
「ジュラシック・パーク」(1993)
「E.T」の興業成績を塗り替え、特にC・Gの素晴らしさが話題になった。それもそのはず特殊効果を担当したのが、デニス・ミューレン、スタン・ウィストン、フィル・ティペットという大御所だ。 原作はマイケル・クライトンの大ベストセラー。脚本は、マイケル・クライトンとデビッド・コープが書いた。しかし、その脚本は、原作の10パーセントが生かされているもので大幅に書き換えられている。いつものスピルバーグらしい。「ジョーズ」でもそうだった。美術を担当しているのは、リック・カーターで、彼は、ハワイのカウアイ島をロケ地に決めた。リチード・アッテンボローが出演しているが、彼は、「大脱走」の主犯格を演じ、また、「ガンジー」でアカデミー賞の監督賞を受賞しているが、奇しくも同じ年にアカデミー賞の監督賞を競そったのは、「E.T」であった。
檻の中に入れられていたラプトルが突如、監視員を襲うシーンで映画は始まる。ラプトルの目のクローズアップ。この眼の不気味なこと。ここで、すでに観客の心を惹きつけてしまう。
恐竜のDNAによって甦った恐竜のテーマパーク化の計画の実現にあたって、公的な安全なお墨付きが必要であるためリチャード・アッテンボロー扮する実業家のハモンド氏が、サム・ニール扮するグラント古生物学者とローラ・ダン扮するエリー古生物学者、そして、ジェフ・ゴールドブラム扮する数学者マルコムを連れてジュラシック・パークへヘリコプターで向う。ここは、俯瞰撮影が素晴らしく私の好きな作品「タワーリング・インフェルノ」の冒頭シーンでやはりヘリコプターがサンフランシスコ上空を飛ぶシーンを思い出す。偶然だがどちらの作品もジョンの壮大でスケールの大きい音楽が印象に残る。自然の厳しさや山の美しさを見事なカメラワークでとらえ冒険心をあおる。そして、ヘリがパークへ直下降で到着するシーンは、周りにある海水のしぶきを跳ね飛ばしてカメラは、クレーン撮影を使ってダイナミックにヘリが地上へ降りてくるところをとらえパンしてパーク専用の車が映る。車体の横にあるジュラシックパークのロゴのクローズアップ。その後、カメラはパンしてヘリがパークを離れるところを映す。何とも心躍る楽しい始まり方だ。
その後、ツアー開始。ティラノサウルスの登場のさせ方が、迫力がある。ハモンド氏の孫、ティム(演ずるはジョゼフ・マゼロ)とレックス(演ずるはアリアナ・リチャーズ)、グラント、エリー、マルコム、パークの投資家たちを代表する顧問弁護士ジェナーロが2台の車に分かれてパーク内をまわる。ツアーが開始されてもお目当ての恐竜は1匹も姿を現さない。肉食恐竜ティラノ・サウルスがいるであろうゾーンに来ても姿を現さない。そこで、ハモンド氏はめえー、めえーと鳴く山羊をおとりの餌にして檻に入れて試してみたが、いっこうにティラノ・サウルスは姿を見せようとはしない。ここは、非常に観客を怖がらさせながらも滑稽で笑わせてくれるシーンだが実はこの後、起きるティラノ・サウルスの襲撃シーンの伏線が張られている。やがて、ハリケーンが近ずいているせいで空模様が怪しくなる中でビジターセンターへ帰りを急ぐ彼らの前に突然雷雨が起きた。電子制御されていた車が止まりライトや道路灯も全て消え、車の中で立往生してしまう。暗闇の嵐の中、先ほどきたティラノ・サウルスのエリアに来た。さっきまで山羊が鳴いていたのに聞こえない。そして、大地を揺るがす振動が伝わってくる。これをスピルバーグは、ティムとレックスの車内にある透明な小さい飲料水用コップの中の水が揺れる様子をクローズアップでとらえティラノ・サウルスが現れる前兆の象徴としているところが上手い。その後、高圧電流とコンピュータのコントロール不能に陥ったパーク内を恐竜たちが襲う。その手始めとしてティラノ・サウルスがいよいよ登場する。ティラノ・サウルスの叫ぶ声。カメラは、レックスの目線でティラノ・サウルスをとらえる。レックスが高圧電流の電線がある方へ目をやり見上げるとそこにティラノ・サウルスがいてさきほどの山羊を一口で食べる顔のクローズアップ。ティラノ・サウルスがレックスの目線まで頭を下げてくる。眼のクローズアップ。鼻のクローズアップ。車のガラス越しにレックスに向けて鼻息を吹きかける。ティラノ・サウルスは、電線の金網を破り、レックスとティムが乗っている車を襲う。側面から襲いガラスが張り巡らしてある上のボンネットを壊す。悲鳴を上げる2人。ガラスが粉々に砕ける。今度は、車をひっくり返しタイヤを食いちぎり車体を押し潰そうとする。危機一髪!そこにグラントが車から出て2人を助けようと発炎筒に火を着け注意を自分の方へそらせようとする。何とかレックスとティムを車から救いだせたグラントだが、目の前にティラノ・サウルスが姿を現す。顔のクローズアップ。再度、鼻息を吹きかける。グラントの帽子が吹き飛ばされる。マルコムが発炎筒に火を着け注意をこちらに向ける。ティラノ・サウルスは、マルコムのいる方へ動きだす。一方ビジタ・センターに一足早く戻っていたエリーは、彼らのことが心配で現地までジープで行く。逃げるマルコム。ティラノ・サウルスは、その場を立ち去る。エリーの乗ったジープがマルコムの所にくる。ほっと一息するも束の間ティラノ・サウルスの鳴き叫ぶ声が聞こえる。そして、地響き。水溜まりが大きく揺れる。そこへ木々に身を潜めていたティラノ・サウルスが姿を現し彼らを襲う。ジープに乗り込む2人。追いかけるティラノ・サウルス。その様をスピルバーグ流の演出、ジープのサイド・ミラーを使用して表現している。エリーが運転するジープのサイド・ミラーに襲ってくるティラノ・サウルスの巨大な姿、特に頭、口が写る。ジープがスピードをあげてティラノ・サウルスから逃げる。ティラノ・サウルスがしだいに小さくなり、視界から遠ざかる。
ビジター・センターに戻ったティムとレックスが一息ついてティムがケーキをレックスがフルーツゼリーを食べ始めた。その後カメラは、レックスが食べているゼリーが大きく揺れているカット、恐怖におののくレックスの顔のクローズアップ。小型肉食恐竜ヴェロキラプトルの登場だ。ここでもスピルバーグは、怖い恐竜が現れる前兆として振動を表現していて上手い。レストランルームは、円形になっていて壁は外の光が差し込むように白く薄い材質でできているようだが、そこの壁にはラプトルの絵が書かれている。それにクロスするように本物のラプトルが低い喘ぎ声をあげながらのしのしと動いている。とても映画的な映像である。ティムがレックスの顔を見る。「何で姉さんは、振るえているの?」と言わんばかりの表情をする。ティムは、レックスの見ている方向へ顔を向けるとヴェロキラプトルが姿を現す。あわててティムとレックスは、調理場へ逃げ込む。ここからのシーンは、ジョンの恐怖の音楽をバックにスピルバーグ演出の醍醐味を堪能できる。調理場に入るとラピトルが襲ってこないように照明を消すレックス。キッチンの下に身を潜めて隠れる2人。そこへラプトルの足音が聞こえてくる。キッチンへ入るドアの所までラプトルが来ると円い窓に顔を当てる。不気味なあの眼のクローズアップ。正面に向きを変え鼻息をかける。体当たりしてドアを開けキッチンへ侵入してくるラプトル。手と足には各々3本の指に湾曲している鋭い爪があり、その爪を上下に動かし音をたてる。「獲物はいないか?」という感じで。この爪が武器である。これだけでも恐いのにそれに輪をかけるようにラプトルが仁王立ちになり顔を上に向け鳥のように鳴き叫ぶ。すると、相棒がやってくる。2頭による狩りが始まる。隠れているティムとレックスのそばにあったおたまが床に落ちて大きな音がする。その音に耳を傾けるラプトルのクローズアップ。そして、キッチンの上に敏捷に跳び上がる2頭のラプトル。雄叫びをあげる。体を交差する。カメラは、パンしてティムとレックスがいるキッチンの下を映す。2人は、キッチンの下を動きまわる。陽動作戦開始。レックスが先ほど落ちたおたまを拾い床に叩き続けて注意を自分に向ける。その間にティムがキッチンから外へ出る事に成功。その後、レックスを襲ってくるラプトル。そこでレックスは、キッチンの納戸に入り込む。正面のキッチンに反射して写るレックスの姿に突進してくるラプトル。ラプトルが倒れる。そのすきにレックスは走り出し入り口のドアへ向う。ラプトルは、起き上がり入り口めがけて突進してくるところをレックスはドアに鍵をかけて逃げる。
その後、レストランにティムとレックスが戻るとエリーを探しに行っていたグラントと合流。グラント、エリー、ティム、レックスの4人は、一息していたがラプトルがやってきた。彼らは、急いでコンピュータルームへ行く。追ってくるラプトル。ドアに鍵をかけようとするエリー。そこで、何とかパークを管理しているコンピュータ・システムを立ち上げて元に戻し恐竜たちがあばれるのを食い止めようとベジタリアンでコンピュータおたくのレックスがコンピュータに向かいパスワード等を入力し見事成功するが、ラピトルがコンピュータルームに侵入。今度は、事務机に跳び上がり彼らを襲う。グラントは、天井の空調扉を開けてそこから皆を脱出させる。その時、グラントに襲いかかろうとするラプトルを彼は手にしていたライフル銃でなぐりつける。ここのラプトルから見た目線のカメラアングルが素晴らしい。天井へ逃げる彼らを下から怖く鋭い眼をして見上げている。空調の何やら象形文字が刻まれている金網がラプトルの体全体に反射しているのがやたら気味悪い。しかも、レックスが逃げ遅れそうになりラプトルがいる下へ落下し危うく食べらそうになる。ラプトルが跳び上がり彼女を食べようとする。恐怖におののくレックスをズーム・イン、ズーム・アウトして映しいてめまいカットと呼ばれるカメラワークを使っている。名前からもわかるとおりヒッチコックが「めまい」で使用したもので、スピルバーグは「ジョーズ」でも使っていた。グラントが彼女の手を引っ張り助かる。巨大な恐竜の標本の骨格が展示されている部屋まで来た彼らは、またしてもラプトルに襲われる。恐竜の骨格に飛び乗って下へ降りようちとしたところを2頭のラプトルが追随して彼らを食べようとする。グラントらは、ラプトルが一緒に飛び乗ったため骨格が壊れラプトルごと下へ落下。次々に骨格の破片が降ってくる。骨格が体に当たらないように身を守る彼ら。その際ラプトルらは、倒れて退散したかにみえたが左右に分かれて彼らを狙う。じりじりと距離を狭められる彼ら。ラプトルは2本の前足を伸ばしている。今にも彼らに飛び掛かり食べようとしている時、今度は、再びティラノ・サウルスが現れる。ここで、観客は彼らがティラノ・サウルスに食べられてしまうのではないかという思いをいだく。しかし、スピルバーグは今度はある面でヒーローとして登場させた。彼が、このようなエンディングにしたのは恐竜の世界における弱肉強食を描きながらティラノ・サウルスは、恐竜の代名詞、象徴であり、子供から大人に至るまで恐怖の対象でありながらも実は憧れとしたかったからである。そして、何よりも恐竜は、今はもう絶滅していないが人間の夢の産物である。
ラストシーン。パークに訪れたハモンド氏ら全員がジェット・ヘリに乗って帰路に着くとき、その周りを並行して鳥たちが大きな翼をはためかせ飛んでいるシーンが映る。これは、恐竜の進化したもの、スピルバーグが尊敬する監督の1人ヒッチコックの「鳥」へのオマージュであろう。そして、最後に夕日を映しているが彼にとって夕日は主人公たちの今後の幸せを予感させる象徴なのかもしれない。
恐竜が大好きなスピルバーグの気持ちが投影された作品。彼が、恐竜映画を撮るのは推測できた。私も含めて多くの男の子が、恐竜に夢中になる頃があるが、スピルバーグもそうだった。そして、既に彼の初期の作品「激突!」と「ジョーズ」で効果音として「恐竜映画で使われた恐竜」の鳴き声を入れているのだ。
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