、真に中立な国際的平和維持機関を持つ「世界政府」の樹立にかかっていると言えるのではないでしょうか。

世界政府の樹立、国際的平和維持機関が設立されただけでは人間社会から暴力が消えるわけではありません。世界政府が樹立された後も、国際社会が取り組まなければならない課題が残されています。それは、紛争やテロを減らす取り組みです。世界中で民族間の紛争、宗教の対立やテロが後を絶ちません。人間社会の影が露出した最も典型的な例はイスラム国によるテロでした。いったい何がテロ国家を産んだのでしょうか。イスラム国の指導者達は巧みな戦術で世の中に不満を持つ世界中の若者を取り込み、みるみる勢力を拡大していきました。彼ら指導者は、疑いなく狡猾で残虐非道なテロリストでした。しかし、戦闘員達はどうでしょうか。彼らは人間として本質的に欧米先進諸国の若者と変わるところはなく生まれてきました。大きく異なる点は、イスラム国に共感して戦闘員を志した若者の多くが幼いころから貧困にあえぎ、満足な教育を受けていないことです。彼らは、まともな教育を受けられなかったため、未熟、未分化な人間性のまま成長しました。感受性の高い若者たちは容易に過激なイスラム思想に染められ、テロリストへと洗脳されていきました。イラク戦争以後、欧米先進国をはじめとする国際社会は、自らの国益を守ることだけに終始し、貧困や差別に苦しむイスラム圏の人々を顧みませんでした。フセイン政権の残党にイスラム国というガン化を許した元凶は、イスラムの若者が曝されている貧困や差別というストレスであり、これを放置した国際社会なのです。

イスラム国のような世界中に転移したガン組織を退治する方法はあるのでしょうか。ガン治療には抗ガン剤が用いられることが多いのは衆知のとおりです。確かに抗ガン剤は一時的に功を奏します。しかし、抗がん剤によって原発巣は消えても、全身に転移したガン組織を根絶やしにすることはできません。抗ガン剤治療を生き抜いたガン細胞は、以前にも増して悪性度を高め、個体を攻撃し、死に至らしめます。同様に、憎悪で満たされた報復の連鎖はテロ活動を一層過激にするでしょう。国際社会が為すべきことは武力攻撃という抗ガン剤の投与ではないのです。テロの温床を断つには、国際社会が一致団結して貧困と無知に喘ぐイスラムの若者や難民を支援すべきなのです。

2014年にノーベル平和賞を受賞したパキスタンの女性人権運動家マララ・ユスフザイさんは2012年10月9日、通っていた中学校から帰宅するためスクールバスに乗っていたところを複数のイスラム過激派グループの男から銃撃を受け、一緒にいた2人の女子生徒と共に瀕死の重傷を負いました。マララ・ユスフザイさんはこの時の教訓を胸に、全世界の為政者たちに対して以下のように呼びかけました。
“One child, one teacher, one pen and one book can change the world. Education is the only solution. Education First. Giving guns is so easy but giving books is so hard.”
「一人の子供が、一人の教師が、一本のペンが、そして一冊の本が世界を変える。教育が唯一の解決法なのだ。教育を優先してほしい。若者に銃を与えるのはたやすい、しかし本を与えることはどれほど困難なことか」。
テロリストの武装を解除するのは冷徹な武力ではなく、温かい援助です。どんな人間にでも成長できる素朴で未熟な若者たちに対する教育こそが、イスラム過激派のようなテロ組織の出現を防ぐ最善の予防法ではないかと思います。

私たちの祖先はガン細胞でした。私たちは、誰しもガンの遺伝子を持って生まれてきます。生命は発ガンを最小限に食い止めるように数々のガン化制御装置を備え付けて進化しました。ガンはそういった民主的な遺伝子が次々と機能を失った結果、発生します。必然的に戦争の素質を包含して活動している人間社会にとっても、戦争のない世界を築くことは永遠のテーマです。その悲願に一歩でも近づくためには、すべての国家が不戦の憲法を備え付け、さらなる民主化を進める必要があります。加えて、国際社会は協力し、戦争やテロの温床となるような貧困や差別をなくす努力をしなければなりません。人類の繁栄は戦争を放棄できるか否かにかかっているのです。

ガン化する国々

2018年04月17日 08時25分18秒 | 健康
私たちは利己的な遺伝子を持って生まれてきます。それは、私たちの祖先がガン細胞だったからです。私たちの体は約六十兆個の細胞からできていますが、そのすべての細胞がガンになる素質を持っています。人間の持つ利己的な遺伝子はすべて祖先のガン細胞から受け継いだものです。

私たちの祖先の細胞は自分だけが長生きし、自分だけの子孫を増やすことを目的に生きていました。すべての細胞が自己中心的ですから、細胞同士の争いが絶えることはありませんでした。しかしある時、細胞同士の争いをやめるように突然変異した細胞が生まれました。遺伝子の憲法第九条を獲得した細胞が出現したのです。この細胞は他の細胞と接触しても決して争いませんでした。細胞は集団を形成して多細胞化し、やがて個体というグローバルな小宇宙を創りあげました。遺伝子に加わった民主的な憲法によって細胞の利己的な本能を封じ込めたことが、画期的な生命の進化をもたらしたのです。

高度に進化した私たちの細胞も、ささいなきっかけで先祖返りをおこし、ガン細胞に逆戻りすることがあります。それは、細胞にストレスが加わったときです。よくない生活習慣、有害な化学物質や放射線が細胞にストレスを与え、未熟なガン細胞の性質を取り戻してしまうのです。私たちも生活の中で同じような経験をしたことはないでしょうか。私たちにさまざまなストレスが襲いかかると、ともすれば自己中的に振る舞い、時には「キレル」という状態になります。個人同士でキレルと喧嘩ですが、国家レベルでキレルと戦争に発展します。細胞の集団である人間、人間の集団である国家がストレスによって悪性の形質を取り戻すことはある意味で仕方がないと言えるのです。

「どうしてあのように温厚で誠実だった人が、殺人事件という凶悪な犯罪をおこしたのか」、という話をよく耳にします。人はガン細胞の性質を抑えきることができなくなって犯罪をおこすのです。これは他人事ではありません。人はだれしも凶悪犯罪をおこす素因を持っています。それを食い止めているのは、後天的に獲得した英知であり、理性であり、抑止力としての法律です。

ガン化は人間の集団である国家においても起こりえます。それは、細胞の考えることを人間が考え、その考えに基づいて国家が動いているからです。ですから、どんなに平和な国家も英知、理性、抑止力としての憲法がなければ、戦争を始める危険性があります。人間の善意に頼っていては戦争を防ぐことはできません。国のリーダーがどんなに平和主義者であっても、法による歯止めがなければ、国益や、国民感情の変化によって戦争が引き起こされる危険があるのです。太平洋戦争はその実例でしょう。日露戦争に勝利し獲得した中国での利権を守ろうとしたわが国は、アジアを植民地支配する欧米と利害が衝突しました。アメリカからの経済制裁などによって行き場を失ったわが国は、欧米のアジア侵略に抵抗するという大義名分の下、戦争に活路を見出そうとしたのです。メディアも大多数の国民も聖戦としてこの戦争を支持しました。その結果、多くの民間人が戦争に駆り出され、殺し、殺されるという凄惨な戦いを繰り広げました。日本という国家に加わった国際社会からのストレスがわが国をガン化させたのが太平洋戦争です。

その当時、国家がガン化したのは日本だけではありません。第一次世界大戦に敗れたドイツは、世界で最も民主的といわれたワイマール憲法を制定しました。しかし、ワイマール憲法にも落とし穴がありました。ガン化に通じる抜け道があったのです。ドイツ国内の経済情勢の悪化に伴って台頭してきたヒットラー率いるナチスは、国内世論のナショナリズム化に便乗し、民主的な憲法を無力化して独裁政治を始めました。日本とドイツのガン化が第二次世界大戦の引き金になったことは言うまでもありません。ただ、第二次世界大戦の責任をドイツと日本だけに負わせるわけにはいきません。当時、世界中をほしいままに植民地支配していた欧米諸国は、無秩序に増殖する悪性のガンとまでは言えなくても、正常細胞の垣根を越えて増殖する腫瘍だったのです。

最近では、はるか昔に先祖返りしたのではないかと思うような独裁国家や、武力で現状の領海や領空を拡大しようとする前近代的な国家が世界平和に脅威をもたらしています。こういった国々の行動は自分さえよければいいというガン細胞の振る舞いに似ています。一方、欧米ではポピュリズムの流れが止まりません。難民の流入や自国の経済危機などに対する人々の不満を吸い上げた右翼の政党が政権を握り、国家が自己中心的な姿に変容しつつあります。つまり、これまで民主的で他国に対して寛容であった欧米諸国すら、自国の利益しか考えないガン化の兆候を示しているのです。

わが国を振り返れば、違憲ともいえる集団的自衛権の行使容認、公文書の改ざん、隠蔽、メディアに対する不当な圧力など、民主主義の根幹を揺るがす事態が頻発しています。激動する経済、外交、安全保障環境の中、国益を守るためには民主主義の劣化など些細なことと反論する国家主義者もいます。しかし、わが国の将来を考えれば、今は多少国益を犠牲にしてでも民主主義を守り抜かなければなりません。民主主義を軽んじる流れは次第に大きくなり、やがて国をガン化へと導く大河に繋がるからです。正常な細胞がガン化するときも、いきなりガン細胞に変化するわけではありません。細胞のガン化には多重遺伝子変異が必要です。単一の遺伝子変異だけではガン化はおきません。「これくらいの遺伝子変異ならいいや」、と細胞内情報伝達系に見逃され、それが積み重なって、気が付いた時には取り返しのつかない状態になっています。ガン化は、民主的な遺伝子が一つずつ機能を失い、細胞増殖に都合のいい遺伝子ばかりに変わっていく結果としておきるのです。

このように世界中をポピュリズムが席巻する中で戦争の勃発が危惧されています。そんな時代だからこそ、不戦の憲法や民主的な憲法が価値を持つのです。ガン細胞は正常細胞が何十億年もかけて獲得した民主的な遺伝子を突然変異させ、無秩序な増殖を可能にします。それは無限に生き続け、増殖するためです。しかし、ガン細胞が組織に浸潤し、正常な臓器の機能を奪い、個体の死とともに滅びる運命を辿るのは皮肉な結末です。人類が戦争で滅びないためにも、私たちは民主的な憲法を変異させてはならないのです。生命が細胞の無秩序な増殖を抑える遺伝子を備えて進化したように、人間社会も国家権力を縛る遺伝子を強化しなければならないのです。わが国が民主的な憲法を守り抜き、あるいはさらにこれに磨きをかけ、やがてその理念を世界中に浸透させる時、人間社会には人体にも似たグローバルな世界が訪れるのではないかと思います。

なぜ私たちはガンになるのか

2018年04月10日 08時15分34秒 | 健康
不戦の憲法である接触阻止、ガン化を監視するガン抑制遺伝子、ガン化の情報を正しく伝える細胞内情報伝達系、その情報を受け取るミトコンドリアの存在という民主的な制度がガンの発生を最小限度に抑える原動力です。それでも、残念ながら私たちの体は時にガンの発生を許します。細胞が先祖返りして民主主義を破壊し、無秩序に増殖することがあります。

細胞内の民主主義が破壊されるきっかけは何でしょうか。共通の原因は慢性的な細胞へのストレスです。放射線は細胞をガン化させる外的ストレスです。放射線はDNAを傷つけることによってガン化をもたらします。病原体、特にある種のウイルスも細胞にストレスを与えます。C型肝炎ウイルスは肝ガンを発生させやすい代表的な病原体です。C型肝炎ウイルスは肝細胞を破壊するととともに、ウイルスを退治しようとする免疫細胞が組織に炎症を引き起こし、肝細胞にストレスが加わります。その結果、肝細胞がアポトーシスやネクローシスによって死んでいきます。

ネクロ―シスとは「壊死」という意味です。アポトーシスはミトコンドリアの能動的な行為ですが、ネクローシスはミトコンドリアの機能停止に伴う受動的な命の終焉です。ネクローシスは、酸素欠乏に陥ったミトコンドリアがエネルギーを産生できなくなるために起きます。細胞が正常な機能を営むためには、防波堤である細胞膜がエネルギーを使って外から入ってくる余分な水やミネラルを汲みだす必要があります。ネクローシスではエネルギー不足でその防波堤が機能せず、細胞外から水が流れ込んで細胞は膨れ上がります。その結果、細胞膜は破れて内容物が漏れ出し、周辺組織に炎症を起こします。ネクローシスは周りの細胞に炎症というストレスを引き起こす迷惑な死と言うことができます。

肝細胞は多数の細胞がアポトーシスやネクローシスに陥っても回復するだけの高い再生能力を持っています。しかし、肝細胞の再生が死滅に追い付かなくなった時、肝臓は線維組織で置き換えられ、肝硬変に進行します。また、細胞に対する過剰な増殖刺激はガン遺伝子の活性を高める一方、ガン抑制遺伝子や細胞内情報伝達系の機能不全をもたらします。その結果、太平洋戦争中の大本営発表のような細胞の増殖にとって都合のいい情報のみがミトコンドリアに伝えられます。ミトコンドリアによるアポトーシスの審判を逃れた細胞は、もはや秩序ある細胞増殖を維持できなくなり、ガン化へと向かうことになるのです。

細胞にストレスを与える内的要因の多くは、私たちのよくない生活習慣(過食、運動不足、喫煙など)によってもたらされます。ミトコンドリアは細胞が取り入れたブドウ糖や脂肪酸由来の水素イオンを利用し、電子伝達系でエネルギーを作り出しています。しかし過食や運動不足に伴うミトコンドリアへの過剰な水素イオンの流入は、電子伝達系で水素イオンの鬱滞を招き、漏れ出した水素イオンが酸素と反応して活性酸素を産み出します。活性酸素は放射線と同様にDNAを傷つけます。喫煙も、煙に含まれるシアン化水素という猛毒ガスがミトコンドリアの電子伝達系を麻痺させ、活性酸素を産み出します。過食や運動不足の悪影響はミトコンドリアからの活性酸素の放出にとどまりません。余分なカロリーは内臓脂肪として蓄えられます。内臓脂肪は内分泌組織です。肥大した内臓脂肪細胞からは炎症性サイトカインなどの悪玉ホルモンが放出され、これが門脈を通って内臓脂肪に最も近い臓器である肝臓に到達します。悪玉ホルモンは肝臓に炎症を起こさせ、放置すれば、慢性C型肝炎と同様、肝硬変や肝ガンに進展します。肝ガンに限らず、肺ガン、食道ガン、膵臓ガンや大腸ガンも、少なからず、喫煙、過食や運動不足といったよくない生活習慣によって引き起こされます。人体という小宇宙を統治する立場にある私たちは、日夜健康を支えてくれているミトコンドリアや細胞たちの声なき声に耳を傾け、生活習慣を正さなければ病気になるのです。