人はなぜ戦争をするのか

循環器と抗加齢医学の専門医が健康長寿を目指す「人」と「社会」に送るメッセージ

建国記念日に思うこと

2017年02月11日 10時05分25秒 | 社会
今年も建国記念日が訪れた。私も日本人の一人として、素直に日本という素晴らしい国に生まれたことを感謝したい。私たちの祖先が営々と築き上げたこの国を守り、よりよい国として子孫に引き継ぎたいと思う。

すべての日本人は私と同じように、わが国と子孫の繁栄を願っている。しかし昨今、こういった愛国心とは一線を画す国家主義が台頭しようとしている。言うまでもなく、安倍政権が目指す国家ファーストの全体主義である。それはあたかも私たちの体の中にできたガンのようである。ガンはどこまでも成長を目指し、行き着く先は破滅しかないことを知らない。

ガンとは何か。ガンは悪性新生物と呼ばれたこともあった。新生物と聞くと、他の細胞と全く構造を異にしたエイリアンのような生物を思い描く方がいるかも知れない。しかし、ガンこそが生命の本来の姿なのだ。そのガン細胞が何十億年の歴史を経て高度に進化した姿が人間なのである。それでは、人体という何十兆個の細胞が協調して暮らすグローバルな小宇宙はどのように出来上がったのか。

細胞を始めとして、すべての生命体は、自らの不死と子孫の繁栄を目指している。しかし限られた空間と資源の中でその欲望を満たす時、他の生物との軋轢は必発である。そういった生物本来の欲望を取り戻し、行動に移しているのがガン細胞なのである。しかし私たちの祖先は、細胞同士の繰り返される争いの中で、ガン細胞のままでは幸せに暮らせないこと学んだ。子孫の繁栄に最も大切なことは共生であることを学んだのだ。いや正確には、他の生物と共生できた生物のみが生き延びたのである。細胞同士の共生を進めるうえで中心的な役割を果たしたのが遺伝子の憲法9条とも言える「接触阻止」の遺伝子である。ガン細胞は他の細胞を乗り越え、折り重なるように増殖を続ける。接触阻止の遺伝子は、細胞同士が接触した時に増殖をやめさせる働きを持つ。細胞は接触阻止遺伝子を持ったことにより、人体という小宇宙を作り上げた。

ガン細胞とは、端的に言えば、先祖返りした未熟な細胞である。日本もかつては限りない増殖を目指す未熟な国家であったと言える。しかし、未熟は成熟に至る過程である。成長期には精神や肉体を強くすることが必要なように、国家も富国強兵を目指すのは自然の成り行きであった。だれもが「坂の上の雲」を目指した明治は、未だ未熟な社会であったかもしれないが、近代日本の青春時代でもあった。青春には常にほろ苦い思い出がつきものである。太平洋戦争はわが国とって「青春の蹉跌」であった。あれから71年、わが国は戦後の高度経済成長期を経て成熟した社会になった。過去20年間景気は低迷していると言われたが、単に豊かさが定常的になっただけのことである。それでも一部日本人の中には物欲が満たされない人達がいる。さらなる経済成長を追い求める貪欲な人達の代表として安倍総理が君臨している。安倍総理は無理に成長を取り戻すことの怖さを知らない。成熟期に成長ホルモンの過剰な分泌を促すことは動脈硬化やガンなどの生活習慣病の発生を許し、寿命を縮めるのである。つらい青春時代の経験を生かし成熟したわが国は同じ過ちを繰り返してはいけない。私たちは青春時代の思い出をそっと胸に秘めて成熟への道を歩んでいかなければならないのである。

社会は人間の集団である。人間は細胞から出来ている。したがって、細胞の考えることを人間が行動に移し、社会が動く。生命は無限の成長という欲望を抑える遺伝子を備え付けて進化した。人間社会が進化するためにも、国家の暴走を食い止める憲法が必要なのだ。安倍政権は強い経済力を持った軍事大国を目指している。そのためには、全体主義でで国民の権利を縛り、敵がいれば戦争も辞さない姿勢である。私たちは、小銭に眼が眩んでわが国の将来への道を踏み外してはならないと思う。人種差別や戦争のないグローバルな世の中を築くことこそが、子孫の繁栄を約束するのだから。